2016年1月31日日曜日

確かな実力と高密度の総合力が快いフレンチプログレメタル ― THE MARS CHRONICLES『EP』(2013/2016)



 THE MARS CHRONICLESは、2012年初頭に結成されたフランスのプログレッシヴ・メタル・トリオ。結成当初は四人組であり、フランスのヘヴィ・プログレ・バンドOPRAMのデヴィ・ディアデマ(g.vo)、セバスティアン・オリーヴ(b)、チュニジアのオリエンタル・メタル・バンド MYRATHのモーガン・ベルテ(ds)、西アフリカのプログレッシヴ・メタル・バンド LAG I RUNのヤン・モーヴァント(g)というラインナップで、ちょっとした多国籍バンドの様相も成していました。2013年3月にYouTubeで初の楽曲を公開するや数万PVを獲得。すぐさまインディーズレーベル SEND THE WOOD MUSICとの契約にこぎつけ、同年5月にSEASON OF MISTのディストリビューションのもと5曲入りEPをリリース。その後、バンドは9月末から11月中旬にかけて23ヶ国、通産46回に及ぶ初のツアーに繰り出すのですが、同時にそれはイスラエルのORPHANED LANDのヨーロッパツアーのサポートアクトとしてのものでもありました。



 本作は、2013年のデビューEPの2016年度再々発盤。オルタナティヴ・ロック由来のクリアーな情感たっぷりのヴォーカルに、テクニカル/グルーヴ・メタルにも対応可能の安定感バツグンの演奏(特にモーガンのドラムが痛快)、総合力の高いパフォーマンスでグイグイと引っ張っていくのが頼もしい。タイトかつオーソドックスに魅せるプログレッシヴ・メタル・チューン"Constant Show"、高密度のリフとグルーヴを伴った疾走チューンからポストメタルへと広がっていく"Abyss"は聴きものです。バンドは2014年夏に1stフルアルバムのレコーディングに入る予定でしたが、同年にモーガンとヤンが、翌年にはセバスティアンが相次いで脱退し、オリジナルメンバーはデヴィ一人となってしまいます。後任ギタリストにエイドリアン・マルティノを迎えるものの、自身のバンドに注力したいとのことでほどなくして脱退。活動が危ぶまれましたが、2015年10月にギヨーム・ブドゥー(b)、SEASON OF MIST所属のゴシック/ヘヴィ・ロック・バンド KELLSのケヴィン・プラッタ(ds)の加入を発表。晴れて再始動を果たしたバンドの次なるリリースに期待が持たれます。


http://themarschronicles.net/
https://www.facebook.com/themarschronicles.theband
https://soundcloud.com/themarschronicles

2016年1月30日土曜日

理性的な激情の増幅。アヴァン・プログレ・メタル・シーンの恐るべき伏兵 ― Dissona『Paleopneumatic』(2016)



 前身バンド「The Vision」が発展的解消を遂げる形で、シカゴで2005年に結成されたプログレッシヴ・メタル・バンド Dissona。2009年に『Ten Masks』で自主レーベルからアルバムデビュー。同作はドラマー不在での録音でしたが、その後、ニューレノックスのプログレッシヴ・デスメタル・バンドであるCIMMERIANのツアーサポートを務めていたドリュー・ゴダードを正式ドラマーに迎え、現在のラインナップが固まります。2012年にバンド名を冠した2ndアルバム『Dissona』をリリース(現在、バンドの公式bandcampアカウントで投げ銭でダウンロード可能です)。フュージョン、プログレ、メタル、エレクトロニカ、エスニックなどのエッセンスに、ソプラノヴォーカル/クワイアコーラスの大仰なアレンジメントが合わさり、スキあらば手数とフックを盛り込む演奏と朗々たるヴォーカルが激情をガンガンに増幅させてゆくアヴァンギャルド・メタル。アルバムを聴きとおしていて同じバンドのサウンドなのかと思うほどに雑多な要素と展開が次から次へと投入されています。





 しかし、一見キメラじみているようでゲテモノにはならず、あくまで理性的であるのがポイント。海外のとあるレビューでは“デヴィン・タウンゼンド meets Arcturus”という形容がされておりましたが、なるほどうなづけるものがあります。本作『Paleopneumatic』は約四年ぶりとなる3rdアルバム。今回も自主リリースです。曲数を絞り、より長尺志向に舵を切ったなという印象で、ヒネリまくった構成でなおかつエモーショナルな見せ場も設ける会心の大曲"Another Sky"でいきなり度肝を抜いてきます。爆発力では"The Last Resistance"にも注目です。それでも、前作と比べると今回はやや間延び気味。長尺志向でスケール感を広げるねらいが成功しているとは言い難いのが惜しいところですが、楽曲ごとに明確な差異化が図れれば、まだまだ化けるでしょう。ソプラノとストリングスの響きが絡み合うラストナンバー"Sunderance"の混じりけのない美しさに、次なる展開への希望も募ります。これだけ実力・センスがズバ抜け、持ち合わせる手札も潤沢とあらば、メジャーレーベルがいつ獲得に乗り出してもおかしくありませんし、間違いなく凡百のメジャーバンドを脅かす存在に躍り出るでしょう。


http://dissonaband.com
https://www.facebook.com/dissona

2016年1月28日木曜日

1+1=「3」の成果を上げる、北欧メロディック・ハードの新タッグ ― NORDIC UNION 『Nordic Union』(2016)

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 デンマークのPRETTY MAIDSのヴォーカリストであるロニー・アトキンスと、スウェーデンのECLIPSEのソングライター/プレイヤーであるエリック・モーテンソン。北欧出身の二つのメロディック・ハード・ロック・バンドのメンバーがタッグを組んだノルディック・ユニオンのデビューアルバム。別々のバンドのメンバーがユニットを組むという話にはいつだってワクワクさせられますが、それが必ずしも1+1=2のコラボレーションとなるのかというと話は別。聴き手の期待に反して、双方の個性が発揮されずに終わってしまう企画というのも往々にしてあり、ことフィーリングの面ではなかなかに難しいものがあります。が、嬉しいことにこのノルディック・ユニオンは間違いなく、心の底から見事なコラボレーションと呼べるユニットであり、1+1=3、いや、それ以上の成果をあげております。




 メロディック・ハード・ロックというジャンルはある種の様式美で固められており、音楽的な自由度はさほど高くないのですが、それでもここまで何もかもが噛み合った化学反応というのはそうそうないと思います。ベテランと中堅という、世代がひとつ異なる者が組んだというのも功を奏したのかもしれませんが、それもやはり両人が確かな実力者という前提があってのこと。とくにエリックは本ユニットより前にWORK OF ARTのロバート・サール、TALISMANのジェフ・スコット・ソートと組んだW.E.Tでの活動を軌道にのせており、コラボレーションの「実績」もあります。また、ドラムと一部ギター以外のパート(バッキングヴォーカル含む)はすべて彼が担当しております。ドラムは元ECLIPSEのマグナス・アルフステッド。ギターソロでは、同じくECLIPSEのマグナス・ヘンリクソン("The War Has Begun")、デスメタルバンド NECROFOBICのフレドリック・フォルケ("Hypocrisy" "Point Of No Return")、ドゥームメタルバンド SORCERER(元THERIONのクリスティアン・ニエマンが在籍)のピーター・ホールグレン("21 GUNS")、そしてBALTIMOORE、元グレン・ヒューズ・バンドのトーマス・ラーソン("Wide Awake" "Every Heartbeat")の四名が参加。作曲のほとんどはエリックですが、一部でECLIPSEでの作曲パートナーであるミカエル・パーソンも参加しています。





