2015年12月31日木曜日

2015年を振り返る ― ベストアルバム20選

20曲選20冊選に続いて、毎年恒例のアルバム20選。ブログの移行作業と一緒にやっていたのでギリギリもいいところですが、以下になります。これにて2015年を収めます。


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▼6:33『Deadly Scenes』

Deadly Scenes
Deadly Scenes
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6:33
Kaotoxin (2015-06-09)
売り上げランキング: 341,060

いかがわしくも甘美な悪徳の味。フレンチ・アヴァンギャルド・ギャングが見舞う邪悪な一発
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/02/633deadly-scenes.html



▼岩崎太整『血界戦線 オリジナルサウンドトラック』

TVアニメ「血界戦線」オリジナル・サウンドトラック
岩崎太整
東宝 (2015-07-15)
売り上げランキング: 1,335


多種多彩多国籍なサウンドで追体験する〈ヘルサレムズ・ロット〉
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/07/BloodBlockadeBattlefrontOST.html



▼新垣隆、吉田隆一『N/Y』

N/Y
N/Y
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新垣隆 吉田隆一
APOLLO SOUNDS (2015-02-11)
売り上げランキング: 87,178


芳醇な音と自由な演奏が時に対比し、時に溶け合う、異色のピアノ&バリトンサックス・デュオ
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/02/ny2015.html



▼Arti & Mestieri『Universi Paralleli』

ウニヴェルシ・パラレリ
ウニヴェルシ・パラレリ
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アルティ・エ・メスティエリ
キングレコード (2015-06-24)
売り上げランキング: 78,811


極上の地中海プログレッシヴ・フュージョンに浸る、約十年ぶりの新作
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/07/arti-mestieri-universi-paralleli.html



▼BAROCK PROJECT『Skyline』

地平線(スペシャル・ダブルCDエディション)
バロック・プロジェクト
ベル・アンティーク (2015-07-25)
売り上げランキング: 17,684


さらなる進化を遂げた気鋭のイタリアン・バンドが、最大級の自信をもって放つ会心作
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/06/barockproject-skyline.html



▼峰岸透、藤井志帆『Splatoon O.S.T -Splatune-』

Splatoon ORIGINAL SOUNDTRACK -Splatune-  (デジタルミュージックキャンペーン対象商品: 400円クーポン)
ゲーム・ミュージック 竹内浩明 keity.pop 菊間まり
株式会社KADOKAWA (2015-10-21)
売り上げランキング: 53


噛むほどに味が出る、イカ世界のスルメ盤
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/11/splatoonOST.html


▼金屬惠比須『ハリガネムシ』

ハリガネムシ
ハリガネムシ
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金属恵比須
Ryouki-World Records (2015-02-11)
売り上げランキング: 19,525


猟奇・幻想・怪奇プログレッシヴ・ロック・バンドによる、十年ぶりの完全犯罪
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/02/KEhariganemushi.html



▼Earthside『A Dream In Static』

A Dream in Static
A Dream in Static
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Bushwhack LLC (2015-10-23)
売り上げランキング: 8,668


圧巻のシネマティック・プログレッシヴ・メタル・サウンド
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/10/earthside-dream-in-static.html



▼悠木碧『イシュメル』

イシュメル(初回限定盤)(DVD付)
悠木碧
FlyingDog (2015-02-11)
売り上げランキング: 33,461


迷い込み、翻弄されるという至福。異なる二つの世界を繋いだ珠玉の幻想曲集
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/02/y-aoiishmael.html



▼John Carpenter『Lost Themes』

Lost Themes
Lost Themes
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John Carpenter
Sacred Bones (2015-02-03)
売り上げランキング: 47,977


コンポーザーとしてのジョン・カーペンターのエッセンスを凝縮
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/03/john-carpenterl2015.html



▼筋肉少女帯『おまけのいちにち(闘いの日々)』

おまけのいちにち(闘いの日々)
筋肉少女帯
徳間ジャパンコミュニケーションズ (2015-10-07)
売り上げランキング: 50,764


今の筋少なりの「原点回帰」
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/10/kingshow-OMAKE.html


▼Lonely Robot『Please Come Home』

Please Come Home
Please Come Home
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Lonely Robot
Imports (2015-03-03)
売り上げランキング: 146,011


現代英国プログレ・シーンのワーカホリックな才人 ジョン・ミッチェルの新プロジェクト
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/03/lonely-robot2015.html


▼『ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン 忍 / 殺』

ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン「忍」
大沢伸一 Boris Melt-Banana THE PINBALLS 8otto 6EYES ELECTRIC EEL SHOCK
キングレコード (2015-07-22)
売り上げランキング: 4,242

ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン「殺」
Drop's 赤い公園 TK from 凛として時雨 GEEKS MINE taffy SCAMCIRCLE 人間椅子 MOJA memento森 Lillies and Remains Sawagi ギターウルフ Boris 大沢伸一
キングレコード (2015-11-25)
売り上げランキング: 15,474


ニンジャが演って殺す! ワザマエでポエットなコンピレーション
http://camelletgo.blogspot.com/2015/08/ninsatsu-nin.html
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/12/ninsatsu-satsu.html



▼TOTO『TOTO XIV』

TOTO XIV~聖剣の絆 [Blu-spec CD2]
TOTO
キングレコード (2015-03-18)
売り上げランキング: 844


現在進行形のパフォーマンスで、AOR/プログレッシヴ・ハード・ロックの矜持も改めて示した入魂の傑作
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/03/toto-xiv.html



▼Tigran Hamasyan『Mockroot』

モックルート
モックルート
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ティグラン・ハマシアン
ワーナーミュージック・ジャパン (2015-04-08)
売り上げランキング: 157,318


先鋭と洗練、そして郷愁のハイブリッド・ジャズ。アルメニアの奇才ジャズ・ピアニストの第六作
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/02/hamasyan-mockroot.html



▼Panzerballett『Breaking Brain』

Breaking Brain
Breaking Brain
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Panzerballett
Soulfood (2016-01-22)
売り上げランキング: 48,311


ドイツ産重量級バカテクメタリックジャズ炸裂弾
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/11/PPbreaking.html



▼Mitch Murder 他
『Kung Fury: Original Motion Picture Soundtrack』



カンフーパワーとシンセサイザーの素晴らしきマッチング
http://camelletgo.blogspot.jp/2015/05/kungfuryOST.html



