2015年11月15日日曜日

噛むほどに味が出る、イカ世界のスルメ盤 ― 峰岸透、藤井志帆『Splatoon O.S.T -Splatune-』(2015)

Splatoon ORIGINAL SOUNDTRACK -Splatune-  (デジタルミュージックキャンペーン対象商品: 400円クーポン)
ゲーム・ミュージック 竹内浩明 keity.pop 菊間まり
株式会社KADOKAWA (2015-10-21)
売り上げランキング: 39



 今年5月に発売されるや爆発的なヒットを記録した任天堂のWiiU用ソフト「スプラトゥーン」のサウンドトラック。BGMを手がけるのは、峰岸透氏、藤井志帆さんのお二人。峰岸氏は「ムジュラの仮面」以降のゼルダシリーズや、「Wii Fit」「スティールダイバー」などに共同作曲者で携わられており、本作ではメインコンポーザーとしてサウンドディレクターと兼任されております。一方の藤井さんは「Wii Fit」「New スーパーマリオブラザーズ」 「マリオカート8」などに共同作曲者として携わられてきた方です。サントラにはシオカラーズ、Squid Squad、ABXY、Hightide Era、OCTOTOOL、Cala Marley、DJ Lee F.、DJ Octavioといったイカ世界のバンド/アーティストによる楽曲をふくむ37曲の楽曲と、24のジングル・SEがCD二枚組にわたって収録されています。ライナーノーツも、さまざまなお楽しみ(後述)や、メインコンポーザーお二人のコメントが掲載された濃厚な内容。藤井さんは「“Splatoon”の世界には独自の文化や流行の音楽があり、ゲームで流れるBGMは「イカの世界で若者たちに聴かれている音楽」というイメージを持って制作しています」とコメントされています。

 また、これはファミ通.comが行ったスプラトゥーンサウンドチームへのインタビューで特に印象的に思ったところでもあるのですが、テンポの異なるさまざまな曲の断片が三つのスピーカーから別々に流れているハイカラシティの広場は「イカスツリーの下で鳴っているドッカンドッカンというリズムを中心に、拍がいつの間にかシンクロして聴こえてくるようにサウンドの仕組みを作っていまして、12曲がどのスピーカー、どの順番で流れても、まとまった大きな音の塊として聞こえてくるようになっています」とのこと「目の前の店で流れている音楽と、隣りの店で流れている音楽がいっしょになって聞こえてきて、テンポが妙にシンクロして、だんだんひとつの曲のように聞こえてくることがあって、おもしろかった」という峰岸氏の体験からヒントを得たそうで、さりげない趣向ながらこれは非常に秀逸だと思いました。サントラ収録の"広場"で、その「ミックス感」を追体験することができます。

 Squid SquadABXYHightide Eraは、少年ナイフやPOLYSICSを彷彿とさせるパンク/ニューウェイヴから、昨今のチップチューン・パンクやピアノエモにも接近したサウンドを展開する、いずれも印象的な造型のバンドです。ところでチップチューンパンクといえば、海外では2000年ごろから往年のゲームミュージックからの影響をパンク/ハードコアと融合させた「ニンテンドーコア(Nintendocore)」というジャンルがインディーズシーンで興り、その中からメジャーシーンへ躍り出るバンドも年々増えているのですが、「イカの世界で若者たちに聴かれている音楽」というスプラトゥーンのサウンドコンセプトは、十数年にわたり育まれ続けてきた向こうのシーンに図らずも呼応したような感もあります。そう考えると、なんだかちょっと感慨深いものがないでしょうか。