 ギターを全面に押し出した楽曲が多いのもポイント。湯水のようにメロディとハーモニーが湧き出しており、ただひたすら法悦したくなることしきり。同時にただひたすら個人的な「ツボ」も列挙したくなります。メロウなイントロからとびっきりにエッジの効いたリフを刻み込む"Hypocrisy"とか、ロニーのパッションあふれるヴォーカルの魅力がグッと詰まった"When Death Is Calling"とか、欲しいものが全部詰まった、これぞ北欧ハードポップの教科書といいたくなる"Go"とか……と、ここでいくら並べ立てても詮無きこと。Frontiers Recordsの公式YouTubeアカウントで試聴トラックがふんだんにあがっているので、まずは極上のコラボレーションを耳で確かめてみて下さい。なお、日本盤ボーナストラックは"When Death Is Calling"のアコースティック・ヴァージョン。単なるオマケと思うなかれ、ロニーのヴォーカルがより際立つ仕上がりで、こちらも一聴の価値あります。アルバム丸ごと、メロハーのご馳走、です。オイシイ要素が三拍子どころか六拍子くらい揃っており、満面のえびす顔を禁じ得ません。今年最初のベストコラボレーションは彼らで決まりでしょう。

http://www.frontiers.it/album/5289

2016年1月26日火曜日

音を操り、音に遊ぶ、北欧のネオ・ダダイスト― Jono El Grande『Melody Of A Muddled Mason』(2015)

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 ノルウェーのコンポーザー/ギタリスト ジョノ・エル・グランデことJon Andreas Håtunの通産6作目となる新作ソロアルバム。即興詩とノイズを組み込んだポスト・パンク・バンド Mannes Fatalesのヴォーカリスト/作詞家としての活動など、いくつかのバンドを渡り歩いたのち、1999年に1stアルバム『Utopiske danser』でソロデビュー。以後、北欧プログレ/アヴァン・ジャズの層が厚いことで知られる「Rune Grammofon」レーベルを拠点として活動を展開。フランク・ザッパ、キャプテン・ビーフハート、KING CRIMSON、GENTLE GIANT、MAGMA、HENRY COWなどのバンドや、ショスタコーヴィチやストラヴィンスキー、バルトークなどの作曲家からの影響を、ダダイズムからの影響も汲んだ(2009年にリリースした3rdアルバムのタイトルは『Neo Dada』でもありました)パフォーマンスやヴィジュアルとともに独自に昇華しております。2000年には大編成オーケストラ「The Jono El Grande Orchestra」(後にJono El Grande & The Luxury Bandに改名)を立ち上げるという豪快な手腕も発揮。まさに奇才と呼ぶにふさわしい存在であります。マリンバ/ヴィブラフォン奏者、サックス奏者、数名のヴァイオリン/チェロ奏者によるアコースティック楽器隊を擁する編成を擁して彼が紡ぎあげる室内楽 meets ジャズ・ロックなサウンドは、優雅で朴訥としているようでシレっととんでもないところに足を踏み入れてしまう愉快なもの。ジャンルの枠にはめ込みたがる聴き手の追求を軽々とかわしてしまうしたたかさもあります。今やすっかり陳腐化した定型句とはいえますが「おもちゃ箱をぶちまけた様な」という形容は、この人の作風に対してはかなりしっくりハマる、といったところ。




http://www.jonoelgrande.no
https://www.facebook.com/NorwegianComposer

http://www.runegrammofon.com/artists/jono_el_grande/rcd2175-jono-el-grande-melody-of-a-muddled-mason-cd-lp/

2016年1月24日日曜日

溌剌たる再始動。ビター/スウィート噛み分けた、踊れるインダストリアル・ロック ― SCHAFT『ULTRA』(2016)

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 BUCK-TICKの今井寿と、SOFT BALLET(当時)の藤井麻輝。共にアイコン的存在であり、異端者でもある二人がタッグを組んだインダストリアル・ロック・ユニット「シャフト」が結成されたのは今から四半世紀前の1991年。オムニバスアルバムへの参加を経て、PIGのレイモンド・ワッツ、THE MAD CAPSULE MARKETSやMeat Beat Manifestoのメンバーらを迎えて1994年に1stアルバム『Switchblade』、リミックスアルバム『Switch』を立て続けにリリースし、シーンに強烈な楔を打ち付けました。1999年にzilchのリミックスアルバムに参加後、活動を休止。その後、今井氏はBUCK-TICKの活動の傍ら、2001年にレイモンド、サシャ・コニエツコ(KMFDM)、櫻井敦司氏らと共に派生的なユニット SCHWEINを結成。アルバムのリリーウとライヴを行うものの、ごく短期間で解散。一方の藤井氏はソロ/プロデュースのほか、SOFT BALLETの再始動/解散、ユニット 睡蓮の結成、数年間の音楽活動休止を経ての森岡賢氏とのminus(-)の結成と、紆余曲折ありながらもトピカルな活動を展開。もはや、SCHAFTは過去の存在としてファンの記憶に留められるものかと思いきや、2015年10月にユニットの再始動が発表。そして2016年、アルバムのリリースとツアーを引っさげて、第二のモノリスが衝撃とともに再びその姿を現しました。




 本作『ULTRA』は、約21年数ヶ月ぶりとなる新作オリジナルアルバム。『Switchblade』では楽曲ごとに適宜ミュージシャンを迎えて制作されておりましたが、本作ではヴォーカル&作詞にYOW-ROW (GARI)、ベース&コーラスにUEDA TAKESHI/上田剛士(AA=)、ドラムにyukihiro(acid android、L'Arc~en~Ciel)を迎えてのバンドスタイルで首尾一貫しています。UEDA氏は『Switchblade』のレコーディングメンバーでもあり、YOW-ROW氏、yukihiro氏は過去にライヴやユニットで藤井氏と顔を合わせているので、いずれも顔なじみの面々。また、SCHAFT再始動ライヴの数日前にアップされたUEDA氏のブログ記事によると、今回の再始動では「ユニット」としてではなく、「バンド」として展開したいという想いが今井、藤井両氏にあるようです。




 全13曲78分というヴォリュームでノイズ/インダストリアルを基調に各種エッセンスを散りばめ、濃厚で無骨な印象に終始していた『Switchblade』と比べると、『ULTRA』は全体的にとっつきやすさが増しています。作曲面でも関わっていたレイモンド・ワッツがいないというのもいくらかあるのでしょうが、二十数年の歳月を経たというのもやはりあるのでしょう。楽曲の構成・バランスもすこぶるよいです。ツアータイトルにも冠された"The Loud Engine""Leidenschaft"のような圧殺ヘヴィ・ロック・チューン、EDM的ごん太エレクトロニクスも流し込まれた"Drift" "ReVive"(ヒトラーの演説のコラージュも!)などの藤井曲が歪み軋みで空間をアッチコッチ蹂躙したかと思えば、今井曲は"Vice""SAKASHIMA"のような「踊れる」チューンや、エッジを効かせた"Anti-Hedonist" "Swan Dive"でキャッチーに間隙を攻めていく。ビターな面とスウィートな面がクッキリと鮮やかに存在しています。YOW-ROW氏のヴォーカル/シャウトも、アジテイターとしてガンガンに煽りつけてくるパフォーマンスで、バンド「SCHAFT」の一体感に存分に寄与しており、血行良好、溌剌とした再始動を印象付けるに申し分のない仕上がりです。やはり「日和る」などという言葉は、「異端者」イマイ/フジマキにとって無縁の存在なのであります。心の底より寿ぎたい。


http://schaft2016.com/
https://www.facebook.com/SCHAFT2016


SCHAFT『SWITCHBLADE』(1994)

2016年1月23日土曜日

ギターと手斧を携えた気鋭の「挑発の書」 ― ミハイル・エリザーロフ『図書館大戦争 (Библиотекарь)』(2007)

図書館大戦争
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ミハイル エリザーロフ
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 ロシアの作家 ミハイル・エリザーロフの、ロシア・ブッカー賞を受賞した2007年作品の邦訳。かつて、ドミトリー・アレクサンドロヴィチ・グロモフという一人の作家がいた。時代からは無視され、無名のままその生涯を終えた彼が生前に著した七冊の本には、ある条件を満たして読むと人を覚醒させる力があり、グロモフを再評価するコレクターたちはそれらを「力」「権力」「憤怒」「忍耐」「喜び」「記憶」「意味」の書と名づけ、自らの手中におさめるべく武装「図書室」を編成、日々戦いに明け暮れている……という設定。ファンタジーや異能バトルものもかくやです。老い先短いババアの一団が「書」で活力を得て大暴れする序盤のシーンや、「図書室」同士の血みどろの仁義なき戦いの数々が、テメエラその目に焼き付けろや! といわんばかりにぶちまけられており、あれよあれよという間に死屍が累々。げに凄まじきかな。




