2015年6月29日月曜日

グレッグ・イーガン『ゼンデギ (Zendegi)』(2010)

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)
グレッグ イーガン
早川書房
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▼グレッグ・イーガンの『ゼンデギ』を読んだ。2010年に刊行されたものの邦訳。第一部は執筆当時の世相をそこそこに反映した描写が続き、第二部からいつものイーガンな感じ。ヴァーチャルを介した父と子の物語。あと、確かにほかのイーガン作品に比べて読みやすい。主人公のマーティンおじさんが、数千枚のLPレコードをどないしたろかと思案するところから物語は始まる(コンポは処分済み)。まあ、LPをデータ化する録音マラソンをするわけです。この第一部の序盤、イーガンの音楽嗜好が多少わかるなと。基本的に80年代なんだな、イーガン。

「自分が二度と、ディーヴォとかザ・レジデンツとかヴァージン・プルーンズに金を出す気にならないのはわかっているが、だからといって、そのページを日記から破りとって、エルヴィス・コステロやザ・スミスといった高尚な一団に青春のすべてを捧げていたふりをするのも嫌だった。」 (P8)

「世に知られていないアルバムほど、いかがわしいアルバムほど、うんざりした気分にしかさせられないアルバムほど、それを自分の過去から削除することで失ってしまうものが大きかった。」 (P8)

 ……いや、なんというかね、このくだり読んでいて非常に身につまされるんですが……。イーガンの音楽嗜好は、この'97年のインタビューでもちょろっとわかる。「自分の音楽的な興味はほとんど80年代から来てるよ。エルヴィス・コステ ロ、ハンターズ&コレクターズ、ポール・ケリー、ザ・スミス、ヴァイオレント・ファムズ」「―よくJJJ (※オーストラリアのオルタナティヴ・ロック系ラジオ http://www.abc.net.au/triplej/ )を聴いてて、だいたい好きだね。――比較的新しいのだとBECKとThey Might Be Giantsのアルバムを持ってるよ」

http://gregegan.customer.netspace.net.au/INTERVIEWS/Interviews.html


 また、作中にはペルシア叙事詩「王書(シャー・ナーメ)」の名称が頻出する。王書の原典は面白のでオススメですよ。悪堕ち聖王ジャムシード、蛇王ザッハーク、英雄ロスタム、霊鳥スィームルグとかキャラ立ち連中ばかりだし、今なお創作作品にパクられるのも納得。


王書―古代ペルシャの神話・伝説 (岩波文庫)
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 あと、マーティンが宗派を聞かれて「聖コルトレーン教会」とのたまうくだりがあるんだけど、ジョン・コルトレーンを祀った聖コルトレーン教会はこういうところです。


http://www.coltranechurch.org

2015年6月28日日曜日

アルファ・ラルファ大通りのプログレッシヴ・ロック・バンド ― ALPHA RALPHA 『Alpha Ralpha』(1977)




 コードウェイナー・スミスのSF短篇「アルファ・ラルファ大通り」から名をとったフランスのプログレッシヴ・ロック・バンド アルファ・ラルファが'76年に発表した唯一のアルバム。フランスとカナダでのみ流通した、現在も未CD化の作品です。メンバーは60年代末に活動したKamasutra Blues Bandの元ギタリスト Michel MareskaVARIATIONSCharlie Charriras(b)、MALICORNEに一時在籍していたClaude Alvarez-Peryre(g. vln. organ etc)、TAI PHONGJean-Alain Gardet(kbd)、NEMOEmmanuel Lacordaire(ds)と、既にプログレッシヴ・ロック/ハード・ロック・バンドでの活動歴のあるメンバーが名前を連ねておりました。また、ゲストでTAI PHONGのKhanh Mai、Tai Sinh、Jean-Jacques Goldmanがバッキングヴォーカルで参加しています。





 しきつめられたシンセサイザーと、厚いコーラスハーモニー、そしてマリンバ/ヴィブラフォンを交えた質の高いシンフォニック・ロックで、フレンチ・ロック特有の華のあるアレンジに惹かれます。多重コーラスのイントロから、PFMを思わせる祝祭的なムードのアップテンポへと、そして牧歌的なポップ・インストゥルメンタルへと滑らかに展開していく"Nova"や、アンソニー・フィリップス的ギターが柔らかに爪弾かれ、中期GENESISを思わせる叙情的な"Genese"、MAHAVISHNU ORCHESTRAのような熱気を帯びたジャズ・ロック・チューン"Rez"といった、オマージュを感じさせる楽曲もいくつか。さらにスペース・ロックやミニマル・ミュージックめいた展開になったりと、とにかく方向性が定まっていない印象があるのですが、この手探り感は嫌いじゃないですね。フレンチ・ロック人脈的にも興味深いバンドですし、とっくの昔にマーキー/ベル・アンティークから再発されていてもおかしくないアルバムではないかと思うのですが……権利的に難しそうですね。


ALPHA PALPHA - Discogs
ALPHA RALPHA - Prog Archives


鼠と竜のゲーム (ハヤカワ文庫 SF 471)
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 余談ですが、「アルファ・ラルファ大通り」にちなんだ音楽作品としては、ほかにイタリアのI NUMIというプログレッシヴ・ロック・バンドが'71年に『Alpha Ralpha Boulevard』というアルバムをリリースしております。アート・ロック全盛期ということもあり、こちらはサイケデリック・ポップの趣の強い内容です。



2015年6月25日木曜日

ジャンルを縦断するユニークな多国籍ヴァイオリン・プログレ・バンド ― ARMONITE『The Sun is New each Day』(2015)