▼工藤吉三&ベイシスケイプ
『メタルサーガ~荒野の箱舟 オリジナルサウンドトラック』

メタルサーガ~荒野の方舟~オリジナル・サウンドトラック
ゲーム・ミュージック
ベイシスケイプ レコーズ (2015-11-25)
売り上げランキング: 32,278

硝煙と鋼鉄の匂い立ちこめる、ストリングスとハードエッジサウンドのミクスチャー
http://camelletgo.blogspot.jp/2016/01/metalsaga-kouya-no-hakobuneOST.html


▼アーバンギャルド『昭和九十年』

昭和九十年(通常盤)
昭和九十年(通常盤)
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アーバンギャルド
株式会社KADOKAWA (2015-12-09)
売り上げランキング: 6,616

過去と現在のパラレルな二重映し。「言葉を殺させない」決意のコンセプトアルバム
http://camelletgo.blogspot.com/2016/01/urbangarde2015.html


▼THE ALFEE『三位一体』

三位一体(通常盤)
三位一体(通常盤)
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THE ALFEE
ユニバーサル ミュージック (2015-12-23)
売り上げランキング: 377

三者三様のヴォーカル、三位一体のハーモニー、今なお歩み続ける最強のロック・トリオ
http://camelletgo.blogspot.com/2016/01/the-alfee-trinity-2015.html


【+α(再発リリースなどもふくむ)】

Shnabubula『SNESology Special Edition』 (再リリース)
深町純『エイリアン魔獣境』 (再発/初CD化)
Aaron Clift Experiment『Outer Light, Inner Darkness』
maigoishi『Dystopia』
Sound Struggle『Rise』
Kurt Stenzel『Jodorowsky's Dune OST』
京浜兄弟社『21世紀の京浜兄弟者』 (BOXセット)
ASTURIAS『欠落 ― Missing Pieces of My Life』
北山真 with 真○日『冷凍睡眠 COLD SLEEP』
光田康典&Millennial Fair
『クロノ・トリガー&クロノ・クロス アレンジアルバム ハルカナルトキノカナタへ』


【当ブログ過去の年間ベスト記事】
2007  ▼2010  ▼2012  ▼2014

2015年12月27日日曜日

2015年を振り返る ― 忘れがたい本 約20冊+α

 2015年、個人的に印象に残った本20冊+αを選びました。ソローキンの三部作の邦訳刊行、手斧作家エリザーロフの邦訳刊行、十数年ぶりに復刊を果たした『亡命ロシア料理』と、今年の自分は割とロシアづいた感があるなという印象。


▼パオロ・バチガルピ『神の水』

神の水 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
パオロ・バチガルピ
早川書房
売り上げランキング: 28,472

 今年、自分のなかで一番株が上がった作家を挙げるとするならば、まず間違いなくバチガルピになる。荒涼とした近未来スリラー、かつ、エンタメ。バチガルピ自身のストーリーテリング能力が抜群に向上していて驚かされるとともに、短篇「タマリスク・ハンター」からよくここまでエンタメ方向に話を膨らませたなという感慨もあった。主要キャラ三人ともしっかり主人公してて魅力的なのもいい。『シップブレイカー』はヤングアダルト向けに書かれたものだから、まだいくらか手心があったけど、『神の水』は本当にもう容赦がない。アメリカが昔から頭を悩ませている水利権問題の深刻化を近未来の絶望的な風景としてイヤになるくらい描いてるし、その上でエンタメとしての引きをガッツリ仕込んである。もちろん荒廃と汚さの描写の冴えはいつものバチガルピ。アメリカが血と汗と小便と砂の匂いの混じった神亡き地と化している。個人的に『ねじまき少女』には未だにチューニングが合わないのだけど、これは世界観といいストーリーといいど真ん中で噛み合っていて、熱く語りたくなるものがある。あと、「フルーテッド・ガールズ」ばり、とまではいかないけど、それに近いような恍惚混濁な絡みのシーンがちょっとだけあって、この志向はバチガルピおじさんのカルマか何かがそうさせてんのかなと思ったりした。それがまたイイ。ちなみに、本書の種本となったマーク・ライスナーの『砂漠のキャデラック』も面白いです。大雑把に言ってしまえば、アメリカの河川の成り立ち、水利権をめぐる仁義なき官僚パワーゲーム、そしてダム建設事業の理想と破綻がガッツリ書いてあって、まさに情報量の洪水。



▼パトリック・デウィット『みんなバーに帰る』

みんなバーに帰る
みんなバーに帰る
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パトリック・デウィット
東京創元社
売り上げランキング: 236,397

 最悪の堕落小説であり最高のダメ人間小説。主人公のバーテンダーも、バーにやってくる常連客も、酒やクスリにドップリで、全員ロクデナシの最低野郎ども。そんな輩の狂騒と痴態が最後の最後までゲロのように吐き出されており、活字からツーンと匂ってくる。『シスターズ・ブラザーズ』もロクでもなくそして楽しい話だったが、処女作の方もこんなにロクでもなかったのかという思い。でもこっちの方が個人的に肌に合った。咀嚼しないで吐いてる感じがねえ、たまらんのですわ。



▼藤田和日郎『黒博物館 ゴースト アンド レディ』

黒博物館 ゴースト アンド レディ 上 (モーニング KC)
藤田 和日郎
講談社 (2015-07-23)
売り上げランキング: 3,673

黒博物館 ゴースト アンド レディ 下 (モーニング KC)
藤田 和日郎
講談社 (2015-07-23)
売り上げランキング: 3,026

 ナイチンゲールが辿った史実の激動の流れを軸に、ゴーストストーリーと剣戟アクションが融合。そしてシェイクスピア作品からの引用が、ダメ押しとばかりに殺し文句としてキマる。この上なく鮮やかで粋な伝奇ロマン。ラストまで目が離せなくなる鮮やかなストーリーテラーぶりもさることながら、慈愛と狂気を孕んだヒロインとして描かれるナイチンゲールのキャラクターの凄まじさに揺さぶられてしまう。フジタカおじさんの凄みに完膚なきまでにやられてしまった。「絶望」の瞬間を望むグレイと、「絶望」からかけ離れた強さで突き進むナイチンゲールのふたりの関係性に、『うしおととら』のコンビの関係性の変奏を聴く人も多いのではないかと思う。あのラストシーンには万雷の拍手を送りたい。 もはや上下巻という構成すら粋に感じてしまう、全身全霊をもってオススメしたい「二冊」。



▼ニック・ハーカウェイ『エンジェルメイカー』

エンジェルメイカー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ニック ハーカウェイ Nick Harkaway
早川書房
売り上げランキング: 68,162