 本を介したファンタスティックな力と闘争のヴァイオレンスばかりに目が行きがちになるのですが、読んでいくうちに血生臭さよりも加齢臭と死臭、そして閉塞感と諦念の情が強まっていき、非情な「現実」の数々が突きつけられます。主人公のアレクセイが巻き込まれ/流され体質であるので、終盤以降で彼が辿ることになる運命には、こっぴどく気が滅入らされます。でも、この糞詰まりのような終盤が本書のキモなのではないかなと私は思うのです。本書の構想は、エリザーロフがかつて小さな村に住んでいたころ、「週に三度漂ってくる屠殺場からの豚の死臭」で気が狂いそうになったあげくに頭に浮かんだとのことなので、なるほどと腑に落ちました。本書の内容は、人が「本を読む」という行為に対しての挑発ともとれますし、「書」を巡って狂信的な人々が殺し殺されるというグロテスクな状況を何かのカリカチュアとして捉えることも容易にできますが、アレコレ肩肘は張らずに、まずはこのロシア産ヴァイオレンス・ノベルを「毒を喰らわば皿まで」な勢いで読んでみてください。ケンシロウ、暴力はいいぞ。日本版カヴァーもインパクトがあって素晴らしいのですが、Kindle英語版(『The Librarian』)のカヴァー(上画像参照)は、見てはいけないものを見てしまったようなヤバいニオイが静かに漂っており、こちらもとてもイイです。




 エリザーロフは作家活動のかたわら、ミュージシャンとしても活動しており、オフィシャルサイト ( http://www.elizarov.info/ )や、vk.comのアカウント( http://vk.com/m_elizarov )で音源がいくつもあがっていますし、YouTubeにはライヴ映像も上がっています。バンドではなく、ワンマンでのフォーク。ここでは本当に素朴な形で表現をしています。また、ギターだけでなく手斧もしょっちゅう持っており、ちょっとググっただけでもさまざまな写真が見つかります。トレードマークなんでしょうかね。風貌もコワモテなので、「作家にみえない作家」というヴィジュアル繋がりで、チャイナ・ミエヴィルチャールズ・ストロスと並べたくなります。




『図書館大戦争』の訳者あとがきでは、「エリザーロフは二〇一〇年、自らの音楽プロジェクトを立ち上げ、これまでに七枚のアルバムを出している」とありますが、そのあと、八枚目のアルバムを発表しています。タイトルは『РАГНАРЁК (ラグナロク)』。エリザーロフの公式facebookアカウントの記事にあるリンクから、アルバムがフリーダウンロードできます。



《ディスコグラフィ》

『Notebook』(2010)
『ПРО КОЗЛА』(2011)
『ЗЛА НЕ ХВАТАЕТ』(2011)
『ЗАПОЩЩУ』(2012)
『МЫ ВЫШЛИ ПОКУРИТЬ НА 17 ЛЕТ』(2012)
『ДОМ И КРАСКИ』(2013)
『ЖАЛОБНАЯ КНИГА』(2014)
『РАГНАРЁК』(2015)

http://www.elizarov.info/
http://vk.com/m_elizarov
http://ru-elizarov.livejournal.com/




 また、ロシアで20年以上にわたって活動しているエクスペリメンタル・ロック・バンド HOMが2014年にリリースしたアルバムにエリザーロフが関わった曲が収録されています。


2016年1月22日金曜日

ジョン・カーペンター、6月にスペインの音楽フェスに出演決定。現時点で3ヶ国でライヴの予定。

 1月16日に68歳の誕生日を迎えた映画監督/コンポーザーのジョン・カーペンター。当日は息子のコディや、養子のダニエル・デイヴィスとレコーディングと撮影を行って過ごしたとのこと。さて、先日新たなアナウンスがあり、2001年より毎年 5月下旬/6月上旬に開催され、各国の多彩なジャンルのミュージシャン/バンドが多数出演するスペイン・バルセロナの大型音楽フェスティバル「Primavera Sound」へ参加することが決定したようです。本年度は6月1日~4日にかけて行われ、出演バンドはほかに、ブライアン・ウィルソン、Suede、RADIOHEAD、PJハーヴェイ、ダイナソーJr、BATTLES、SIGUR ROS、ボアダムズ、TAME IMPALA、VENOM、ANGEL WITCH、Current 93、Deerhunter、Cabaret Voltaireなどなどがラインナップ。ジョンは6月2日に出演とのこと。

https://www.primaverasound.com/
https://www.facebook.com/primaverasoundfestivals/





 そして、既に発表されているとおり、7月1日~3日には、アイスランドの音楽フェス「ATP Iceland」に出演します。同フェスにはSLEEPやTortoiseらも出るようです。


https://www.atpfestival.com/events/atpiceland2016/lineup


 また、10月29日にアルバート・ホール・マンチェスターで、10月31日のハロウィンにロンドンの「Troxy」でそれぞれ単独公演が行われます。アルバムからの楽曲に加え、新曲“Release The Bats”を引っさげてのパフォーマンスだそうなので、よりいっそうの期待が持たれます。


https://www.atpfestival.com/newsview/1511191555



http://www.theofficialjohncarpenter.com/
https://www.facebook.com/directorjohncarpenter/

2016年1月21日木曜日

ディズニーアニメ「悪魔バスター★スター・バタフライ」の劇伴について



 ディズニー制作によるコメディカートゥーンアニメ「Star vs. the Forces of Evil」。本国で2015年春に放送されるや人気を博し、第二シーズンの制作も発表。ここ日本でも「悪魔バスター★スター・バタフライ」のタイトルで今月より日本のディズニーチャンネルで放送が開始されております。カートゥーン特有のデフォルメのバリバリに効いた表情を繰り出しまくるスタバちゃんかわいいです。日本放送版では主人公のスター・バタフライほか魔法の国の面々が関西弁でしゃべるという設定になっており、なかなかビックリしましたが。

http://www.disney.co.jp/tv/dc/program/anime/akumabuster.html

 原作者のDaron Nefcy(ダロン・ネフシー)によると、初期設定ではスターバタフライはセーラームーンが、ボーイフレンドのマルコはドラゴンボールが好きというものだったとか。ダロンは1985年生まれ。セーラームーンやドラゴンボールZはどちらも90年代半ばにはもうアメリカでも放送されていたので、いわゆる直撃世代というやつですね。また、アニメではほかに「少女革命ウテナ」「魔法騎士レイアース」、手塚治虫の「ユニコ」からも影響を受けたとのこと。なるほど、だからユニコに似たような色合いのユニコーンが出てくるのか(……生首だけど)。


「Interview: Daron Nefcy of Disney’s STAR VS. THE FORCES OF EVIL」
(from nerdist.com|2015.03.26)


「悪魔バスター★スター・バタフライ」のテーマソングを手がける Brad Breeck(ブラッド・ブリーク)は、同じくディズニー制作の「怪奇ゾーン グラビティフォールズ」「Pickle and Peanut」や、カートゥーンネットワークの「We Bare Bears」、ニコロデオン(アメリカの児童向けケーブルテレビチャンネル)の「Fanboy and Chum Chum」の楽曲も手がける人なのですが、元々はバンドマンであり、エクスペリメンタル系インディーロックバンド The Mae Shiの元メンバーで、現在はチップチューン・パンクバンド SKull Tapesのメンバーとして活動もされています。氏のサイトやsoundcloudでバンドの楽曲が聴けますが、パワフルなインディーロック感あふれるサウンドがとてもよいです。





http://bradbreeck.com/


 メインコンポーザーの Brian H. Kim(ブライアン・H・キム)は、これまでに向こうの数々のテレビドラマや、ディーン・R・クーンツ原作映画「オッド・トーマス 死神と奇妙な救世主」(2013)のスコアも手がけられてきた人。氏のサイトで何曲かスコアが聴けますが、壮大なストリングスアレンジも交えたパンキッシュなニューウェイヴ・ロックといった感もあってたいへん好み。魅力的サウンドです。サウンドトラックは2016年1月現在で出ておりませんし、今後出る予定なのかもわかりませんが、シリーズが順調に続くようであればその可能性もあるでしょう。配信の形でもいいので是非とも出していただきたいものです。



http://www.brianhkim.com

2016年1月19日火曜日

祖国はキミの力を必要とするロシアの労働パワーメタル ― СТАХАНОВЦЫ 『Помоги стране делом​!​!​!』(2014)



