2015年7月15日水曜日

極上の地中海プログレッシヴ・フュージョンに浸る、約十年ぶりの新作 ― Arti & Mestieri『Universi Paralleli』(2015)

ウニヴェルシ・パラレリ
ウニヴェルシ・パラレリ
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アルティ・エ・メスティエリ
キングレコード (2015-06-24)
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 先ごろ三度目の来日も果たしたイタリアン・プログレッシヴ・ロック・バンド アルティ・エ・メスティエリは、ギタリストのジジ・ヴェネゴーニ、キーボーディストのベッペ・クロヴェッラ、そしてプログレッシヴ・ロック界の無限動力炉ドラマーとして現在も名を馳せるフリオ・キリコを中心として1973年に結成、1985年の活動停止までに五枚のアルバムを発表。その後、1999年に再結成を果たし、現在もキリコを中心に活動を続けております。本作『Universi Paralleli』は、フルアルバムとしては『Estrazioni』(2005)以来、約十年ぶりとなる新作アルバム。ですが、『Estrazioni』は'70年代に制作されながらもお蔵入りとなってしまった楽曲のリメイクアルバムだったので、純粋な新作アルバムとしては復活作となった『Murales』(2000)以来、約十五年ぶりとなります。そう考えると長いものですが、そのあいだに二度の来日公演や、そこでのパフォーマンスを含む三枚のライヴアルバム、そして探検家ジョヴァンニ・バッティスタ・ベルツォーニをテーマとしたアルバム(しかし2015年現在も未リリース)からの先行曲を収めた四曲入りマキシシングル『Il Grande Belzoni』(2009)など、リリースには事欠かない状況ではあったので、待ったという感はさほどないのですよね。それでも、これが満を持してのリリースであることに違いはありません。





 “平行宇宙”を意味するアルバムタイトル、そして象徴的なオブジェクトがあしらわれたアルバムジャケットから、本作は過去の実績を踏まえながらも、焼き直しやセルフオマージュに堕さないという決意のうかがえるものになっています。「芸術家と職人」という自らのバンド名を改めて体現するかのようです。前作『Il Grande Belzoni』は歌もののイタリアン・ロックといった印象に終始していましたが、今作は『Murales』からさらに焦点を絞った形で、地中海の薫りが爽やかにくすぐるプログレッシヴ・フュージョンを展開しています。メンバーは、キリコとヴェネゴーニを中心に、近年活動をともにしているヴォーカリスト、ベーシスト、ヴァイオリニスト、サイドギタリストの四人、そしてレーベルオーナーとして多忙のため不参加となったベッペ・クロヴェッラに代わり、VENEGONI & CO.のキーボーディスト/アレンジャーであるピエーロ・モルターラを迎えた計七名。そこにオリジナルメンバーのアルトゥーロ・ヴィターレと、KING CRIMSONのメル・コリンズ、ふたりのサックス奏者がフィーチャリング・ゲストとして参加しています。





 アルバム冒頭を飾る"Alter Ego"は、ヴェネゴーニの紡ぐ哀愁のメロディラインの美しさが際立つ畢生の名曲。しなやかさと力強さを兼ね備えたクロスオーヴァー/プログレとしてすでに向かうところ敵なしといったところです。後ろでキリコがガスガスと手数を叩き込み、表ではメル・コリンズのサックスによる印象的なテーマをフィーチャーしたスピーディなジャズ・ロック"Dune"を経て、メルが今度はフルートで客演する"Pacha Mama"と、本作のテーマが色濃く反映された"L'ultimo Imperatore"という二曲の歌ものバラードへ。特に後者は本作随一のスルメ曲といっても過言ではなく、中盤からラストにかけて繰り広げられるキーボードとヴァイオリンのソロ回しもスリリングです。本作のヴォーカル曲はわずか四曲ですが、イアーノ・ニコロの声はきっちりと存在感を示しています。ヴェネゴーニのペンによる"Johann"、そしてヴェネゴーニ/モルターラのコンビによる"Finisterre" "Linea D'omebra"は、やはり哀愁のメロディが全面に出たインストゥルメンタル。ふくよかな響きに酔わされます。アルトゥーロ・ヴィターレをフィーチャーした明快なイタリアン・ロック・チューン"Restare Immobile""Borea" "Pandora"は、それぞれアコーディオンとヴァイオリン、ヴァイオリンとアコースティック・ギターの軽快な絡みが聴きもの。"Comunicazione Primordiale"は完全なるドラムソロで、筋肉モリモリマッチョマンの独壇場です。本編ラストの"La Luce In Fondo Al Tunnel"ではふたたび冒頭の路線に回帰し、吹き抜ける風のような印象でアルバムを締めくくります。日本盤ボーナストラックの"La Porta Del Cielo"はメロトロンの音色も滲み出たどっぷりと濃いプログレ曲。アルバムの他の曲と齟齬なく、カッチリとハマり込んでいます。

 同じくイタリアン・プログレのヴェテランバンドとして現在も活動を続けるOSANNAが、代表作『Palepoli』の続編アルバム『Palepolitana』を先ごろリリースし、過去を呑み込んだ現在進行形のバンドとしての姿を存分に示した見事な力作に仕上げてきましたが、アルティ・エ・メスティエリはパラレルというコンセプトをたっぷりと追求し、多様性に富む力作を仕上げました。アプローチは違えど、目指した先は同じというのは興味深いところです。


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