  「とんでもなく面白い小説」とカギカッコ付きで言いたくなる一冊。たっぷり大容量でひたすらに饒舌なので読む方も莫大なエネルギーを使うのだけど、満足感は破格。そのうえ、再読、再々読させるパワーもある。押し流されそうなほどに雑多な要素はやはり健在なれど、『世界が終わってしまったあとの世界で』以上に活劇小説的な度合いが増してるぶん、より「チューニングが合った」感があった。ギャングの大物を父に持つしがない時計職人の主人公ジョーと、かつて凄腕女スパイとして世界を駆け巡った老女イーディー・バニスターの物語が展開され、二つが交わったとき物語は大きく動き出し、一大ピカレスクロマンの様相を成していく。ババアが強い作品にハズレはないのだけれども、ジョーの覚醒ぶりと終盤での立ち回りもまた、血沸き、肉躍る。ストーリーにグイグイと引っ張られ続ける愉しさを堪能させられた。著者のニック・ハーカウェイはスパイ小説の大家 ジョン・ル・カレの息子。心なしか、本作におけるジョーと父マシューの関係とダブってくるのだけれども、彼もまた、自分の物語を紡ぎ出す素晴らしいエンターテイナーなのは間違いなく、次の作品が楽しみでならないですよ。



▼平山夢明『デブを捨てに』

デブを捨てに
デブを捨てに
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平山 夢明
文藝春秋
売り上げランキング: 12,240

 ちょっといい話のようでやっぱりロクでもなく、従来作ほどエグくはないけどそれでも掃き溜めゴッソリすくい取りのイヤンな味たっぷりの中短編集。ヤクの売人である父と子のワケありな物語「いんちき小僧」。取材した大家族のムチャクチャで異常極まる顛末を描いた「マミーボコボコ」。ハゲでブスのヘルス嬢との出会いの思い出を語る「顔が不自由で素敵な売女」(「その女は頭(ず)が禿(は)げていた。」という冒頭の語り出しが可笑みと凄みを孕んだ強烈さ)。そして借金のカタとして遠方に「デブ」を捨てに行くハメになる男とすさまじい巨躯を誇るデブ女との珍道中と奇妙な交感を描いた表題作の、血ヘドにまみれながらもそれでいてしっかりロードムービーしている感ときたらたまらない。ペーパーバックを意識した本の造りがまたとてもいい。



▼ウラジーミル・ソローキン〈氷〉 (『氷』&『ブロの道』)

氷: 氷三部作2 (氷三部作 2)
ウラジーミル ソローキン
河出書房新社
売り上げランキング: 465,503

ブロの道: 氷三部作1 (氷三部作 1)
ウラジーミル ソローキン
河出書房新社
売り上げランキング: 41,841

 〈氷〉三部作の第二部と第一部。どちらもガツンとカマしてくれる。『氷』では「ヤク中の彼が風呂場に水を張って栓を抜いた状態でキンタマを排水口に吸い込ませて共産主義について考えながらオナるのが好きなの」みたいなことを彼女がこぼすクッソどうでもいいくだりがあるのだけど、そういうのをブッ込んでくるソローキンおじさん、もう狂おしいほど好きだぜ。筒井康隆の「陰悩録」もかくやだぜ。『ブロの道』はいわゆる「エピソード・ゼロ」的な話で、《氷》のオリジネイターである一人の男の生い立ちがじっくり語られるのだけども、ツングース隕石との邂逅で《氷》に目覚めて以後はもうラストまで熱狂的爆走の一言。心臓(こころ)目覚めた兄弟たちと愚かな「肉機械」共の血風録であり、気がつけば読んでいるこちらの眼前も異形と化していた。つまるところ「ブロの道」は突如として心臓(こころ)がぴょんぴょんした始祖の男が《氷》のパワーで人々の心臓(こころ)をぴょんぴょんさせてゆく物語です。血まみれだがな! 



▼深緑野分『戦場のコックたち』

戦場のコックたち
戦場のコックたち
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深緑 野分
東京創元社
売り上げランキング: 4,120

 一気読み不可避の力作。ノルマンディー降下作戦から終戦に至るまでの若きコック兵たちの戦場と隣り合わせの日常とミステリを描いた群像劇。デビュー中短編集『オーブランの少女』での描写やプロットの凝りように舌を巻かされたのだけれども、書き下ろし初長編となる本作で戦争モノと日常の謎を噛み合わせるという難事をやってのけており、また驚かされた。章が進むにつれて重みが増していく構成も巧く、数編の連作としても一本の長編としても読める。キャラクターの造型もいいし、だからこそエピローグもじんわりと効いてくる。



▼トレヴェニアン『パールストリートのクレイジー女たち』

パールストリートのクレイジー女たち
トレヴェニアン
ホーム社
売り上げランキング: 60,548

 刊行作品がことごとくベストセラーになりながらも、長いあいだ謎の多い作家として知られていたトレヴェニアンが生前最後に刊行した長編小説。第二次世界大戦時のアメリカのスラムストリートに引っ越してきた 主人公の「ぼく」と母と妹の生活を活写した、味のある半自伝的な話。日常の小さなエピソードの連続なのだけれども、「ぼく」の周りを通り過ぎていくのっぴきならない人々の息づかいやストリートの喧騒などが鮮やかなディティールをもって目に浮かび上がってくる。山岳スリラー、真摯な日本観を交えた冒険活劇、 恋愛サスペンス、西部劇、警察小説と、一つどころにとどまらなかった彼が最後にたどり着いたのが本書であるというところも、しみじみとしたものをおぼえるのです。



▼宮内悠介『エクソダス症候群』

エクソダス症候群 (創元日本SF叢書)
宮内 悠介
東京創元社
売り上げランキング: 135,408

 火星の人類学者ならぬ、火星の精神科医。火星開拓地における精神医療というテーマもあってか、淡々とした描写。エンタメを求めると肩透かしを食うだろうけど、ところどころでツボに引っかかってくるのある感じ、すごくいい。レポートというか問題提起を読み、現代・過去とのリンクの妙を見出すという感じ。ある種 J・G・バラード的趣向。数々のぺダントリーな知識や小ネタを楽しめるのであればなおさら。たとえば第四章のタイトルが「ランシールバグ」なのだけど、これはファミコン版ドラクエ3の有名なバグの通称と同名。いろいろ応用が利くうえにゲームバランスを大崩壊させる、まさに「世界そのものが不具合を起こす」超致命的なバグなのです。