“miner metal”を標榜する、ロシアのパワーメタルバンド  СТАХАНОВЦЫ (STAKHANOVITES) 。ソ連時代に展開された生産性向上運動「スタハノフ運動」の象徴的存在として有名となったアレクセイ・スタハノフ(約6時間で100トン以上の石炭を掘り出した)を冠したバンド名、労働に打ち込む真っ赤なアルバムジャケット、そして「祖国はキミの力を必要としている!!!」というアルバムタイトル。この時点で三拍子揃っている感がありますが、サウンドもハードエッジなリフと気を吐くヴォーカルを軸としたド直球な労働パワーメタルを展開しており、名は体を表しまくっております。2007年に結成されたバンドは、デモ音源制作を経て2009年に『Пенетратор шахты』、2011年に『Обвал』の二枚のEPをリリース。2011年にロシアのメタルレーベル「Metalism Records」より1stフルアルバム『Шахта слабаков не терпит』でデビュー。そして本作が同レーベルからの二作目のフルアルバムとなります。メンバーには、ブラックメタルバンド(ユニット) TAIGAのニコライ・セレドフとアンドレイ・チェルノブの二人を擁してもおり、とくにニコライはヘヴィ・メタルバンド SAVANやゴシック・メタルユニット Mirror Morionisへの参加や、フューネラル・ドゥームユニット FUNERAL TEARSでのソロ活動などでも精力的な動きをみせる人物。一方のアンドレイもインダストリアル・メタルユニット Panzertankでしたたかな活動を展開しております。




http://vk.com/stahanovtsy

Encyclopedia Metallum -СТАХАНОВЦЫ

2016年1月17日日曜日

コンスタントなリリース、コンパクトなグッドメロディ ― Ludrium (Cody Carpenter)『Unity』(2016)




 ジョン・カーペンターの息子であり、近年は彼のサウンド面での右腕的存在としても重要な役割を担っているコディ・カーペンター。彼が力を注いでいる活動であり、ゲーム音楽とプログレ、フュージョン、シンセウェイヴのニッチを突くインストゥルメンタル・バンド(現在はワンマンユニット)が、このLudriumですが、前作『Pleasure of a False Past』から約8ヶ月ぶりとなる新作3rdアルバムが先日リリースされました。ここ数ヶ月のあいだに単発でリリースしていた楽曲を含む全12曲。新曲では、「ゼロディバイド」あたりの90年代ゲーム音楽の香りも漂う"Drop Kick" "We Have One Chance"、アンビエントタッチの"Cherished Memories"、スパニッシュギター風のアクセントの効いた"Trails Between Worlds"が耳を惹きました。

 soundcloudで先行公開されたアルバム収録曲は"Machines Of Man" "Cyber Attack" "TheSacred Tree" "Sentinel"の4曲(ほかに初代「悪魔城ドラキュラ」を意識した"Day Vanquish Night"という楽曲も公開されているのですが、これはハロウィンに合わせて制作されたものゆえ本作には未収録)。"Machines Of Man"は「ニューヨーク1997」のテーマフレーズらしきものが一瞬浮かぶのが微笑ましい。"Cyber Attack"は、YouTubeの彼のアカウントに以前上がっていた「細江慎治氏の初期曲にインスパイアされた」楽曲"Cyber Sloth"のヴァリエーションといったところでしょうか。細江氏が90年代初頭に楽曲を手がけた大型筐体ゲーム「サイバーコマンドー」「サイバースレッド」へのオマージュも感じられるプログレッシヴ・フュージョンタイプの一曲。"The Sacred Tree"は、穏やかなファンタジー系インストゥルメンタル。"Sentinel"はレトロスペクティヴなシンセサイザー meets フュージョンな一曲です。

 コディはfacebookの更新の度にコメントの日本語翻訳も併記しているという非常なマメさを発揮しているナイスガイなのですが、本作については「去年のアルバムと同じくインストでジャンルが多様。私の愛情がたっぷり入った曲しかない!是非是非、お聞きください!!」とのこと。ダウンロードは$7より、コンパクトなグッドメロディを搭載した楽曲群、ぜひ、お聴きください。ちなみに、彼はニコニコ動画のアカウントも持っており、かつて「メタルマックス2」「ロックマン2」「カルノフ」「ソニック3」「ハイパーゾーン」「TMNTスーパー亀忍者」の楽曲をドラムで演奏した動画を自らアップしていたようです。今はほとんど消えており、彼のマイリストでその名残りが見られるのみですが、つくづくいいチョイスだなと。
http://www.nicovideo.jp/mylist/37659446




 2015年9月末にアップされたコディへのインタビュー。以前別のサイトが行ったインタビューと重複する部分がかなり多いのだけれども、彼が受けた音楽的影響について主に語っています。

「Interview: Electronic Musician Cody Carpenter」
(from shocktillyoudrop.com)



Cody Carpenter - YouTube Channel
Cody Carpenter - soundcloud

Ludrium『Zeal』(2012)
Ludrium『Pleasure of a False Past』(2015)

2016年1月14日木曜日

良し悪し痛し痒しな2ndアルバム ― 上坂すみれ『20世紀の逆襲』(2016)

20世紀の逆襲(通常盤)
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 現代最強の扇動者にして、ますますワイドレンジのサブカルチャー声優と化しつつある 上坂すみれ嬢の2ndフルアルバム。初回盤/通常盤アルバムジャケットを美樹本晴彦、丸尾末広、BAHI JDの三氏が描き下ろすという強力な話題性を引っさげての今作も、強力なコンポーザー/アレンジャー陣を迎えたシングル曲を軸にして、アルバムのための新曲を加えた構成となっています。全18曲のうち11曲が2014年~2015年に発表された3rd~6thシングルの楽曲であり、また、R・O・N氏によるEDMチューン"予感02" 、遠山明孝氏によるピアノアレンジ"革命的ブロードウェイ主義者同盟 (INST piano solo ver.)"の2曲は前作アルバムの流れを汲む楽曲であるので、インストゥルメンタルも含め、純然たる新曲はわずか5曲。「ベストアルバム的」「シングルの延長線上」というイメージが前作以上に強まっており、正直、アルバムとしての意義にますます乏しくなったな、と首をかしげざるをえませんでした。人脈がさらに広がったこともあり、結果的に前作以上にバラエティに富んでいますし、各シングル曲をバラけさせて配し、新曲をそこにブリッジする形で配するなどの工夫もある程度なされてはいますが、それでも「散漫」「寄せ集めた」という印象の方がどうしても勝ります。ヴィジュアルイメージも含めた「20世紀の逆襲」というコンセプトのねらいもわかりますし、上坂嬢の、周囲を巻き込んで盛り上げていく扇動者的なキャラクターを打ち出すがゆえにこういった構成に至るというのもなるほどわかるのですが、どっちつかずの痛し痒しなものになっています。また、シングルを逐一追いかけて聴いてきた身には、既発曲にちょい足しするだけではアルバムとしての面白味に欠けるなとも感じました。




 ……と、いきなり散々なことを書きましたが、あくまで一枚のアルバムとして総合して見た評価です。デビューから依然として超強力なシングルを立て続けに放ってきたという事実は間違いないですし、個々の楽曲はいずれもキャラ立ちした上で尋常ならざるクオリティを誇っており、語りどころしかありません。今回のアルバムで初めて楽曲に触れる方ならば、そのハイカロリーな楽曲群に圧倒されることうけあい。敬愛する大槻ケンヂ氏が作詞を提供し、COALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKI氏が作曲を、Sadesper Record(NARASAKI & WATCHMAN)が編曲を手がけた"パララックス・ビュー"は、ヒリついたギターが鬼のごとく刻み、ファストなドラムがガスガスと決まる激烈なキラーチューン。タイアップしたアニメ「鬼灯の冷徹」にちなんで天国と地獄をテーマにしつつも、筋肉少女帯の"小さな恋のメロディ"の続編的な内容ともとれる詞も話題になりました。続く、和嶋慎治氏の作詞・作編曲、人間椅子の演奏による"冥界通信 ~慕情編~"は、いかにもドゥーミーな味わいの和風ハードポップチューンですし、松永天馬氏率いるアーバンギャルドの提供による歌謡チューン"すみれコード"は、「清く、正しく、美しく」をモットーとする宝塚歌劇団員がしてはいけない行動や使ってはいけない言葉の総称である「すみれコード」と引っ掛けた曲タイトルに、成就しそうにない恋を回転数の異なるレコード盤に例えた詞が乗ったヒネりのある一曲。