 ドライヴ感あふれるギター&ベースの上をワニャワニャしたヴォーカルとシンセがアオる"Splattack!"(Squid Squad)、(イカだけど)アジるようなヴォーカルパートにエッジとフックを効かせた"Metalopod"(Squid Squad)や、キュートなヴォーカルの爆走チップチューンパンク"Friend List"(ABXY)、軽快なピアノエモチューン"Sucker Punch"(Hightide Era)などのキラーチューンが満載です。ベース、シンセ、ドラム、ギターと徐々にパートが重なっていく"Splattack!"のジャムセッションヴァージョンを、段階を踏んでいくチュートリアルのBGMにアテたのも、演出意図としてもうまいなあと。一番最後には2014年のE3のプロモーション映像で流れたヴァージョンの"Splattack!"も収録されているのですが、歓声のSEやラフな合いの手など、ライヴ感のあるアレンジがまさにボーナストラックといった趣を醸し出しています。民謡歌手出身のアイドルユニットという秀逸な設定をもつシオカラーズ"シオカラ節"はキュートなエレクトロポップ。"シオカラ節"の「原曲」である、民謡調アレンジの"元祖正調塩辛節"もサントラには収録されています。"ハイカラシンカ" "キミ色に染めて"は延々と聴いていても飽きないスルメ曲。対照的に、OCTOTOOLは本サントラのダークホースとして一際ストレンジな存在感を放っております。ロシア・アヴァンギャルドとKRAFTWERKを足したようなオールドスクールなヴィジュアルイメージが愉快極まりないのですが、ミニマル、テクノポップ寄りのサウンドが奇妙な高揚をおぼえる、ツボなテイスト。タコツボ。淡々とあちこち引っかき回しているような"Eight-Legged Advance" "Tentacular Circus"も好きですが、アッパーに振れたお囃子ビート"Tacozones Rendezvous"もGOODなのです。そのOCTOTOOLのプロデューサーであるDJ Octavio"I am Octavio"は、"Eight-Legged Advance"のバリエーションといった趣向のアレンジ。そのほか、ブイヤベースのBGM"Lookin' Fresh"を手がけるDJ Lee F.(海外版ではDJ Lee Fish)は「Jellyfish(クラゲ)」にかけたものですし、マッチング待機時BGMであるレゲエチューン"Ika Jamaica"Cara Maraleyは偉大なるジャマイカのボブ・マーリーのパロディです。





 サントラのレコーディングメンバーについても触れないわけにはいきません。Squid Squadの楽曲には竹内浩明(vocal)、西川進(guitar)、芳賀義彦(guitar)、TABOKUN(bass)、恒岡章(drums)。ABXYやHightide Eraの楽曲には高慶“CO-K”卓史(guitar)、かどしゅんたろう(drums)といった面々が参加されております。西川進氏は膨大な数のアーティストのサポートを務めてきた歴戦のギタリストにして、コンポーザー/プロデューサーとしても精力的に活動するワーカホリックな御仁。氏のブリティッシュテイストのギタープレイは、なるほどSquid Squadのサウンドにも非常にマッチしています。芳賀義彦氏はaikoや嵐などのツアーサポート歴のあるギタリストで、西川氏が代表を務める「Smash Room」に現在所属。恒岡章氏はHi-STANDARDのドラマーとしてお馴染みですし、近年はチャットモンチーのメンバーでもありますね。TABOKUN(元The Space Funkool)や、高慶“CO-K”卓史氏、かどしゅんたろう氏(元Mr.Orange)も、多くのアーティストのツアーでサポートやバンドマスターを務められている、いずれも名うてのプレイヤーです。竹内浩明氏はテレビCMや映画の挿入歌などの活動や、ハロプロの楽曲のコーラスパートを長年務められているほか、最近では「ギルティクラウン」「輪るピングドラム」のサントラや、少女病やEGOISTなどのアルバムでもヴォーカルやコーラスでクレジットされています。シオカラーズのアオリのヴォイスを担当されたkeity.pop(百済友希)さんはヴォーカリスト/作詞作曲家にしてファッションモデルの顔も持つマルチなお方。また、ホタルのヴォイス担当である菊間まりさんは平井堅氏や戸松遥さんのライヴにコーラスとして参加されています。YouTubeの任天堂の公式アカウントがレコーディング風景の動画をアップしております。





 これはゲームサントラ全般に言えることですが、それでも特に任天堂作品のサウンドトラックはクオリティの高さに反して昔からプレミア化しやすい(「ドンキーコング」や「星のカービィ」などのサントラは今でも中古市場でン十万~ン万円という相場ですし)、または入手可能であっても経路がごく限られているというイメージがあります。最近でも、錚々たるミュージシャンが一堂に会したとんでもないクオリティでありながらクラブニンテンドーのポイントアイテムとしての流通のみだった「マリオカート8」のサントラで泣きを見たのですが、本サントラはKADOKAWA/エンターブレインからのリリース。スプラトゥーンのソフト自体が大ヒットを記録したこともあってとはいえ、一般流通に踏み切ったのは大正解だったと思います。結果、初週で4万枚を超えるセールスを記録するという快挙にも至っております。パッケージやブックレットが愛にあふれたつくりなのもまたうれしい。シオカラーズのヴォーカルトラック三曲分の架空言語めいた歌詞がひらがなで掲載されているのには笑ってしまいましたが、さらにSquid Squad、シオカラーズ、OCTOTOOL、DJ Octavioの架空ライナーノーツが収録されており、いずれも、イカにも音楽雑誌とかでありそうな書き口で思わずクスリとさせられます。たとえば「スズケ ゲソロウ」氏によるSquid Squad"Splattack!"の解説では「僕が彼らを知ったのは、今では“幻のゼロ番シングル”とも言われているアマチュア時代のデモ・テープ(残念ながら今の所リリースはされていない)だ。――茹で上がりそうなそのパッションは、将来の爆発を予感させるものがあった」とあったりして、「あるある」と頷いてしまう感じのエモさ。テキストの凝りように思わず頭が下がります。このように、パッケージ、内容ともに充実したつくりで、噛めば噛むほど味の出る、極上の「スルメ盤」です。