 ヴァイオリニストのJacopo Bigiと、コンポーザー/キーボーディストのPaolo Fossiのふたりを中心として'96年に結成され、'99年にデビューアルバム『Inuit』をイタリアの老舗レーベル Mellow Recordsよりリリース。二名のエレクトリック・ヴァイオリン奏者を擁するギターレスの編成で活動するも間もなく解散した、プログレッシヴ・ロック・バンド ARMONITE。なんと先ごろ十数年ぶりに新作アルバムをフリーダウンロードにてデジタルリリースいたしました。しかしこれは再結成ではなく、かつてのバンド名のみを借りての新生、という「二度目のデビュー」的な意味合いが強いようです。新生ARMONITEはJocopo、Paoloのオリジナルメンバーふたりに、PORCUPINE TREEのベーシスト Colin Edwin、オランダのドラマー Jasper Barendregtを迎えての四人編成。結果的に多国籍バンドとなりました。アルバムのプロデュースはMUSEのデビューアルバム『Showbiz』を手がけたPaul Reeve。マスタリングはかのアビー・ロード・スタジオで行われております。





 前述の『Inuit』のころはヴァイオリンのクラシカルな響きをフィーチャーしたフュージョン/イージーリスニング色の強いしっとりとしたシンフォニック・ロック作品という印象(クロスオーヴァーな料理の仕方ではクライズラー&カンパニーに通じるところもあります)でしたが、サウンドはあれから格段に変貌を遂げています。冒頭の"Suitcase war" "Connect Four"は、エレクトリック・ヴァイオリンが攻めの姿勢でガンガン切り込む、痛快なモダン・ジャズ/プログレッシヴ・ロックとでもいうようなパワフルさです。シタール&パーカッションをフィーチャーした"Sandstorm"や、デジタルな音色とナレーションも交えた"'G' as in Gears"など、幅の広がりもあるユニークなサウンドになっております。また、スウェーデンのchiptunerである“Goto80”ことAnders Carlssonがゲスト参加しているところも見逃せません。彼が参加した"Insert Coin"は、そのタイトルからも明白なように往年のゲームのSEも交えたトリッキーでユニークなプログレ meets チップチューン。その一方で、"Le temps qui fait ta rose"のような、しっとりとしたシネマティックなサウンドも健在。"Slippery Slope" "Die Grauen Herren"の二曲では、ジャズ・チェリストのMarcello Rosaを迎えて、チェンバー・ロック的な気品と鋭さのある表情も見せてくれます。全体的に聴いていて涼しげな顔が浮かんでくるような楽曲が多いのがミソでしょうか。





ARMONITE - Official Site
ARMONITE - facebook
ARMONITE - YouTube Channel
ARMONITE - Prog Archives

2015年6月23日火曜日

丁寧なメロディと職人的アレンジセンスが光る、カナダのプログレッシヴ・ポップ・バンド ― Vermillion Skye『Security Theater』(2015)

Security Theater
Security Theater
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Vermillion Skye (2015-01-26)



 カナダ・トロントのプログレッシヴ・ロック・バンド ヴァーミリオン・スカイ。活動歴は長く、前身となったのは、ヴォーカリストのBill Reill、キーボーディストのJeff Johnston、ドラマーのSteve Gerlewychが中心となって'84年に結成された「Act I」。同バンドはその後、活動を停止するのですが、'96年にベーシストのChris Robertsonを迎えて Vermillion Skyeとして再デビュー。'97年に1stアルバム『Random Kinetic Overtures』を発表します。続いて、'01年に夜の夢をコンセプトにした『The Dream Sequence』をBillのプロデュースにて発表。再びコンセプト作となった'09年の3rdアルバム『Industrial Poetry』からは、サポートギタリストであったDave Brolleyが正式メンバーとして加入し、この五人編成で2012年に4thアルバム『Tree of Spiders』を発表と、マイペースなリリースを続けてきています。今年の頭に発表された『Security Theater』は通産5thアルバムとなる作品。脱退なのか一時的な離脱なのは定かではありませんが、Billの名前は本作にはなく、メンバー四人での制作となっております。

 BEATLESやBEACH BOYS、QUEENや10ccなど、クラシックなブリティッシュ・ロック/ポップスからの影響を感じさせる甘口のコーラスワークや、ヒネりのある楽曲アレンジに、リリカルなピアノと朗らかなヴォーカルを押し出したロック・オペラ的な趣向を織り込んだサウンドがとにかく素晴らしく、畳みかけるようなハーモニーを聴かせる"Now And Again"や、鮮やかな展開運びの"Security Theater"など、ポップス好きの耳を惹きつける求心力に富んでいます。バンドが影響元としてGENESIS、STYX、Alan Parsons Project、YES、KLAATUといったバンドの名前を挙げているあたりからも、目指すところがうかがえます。70年代への憧憬を包み隠さずに提示しつつも、一音一音丁寧に紡ぎ出してゆくメロディのよさと、人懐っこさのある歌心に彼らの職人的気質を見ました。



『The Dream Sequence』からの一曲。

http://www.vermillionskye.com/
https://www.facebook.com/pages/Vermillion-Skye/109883076589
https://www.youtube.com/user/vermillionskye

Vermillion Skye『Security Theater』- Progstreaming
全曲ストリーミング試聴できます。 ※期間限定

2015年6月21日日曜日

(続)ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル界のスターたちの饗宴 ―『敵は海賊~猫たちの饗宴~ オリジナルBGM集』(1990)