 パール兄弟のサエキけんぞう氏と窪田晴男氏の作詞&作編曲によるスタイリッシュなポップチューン"TRAUMAよ未来を開け!!"。エロティックな言葉遊びまみれの詞をノリノリで歌い上げるディスコ・ロック・チューン"Inner Urge"。谷山浩子さんの作詞で、誰かの変名説もウワサされた正体不明のロシア人 Леснойпутешественник(「森の旅行者」の意)が作編曲を手がけた、バヤンとバラライカがせわしなく奏でたてるタテノリのロシア民謡チューン"無限マトリョーシカ"。GEEKSのエンドウ氏の作編曲による行進曲調の"無窮なり趣味者集団"は、上坂嬢が初めて作詞を手がけたアジテーションソング。「セイントフォーが歌いたい」というすみれ嬢のリクエストに応えて前作アルバムで"哀愁Fakeハネムーン"を作曲したMONACAの岡部啓一氏が、惜しげもなくオケヒが鳴り響くド直球の90'sユーロビートをこしらえた"来たれ! 暁の同志"のてらいのなさには参りましたの一言。Elements Gardenの岩橋星実氏の作編曲による"閻魔大王に訊いてごらん" "罪と罰 -Sweet Inferno-"の二曲も流石にテンションが高く、扇情的ギターソロもぶち込まれ、ヘヴィロックを通り越してほぼメタルな貫通性あふれた仕上がり。対照的に、ポストロック/エレクトロ ユニット Spercsの牧元芳朗氏の作編曲による"ツワモノドモガ ユメノアト"は、しっとりとしたピアノバラードからエモーショナルなサビへと盛り上がっていくダイナミックな一曲です。





 新曲においても、ヘヴィロックバンドが出自のマルチコンポーザー 吟 (BUSTED ROSE) による"繋がれ人、酔い痴れ人。" "全円スペクトル"の二曲はメリハリもバツグンのミクスチャー感覚がほとばしる仕上がりですし、クリエイター集団「絶望ノ果てのクリシェ」が作詞・作編曲を手がけた、アルバムの序盤・中盤・終盤に配された全三章におよぶ一連のタイトルトラックは、いずれも二胡やストリングスの音色もフィーチャーしてのカッチリとしたシンフォニック・ロックとして首尾一貫しており、素晴らしい仕上がり。スキあらばツーバスを踏み込み、"第二章 ~蠱惑の牙~"では上坂嬢の語りのパートが入るなど、一見ストレートなようでトリッキーな趣向やアレンジで魅せてくれます。この謎の集団の存在は今作の収穫でしたし、今後の展開に興味を惹かれるところでもありました。あっと驚くコラボレーションのシングルリリースもいいのですが、それもいつかはある程度の飽和状態を迎えるであろうことは明白ですし、シングルと明確に差別化するような、よりコンセプトを追究した形の完全オリジナルアルバムもそろそろ聴いてみたいものです。


http://www.starchild.co.jp/artist/uesakasumire/


上坂すみれ「来たれ!暁の同志」「実録・2.11 第一回革ブロ総決起集会」特集
上坂すみれ「閻魔大王に訊いてごらん」&「80年代アイドル歌謡決定盤」インタビュー
上坂すみれ「Inner Urge」インタビュー
「上坂すみれ「20世紀の逆襲」特集 ロングインタビュー」
(from 音楽ナタリー)

上坂すみれ『革命的ブロードウェイ主義者同盟』(2014)
上坂すみれ『パララックス・ビュー』(2014)

2016年1月13日水曜日

終末と青春と流血と自転車を煌びやかに彩る、映画「ターボキッド」サントラ ― Le Matos『Turbo Kid O.S.T』(2015)

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 昨年、日本でも公開され、「チャリンコ版マッドマックス」などといった形容で局地的に話題になった、カナダ/ニュージーランド共同制作、ROADKILL SUPERSTARS監督による80年代リスペクテッドなアポカリプティック/ヴァイオレンシャル/チャリンコ/ジュヴナイル/ゴアアクション/ムービー 「ターボキッド」。そのDVD/Blu-ray国内盤が先日1月13日にリリースされました。文明が荒廃し、移動手段はチャリンコのみという“1997年”の未来を舞台にしたボーイミーツガールの良作、未見の向きはこの機会にぜひともどうぞ。そして、昨年12月には同作のサウンドトラックもリリースされております。本編スコアの制作過程で産み出されたイメージトラック10曲を収録した『Chronicles of The Wasteland』をDISC 1に、映画本編のスコア40曲を収録したオリジナルサウンドトラックをDISC 2にしたヴォリューミーなダブルアルバムとしてのリリース。





 スコアを手がけたのは、カナダ・モントリオールの Le Matos。Jean-Philippe Bernier、Jean-Nicolas Leupiの二人を中心としたエレクトロ/シンセウェイヴ・ユニットであり、「ターボキッド」のプロトタイプとなった2011年発表のショートムービー「T Is for Turbo」のBGMも彼らが手がけております。ちなみにJean-Philippe Bernierは同作の撮影スタッフも兼任しており、IMDbによると、「300」「デス・レース」「X-MEN:フューチャー&パスト」などのタイトルにも撮影スタッフとして関わっていたとのこと。2013年には1stアルバム『Join Us』をリリース。また、海外ファン有志による「AKIRA」の実写化企画への楽曲提供、「ハロウィンII」テーマのカヴァーの公開など、近年はとみにトピカルな活動を展開している彼らの主な音楽的影響は、やはり80年代の映画サウンドトラック。コンポーザーではヴァンゲリス、ジョン・カーペンター、シュキ・レヴィ。バンドではTANGERINE DREAM、GOBLINの名前が挙げられているところからも明白であります。太めのシンセトラックとダンサブルなリズムを軸に、哀愁のメロディをまぶしこんだ煌びやかなインストゥルメンタル群のほか、先行シングルリリースもされた主題歌“No Tomorrow”は、「ターボキッド」のメインテーマのヴォーカルヴァージョン。作詞とヴォーカルを手がけたのは、ロンドンを拠点に活動するシンセポップユニット PAWWSのルーシー・テイラーです。



トレイラーといえどもゴア描写ありだから注意して観てくれよな!


ターボキッド [DVD]
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Le Matos - Official Site
Le Matos - facebook
Le Matos - soundcloud
Turbo Kid - IMDb


青春チャリンコゴアアクション映画「ターボキッド」のサウンドトラックを手がけたカナダのシンセウェイヴユニット「Le Matos」

2016年1月10日日曜日

過去と現在のパラレルな二重映し。「言葉を殺させない」 決意のコンセプトアルバム ― アーバンギャルド『昭和九十年』(2015)

昭和九十年(通常盤)
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アーバンギャルド
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 トラウマ・ニューウェイヴ・ロック・バンド アーバンギャルドの1年半ぶりとなる通産4thフルアルバム(インディーズ時代の〈少女三部作〉から通算すると七作目)。徳間ジャパンに移籍し、ポップでキャッチーなエレクトロ・ポップに寄った前作『鬱くしい国』は、会田誠によるカヴァージャケットや、大槻ケンヂのフィーチャリング曲といった強力な話題性もある一枚に仕上がっていたのですが、一方で「ソツのなさ」に物足りなさを感じたのも事実です。作編曲も手がけていたキーボーディストの谷地村啓氏が2013年9月に電撃脱退し、翌年9月にはドラムスの鍵山喬一氏が脱退、バンド編成が大きく変わったことも気がかりなところでありましたが、2015年4月にGSバンド ザ・キャプテンズのおおくぼけい氏がキーボーディストに加入。氏もさっそく作曲に参加した会場限定ミニアルバム『少女KAITAI』での、〈少女三部作〉の解体と新たな少女の懐胎を経て、リリースされたアルバムが本作です。本作の少し前に、松永氏の詩作や短編小説などをまとめた初作品集『自撮者たち』が刊行されたこともまた印象的なトピックでした。