▼鳥飼否宇『死と砂時計』

死と砂時計 (創元クライム・クラブ)
鳥飼 否宇
東京創元社
売り上げランキング: 146,461

 異国の地の閉鎖的な終末監獄内で繰り広げられる連作ミステリ短篇集。制限状況を逆手にとったトリックと逆説の数々は、じつに氏の持ち味が出た作品。「あれー、そっちに持っていっちゃうの!?」な真実とオチでそれまでのエピソードすらひっくり返してしまう、書き下ろしの最終話も私は好きですね。



▼アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集』


 『無関心な人々』『倦怠』といった長編のような、ゆるやかでアンニュイな人間模様を描く作家というイメージを持っていたのだけども、こういうヘンな味のある数々の短編もものしていたのかという驚きと嬉しさを噛み締めることができた。もちろん、氏の持ち味はこちらでも漂っている。セクシャルマイノリティーの寓話としても、バラではなくキャベツに恋したハナムグリのキュートな短編としてスルリっと入っていく表題作はもちろん、怪物“クルウールルル”の夢に引っ掻き回される島の人々のてんやわんやを描いた「夢に生きる島」や、謎の悪臭をめぐる人間模様をユーモラスかつ痛烈に描き出した「疫病」も好きだけど、とにかく「パパーロ」がたまらない。とにかく一度読んで御覧なさい、あなたもパパーロで頭がいっぱいになると思いますよ。パパーロとは何かって? いやそりゃあなた、パパーロですよ。



▼吉村萬壱『虚ろまんてぃっく』

虚ろまんてぃっく
虚ろまんてぃっく
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吉村 萬壱
文藝春秋
売り上げランキング: 215,649

 肉体の汚穢が超高密度で詰まった強烈猛臭短編集。読んでいてマジで気が狂いそうになるし、最低最悪の読書体験が約束される。逆説的に言うとぶっちぎりで最高であり、読む吐瀉物で読む毒物と形容したくなる一冊。さあ、キミも「家族ゼリー」を読んで、親父の育ったイボ痔を舐めよう。こちらの記事の吉村氏へのインタビューも必見です。“工事現場の簡易トイレで、蛆虫がびっしり、くみ取りのウンチの上に宝石のように輝いているのを見た時。――陽光がさしてキラキラ輝いていた。――概念的 に汚いとか臭いとか、思っているものでも、実はものすごく美しいんじゃないか。そのことに気づいて、これは書きたい、と思いました。”

「概念的に汚いとか臭いとか思っているものでも、実はものすごく美しいんじゃないか――吉村萬壱×若松英輔(前編)」
(from 「本の話」編集部|本の話WEB)



▼エステルハージ・ペーテル『女がいる』

女がいる (エクス・リブリス)
エステルハージ ペーテル
白水社
売り上げランキング: 206,639

 必ず「女がいる。僕を愛している/憎んでいる」の一節で始まる97の男女の断章。冒頭の一節からズームレンズのようにどんどん恋愛模様に接近していき、ときには肉体の、それこそ股間の栗の花やらチーズ臭さを感じさせるところまで接近する。そういった生々しさを意識の流れと共に感じさせつつ、全体的にはミニマリズムとユーモアに富んだショートショートとしても読める。反復的なあたりは、夢の断章をひたすら書き綴るバリー・ユアグローの作風にも近いと感じた。



▼ミハイル・エリザーロフ『図書館大戦争』

図書館大戦争
図書館大戦争
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ミハイル エリザーロフ
河出書房新社
売り上げランキング: 178,742

 ソローキンが氷のハンマーで覚醒さすなら、ワシは「本」で覚醒させちゃるけえのお、みたいな。ロシア版仁義なき戦い。老い先短いババアの一団がハイパー化し大暴れする序盤や、武装図書室の血みどろの戦いをテメエラその目に焼き付けろや! といわんばかりに目に飛び込んでくるのだけれども、読んでいくうちにだんだん闘争の血生臭さよりも加齢臭と死臭、そして閉塞感が強まっていき、ヴァイオレンス小説とは異なる色合いが出てくる。くわえて、主人公がじつに巻き込まれ流され体質なのもあって、終盤でみせる一連の展開にはもうかなり気が滅入ってくる。でも、これが本書のミソというか魅力だなと感じた。そもそもエリザーロフが本書を執筆したキッカケが「住んでいた村で週に三度漂ってくる屠殺場からの豚の死臭」だったというのだから、なるほどなという思いがした。



▼レミー・キルミスター『レミー・キルミスター自伝 ホワイト・ライン・フィーヴァー』

レミー・キルミスター自伝 ホワイト・ライン・フィーヴァー (Loft BOOKS)
レミー・キルミスター
ロフトブックス (2015-04-08)
売り上げランキング: 209,643

 ご存知モーターヘッドのレミーおじさんの自伝。読者が期待するようなクソッタレなエピソード満載で、面白すぎる。いいぞお。息子が家賃で困ってるというのでレミーが200ポンドをくれてやったら、後日、息子がやってきて一言「見てくれよ俺の新車!」。加えてレミーの女も寝取るドラ息子ぶり。しかし負けじと息子の彼女を寝取るという“お返し”をするレミー。曰く「まったく、親父と息子の両方と寝たがる女が世の中にどれだけいるか教えてやりたいぜ」



▼ピョートル・ワイリ/アレクサンドル・ゲニス『亡命ロシア料理〔新装版〕』


亡命ロシア料理
亡命ロシア料理
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未知谷
売り上げランキング: 212,513

 表紙の写真の写りはあまり美味しそうにみえないのだけれども、そこで尻込みしてはいけない。序盤からもうユーモアが効いていて「――日本人は魂が腹に宿っていると信じているのだ。だからこそ、ハラキリをして魂を外に解き放ってやるのだろう。自分の形而上的な本質を確かめるための、なんと苦しくも痛ましい方法であろうか。」ってな感じだからフフフってなる。ソ連からアメリカに亡命した身の上の著者から繰り出されるウィットとスパイスに富んだユーモアは、複雑な味わいとなって身に染みてくる。そして、アナタはきっと壺を買いたくなったりして困るハメになるだろう。料理用の壺を。『亡命ロシア料理』は壺を買わせる本でもあるのだ。



▼リチャード・パワーズ『オルフェオ』

オルフェオ
オルフェオ
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リチャード パワーズ
新潮社
売り上げランキング: 12,545