敵は海賊~猫たちの饗宴~オリジナルBGM集
ビデオ・サントラ
キティ (1990-03-25)
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 神林長平原作のスラップスティックSFシリーズ〈敵は海賊〉の第二作目『猫たちの饗宴』は、'89年にキティフィルムによってアニメ化され、翌'90年にビデオリリースがされております。ブリティッシュ・ハード・ロック界のミュージシャンが多数参加した企画イメージアルバム『敵は海賊 オリジナルサウンドトラック: KAIZOKU』は前回ご紹介しましたが、こちらは'90年にキティレコードからリリースされた本編の劇伴BGM集。二枚のサウンドトラックは現在どちらも廃盤になって久しいのですが、プレミア度はこちらのほうが高めです。ジョン・スローマン(LONE STAR~URIAH HEEP~GARY MOORE BAND)の歌うオープニングテーマ"Danger On the Street"と、リー・ハート(FASTWAY)の歌うエンディングテーマ"It's Only Love"はこちらにもフルサイズで収録されております。劇伴トラックの数がそんなに多くない(11曲)ので、収録しないとヴォリュームが不足するため、入れざるを得なかったとも言えます。





 劇伴トラックは、米持孝秋中島重雄小林正人AIR PAVILIONの三人に、ティム・カーターナイジェル・グロッカー(SAXON)、トビー・サッドラー(AIR RACE~SAMSON)、クリス・オシャーナシィ(TOMMY SHAW BAND)の計七名でレコーディングされております。ノリのよいシャッフル調の"Take Off"や、ハードなフュージョン"Space Traveler"、ブルース"Blues for Sergent"、ロングトーンのギターソロをフィーチャーした"The Cat's Lament"など、じっくり聴かせるタイプの楽曲が中心。また、シンセサイザー打ち込みによるインストゥルメンタル"Sailing"は『KAIZOKU』収録版では40秒ほどの短縮版でしたが、こちらは2分30秒のフルヴァージョンで収録されております。"My Lady Carey's Dompe"は16世紀イギリスの古楽で、つのだたかし氏(つのだ☆ひろ実兄)率いる古楽アンサンブル「タブラトゥーラ」が演奏しています。





 劇伴集ゆえにイメージアルバムの『KAIZOKU』と比べると内容的にもヴォリューム的にも地味な印象なのは否めませんが、こちらのほうではライナーノーツに神林長平氏のコメントが掲載されているので、コレクター精神旺盛なファンならば持っておきたいところではないかと思います。ちなみに、神林氏は二枚のサウンドトラックのレコーディングを見学しており、そのときのレポートが〈SFアドベンチャー〉1989年12月号(通巻121号)に「現(うつつ)のロンドン」、S-Fマガジン1990年1月号(通巻388号)に「ハードな音と優しい夜と」としてそれぞれ掲載されております。当時の神林氏の興奮が伝わってくるエッセイです。




さあ、大変。アイアンメイデン、ホワイトスネーク、レインボー、ぼくも知ってるそうしたバンドをやっている大物たちとスタジオで会える。こんな機会はめったにない。飛行機がなんだ、英会話がなんだ。一人でも行くぞ。「一人で行く自信ある?」と妻。「ない」とあっさり、ぼく。

〈SFアドベンチャー〉1989年12月号「現(うつつ)のロンドン」より




―バーニー・マースデンやデニス・ストラットンはポーズだけでなくかなり気を入れて、でもさらりと、弾いてくれた。それが実にカッコいい。自在に指が動いて、ギターが泣く。あんなふうに弾けるのはいい気分だろうなとうらやましくなる。

―ブリティッシュ・ロックの、ハードだがしかしどことなく優しくて暖かみのある音は、こんな夜があるせいかもしれない。そう思う。

S-Fマガジン1990年1月号「ハードな音と優しい夜と」より



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『敵は海賊~猫たちの饗宴~ オリジナルBGM集』
[キティレコード|KTCR-1001|1990.3.25]


01. Danger On the Street(Vo:ジョン・スローマン)
02. Fanfare
03. Take Off
04. Space Traveler
05. A Cat's Iron Stomach
06. Blues For Sergent
07. My Lady Carey's Dompe
08. Selemony
09. Cats On the Run
10. March of the Run
11. The Cat's Lament
12. Sailing
13. It's Only Love(Vo:リー・ハート)


作詞:リー・ハート(M-1,13)
作曲:中島重雄(M-2,3,5,8,12)米持孝秋(M-4,6,10)
米持孝秋&中島重雄(M-9,11)リー・ハート&クリス・オシャーナシィ(M-13)
米持孝秋&中島重雄&リー・ハート&クリス・オシャーナシィ&アンディ・ホワイト(M-1)
作者不明・16世紀イギリスの音楽(M-7)

プロデュース:リー・ハート&米持孝秋(except M-7)つのだたかし(M-7)
アシスタント・プロデューサー:クリス・オシャーナシィ
エンジニア:マット・ケンプ/ジョン・マリソン/山崎進



【except M-1,7,13】

クリス・オシャーナシィ(guitar)
米持孝秋(guitar)
小林正人(guitar)
ティム・カーター(bass)
ナイジェル・グロッカー(drums)
トビー・サッドラー(keyboard)
中島重雄(keyboard, synthsizer)



"Danger On the Street"

ジョン・スローマン(lead vocal)
ナイジェル・グロッカー(drums)
ティム・カーター(bass)
米持孝秋(lead guitar)
小林正人(guitar)
ポール・チャップマン(outro lead guitar)
トビー・サッドラー(keyboard, backing vocal)
リー・ハート(backing vocal)
クリス・オシャーナシィ(backing vocal)



"It's Only Love"

リー・ハート(lead vocal, guitar, backing vocal)
スティーヴ・クラーク(symbal+hi hats)
ティム・カーター(bass)
クリス・オシャーナシィ(guitar, first guitar solo, backing vocal)
ドン・エイリー(keyboard)
バーニー・マーズデン(second guitar solo)
トビー・サッドラー(backing vocal)



"My Lady Carey's Dompe"

Performed by TABULATURA

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『敵は海賊 オリジナルサウンドトラック: KAIZOKU』(1989)

