2016年1月23日土曜日

ギターと手斧を携えた気鋭の「挑発の書」 ― ミハイル・エリザーロフ『図書館大戦争 (Библиотекарь)』(2007)

図書館大戦争
図書館大戦争
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ミハイル エリザーロフ
河出書房新社
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 ロシアの作家 ミハイル・エリザーロフの、ロシア・ブッカー賞を受賞した2007年作品の邦訳。かつて、ドミトリー・アレクサンドロヴィチ・グロモフという一人の作家がいた。時代からは無視され、無名のままその生涯を終えた彼が生前に著した七冊の本には、ある条件を満たして読むと人を覚醒させる力があり、グロモフを再評価するコレクターたちはそれらを「力」「権力」「憤怒」「忍耐」「喜び」「記憶」「意味」の書と名づけ、自らの手中におさめるべく武装「図書室」を編成、日々戦いに明け暮れている……という設定。ファンタジーや異能バトルものもかくやです。老い先短いババアの一団が「書」で活力を得て大暴れする序盤のシーンや、「図書室」同士の血みどろの仁義なき戦いの数々が、テメエラその目に焼き付けろや! といわんばかりにぶちまけられており、あれよあれよという間に死屍が累々。げに凄まじきかな。




 本を介したファンタスティックな力と闘争のヴァイオレンスばかりに目が行きがちになるのですが、読んでいくうちに血生臭さよりも加齢臭と死臭、そして閉塞感と諦念の情が強まっていき、非情な「現実」の数々が突きつけられます。主人公のアレクセイが巻き込まれ/流され体質であるので、終盤以降で彼が辿ることになる運命には、こっぴどく気が滅入らされます。でも、この糞詰まりのような終盤が本書のキモなのではないかなと私は思うのです。本書の構想は、エリザーロフがかつて小さな村に住んでいたころ、「週に三度漂ってくる屠殺場からの豚の死臭」で気が狂いそうになったあげくに頭に浮かんだとのことなので、なるほどと腑に落ちました。本書の内容は、人が「本を読む」という行為に対しての挑発ともとれますし、「書」を巡って狂信的な人々が殺し殺されるというグロテスクな状況を何かのカリカチュアとして捉えることも容易にできますが、アレコレ肩肘は張らずに、まずはこのロシア産ヴァイオレンス・ノベルを「毒を喰らわば皿まで」な勢いで読んでみてください。ケンシロウ、暴力はいいぞ。日本版カヴァーもインパクトがあって素晴らしいのですが、Kindle英語版(『The Librarian』)のカヴァー(上画像参照)は、見てはいけないものを見てしまったようなヤバいニオイが静かに漂っており、こちらもとてもイイです。




 エリザーロフは作家活動のかたわら、ミュージシャンとしても活動しており、オフィシャルサイト ( http://www.elizarov.info/ )や、vk.comのアカウント( http://vk.com/m_elizarov )で音源がいくつもあがっていますし、YouTubeにはライヴ映像も上がっています。バンドではなく、ワンマンでのフォーク。ここでは本当に素朴な形で表現をしています。また、ギターだけでなく手斧もしょっちゅう持っており、ちょっとググっただけでもさまざまな写真が見つかります。トレードマークなんでしょうかね。風貌もコワモテなので、「作家にみえない作家」というヴィジュアル繋がりで、チャイナ・ミエヴィルチャールズ・ストロスと並べたくなります。




『図書館大戦争』の訳者あとがきでは、「エリザーロフは二〇一〇年、自らの音楽プロジェクトを立ち上げ、これまでに七枚のアルバムを出している」とありますが、そのあと、八枚目のアルバムを発表しています。タイトルは『РАГНАРЁК (ラグナロク)』。エリザーロフの公式facebookアカウントの記事にあるリンクから、アルバムがフリーダウンロードできます。



《ディスコグラフィ》

『Notebook』(2010)
『ПРО КОЗЛА』(2011)
『ЗЛА НЕ ХВАТАЕТ』(2011)
『ЗАПОЩЩУ』(2012)
『МЫ ВЫШЛИ ПОКУРИТЬ НА 17 ЛЕТ』(2012)
『ДОМ И КРАСКИ』(2013)
『ЖАЛОБНАЯ КНИГА』(2014)
『РАГНАРЁК』(2015)

http://www.elizarov.info/
http://vk.com/m_elizarov
http://ru-elizarov.livejournal.com/




 また、ロシアで20年以上にわたって活動しているエクスペリメンタル・ロック・バンド HOMが2014年にリリースしたアルバムにエリザーロフが関わった曲が収録されています。


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