 微生物遺伝子に音楽を仕込もうとしたらバイオテロ扱いされて逃げるハメになる作曲家のお話。ストーリーは作曲家の現在と過去の二本の線が交互に進行し、そこで「普遍の音楽」とはなんぞやという追求が描かれていく。書き口もまさに重奏的。志向はもちろん異なるのだけど、パラニュークの『ララバイ』を思い起こしたりした。メシアン、アンスラックス、ライリー、ショスタコなどなど、100曲くらいいろいろな楽曲が出てくるわけだけども、巻末にはそれらをまとめたリストまで用意されている。タイトルは日本語と英語の両方の表記を併録。そういうところもありがたい。

“もしも私の曲があなた方を取り囲んでいたとしても、誰もそれに気が付かないだろう。億単位であらゆる場所に存在する、細胞の形をした歌たち。”

“文法はあるが、辞書はない。何かは分かるが、意味はない。差し迫ってはいるが、必要性はない。それが音楽と細胞の化学だ。”

“音楽は耳から流れ込む意識だ。そして、意識ほど恐ろしいものはない”



▼ロバート・クーヴァー『ユニヴァーサル野球協会』

ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス)
ロバート クーヴァー
白水社
売り上げランキング: 89,146

 虚構と現実の境が曖昧になる話というのは今ではそう珍しくはないものなのだけど、本作が書かれたのが60年代末ということを考えると、静かな感銘をおぼえる。主人公は仕事以外の時間を脳内で開催中のプロ野球リーグに延々と費やしていて、そこでは選手から環境まで精緻に設定され、膨大な情報量で成り立っている。でも、ある日の試合中に看板選手が死んでしまったばかりに、彼の現実が支障をきたしだす……。個人的には放送が終わってしまった日常系アニメの続きを己の脳内で延々と観続ける「難民」に通じるものがあると思ったりした。ゆゆ式は十数クール目が絶賛放送中だし、キルミーベイベーはずっと生き続けるんだ。



▼デイヴ・トンプキンズ
『エレクトロ・ヴォイス 変声楽器ヴォコーダー/トークボックスの文化史』

エレクトロ・ヴォイス 変声楽器ヴォコーダー/トークボックスの文化史 (P-Vine Books)
デイヴ・トンプキンズ
スペースシャワーネットワーク
売り上げランキング: 525,164

 著者がヒップホップ系ライターということもあって、膨大な情報量が縦横に飛び交う楽しい語り口でグイグイ読ませる。かのソルジェニーツィンが特殊収容所にブチ込まれていたころに、スターリンの命でロシア製ヴォコーダーの開発に携わっていたということを知るなどする(そのときの体験は彼の著書『煉獄のなかで』に書かれている)。そういえば、テルミンの生みの親であるテルミンははレーニンを蘇生させようという計画を一時期考えていたとかいう話もあるみたいなので、直接的影響ではないとしてもロシアの土壌ゆえの思想的共通性は何かしらかあるんじゃないの的なことをふと思ったりした。



▼田中康夫『たまらなく、アーベイン』

たまらなく、アーベイン
たまらなく、アーベイン
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田中 康夫
河出書房新社
売り上げランキング: 76,655

 『なんとなく、クリスタル』が新装文庫化し、『33年後のなんとなく、クリスタル』まで出たと思ったら、こちらも30年目にして新装復刊した。活字で読むディスクジョッキーのしゃべりみたいな感じなので、正直ディスクガイドとして読むとまったく頭に入ってこないのだけども、80年代という時代の空気が切り取られた一冊として、ライフスタイルとして音楽を提示したAORディスクガイドとして、今、これを読むことの面白さみたいなものはある。あの当時に「アーバン」のことを「アーベイン」と言ってた時点で康夫おじさんはなんか越えてたものがあるな ということを菊地成孔おじさんが言っていたが、なんだかそういいたくなるのもわかる。



【+α】

▼町田康 訳「宇治拾遺物語」



 完全にマーチダさんのグルーヴィーうどん文体であり、死ぬほど笑ったし、軽く踊った。おほほ。愉快なこといってくれるやんけざますじゃんでございますわ。壮絶なほどのそそる色気のある最高にいい女、和泉式部を見た男は頭がおかしくなったりムチャクチャになるんだぜ? たとえば、カヴァーアルバムでアレンジャーが辣腕を発揮してやたらとグルーヴィーな編曲のシロモノに出会うことがたまにあるけど、マーチダさんは活字でそれをやってのけちゃうワケですよ。くほほ。宇治拾遺物語の「芋粥」は原典でもめちゃ好きな話なのだが、これがマーチダさんの訳になると倍率ドン、さらに倍な面白さ。

「え? 芋粥を飽きるほど食いてぇ? それマジ?」
「マジっす」
「よりによって芋粥かよ。滓みてぇな奴だな。あ、わりぃ、わりぃ。ごめんな、お客さん。滓とか言っちって」



▼「ユリイカ 2015年11月号 特集:梶浦由記」



 本人インタビューはもちろんのことながら、データ的にも考察的にもかなりの読み応え。特に飯田一史氏による「梶浦由記ヒストリア」は永久保存版といっていいほどに超高密度の情報の集積体で圧巻。すごいわ。梶浦さんの生い立ちから音楽的・文学的影響まで網羅されている。南米文学がお好きとは聞いていたけど、時代小説から幻想小説まで国内外問わず幅広い読書姿勢に驚嘆する。あとは、真下監督との「EAT-MAN」「NOIR」がキャリア的にも音楽的にも大きな転機だったのだなというのが改めてわかる。



▼原案:宮下あきら/作画:サイトウミチ「男塾外伝 紅!! 女塾」

男塾外伝 紅!! 女塾(1) (ニチブンコミックス)
宮下 あきら
日本文芸社 (2015-09-28)
売り上げランキング: 16,569


 女版「魁!! 男塾」という、一見して一発ネタ以外のなにものでもない感バリバリなのだけど、セルフパロディ的ヌルさとまごうことなき男塾のノリのミックス感が絶妙で、いろんな意味で忘れがたかったので。第三次世界大戦時に某国が放った“日本男児弱体化爆弾(男爆)”でDNA構造を強引に書き換えられた日本男児は奮闘虚しく「消滅」。十数年後、江田島平八は消えた日本男児に代わる屈強な「日本女子」による軍隊を編成するために女塾を創設――という設定、歴史改変モノの条件をバッチリ満たしていると思うのはわたくしだけでしょうか。


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  《タイトルだけでも挙げておきたい20冊》
こちらも印象深かったです。