2015年6月20日土曜日

ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル界のスターたちの饗宴 ― 『敵は海賊 オリジナルサウンドトラック: KAIZOKU』(1989)

敵は海賊 DVD-BOX
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ファイブエース (2007-12-20)
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 神林長平原作のメタフィジカル・スラップスティックSFシリーズ〈敵は海賊〉。シリーズ第二作目「猫たちの饗宴」は、'89年にキティフィルムによりアニメ版が制作されており、同年末にCSチャンネルで放送され、翌年にソフト化(全六巻)されております。いま観返すとキャラクターデザインに時代を感じますが、アニメ本編は原作のノリも再現しつつよくまとまった良作です。本CDは、アニメ放送に少々先がけてにリリースされた、同作のオリジナル・サウンドトラック。総監督である山田勝久氏の要望で、劇伴はコテコテのハード・ロック/ヘヴィ・メタルという方向性が打ち出され、ハード・ロック・バンド AIR PAVILION米持孝秋氏、中島重雄氏、小林正人氏の三名が中心となって制作されております。日本国内で作編曲とデモテープの作成作業をハイペースで進めたのち、十日間ほどのスケジュールでロンドン・レコーディングを行うという、非常にタイトなスケジュールであったようです。ライナーノーツはある意味、必見。


海賊
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サントラ
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 本作に参加しているゲスト・ミュージシャンのラインナップは大きな目玉で、SAXONのビフ・バイフォードポール・クインティム・カーターナイジェル・グロッカー、MOTORHEAD~FASTWAYのエディ・クラーク、FASTWAYのリー・ハートスティーヴ・クラーク、IRON MAIDEN~BATTLE ZONEのポール・ディアノ、WHITESNAKEのバーニー・マーズデン、AIR RACE~SAMSONのトビー・サッドラー、IRON MAIDEN~PRAYING MANTISのデニス・ストラットン、COLOSSEUM~RAINBOW etc……のドン・エイリー、LONE STAR~URIAH HEEP~GARY MOORE BANDのジョン・スローマン、GIRL SCHOOLのキム・マコーリフクリス・ボナッチ、THIN LIZZYのスコット・ゴーハム、LONE STAR~UFOのポール・チャップマン、SWEETのアンディ・スコット、TOMMY SHAW BANDのクリス・オシャーナシィ……という、いぶし銀なNWOBHMオールスターズ。リー・ハートとクリス・オシャーナシィは演奏だけでなく、プロデュースや作曲面でも全面的に参加しております。予算的なやりくりはもちろんあったでしょうが、それにしてもよくこれだけのミュージシャンを集めたものだなあと、驚かされる次第です。ほとんどのゲストのレコーディング作業は二日間で進められたというのもなんとも凄まじい話です。なお、ナイジェル・グロッカーは本作のレコーディング後すぐさま、イングヴェイ・マルムスティーンのアルバムのレコーディングセッションに参加するためマイアミに飛んだのだとか(時期的に考えると『Eclipse』でしょうか)。





 これだけ名うてのメンツが関わっているとなると、生半可なものなど出来ようはずもなく、骨太の仕上がり。"Danger On The Street"は、ジョン・スローマンがヴォーカルをとるヴァージョンがオープニングテーマに採用されておりますが、CDにはポール・ディアノがヴォーカルをとるヴァージョンも併録されております。ラフでケレン味たっぷりなポール版の悪どい魅力も捨てがたい。キャッチーなシンガロングの"It's Only Love" "Crystal Eyes"や、ハードなエッジの効いた"Big Beat, No Heart"。渋めのミドル・チューン"Waiting Here Alone"、スリリングなプログレッシヴ・ハードロック"Speed Kills"や、白熱したギターソロの応酬が繰り広げられる"The Fight"など、バンドの枠を飛び越えたハード・ロッカーたちの夢の饗宴がここにあります。サウンドトラックとしても、良質のスーパー・プロジェクト作品としても楽しめる、二度おいしいアルバム。




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『敵は海賊 KAIZOKU』
[ポリドール|POOP-20309|1989.12.21]

プロデューサー: リー・ハート/米持孝秋
コ・プロデューサー: クリス・オシャーナシィ
レコーディング・エンジニア: マット・ケンプ(Chapel Studio)ジョン・マリソン(Livingstone Studio)
リミックス・エンジニア: 山崎進
録音: Chapel Studios, Lincolnship, ENGLAND/Livingstone Studio, London, ENGLAND)
リミックス: STUDIO JIVE(東京)



01. Sailing〔Instrumental〕
(Nakajima)
中島重雄(keyboard)


02. Danger On The Street I
(Yonemochi, Nakajima, Kobayashi, Hart, O'Shaughnessy)

ジョン・スローマン(lead vocal)
ナイジェル・グロッカー(drums)
ティム・カーター(bass)
米持孝秋(lead guitar)
小林正人(guitar)
ポール・チャップマン(outro lead guitar)
トビー・サッドラー(keyboard, backing vocal)
リー・ハート(backing vocal)
クリス・オシャーナシィ(backing vocal)



03. Big Beat, No Heart
(Hart, O'Shaughnessy)

ティム・カーター(bass)
スコット・ゴーハム(lead guitar)
リー・ハート(guitar, lead vocal, backing vocal)
クリス・オシャーナシィ(guitar, backing vocal)
トビー・サッドラー(keyboard)
ドラムマシン



04. Speed Kills〔Instrumental〕
(Yonemochi)

ナイジェル・グロッカー(drums)
ティム・カーター(bass)
米持孝秋(guitar)
中島重雄(keyboard)
エディ・クラーク(first guitar solo)
ポール・サムソン(third guitar solo)
米持孝秋&小林正人(main guitar solo)
ドン・エイリー(keyboard solo)