自撮者たち 松永天馬作品集
松永 天馬
早川書房
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 いや、すごい。ここまでガッチリと緊密なコンセプトアルバムに仕上げてくるとは。過去と現在の事象を二重映しにしたヴィジョンを顕現させる「昭和九十年」のコンセプトもさることながら、混迷極める現代への大なり小なりのアジテーションを多彩な曲調で繰り出しています。種々雑多なオマージュや遊びが楽曲や詞に盛り込まれ、濃ゆいキャラクター性もろとも混ざり合うことで生み出される畸形じみたエネルギーをなりふりかまわずぶちまけていたインディーズ時代も一昔前のものとなり、震災、そしてバンド自身のメジャーデビューへ経たことで、「少女」の内面、「個人」の自意識から、「都市」「社会」の外側へより意識を向けるようになっていったバンドの姿勢が、ここで一つの形をみたと言っていいと思います。バンドの持っていた「痛々しさ」はだんだんと洗練されてきましたが、キャリアを積んできたがゆえの鋭さが研ぎ澄まされてきていますし、このバンドのもつ「何でもアリ」感は依然として健在であることが伝わってくるところも嬉しい。




 「言葉を、殺すな」のフレーズを歌謡曲とEDMとサイレンのミクスチャーのもとに撃ち出す"くちびるデモクラシー"、苛烈なるラブソングにしてエレクトロ・ポップ"ラブレター燃ゆ"は、恋と戦争のダブルワードを巧みに絡めこむ二曲。対照的に、"新宿モナムール"は失恋ソング。歌詞にある「飛んでくれるなお嬢さん 背中の桜が泣いている」のフレーズは、60年代末に橋本治が打った東大駒場祭のポスターの一文「とめてくれるなおっかさん 背中の銀杏が泣いている 男東大どこへ行く」から。『少女KAITAI』にも収録されていた"コインロッカーベイビーズ"は、このタイトルで「子供をつくろう」というプロポーズソングという意表をついた一曲。とはいえ、70年代に社会問題にまでなったコインロッカー幼児置き去り事件も、今はもう完全に過去のものとなった感があります。作詞は浜崎容子さんと、ジャニーズをはじめJ-POPの作詞・作編曲家の大智氏の共作。クラヴィネットがハネる軽快な曲調で、言葉を紡ぎ出すことの葛藤を歌う"詩人狩り"は、詩人は、ともすれば死人でもあるという一曲。




 瀬々信氏作曲のスピードチューン"箱男に訊け"は、言わずと知れた安部公房の傑作小説『箱男』のテーマ性を意識しながらも、別のベクトルを指向した一曲。社会から離脱し、帰属を捨て、ダンボール箱をかぶり街を彷徨っていたあちらの箱男とは違い、こちらの箱男はどこまでも現実のくびきから逃れられず、鬱屈した承認欲求が行き場をなくして爆裂した感。本作のコンセプトをもっとも打ち出した"昭和九十年十二月"は、演劇的趣向やエモーショナルなポエトリー・リーディング(松永氏曰く「ポエムコア」も多少意識したとのこと)込みの9分越えの大曲。作曲は、おおくぼ氏。EDMとハードエッジなギター、そしてストリングスサウンドが盛り上げる、本作のハイライトたる一曲です。エレクトロ・ポップ"あいこん哀歌"、ゾンビネタてんこ盛りでスウィングする"ゾンビパウダー"は、ともにポップな小曲。後者は少女とゾンビということで、おそらく大槻ケンヂ『ステーシー』へのオマージュも込みでしょう(松永氏、かなりのオーケン好きですし)。まだインターネットが黎明期であった90年代末に活動し、18歳で亡くなった実在のネットアイドルをモチーフにしたという"平成死亡遊戯"は、あの(ゆるめるモ!)、伊藤麻希(LinQ)、はのはなよ、白石さくらといった「現代の」「病んでる」アイドルの面々に吉田豪が行ったインタビュー音源からの抜粋や、ダイアルアップ接続音を随所に挿入するという趣向が耳を惹きますが、シンフォニックなバラードとしても絶品。おおくぼ氏の作曲センスはここでも光ります。個人的には本作の真のハイライトではないかと思うのです。ラストの"オールダウトニッポン"は、瀬々氏作曲のキラーなスピードメタルチューン。華麗なピアノの連打や「オールダウトニッポン!」のムサいシャウトなど、筋肉少女帯や特撮(バンド)のオマージュも込めつつ、浜崎さんと松永氏のツインヴォーカルでアーバンギャルドのカラーで染め上げています。エンディングは、両者によって交互につぶやかれる「昭和」「平成」のモノローグと、ガスマスク越しの呼吸音? で終わるという意味深な趣向。年は変わって2016年。今年は「昭和九十一年」のワードを配したツアーやミニアルバムのリリースが予定されているとのこと。「昭和」は、まだ終わりません。



http://urbangarde.net/


「アーバンギャルドの地下出版」
(from AllAbout|2015.05.12)

「あなたは既に病気。誰もがみんな病気です」
―松永天馬ロングインタビュー

(from ウレぴあ総研|2015.08.30)
松永氏の思想を知る上でかなり読み応えのあるインタビュー、オススメです。

「 INTERVIEW FILE 014 松永天馬 (アーバンギャルド) 」
(from 槙田さんのマキタジャーナル|2015.09.01)

「毎回違ったゲストを招いて新たな世界を学んでいく
実験的トークライブ「松永天馬脳病院」を開院!」

(from rooftop | 2015.10.01)

「INTERVIEW アーバンギャルド」
(from skream.jp|2015.12)


アーバンギャルド『少女は二度死ぬ』(2008)

2016年1月9日土曜日

モスクワ発、不敵なエクスペリメンタル・ロック・バンド ― ДЕТИЕТИ (Detieti)『В общих чертях』(2015)



 ロシア・モスクワを拠点に活動するエクスペリメンタル・ロック・バンド ДЕТИЕТИ (Detieti)。結成は2012年ごろ、ジョン・ゾーンのTZADIKレーベルのアーティストのようなアヴァンギャルドサウンドをいくらか標榜しており、ホーンをフィーチャーしたファンク・ロックから、ハードコア、レコメンっぽいトンガリったアヴァン・ロックぷりまで、かなり不敵なミクスチャーサウンド。そのほか、エレクトリック・チェロ奏者やテルミン奏者もゲストで迎え、刺激的なアンサンブルを成しております。本作は、2013年にリリースした五曲入りEP『Ne eP』に続く、フルアルバム(結成まもない頃にデモ音源集をリリースしているため、アルバムとしては二枚目とのこと)。ちなみに、アルバムジャケットに描かれた人物は、海洋学者で『沈黙の世界』などのドキュメンタリー作家のジャック=イヴ・クストー (Jacques Yves Cousteau)。アルバムのリリースに際し、バンドのアカウントでは彼の言葉 “When one man, for whatever reason, has the opportunity to lead an extraordinary life, he has no right to keep it to himself.” の引用がポストされてもおりました。



https://www.facebook.com/Detietiband
https://vk.com/detzadik

2016年1月8日金曜日

硝煙と鋼鉄の匂い立ちこめる、ストリングスとハードエッジサウンドのミクスチャー ― 工藤吉三『メタルサーガ~荒野の方舟~オリジナルサウンドトラック』(2015)

メタルサーガ~荒野の方舟~オリジナル・サウンドトラック
ゲーム・ミュージック
ベイシスケイプ レコーズ (2015-11-25)
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 データイーストの「メタルマックス」の流れを汲むRPGとして、サクセスの開発で2005年に始動、2015年で十年目を迎えた〈メタルサーガ〉シリーズ。その最新作である「メタルサーガ~荒野の方舟~」のサウンドトラック。〈メタルマックス〉〈メタルサーガ〉シリーズのサウンドといえば門倉聡氏ですが、今作ではベイシスケイプが楽曲を担当。作編曲を手がける工藤吉三(よしみ)氏は、これまでに「怒首領蜂 大復活」、「戦場のヴァルキュリア」(編曲)、「朧村正」、「グランナイツヒストリー」など多数のタイトルのBGM制作に参加。プログレッシヴ・メタル影響下の高密度かつパワフルなサウンドや壮麗なオーケストラ/ストリングスアレンジをはじめ、多種多様なサウンドに対応できるコンポーザー/アレンジャー。禍々しくも荘厳なコーラス&シンフォニックサウンドがこだまする「怒首領蜂 大復活」の"ロンゲーナカンタータ"(Final Boss BGM)や、剣戟のごとく切れ味鋭いヴァイオリンが乱れ飛ぶ「グランナイツヒストリー」の"Fighting Blade" "Assault of Brave Flame"など、いわゆる「キラーチューン」にも定評のある人です。