●奥泉光『その言葉を/暴力の舟/三つ目の鯰』
●オラシオ『中央ヨーロッパ現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』
●グスタボ・マラホビッチ『ブエノスアイレスに消えた』
●沙村広明『波よ聞いてくれ』
●ジル・ブーランジェ『恐怖の詩学 ジョン・カーペンター 人間は悪魔にも聖人にもなるんだ』
●S・G・セミョーノヴァ/A・G・ガーチェヴァ『ロシアの宇宙精神』
●田中啓文『イルカは笑う』
●トニー・ヴァレント『ラディアン』
●トマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』
●中井英夫『ハネギウス一世の生活と意見』
●フィリップ・K・ディック『ティモシー・アーチャーの転生〔新訳版〕』
●ポール・マイヤーズ『トッド・ラングレンのスタジオ黄金狂時代 魔法使いの創作技術』
●ボリス・ヴィアン『ボリス・ヴィアンのジャズ入門』
●マーク・シャツカー『ステーキ! 世界一の牛肉を探す旅』
●松原圭吾『ファミコン攻略本ミュージアム1000』
●皆川博子『トマト・ゲーム』
●山口正人『龍の進撃』
●リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』
●ロバート・E・ハワード『失われた者たちの谷~ハワード怪奇傑作集』
●ロベルト・サヴィアーノ『コカイン ゼロゼロゼロ 世界を支配する凶悪な欲望』

2015年12月25日金曜日

2015年を振り返る ― 個人的20曲選

まずはベストアルバム二十選とは別に、曲単位で印象に残ったものを20曲挙げるという趣旨で毎年やっておるのですよ。今年もやるのです。


▼Stig「Velocity, part one」


イングランドのコンポーザーがロシアのチップチューンレーベル「Ubiktune」からリリースした全二曲の大作アルバム『Velocity』より、前半パート。エレクトロ/アンビエント、ミニマル・ミュージック、プログレッシヴ・ロック、ゲーム・ミュージック、フュージョンがバランスよく溶け込み、入れかわり立ちかわりで高揚感をもたらしてくれます。



▼Moonfall 「Verglas」


骨の髄まで日本のヴィジュアル系にどっぷり浸かった、ニューヨークのエモいプログレッシヴ・メタル・トリオのデビューEPからの一曲。この憧れとガムシャラさが一体になったようなクッソエモいミクスチャーサウンドはすげえ忘れ難いものがある。あまりにもクサ過ぎるギターソロで全てが収束した感もある。ちょっと今後が楽しみではありませんか。



▼サテライトヤング 「Dividual Heart」


折からのシンセウェイヴブームにも呼応しつつ、80年代アイドル歌謡からの影響を強く反映させたエレクトロ・ポップを展開する日本のユニットの5thシングル曲。エレクトロ歌謡は時空を越える。



▼Sithu Aye「Senpai, Please Notice Me! (先輩、私に気付いて下さい!) 」


スコットランドが誇るハイパーオタクギタリスト Sithu AyeがSenpaiへの愛と友情のパワーをしたためてリリースした3曲入りコンセプトEP『Senpai EP』は非常にリピータビリティの高い好作でした。Sithu AyeパイセンはTwitterやインタビューでProg-chanの設定を垂れ流し続けているのですが、みていて心底楽しそうです。根っからの設定おじさんだなと、微笑ましく思いました。これが愛と友情のパワーの成せる業ですよ。



▼group_inou「EYE」


今年はやたらとgroup_inouを聴いていた。終盤の「できない気がしていた できると思っていた」の「思 っ て い た」のワンフレーズのみ渾身のシャウトをぶっこんでくる瞬間湯沸し行為、激エモすぎる。PVもまた素晴らしい。



▼Ghost「Cirice」


パパ・エメリトゥスII世からIII世に交代、バックバンドのネームレス・グールの面々もろとも大幅イメチェンを図ったスウェーデンの教皇ポップメタルバンドの新作アルバム『Meliora』から。ドゥームポップと思わせておいて泣きのソロが繰り出されるという、じつに慈悲深い流れ。



▼五五七二三二〇「ポンパラ ペコルナ パピヨッタ」


ココナッツサブレ50周年記念企画ユニットにして、私立恵比寿中学の覆面ユニットの2ndデジタルシングル曲。前回はマスロック調だったけど、今回は菅野よう子作編曲でQUEENやらMEATLOAFばりのハデハデなプログレッシヴ・ハード・ロックをブチかましていた。演奏メンバーがKenKen(b)、 青山英樹(ds)、今堀恒雄(g)の練達の面々をガッツリ揃えていてなおさら笑いが止まらない。



▼アースシェイカー「夕星の芒野と消ゆ」


アースシェイカーの今年リリースのアルバム『BIRD』の収録曲であり、「GITADORA Tri-Boost」への提供曲であり、作詞:あさき/作曲:96(黒沢ダイスケ)のコラボレーション曲。ストロングスタイルのプログレッシヴ・ハード・ロック・チューンですよ。



▼Armonite「Insert Coin」


今年、16年ぶりに復活を果たした、多国籍ヴァイオリン・プログレッシヴ・ロック・バンド Armonite。切れ味と柔軟性を兼ね備えたユニークな復活作となった『The Sun is New each Day』に収録されているこの曲は、スウェーデンのチップチューナー Goto80がゲスト参加したプログレ×チップチューン。“ゲームソフトの歴史”的な趣のPVもつくられているのだけれども、ソフトのチョイスにちょくちょく趣味が入っている感じ。



▼Pope Francis 「Wake Up! Go Go Forward」


 第266代ローマ教皇フランシスによる初のロック/ポップスアルバム『Wake Up!』の先行トラック。もはやプログレだと思っていたら作編曲でLE ORMEの元メンバーが関与していた。“Pope is Pop”



▼Loszeal「Freak Outsider」


演劇実験室◎万有引力の演者を擁するプログレッシヴ・メタル・バンド LOSZEAL。骨のあるサウンドと存在感抜群のヴォーカル、申し分のない存在感です。




▼THE PINBALLS「劇場支配人のテーマ」


「ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン」とのタイアップも果たした一曲。「アイエエエエ!!」のシャウトも飛び出すストレートなガレージ・ロックンロール。寂れた劇場の人々をテーマとした詞から滲み出る「もう後に退けない焦燥感」が素晴らしく、これがまた忍殺世界との絶妙なマッチングをみせています。



▼CONFRONTATIONAL「To Live And Die On The Air (Feat. Cody Carpenter) 」

イタリアのインダストリアル/ノイズ・バンド Recs of the fleshのマッシモ・ウザイ率いるエレクトロ・ユニット。甘口のメロディーとミステリアスなムードが支配する初期MINISTRYばりのニューロマンティックチューンを得意とする。この曲はジョン・カーペンターの息子にして右腕的存在のコディとのコラボレーション曲。