05. She's Hot Stuff
(Yonemochi, Nakajima, Kobayashi, Hart, O'Shaughnessy, Dransfield, White)

ビフ・バイフォード(lead vocal)
ナイジェル・グロッカー(drums)
ティム・カーター(bass)
小林正人(guitar, backing vocal)
中島重雄(keyboard)
デニス・ストラットン(first guitar solo & outro)
ポール・クイン(second guitar solo)
ジョン・スローマン(backing vocal)
キム・マコーリフ(backing vocal)
クリス・ボナッチ(backing vocal)
ポール・ディアノ(backing vocal)
リー・ハート(backing vocal)
クリス・オシャーナシィ(backing vocal)
トビー・サッドラー(backing vocal)
米持孝秋(backing vocal)



06. It's Only Love
(Hart, O'Shaughnessy)

リー・ハート(lead vocal, guitar, backing vocal)
スティーヴ・クラーク(symbal+hi hats)
ティム・カーター(bass)
クリス・オシャーナシィ(guitar, first guitar solo, backing vocal)
ドン・エイリー(keyboard)
バーニー・マーズデン(second guitar solo)
トビー・サッドラー(backing vocal)



07. Lucky To Lose
(Hart, O'Shaughnessy)

リー・ハート(lead vocal, backing vocal)
スティーヴ・クラーク(drums)
ティム・カーター(bass)
クリス・オシャーナシィ(guitar)
バーニー・マーズデン(lead guitar)
ドン・エイリー(keyboard)



08. Synth Metal〔Instrumental〕
(Yonemochi, Nakajima, Kobayashi)

小林正人(leadguitar)
中島重雄(keyboard, drums&bass programming)
アンディ・スコット(slide guitar)



09. Waiting Here Alone
(Yonemochi, Nakajima, Kobayashi)

米持孝秋(lead vocal, guitar, backing vocal)
中島重雄(keyboard, drums&bass programming)
アンディ・スコット(slide guitar)
リー・ハート(backing vocal)



10. Crystal Eyes
(Yonemochi, Nakajima, Kobayashi)

ナイジェル・グロッカー(drums)
ティム・カーター(bass)
米持孝秋(lead vocal, lead guitar)
小林正人(intro solo)
トビー・サッドラー(keyboard)
ジョン・マリソン(backing vocal)
クリス・オシャーナシィ(backing vocal)



11. The Fight〔Instrumental〕
(Yonemochi)

ナイジェル・グロッカー(drums)
ティム・カーター(bass)
ポール・サムソン(first solo)
エディ・クラーク(second guitar solo, intro)
米持孝秋(guitar, third guitar solo)
小林正人(fourth guitar solo)
トビー・サッドラー(keyboard)



12. Danger On The Street II
(Yonemochi, Nakajima, Kobayashi, Hart, O'Shaughnessy)

ポール・ディアノ(lead vocal)
ナイジェル・グロッカー(drums)
ティム・カーター(bass)
米持孝秋(lead guitar)
小林正人(guitar)
ポール・チャップマン(outro lead guitar)
トビー・サッドラー(keyboard, backing vocal)
リー・ハート(backing vocal)
クリス・オシャーナシィ(backing vocal)





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敵は海賊 ~猫たちの饗宴~(1990) - allcinema

『敵は海賊~猫たちの饗宴~ オリジナルBGM集』(1990)

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2015年6月14日日曜日

さらなる進化を遂げた気鋭のイタリアン・バンドが、最大級の自信をもって放つ会心作 ― BAROCK PROJECT『Skyline』(2015)

Skyline
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Barock Project
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 イタリアン・プログレッシヴ・ロック・バンド バロック・プロジェクトの4thアルバム。コンポーザー/キーボーディストのルカ・ザッビーニとヴォーカリストのルカ・パンカルディを中心に2004年に結成されたBAROCK PROJECTは、2007年にフランスの老舗レーベルMUSEAより『MisterioseVoci』でデビュー。その後、五人編成となり、2009年にイタリアのMELLOW RECORDSより2ndアルバム『Rebus』をリリース。メンバーチェンジを経て、2012年に三人編成で『Coffee In Neukölln』をリリースしております。本作『Skyline』は、ギタリストにMarco Mazzuoccolo、ドラマーにEric Ombelliを加え、再び四人編成となっての作品です。また「バンド主導で、よりクオリティの高い作品制作を行いたい」というメンバー新たな決意のもと、今年の4月7日から5月9日にかけてクラウドファウンディングサイト kickstarterで本作の共同制作プロジェクトを立ち上げ、最終的に$3256を集めファンドを成立させているという背景もあります(わたくしも少しばかり投資いたしました)。晴れて、自主レーベル「ARTALIA」からの第一号作品となった本作のジャケットを手がけたのは、GENESIS『Nursery Cryme』やVan Der Graaf Generator『Pawn Hearts』、Le Orme『Elementi』のジャケットなどでも知られるポール・ホワイトヘッド。そして、NEW TROLLSのヴィットリオ・デ・スカルツィがゲスト参加しております。