 今作では、シリーズの代名詞的な「鉄」「油」「硝煙」のイメージを大切にしつつも、工藤氏の持ち前のキレッキレのセンスが爆裂しており、派手なストリングス・サウンドとハードエッジなプログレッシヴ・メタル・サウンドを柱とした仕上がり。激しいスクリーム込みのミクスチャー・メタルな主題歌"Crack down!"ではギタリストとして、ロックバンド KANDO BANDOのヴォーカリストであるスティーヴン・マクネア氏と、クラブジャズバンド Blu-Swingのベーシスト蓮池真治氏と共にバンドスタイルで参加されてもおります。DREAM THEATERを思わせるシンフォニック・プログレッシヴ・メタルな"メイン・タイトル~荒野の方舟~"や、"NO BULLETS, NO LIFE" "On the Edge" "昨日の友は今日の敵"などのハードドライヴィンなキレ味とフックを搭載した戦闘曲の突き抜ける疾走感。オルガンサウンドもアクセントな"ワーカホリッカーズジャム"。スライドギターとパーカッションで砂煙吹きすさぶイメージが喚起される"大地と風と"。マッドなイメージがダブステップとマッチした"エレガント蘇者ダンス"。また、アンビエント/エレクトロタッチが基調のダンジョンBGMのなかでも、バグパイプ入りの勇壮なマーチである"65536歩のマーチ"は異色の一曲。クワイアコーラスとエレクトロビートがギターソロと共に煽りに煽る"Giant Killing"や、ミクスチャー感あふれるてんこ盛りのエピック・サウンドといった感のある"Traverse The Ancient Protocol"など、オーケストラアレンジに種々雑多な要素をミックスさせた楽曲のユニークさも手応え十分です。そして、全編にほとばしる乾いた“熱さ”を感じてください。




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2016年1月7日木曜日

ミシェル・ウエルベックの唯一のソロアルバム ― Michel Houellebecq 『Présence humaine』(2000)

服従
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ミシェル ウエルベック
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 2015年9月には最新刊『服従』が邦訳刊行され、同年10月には『プラットフォーム』 『地図と領土』の文庫版、今年1月には『ある島の可能性』の文庫版がそれぞれ刊行されるなど、ここ日本でも昨今とみに注目を集めるフランス随一の喰えない作家 ミシェル・ウエルベック(ウ“ェ”ルベックに非ず)。読んでいて心底いけすかねえと感じるのだけれども、気づけば読んでしまう。魅力というには心情的にはばかられるのだけれども、なにもかもに醒めているがゆえの吸引力がある、まったくクソッタレなおじさんです。彼の作品のオーディオブックは多数リリースされているのですが、実はひっそりと音楽アルバムをものしており、それが2000年にリリースされた本作『Présence humaine』。ウエルベックのソロアルバムとしては、現時点で唯一の作品です。CDは現在中古市場でプレミアと化してしまっているのですが、音源だけであればiTunesやAmazon mp3で買えます。後者ではアルバムダウンロード600円と、非常にお求め安いのです。


Présence humaine
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Tricatel (2011-01-10)
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 ウエルベックはヴォーカル、というよりはほとんどナレーションというスタイルで吹き込んでいます。バックのサウンドは基本的にエレクトリック・スタイル。全編に渡ってオルガンは効いているし、ドラムはけっこうせわしない。ロックの皮をかぶったシャンソンで、シャンソンの皮をかぶったロックという印象で、ここでも「喰えない」感じ。アルバム冒頭のタイトル曲で、プログレッシヴ・ロック・バンド HELDONのリシャール・ピナスがギターで参加しているところはちょっとしたトピックでしょう。そもそも若かりし頃にドゥルーズやリオタールのもとで学び、シャンソンへの造詣も深いピナスが参加しているというのは、なんというかごく自然に納得できるものがあるなと思いました。ノイジーな度合いの増す後半のギターソロはなかなかピナスらしい。



 また、作曲面ではシンガー/コンポーザー/プロデューサーなど多岐に渡る活動で知られ、ニコラ・ゴダンとジャン=ブノワ・ダンケルのユニット AIRのワールドツアーのサポートメンバーをつとめ、かの香織、カジヒデキ、カヒミ・カリィのアルバムなどへも参加歴のあるベルトラン・ブルガラが全面的に手がけております。彼は過去にウエルベックの『プラットフォーム』のオーディオブックの音楽も担当されているほか、本CDのリリース元である「Tricartel」は、彼が主宰するレーベルでもあるのです。同レーベルからはほかにエイプリル・マーチ(タランティーノの「デス・プルーフ」の挿入歌でも知られるシンガーソングライター)のアルバムや、ブルガラとロバート・ワイアットの共演シングル盤などもリリースされております。ちなみに、Tricartelの公式YouTubeアカウントでは『Présence humaine』の全曲がアップロードされてもいます(上のYouTubeプレイリストがそれです)。また、本作の同年にはブルガラ自身のソロアルバム『The Sssounf of MMMusic』もリリース(国内盤が東芝EMIから出ていました)。なるほどウエルベックを手がけたのもさもありなんという、あの人にしてこの人ありといったユニークなエレクトロ・アヴァンギャルド・ポップを満載した同作を引っさげての来日も2000年10月に果たしております。


The Sssound of Mmmusic
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Bertrand Burgalat
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バンドを従えてTV番組でパフォーマンスを披露するウエルベック。2001年ごろ。


Aubert Chante Houellebecq
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Jean Louis Aubert
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 ウエルベックのそのほかの音楽的活動(?)では、2007年にリリースされた『Etablissement D'Un Ciel D'Alternance』で、音楽つき朗読CD『Le sens du combat』(1996)に音楽担当で参加していた実験音楽家のジャン・ジャック・バージと再度コラボレーション、両作品とも、アヴァンギャルドなスポークンワードとでもいうような趣向の内容で、かなり不穏なテイスト。また、フレンチ・ロック・バンド Telephoneの元メンバーであるジャン・ルイス・オベールが2014年にリリースしたアルバム『Aubert chante Houellebecq(オベール、ウエルベックを歌う)』で、ウエルベックとコラボレーションを行っております。







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地図と領土 (ちくま文庫)
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2016年1月6日水曜日

層厚きノルウェーのジャズ・ロック・シーンを活気づかせる、エネルギー大発散系パワートリオ ― Krokofant『II』(2015)

Krokofant II
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 MOTORSYCHO、SHINING、Elephant9、Jono El Grande、Grand Generalなど、プログレッシヴ/アヴァン・ジャズの層がことにブ厚く、キレッキレのバンドがひしめくノルウェー。同国のロックとジャズのボーダーラインを積極的に攻めていく総本山的レーベル「Rune Grammofon」が抱える強力な新鋭ジャズ・ロック・バンド Krokofantの2ndアルバム。2012年に本国のジャズ・フェスティヴァルでデビューし、2014年にアルバムデビューしたギター、ドラムス、サックスのトリオで、率直に言って、超イイです。ワニ(Crocodile)とゾウ(Elephant)のキメラなバンド名もさることながら、レーベルのインフォメーションには、「ハードボイルド・インプロヴィゼーション」だの「70年代ジャズ・ロックとの邪悪な婚姻」だのといった愉快な文言が並んでおり、フリー・ジャズ/インプロヴィゼーション/プログレッシヴ・ロックを熱量ほとばしる演奏のもとにガチンコ融合させています。引き合いに出されているバンドやアーティストは、MAHAVISHNU ORCHESTRA、KING CRIMSON、HENRY COW、テリエ・リピダル、レイ・ラッセル、ペーター・ブロッツマン。また、サックスのJørgen Mathisenは、Trondheim Jazz OrchestraやThe Coreなど、数多くのバンドでプレイしてきたキャリアの持ち主。勢いを殺す瞬間が一切ないバンドアンサンブルの持続力、突貫力たるやピカイチで、シーンに熱風を吹き込むハードコアなパワートリオであるのは間違いありません。まずは一曲。






http://www.runegrammofon.com/artists/krokofnt/rcd2177-krokofant-krokofant-ii-cd-lp/
https://nb-no.facebook.com/krokofantmusic/

