2015年4月7日火曜日

フィリップ・K・ディック『ヴァリス』をオペラで再現した、異色の電子プログレ作品 ― Tod Machover『VALIS, an opera』(1988)

ヴァリス (創元推理文庫)ヴァリス (創元推理文庫)
(1990/06)
フィリップ・K・ディック

商品詳細を見る

ヴァリス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)ヴァリス〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
(2014/05/09)
フィリップ・K・ディック

商品詳細を見る


 フィリップ・K・ディックが1981年に著した『ヴァリス』は、ディックが自らのドラッグ、神秘体験に神学、グノーシス主義を投入して作り上げた最晩年の問題作であり、『聖なる侵入』『ティモシー・アーチャーの転生』と併せた三部作として今な読み手の前に立ちふさがる、過剰なまでの情報量を孕んだ一大思索作品群です。ものすごく端折って説明するなら、『ヴァリス』は、主人公ホースラヴァー・ファットが“ピンク色の光線”を浴び、そして神学談義を展開してゆく話です。ディックは三部作を著してまもなく亡くなりますが、その五年後の1987年に、本作を丸ごとコンセプトとしたオペラ作品がひとりの作曲家によって作り上げられることになります。彼の名はトッド・マコーヴァー。70年代末から80年代中期にかけてパリのICRAM(ピエール・ブーレーズが創立したフランス国立音響音楽研究所)に在籍。その後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ教授として、現在もオペラの作曲や研究活動を続けております。ヨーヨー・マやプリンス、ピーター・ゲイブリエルなどが使用したこともあるという特殊楽器「ハイパーインストゥルメント」や、作曲ソフトウェア「ハイパースコア」、そして「ブレイン・オペラ」なる作曲パフォーマンスなどの考案者としても知られており、インタラクティヴな音楽へのアプローチというものに非常な関心を持ち続けているのが、マコーヴァー氏なのであります。

ValisValis
(1993/09/11)
Tod Machover

商品詳細を見る

https://itunes.apple.com/jp/album/valis-opera-on-novel-by-philip/id455427227

 パリのジョルジュ・ポンピドゥ・センターの十周年記念式典の一環として依頼を受け、制作された「オペラ:ヴァリス」は1987年に同センターで初演され、その後アメリカ公演などを経て、1990年ごろには日本でも上演されたそうです。CDは、1988年にニューヨークのブリッジ・レコーズからリリースされ、パッケージには64ページにおよぶ詳細なブックレットが付属しています。オペラは二部構成に分かれており、トータル77分半。楽曲は、ホースラヴァー・ファット/フィリップ・K・ディック役やグロリア役、リンダ・ランプトン役など数名の演者が織り成すナレーション/ヴォーカル/コーラスを主体に、キーボーディスト、パーカッショニストの二名の演奏、そして電子音を散りばめた仕上がり。ステージには意匠が凝らされ、設置された数十ものモニターからは映像が流されていたとのことですが、なにぶんCDではそういった視覚的情報はないので、音のみを聴くとなるとどうしても物足りない印象を感じる部分もあるのですが、それでも途中で繰り出される高速言語めいたモノローグや、不協和音が織り成す一種独特のテンションがただならぬものを演出しているということはいやというほどわかります。前半はサウンド面での動きは少ないのですが、後半に入ると異様なテンションの高さに拍車がかかり、強迫的なヴォーカルと不協和音の絡みがさながら電子プログレというか、チェンバー・ロックに近い様相を成しはじめてきます。パート1の最終楽章"Finale I"や、パート2の"Valis Song" "Lampton Scene"などでは、MAGMAもかくやというテンションの高いコーラスの絡みが聴けますし、パート2終盤部、アンネ・アゼマの神秘的ソプラノをフィーチャーした"Sophia's Aria"から、コーラスハーモニーが電子音とともに10分半に及ぶ内面宇宙のカオスを描き出す"Finale II"にかけての一連の流れは、ハイライトとも呼べる圧巻のパフォーマンスが繰り広げられております。


第二部冒頭曲"Valis Song"。これを聴いた時はぶったまげました。




MIT Media Lab Tod Machover

「PKDSニュース欄からの抜粋(ヴァリス・オペラ関連記事)(翻訳記事)」
「PKDSが受け取ったプレスリリースからの抜粋(翻訳記事)」
「ヴァリス・ジ・オペラ(翻訳記事)」
(from うそつきりっちゃんの掌篇集)
Valis the Opera - deoxy.org
Interview with Tod Machover - Philip K. Dick Fan Site
トッド・マコーバー + ダン・エルシー: 新しい音楽の可能性を開く楽器を作る
- Talk Subtitles and Transcript | TED.com

Interview with Tod Machover - SCIENTIFIC AMERICAN
Tod Machover Valis - Bridge Records inc

0 件のコメント:

コメントを投稿