 ルーツにあるEL&PやGENESIS、NEW TROLLSなどの影響も消化したうえで、クラシカルなテイストとモダンなセンスを巧みに兼ね備えた彼らのサウンドはデビュー当初から定評がありましたが、前作での洗練を経て、本作でよりいっそう華開いたものを感じさせます。プログレというと過剰に詰め込まれがちなきらいがありますが、このバンドは「重すぎず、しかし軽すぎず」という絶妙なラインで押しと引きをハッキリと見せている。ここがミソなのではないかとわたしは思うのです。EL&P/キース・エマーソンを思わせるクラシカルで華やかなアップテンポのキーボード・プログレッシヴ・チューン"Overture"を一曲目ではなく二曲目に据え、ピアノソロ、ブラス、ストリングスが盛り込まれた変幻自在のアレンジで起伏に富んだ約9分の"Gold"をアルバム一曲目にもってきたところに、彼らの本作への自信のほどがうかがえようというもの。イントロのぶ厚いコーラスワークもフレッシュな掴みとしてバッチリ。ヴィットリオ・デ・スカルツィのヴォーカルとフルートをフィーチャーした"Skyline"は、滋味にあふれる約10分のバラード。単なるハク付けのような起用ではもちろんありません。貫禄のヴォーカルとアコースティック・サウンドを基調にした前半と、颯爽としたフルートが飛び出す小気味良くもハードな後半、ともに聴き応えたっぷりの大曲です。ミドルテンポのハード・ロック チューン"Roadkill"を挟み、再び10分越えの"The Silence of Our Wake"は、アコースティック・ギターのカッティングとストリングス・アレンジが全編に渡って効いた大曲。長さをものともしないのは、コーラスやストリングス・アレンジはもちろん、変拍子を交えた複雑なアレンジも巧みにこなすザッビーニの手腕の妙です。ピアノとストリングスが穏やかなヴォーカルを包み込む小品"The Sound of Dreams" "A Winter's Night"。前作でも聴かせたファンキーなアクセントの効いたプログレッシヴ・ハード"Spinning away"。壮麗なストリングス・アレンジをバックに歌い上げたのち、スリリングなクラシカル・ロック"へと鮮やかに移行するドラマティック極まる大曲"Tired"と、個々の楽曲の密度の高さはラストまでいささかも衰えることなく、再び華麗な起伏に富む"The Longest Sigh"で堂々たるエンディングを演出。まさしく、どこを切っても美味しい、ゆるぎない内容です。現在進行形のイタリアン・プログレッシヴ・ロックの魅力を、ぜひ堪能していただきたい。





 そして『Slyline』は、マーキー/ベル・アンティークから7月25日に国内盤でのリリースを予定しております。これが日本初紹介。kickstarterで$15以上の投資者へのボーナストラックでもあった10分の叙情曲"The Book of Life"と、前作『Coffee in Neukölln』の楽曲"Fool's Epilogue"のライヴテイクの二曲を収録したボーナスCD付の二枚組、紙ジャケット&SHM-CD仕様というあたり、レーベルもかなり力を入れていることがうかがえます。アルバムの曲順は国内盤化にあたり変わっているようですが、メンバーが自信をもって送り出した本作で日本に紹介されるのは実にめでたいです。もっともっと売れて欲しいですし、さらなるワールドワイドな躍進にも大いに期待いたします。

7月25日発売~ベルアンティーク 紙ジャケット・シリーズ~
バロック・プロジェクト / 地平線 (スペシャル・ダブルCD・エディション)


http://www.barockproject.net/
https://www.facebook.com/barockproject

BAROCK PROJECT - Prog Archives

イタリアン・ロックの様式と洗練されたセンスが融合した技ありの一枚― BAROCK PROJECT『Coffee In Neukolln』(2012)

2015年6月11日木曜日

アーシュラ・K・ル=グウィンとデヴィッド・ベッドフォードによる異色のコラボ ― David Bedford, Ursula Le Guin『Rigel 9』(1985)

Rigel 9
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Virgin (1997-06-20)
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 少し前になりますが、LPプレーヤーを買いました。これでわたくしもさらなる沼に足を踏み入れることになったわけです。というのはさておき、プレーヤーを買って最初に聴きたかったLPが、今回ご紹介する『Rigel 9』。このアルバムは、アーシュラ・K・ル=グウィンが書き下ろしたスペース・オペラを、デヴィッド・ベッドフォードが組曲に仕立てあげ、'85年にCharismaレーベルからリリースされたコラボレーション作品なのです。'97年にVirginよりCD化されてはいるのですが、現在ではプレミアとなっており、中古市場で二~三万円という価格帯で取引されております。さすがに手が出ないので、ネットオークションでLPを数百円で買いました。CDを買うより、LPとプレイヤーを買ったほうがまだ安いという。なんともはやです。LPにはストーリーの記載がどこにもなく、裏ジャケットに楽曲名とミュージシャンのクレジットしか書かれていないという簡素なつくりなのですが(ライナーノーツの類は一切入っていないのが元々の仕様のようです)、音楽は素晴らしい内容です。海外のAmazon.MP3やiTunes Storeではアルバムの楽曲がダウンロード販売されているのですが、日本版サイトでは取り扱いがないのが残念です。

https://itunes.apple.com/us/album/rigel-9/id714758332

 ル=グウィンは、『闇の左手』『風の十二方位』そして〈ゲド戦記〉などで知られる、いわずとしれたSF/ファンタジーの大家。'85年は、彼女が文化人類学的なアプローチで書いたノンシリーズ長編『オールウェイズ・カミング・ホーム』を刊行した年でもありました。対するベッドフォードは現代音楽作曲家としての作曲活動のみならず、ケヴィン・エアーズのアルバムのオーケストラアレンジや、彼のバックバンド The Whole Worldへの参加を皮切りに、マイク・オールドフィールドの『Tubular Bells』『Hergest Ridge』のオーケストラアレンジ/指揮(後者は公式での音源リリースはされませんでしたが)、エドガー・ブロートン・バンド、ロイ・ハーパーのアルバムへの参加など、ブリティッシュ・ロック・シーンへの関わりも大きなものでした。個人的には、CAMELの『A Live Record』(1978)での指揮/アレンジや、「MOTHER」のアレンジサウンドトラック(1989)の"Wisdom of the World"のストリングス・アレンジも印象に残っています。そんなベッドフォード氏がスペースオペラをテーマに作品を仕上げたというと少々意外に感じるかもしれませんが、アンサンブル曲の"A Dream of the Seven Lost Stars"(1964)や"Star Clusters, Nebulae and Places in Devon"(1971)、アルバム『Star's End』(1974)など、宇宙をテーマにした楽曲/作品はいくつもありますし、'71年に行った実験アンサンブル「With 100 Kazoos」は、ロジャー・ゼラズニイ、シオドア・スタージョン、サミュエル・R・ディレイニーなどのSF作家や、天文学者のパトリック・ムーアらに捧げられており、SFへの関心は昔から強くあったのではないかと思われます。