2016年1月5日火曜日

「ディアトロフ峠事件」に想を得た、ロシアのポストロックバンドの六作目 ― KAUAN『Sorni Nai』(2015)



 2005年に結成された、ロシア・シェリャビンスクのポストロックユニット KAUAN。出身はロシアながら、ユニット名はフィンランド語で「長い・長く」を意味し、楽曲の多くがフィンランド語で歌われています。もともとはコンポーズ/ヴォーカリストのAnton Belovのソロプロジェクトという側面が強く、レコーディングではヴァイオリンやチェロ、サックス奏者をセッションメンバーに迎えるという制作形態を長らくとっていました。活動初期にはフォーク・メタルやブラック・メタル サウンドを標榜していたそうですが、次第にアンビエント/ポスト・ロック寄りのアトモスフェリックなサウンドに変化し。2013年にフィンランドの Blood Musicレーベルに移ってリリースした五作目『Pirut』より、ヴィオラ奏者を含む四人のメンバーを迎えたバンドスタイルとなり、現在に至っています。

 そして、六作目となる新作アルバムが再びBlood Musicレーベルより登場。同作もまた、投げ銭でダウンロード可能です。1959年にソ連のウラル山脈で9人が謎の怪死を遂げた「ディアトロフ峠事件」からインスピレーションを得て制作されたアルバムが本作。シンセサイザー/ピアノの上を、泣きのギターとヴィオラのフレーズがスロウなテンポで紡ぎ出され、ヴォーカルが慟哭する。ただでさえメランコリックな情感に富む作風なのですが、近作ではドゥームメタルの要素も加味したことでサウンドの業の深さがいや増しした感があります。そこでこのコンセプトとくれば、より一層の噛み合いをみせるのも無理からぬというもの。寒々しくもダイナミックな印象をもたらす一枚となっています。


http://www.facebook.com/kauanmusic
http://vk.com/kauan
http://www.metal-archives.com/bands/Kauan/102515

2016年1月3日日曜日

三者三様のヴォーカル、三位一体のハーモニー、今なお歩み続ける最強のロックトリオ ― THE ALFEE『三位一体』(2015)

三位一体(通常盤)
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ユニバーサル ミュージック (2015-12-23)
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 結成40周年を迎えたジ・アルフィーの約6年ぶり、通産24枚目となるフルアルバム。「メロディック・ハード究極のコーラス・ワーク」というタタキも躍った前作『新世界 ― Neo Universe ―』は、しょっぱなからトータル20分近い三部構成のプログレッシヴ・メタル組曲を叩きこむなど、2010年代を突き進まんとするバンドの意気込みが過剰なほどに伝わってきた快作でした。70年代にフォークから始まり、80年代にハード・ロック、90年代にプログレッシヴ・ハード、00年代にビート・ロックと、およそ10年周期で音楽性を変遷させてきたバンドの歩みは類を見ないものであり、その蓄積を踏まえながらも、10年代に入ってさらなる邁進を続けるバンドの姿にはまったくもって感服の至りです。三人の顔をあしらったアルバムジャケットは相変わらず垢抜けないどころの騒ぎではないくらいなんともいえない仕上がりですが、このダサさを超越したセンスはトリプル・コーラス&スイッチング・ヴォーカルと共にTHE ALFEEの特権なのです。身も蓋もない言い方ですが、『夢幻の果てに』しかり、『Nouvelle Vague』しかり、ジャケットがダサいほどアルバムの内容が名盤と化すという法則を適用したくなるバンドがTHE ALFEE、といってもいいくらいです。

 坂崎氏のアコースティック/フォーク色、高見沢氏のハードロック/ヘヴィ・メタル色、両者をガッチリとつなぐ桜井氏のメインヴォーカル。そして、三者三様のスイッチング・ヴォーカルと、三位一体のコーラスハーモニー。これらの総合で紡ぎ出されるALFEEの最強のサウンドは本作『三位一体』でも揺ぎ無く提示されております。前作同様、高見沢氏が総ての楽曲の作曲・編曲を担当。共同編曲者にはおなじみの本田優一郎氏と、キーボーディストやプロデューサーなど多岐に渡る活動で知られ、高見沢氏のソロの編曲も手がけられている鎌田雅人氏の二人が参加。また、本作のドラムトラックは、レコーディング/ツアーサポートの常連でもある吉田太郎氏が務めております。

 オープニングを飾る"Orionからの招待状"は、強力なイントロとぶ厚いコーラスに導かれる歌謡プログレッシヴ・メタル。懐メロとメロディックスピードメタルが共存したような印象を受けるALFEEの疾走曲ですが、この曲はまさにバンドのド直球な様式美の叩き込まれた一曲です。続く"碧空の記憶"は、ブックレットの「with our respect to GARO」の一文にもあるように、70年代にTHE ALFEE(当時はALFIE)にとって兄貴分的存在であったフォークグループ ガロへの、そして2014年12月に亡くなったガロのフロントマン マークこと堀内護氏への想いを込めた、シンフォニックなアレンジとコーラスハーモニーが静かに興趣を添えるフォークナンバー。大仰なタイトルから繰り出される高見沢氏メインヴォーカルの歌謡ロック"或いはノイシュバンシュタイン城の伝言"は、ヴィレッジ・シンガーズやスパイダース、タイガースなど、数々のグループサウンズ(GS)バンドの楽曲の作詞を手がけてきた橋本淳氏が詞を提供しているところもポイントでしょう。GSといえば、続く、"G.S. I Love You -あの日の君へ-"は、高見沢氏がGSへの憧憬を形にした一曲。70年代プレイバック的な流れが続いたところで、さらに前の時代へさかのぼり、マンハッタンの喧騒を伝えるブラスロックナバー"Manhattan Blues"。曲調的に"冒険者たち"(1994)を思い出したりしました。

 アルバム後半にさしかかってからの楽曲はだんだんと熱を帯びてゆくかのような流れとなっており、構成的にも(いろんな意味で)見所のあるものになっています。"無情の愛 X"は、『ARCADIA』(1990)の頃を彷彿とさせるプログレッシヴ・ハードロック。アコースティック・ギターのアクセントも利いております。高見沢氏と桜井氏がヴォーカルを分け合う形になっておりますが、歌詞カードには(m)(f)の表記があるので、男女ツインヴォーカルを想定した一曲なのでしょう。続く"恋の花占いII"は、高見沢氏のシングル「誘惑の太陽」のB面に収録された同名曲のバンド再録版。なので"II"がついています。EDM(エレクトリック・ダンス・メタル)を打ち出したシングルの方向性とは異なり、こちらは正統派の歌謡曲アレンジ(やたらとあっちこっちでオケヒが鳴ってはいますが)。注目は歌詞で、今の時代に「キュンキュンキュンジンジンジン」「涙ポロリ ため息の 片思い天国」「撃沈Fortune!」などという歌詞をストレートにしたためる高見沢おじさんのセンスは素晴らしいなと本気で思いました。中毒性が高い曲です、いろんな意味で。"One Step ~ 再始動"は00年代のビートロック期の楽曲("運命の轍 宿命の扉"あたりの)を彷彿とさせるストレートなメッセージソング。サビとコーラスの抜けの良さがちょっと尋常じゃないです。"英雄の詩"は「新ウルトラマン列伝」主題歌となった64thシングル曲。桜井氏のヴォーカルが高らかに響き渡り突き抜ける、「強くあれ!」「強くなれ!」のワンフレーズに圧倒的説得力が込められた、入魂のギターソロもろともドラマティックなメロディックスピードメタル。ラストは、今はもういない人への惜別の情を歌った63rdシングル曲にして、8分を越える圧巻のシンフォニック・ロック大曲"GLORIOUS"で堂々たるエンディングを迎えます。これまでの総決算のようでいて、なおも前に進もうという気概を感じさせる仕上がり。三位一体にして唯一無二のロックバンド、それがTHE ALFEEだということを改めて感じさせてくれる快作だと言いたいです。





THE ALFEE『ARCADIA』(1990)
THE ALFEE『夢幻の果てに』 『LIVE IN PROGRESS』(1995)
THE ALFEE『Nouvelle Vague』(1998)
THE ALFEE『新世界 ― Neo Universe ―』(2010)

Progressive Side of THE ALFEE
バンドのプログレサイドを追求したエントリ