▼Jono El Grande「Bach's Beach」


ノルウェーの奇才ギタリスト ジョノ・エル・グランデ。軽々とジャンルを越境するユーモラス極まるジャズロックサウンドで、シレっととんでもないところに足を踏み入れてしまうしたたかさというか、ナチュラルボーンで狂ってる感が最高なのです。陳腐化した定型句だけど「おもちゃ箱をぶちまけた様な」という形容は、この人の作風に対してはかなりしっくりハマる。



▼Native Construct「The Spark of the Archon」


「過剰」と「洗練」を併せ持った、気鋭と呼ぶにふさわしいボストンの新人バンド。オーケストレーション全開のシンフォニックな曲調のなかで思いっきりブラストビートをかます展開に度肝を抜かれる。あとは一刻も早くバンドメンバーが揃ってほしいところ。



▼Neo Resistance Quartetto 「ロッキーメドレー」


才気あふれるガテン系ピアニストの天平氏、ドラマーの山本真央樹氏、ヴァイオリニストのYuiさん、チェリストの村中俊之氏擁するクロスオーヴァー・インストゥルメンタル・バンド Neo Resistance Quartettoによる華麗なるロッキーメドレー。「ロッキーIV」の"War"と"Training Montage"が組み込まれているのも嬉しい。バツグンの強度を誇るインストバンドであり、今後アルバムもリリースされる予定なので非常に楽しみです。
http://www.neoresistance.net/



▼David Hasselhoff「True Survivor」


スウェーデン発サイバーカンフーアクションムービー「Kung Fury」のテーマソング。本編もろとも徹底した80'sアレンジに、ハッセルホフおじさんの美声がこだまする。ちなみに彼はいま80年代路線の新曲やカヴァー含む新コンピレーションアルバムのクラウドファウンディングを開始。デジタル/CD版の各プレオーダーを受付中。



▼ELDRITCH 「Danger Zone」


キャリア20年を越えるイタリアのプログレッシヴメタルバンドの通産10thアルバムより。ギッシリと詰まった音のなかでキャッチー極まるサビが光るシブいキラーチューン。まさに鍛え上げられたバンドならではの「Prog Power」の理想を体現したような一曲だと思いますよホントに。



▼GOBLIN REBIRTH「Back In 74」

GOBLINのリズム隊 ファビオ・ピニャテッリとアゴスティノ・マランゴロを擁するGOBLINスピンアウトバンド。本家のサウンドをもちろん意識しつつも、軽い足回りが魅力。ちなみに、本家GOBLIN、クラウディオ・シモネッティ主導のGOBLIN、ピニャテッリとマランゴロのGOBLIN REBIRTH、さらに前身バンドであるCHERRY FIVEが四十年ぶりに復活したので、GOBLINはいま四形態が並行して存在している。クソッ、なんて時代だ!



▼筋肉少女帯人間椅子「地獄のアロハ」


「君は千手観音」以来となるエクスペンダブルズ的コラボレーション。PVはTAB譜付き。カップリングの“ダイナマイト”筋肉少女帯版カヴァーと“少年、グリグリメガネを拾う"人間椅子版カヴァーもよかった。予定調和という以上に業が深くて笑ってしまう。

2015年12月22日火曜日

ハートフルな歌心が包む、アルゼンチンのピアニスト率いる新鋭プログレバンド ― Escalera『Días sin años』(2015)




 2013年に中心に結成された、アルゼンチン・ブエノスアイレスの四人組プログレッシヴ・ロック・バンド Escaleraのデビューアルバム。ふと耳にしたバンドなのですが、これがすごく琴線に触れるサウンドなのです。バンドのフロントマンであるヴォーカル/ピアニストのマルティニアーノ・タノーニは音楽院で作曲を学び、これまでに二枚のソロアルバムをリリースしているほか、MartiNayandoというアコースティック・フォーク・デュオでも活動中。室内楽の作曲のほか、同国の作家フリオ・コルタサルにオマージュを捧げたショートフィルムへ楽曲を提供するなど、多岐に渡る活動を展開している気鋭のコンポーザーにしてプレイヤーでもあります。

 チャーリー・ガルシアやルイス・アルベルト・スピネッタ、アタウアルパ・ユパンキといった本国のカリスマや、ブラームス、ドビュッシー、ビル・エヴァンス、そしていわゆるプログレ五大バンドなどから影響を受けたという彼の紡ぎ出すサウンドは、ハートフルな歌心に満ちたAORプログレといえるもの。ストリングスを交えての柔らかなバンドアンサンブルとヴォーカルで包みこむような"Aunque el mundo gire" "No dejo de escucharte"や、アコースティカルな小品"Medianoche" "Mañana"でじっくりと聴かせる一方、"Grito""Lamento" "Ansiedad"ではピアノを交えてのダイナミックなハード・ポップを、"Ultima hora"では演歌調の泣きをたっぷりとを展開。ソフトからハードまで対応したバンドのスタイルもまた、たまらないものがあります。メンバー全員がコーラスをとるバンドであるのも強みです。ソロのピアノとアカペラのみで鮮やかなイメージを描き出す"Días que vendrán"は、本作でも印象深い一曲。人懐っこく寄り添うようなたたずまいには、アルゼンチンの名プログレバンド Pablo El Enterradorをそこはかとなく思い出したりもしました。

https://www.facebook.com/martiniano.tanoni
https://martinianotanoni.bandcamp.com/album/d-as-sin-a-os
https://www.youtube.com/user/martinianotanoni

2015年12月21日月曜日

「minecraft」のコンポーザーの4年半ぶりとなるオリジナルエレクトロアルバム ― C418『148』(2015)




 ドイツのゲームミュージック・コンポーザー/サウンドデザイナー ダニエル・ローゼンフェルトことC418は、Mojang AB開発の大ヒットサンドボックスゲーム「minecraft」のアンビエントな楽曲群を手がけたことでつとに知られる人物。2011年と2013年に公式サウンドトラック第一弾『Minecraft - Volume Alpha』、第二弾『Minecraft - Volume Beta』がそれぞれリリース。今年8月にはアメリカのエレクトロミュージック系レーベルGhostly InternationalからサントラがLPでリイシューされるなど、今なお衰えぬ人気を誇っています。また、2014年9月にはC418のbandcampアカウントに「0x10c」なるタイトルの二曲のピアノトロニカ小曲があがったのですが、これは「Minecraft」の開発者マルクス・ペルソンによって企画されたものの、開発中止になった同名ゲームのサントラに使用されるはずだった楽曲でありました。