 アルバムのストーリーは、不思議な惑星を舞台に宇宙飛行士のチームが数奇な体験をするというものです。楽曲はそれぞれ10分を越える四つのパートからなり、コーラスとシンフォニックなアレンジをバックに、モノローグや掛け合いが挿入されるという趣向。神秘的な響きのコーラスワークはキモにもなっており、ベッドフォードがアレンジを手がけたエアーズやオールドフィールドの楽曲に通じる雰囲気もやはり感じます。壮大なシンフォニーあり、ジェントリーなロックパートあり、シンセサイザーの華やかなパートあり、そしてそれら全てが渾然一体となった展開ありと、静かなトーンをたたえながらも様々に場面が展開することもあってか、思った以上にプログレ的なエッセンスもたっぷりな印象でした。レコーディングメンバーにも注目で、ウインドオーケストラや学生コーラス隊やサックス、ヴァイオリン奏者、そしてボイスアクターが多数参加しているほか、COLOSSEUM、HUMBLE PIEのギタリストであるクレム・クレムソンや、MADNESSのドラマーであるダニエル・ウッドゲイト、そしてなんと、80年代音楽シーンに一瞬だけ花を咲かせた女性ニューウェイヴ・デュオ STRAWBERRY SWITCHBLADEの名前もみられます。彼女らは第三シーンの終盤でミステリアスなヴォーカル/コーラスを聴かせてくれます。




David Bedford — Works | Universal Edition
David Bedford, Ursula Le Guin ‎– Rigel 9 | discogs
download - STRAWBERRY SWITCHBLADE.NET
STRAWBERRY SWITCHBLADEの参加した"Scene 3"がダウンロードできます。


風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-2) (ハヤカワ文庫 SF 399)
アーシュラ・K・ル・グィン
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David Bedford
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2015年6月8日月曜日

グスタボ・マラホビッチ『ブエノスアイレスに消えた (El jardín de bronce)』(2012)

ブエノスアイレスに消えた (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
グスタボ マラホビッチ
早川書房
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▼グスタボ・マラホビッチ『ブエノスアイレスに消えた』を読んだ。2012年に刊行されたものの邦訳。二段組600ページ近い、すんごく長いアルゼンチン・ミステリ。作品の舞台は1999年のブエノスアイレス。誘拐された娘を捜す父親の話だけど、あまりにも気の長い話で、展開がまた○○○○なので、別の意味でも感心してしまう。サスペンスというほどではないけど、常にやりきれなさ、焦燥感が漂っている。訳者あとがきで、主人公が携わる失踪人捜索という作業には、(70年代末から80年代半ばにかけての〈汚い戦争〉という国家テロで数多くの行方不明者を出 した)アルゼンチンの歴史的背景もあるのではないかと触れられていたが、作品全編から感じる暗さをみるにつけ、なるほどと感じるものもあった。主人公はファビアンという、夫婦関係もあまりよろしくないくたびれたおじさんなのだけど、Pere Ubuやペンギン・カフェ・オーケストラを聴いてたり、CAMELは70年代のほうが好きなんだがなあとボヤくシーンがあったりしたので、個人的に親近感が湧いた。

「カーラジオからキャメルというロック・グループの曲が流れてきた。八〇年代のラジオを席捲した『ロング・グッドバイ』だ。ファビアンとしては、キャメルは七〇年代のほうが好みなのだが」(P248)

 このくだり、アルゼンチンのラジオもそうだったのか、という驚きみたいなものがあった。“Long Goodbye”はCAMELがベルリンの壁による東西分裂をテーマに'84年に発表した『Stationary Travelller』のなかの一曲。フェビアンが70年代のほうが好みというのはわかるのだが、80年代もいいぞ。 あと、端役で音楽DVDのコレクターのピューマというのが出てくるのだけど、やたら「マイク・オールドフィールドのDVD」をみせたがるらしく、クスっ とした。「彼の守備範囲はピンク・フロイドからジャン・ミッシェル・ジャールまでと幅広い」、それは幅広いというか、ただのプログレ志向なおっさんなだけなのでは……。




2015年6月7日日曜日

米国のチップチューン・プログレ・バンドによる、アクションADVゲームのサントラ ― Cheap Dinosaurs『High Strangeness』(2015)



 8bitゲームと16bitゲームをハイブリッドした“12bit”ゲームを標榜するアクションアドベンチャーとして五月に発表された、ニンテンドーWiiU用ソフト「High Strangeness」のサウンドトラック。メインコンポーザーはフィラデルフィアのサイケデリック・プログレッシヴ・ロック・バンド Cheap Dinosaursのフロントマン Dino Lionettiによるものなのですが、これが実に妖しいプログレテイストのチップチューンでよいのです。Dinoがかつてリーダーを務めていたバンド Chromelodeon(2001~2007)でも、ユニークな音楽性のインディープログレを聴かせてくれたのですが、このCheap Dinosaursの音楽性はプログレ、シンセポップ、ハードコア、マスロック、チップチューンを縦断しており、音楽的影響元としてはTANGERINE DREAM、GOBLIN、YMO、Lightning Bolt、Battles、Tim Follin、Neil Baldwin、Matt Furnissの名前が挙げられています。また、彼らは2012年にGOBLINのカヴァーアルバム『Cheap Dinosaurs Plays Goblin』をフリーダウンロードで発表、同作は「ゾンビ」「サスペリア」「シャドー」などのテーマをチップチューンプログレでアレンジした秀逸な内容に仕上がっています。