『Splatoon(スプラトゥーン)』サントラのマスタリングを直撃取材! 『シオカラ節』の歌詞などをサウンドスタッフにインタビュー&トラックリスト初公開 - ファミ通com
機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、『Splatoon(スプラトゥーン)』開発スタッフインタビュー【デザイン編】 - ファミ通com

峰岸透 - vgmdb
藤井志帆 - vgmdb

http://ebten.jp/p/4541993024681/

-------------------------------------------
『Splatoon ORIGINAL SOUNDTRACK -Splatune-』
[EBCD-10001/02|2015.10.21|KADOKAWA/Enterbrain]

【DISC 1】

01. Opening(Squid Squad)
02. Splattack! [Jam Session](Squid Squad)
03. Splattack! (Squid Squad)
04. Ink or Sink (Squid Squad)
05. Seaskape (Squid Squad)
06. Kraken Up (Squid Squad)
07. Metalopod (Squid Squad)
08. Now or Never! (Squid Squad)
09. バトル 勝ちジングル
10. バトル 勝ちリザルト
11. バトル 負けジングル
12. バトル 負けリザルト
13. Friend List (ABXY)
14. Quick Start (ABXY)
15. Hooked (Hightide Era)
16. Sucker Punch (Hightide Era)
17. プレイヤーメイク
18. ハイカラシティ 初回入場
19. ハイカラシティ チュートリアル
20. 広場
21. ロビー
22. Ika Jamaica (Cala Marley)
23. Lookin' Fresh (DJ Lee F.)
24. ハイカラニュース
25. フェス お題発表



【DISC 2】

01. ハイカラシンカ (シオカラーズ)
02. フェスマッチ オープニング (シオカラーズ)
03. キミ色に染めて (シオカラーズ)
04. イマ・ヌラネバー! (シオカラーズ)
05. フェス 最終結果発表
06. ゲットジングル
07. アタリメのテーマ
08. タコツボバレー
09. Eight-Legged Advance (OCTOTOOL)
10. Tentacular Circus (OCTOTOOL)
11. Cephaloparade (OCTOTOOL)
12. Tornado Shuffle (OCTOTOOL)
13. Tacozones Rendezvous (OCTOTOOL)
14. Octoweaponry (OCTOTOOL)
15. ヒーローモード つづく!
16. ヒーローモード Miss!!
17. ミステリーファイル
18. I am Octavio (DJ Octavio)
19. シオカラ節 (シオカラーズ)
20. マリタイム・メモリー (シオカラーズ)
21. SE:インクに潜む
22. SE:インクに飛び込む
23. SE:インクを往く
24. SE:スプラシューター
25. SE:スプラチャージャー
26. SE:スプラッシュボム
27. SE:スーパージャンプ
28. SE:メガホンレーザー
29. SE:トルネード
30. SE:声(ガール) 悦び
31. SE:声(ガール) やられ
32. SE:声(ボーイ) 悦び
33. SE:声(ボーイ) やられ
34. SE:声(シオカラーズ)決め台詞
35. 元祖正調塩辛節
36. Splattack!(2014 E3PV)



《Composed by》
峰岸透:
【Disc1】Track 1~12、15~22、25
【Disc2】Track 5~12、14~18、36

藤井志帆:
【Disc1】Track 13、14、23、24
【Disc2】Track 1~4、13、19、20、35


《Sound Effects by》
辻勇旗:【Disc1】Track 20/【Disc2】21~34
安田拓朗:【Disc1】Track 18、23


《Performers》
竹内浩明(vocal)【Disc1】Track 3~6、8
keity.pop(vocal & voice[アオリ])【Disc2】Track 1、3、4、19、20、34
菊間まり(vocal & voice[ホタル])【Disc2】Track 1、3、4、19、20、34
西川進(electric guitar)【Disc1】Track 1~8
芳賀義彦(electric guitar)【Disc1】Track 3、4、8
高慶“CO-K”卓史(electric guitar)【Disc1】Track 13~16
TABOKUN(electric bass)【Disc1】Track 1~8
恒岡章(drums)【Disc1】Track 1~8
かどしゅんたろう(drums)【Disc1】Track 13、14


-------------------------------------------

http://www.nintendo.co.jp/wiiu/agmj/