 貧弱なサウンドエンジンと四苦八苦しながら制作された「minecraft」の楽曲ではブライアン・イーノやスティーヴ・ライヒ、エリック・サティ、坂本龍一などからの影響を感じさせるものがありますが、C418の音楽的原体験や強い薫陶を受けたのはAphex TwinやClarkといったエレクトロ・ミュージシャンたちのようです。サーバのフォルダに埋もれていた七年分のトラックからのセレクションアルバム『Seven Years Of Server Data』以降、ゲームサントラ以外でのリリースがなかったのですが、さる12月18日付で突如としてアルバムがリリースされました。それが本作『148』です。2011年から2015年にかけて制作されたエレクトロニカ/ミニマル楽曲を一挙収録しており、総収録時間100分を越えるかなりのヴォリュームになっています。「minecraft」で得た成功の反面、オリジナル曲の制作においてはいくらかの葛藤もあり、また数年もの時間を経てアルバムに対する情熱が減じ、当人にとってさして重要なものではなくなってしまったようなのですが、区切りをつけるという意味合いでリリースに踏み切ったのでしょう。また、本作には4人のアーティストとのコラボレーション曲も併録されています。カリフォルニアのチップチューン コンポーザー Disasterpeaceとのシューゲイザー・インスト"Kompass"は。京都のコンポーザー/デザイナー Baiyonとの10分に及ぶトラック"185"。「Borderlands 2」「There Came an Echo」などのコンポーザーであるBig Giant Circlesとの"Jimtension"。また、「Plants vs. Zombies」のコンポーザーであり、先ごろ光田康典氏の「クロノトリガー」「クロノクロス」アレンジアルバム『ハルカナルトキノカナタヘ』にも参加したLaura Shigiharaとの"Tsuki no Koibumi 2"は、「minecraft」の開発を追ったドキュメンタリー「Minecraft: The Story of Mojang」(2012)に使用された日本語ヴォーカル曲"Tukino no Koibumi"のリメイクです。

Minecraft's Composer Explains Why the Music Is 'So Weird'
(from MOTHERBOARD | 2015.06.29)

インタビュー:『Minecraft』コンポーザーC418 ~大ヒットゲーム『Minecraft』のサウンドトラックを制作したドイツ人アーティストを紹介
(from Red Bull Music Academy)

How Daniel Rosenfeld wrote Minecraft's music
(from The Guardian | 2014.11.07)

http://c418.org/
https://www.facebook.com/CFour18
http://vgmdb.net/artist/10292

2015年12月20日日曜日

ヌッチリと音とリリックの詰まった、病みつきアヴァン・ヒップポップ・デュオ ― Ontologics『Drones from Home』(2015)



 アメリカ・ロードアイランドを拠点に活動する Ontologicsは、シンガーソングライター&マルチインスト奏者のイアン・カンポピアノと、ドラマーのマシュー・ウォルシュの二人によるマルチ・デュオ。活動歴は長く、2000年代初頭にはプログレッシヴ・ロック・バンド Moments of Imaginationのメンバーとして活動を行っていたとのこと。同バンドは2003年に3曲入りEP『Lakeffect』をリリースし、続くフルアルバムの制作も構想していたものの、それは果たせなかったようです。その後、数年のインターバルを経て、2010年に3曲入りデモEP『Part 1』を、2013年の末に1stフルアルバム『Something to Needle Over』をリリースし、Ontologicsとして再出発を果たすことになります。一方で、MOI時代の縁は続いているようで、バンドの元ベーシストであったスティーヴ・ジョンソンはレコーディングで一部参加しています。



 本作『Drones from Home』は二作目のフルアルバム。ヒップホップをベースに、プログレッシヴ・ロック、ワールドミュージック、ジャズ、エレクトロをミックスしたOntologicsのサウンドは、デュオとは思えぬほどにヌッチリと音とリリックの詰まったユニークなアヴァン・ポップに仕上がっております。レゲエからストレンジ・ポップへと徐々に傾いでいく"Drones from Home"や、スペース・ロック調のインストゥルメンタル" Stretch Armstrong"、辛口スラッシュ・ポップ"A Wizard's Touch For All You Skeptics"など、病みつきになる明快さ。また、ミクスチャー・ロック・バンド 311(スリー・イレブン)のベーシスト P-Nutが"Primal Discourse"にスペシャルゲストとして参加しているのですが、彼とユニットにまつわるエピソードはなかなか面白いものがあります。過去にOntologicsは311のデモ曲"Go"をカヴァーして公開していたのですが、それをP-Nutが耳にし、いたく感激。彼らに触発されたことも一因となって"Go"がリ・レコーディングされ、311のアルバム『Stereolithic』(2014)に"Ebb and Flow"として収録されたのです。

「A Conversation with P-Nut of 311 and Wil-Dog of Ozomatli」 (from POPDOSE.com | 2014.02.27)



http://www.ontologicsmusic.com/
https://www.facebook.com/OfficialOntologics

2015年12月19日土曜日

端正な技巧で紡がれる、インドネシア気鋭のギタリスト ― Balum『Realization of Illusion』(2015)

 


 1988年生まれ、インドネシア・バンダン出身のギタリスト/プロデューサー バラムのデビューアルバム。12歳の頃より独学でギターを学び、イングヴェイ・マルムスティーン、スティーヴ・ヴァイ、スラッシュ、ポール・ビルバート、ジョー・サトリアーニ、マイケル・ロメオといったギターヒーローから強く影響を受ける。16歳の頃より作曲活動を開始、現在はギターインストラクターやジャカルタのブラス/ファンク・ロック・バンド Play-Matesのメンバーとしても活動中です(このバンドもかなりの実力派)。本作はセルフプロデュースによるインストゥルメンタル・アルバムで、演奏も数曲にベーシストを迎えている以外はすべてバラムのプレイによるもの。ドラムは打ち込みですが、そこをカヴァーして余りある端正なテクニックと耳あたりの良いサウンドで紡がれる粒揃いのネオクラシカル/フュージョン/プログレッシヴ・ハードロック曲が収められております。リリカルなメロディとそこに寄り添うようなギターソロが際立つ"Rain"や、ファンキーなビートと共にトリッキーにキメる"Universal Dance"が白眉。


http://balum-guitar.com/
https://www.facebook.com/balum.guitar
https://www.youtube.com/user/Balumonguitar