 さて、この「High Strangness」の歴史は2009年までさかのぼります。ふたりの有志によって立ち上がったプロジェクトは、kickstarterでクラウドファウンディングを募り、最終的に約$1500を集めたことで本格的に始動します。今でこそゲームの制作費をクラウドファウンディングで募ることは珍しくなくなりましたが、当時としては画期的な試みであったといえます。その後、協力者を募り、開発チーム(Barnyard Intelligence Games)を立ち上げながら、六年のあいだに少しずつ制作が進められてゆきます。また、協力者のなかにはカリフォルニアのチップチューン コンポーザー DisasterpeaceことRich Vreelandの名前もあり、彼は2009年に同作のためのサウンドトラックを制作、提供していたことを付け加えておきます(このアルバムは現在、彼のbandcampからname your price(投げ銭)でダウンロードが可能です)。




 「High Strangness」サウンドトラックは全17曲。メインテーマこそ古きよきスーパーファミコンのRPGタイトルを彷彿とさせる勇壮なものですが、全体的にトーンは暗く、殊におどろおどろしさの演出に長けている感があります。TANGERINE DREAMやGOBLINからの影響も感じさせるダークなテイストを押し出したシネマティックなサウンド。そして戦闘曲はプログレテイストを前面に押し出したトリッキーなものです。"End Theme"のみ、Disasterpeaceの作曲によるもの(アレンジはDino Lionetti)。エンドタイトルにふさわしい一抹の寂しさを感じさせる慎ましやかな一曲に仕上がっています。


「The original Kickstarter game, High Strangeness, is set for release on May 6」- destructoid.com

http://barnyardintelligence.com/

http://cheapdinosaurs.com/
https://www.facebook.com/cheapdinosaurs

Cheap Dinosaurのオリジナルアルバムはこちら(2014年作品)


2015年6月5日金曜日

「演劇実験室◎万有引力」関連メンバーを擁する、異形の劇場型プログレッシヴ・メタル ― LOSZEAL『Ideal World』(2015)

Ideal World
Ideal World
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Loszeal
Black-listed Records (2015-03-27)
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 実力派国産ヘヴィ・メタル/プログレッシヴ・メタルバンドの発掘に力を入れているBlack-listed recordsからの強力なリリース。2007年に結成され、さかもとえいぞう氏のEIZO Japanへのアレンジャー/サポートでの参加歴のほか、メロディック・スピード・メタル・バンド KNIGHTS OF ROUNDのメンバーでもあるCaesarこと本郷拓馬氏(bass, chapman stick)、Ryusaこと山田龍佐氏(guitars, programming)を中心とするプログレッシヴ・メタル・プロジェクト LOSZEALのデビューフルアルバム。また、本郷氏はJ.A.シーザー氏が主宰する演劇実験室◎万有引力の劇伴演奏バンド AsianCrackBANDにもメンバーとして名を連ねており、そこでの共演がきっかけとなり、舞台役者の蜂谷眞未さん(「身毒丸」撫子役など)とオペラ歌手の竹林加寿子さん(市街劇「人力飛行機ソロモン」、「阿呆船」など)のおふたりをヴォーカル/コーラスに起用することになったそうです。ドラマーやキーボーディストは不在で、山田氏のアレンジ/プログラミングでカヴァーされています。



 90年代以降のプログレッシヴ・メタルをベースに、ラテン、ジャズ/フュージョンなど本郷、山田 両氏の嗜好するエッセンスを投入したサウンドは、キーボード/ドラムスをプログラミングでまかなっているためにやや直線的に感じるところもありますが、技巧とドラマ性を兼ね備えたしっかりとした骨子のあるものです。そして、その魅力をさらに引き出しているのが蜂谷さんのヴォーカル。彼女はメタルタイプの楽曲を歌うのは初めてだったということですが、培ってきた地力の成せる業なのでしょうか、スキャットやソウルフルな節回し、そして演劇のノウハウも込みのヴォーカルパフォーマンスはバンドサウンドにまったく引けをとらない堂々たるものであり、バンドの強烈な個性として申し分のない存在感を示しています。ときにみせる迫力の女傑っぷりは、まさに「君臨する」といった印象すら感じさせます。インストゥルメンタルからの冒頭曲 "懶惰、断絶"は、妖しいフックを搭載した、まさに異形のキラーチューンと呼ぶにふさわしいものです。続く "Repeat Itself"はキャッチーなサビと、ハードなエッジを兼ね備えたメロディック・スピードメタル。"Adaptation:uoitatdapV"はカッティングギターとロングトーンのギターソロをフィーチャーしたフュージョン・タッチのゆったりとした一曲。再びハードエッジな "Freak Outsider"は、加速度的なソロパートと振り絞るようなヴォーカルが聴きものです。 "天長地久"終盤では経文めいたバッキングヴォーカルも飛び出し、ややJ.A.シーザー風。ラストは11分近いタイトル曲で幕を閉じます。インストを含め曲数は七曲と少なめですが、そのぶん見せたいものをハッキリとさせています。なお、アルバムのライナーノーツはJ.A.シーザー氏によるもの。KING CRIMSONやOSANNA、COMUSの名前を挙げられながらのめくるめくイメージとともに、「情熱的、情愛的なロック」と本作を形容されておりました、



LOSZEAL - official website
LOSZEAL - facebook
蜂谷眞未 公式サイト