2015年3月11日水曜日

現代英国プログレ・シーンのワーカホリックな才人 ジョン・ミッチェルの新プロジェクト ― Lonely Robot『Please Come Home』(2015)

Please Come Home -Digi-Please Come Home -Digi-
(2015/03/03)
Lonely Robot

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https://itunes.apple.com/jp/album/please-come-home/id959410702

 ARENA、KINO、IT BITES、FROST*などのバンドでヴォーカリスト/プレイヤーを務めるのみならず、ジョン・ウェットンやマーティン・バレなどの大御所のツアーサポート、そしてレコーディングエンジニアやプロデューサーとして、Enter ShikariやYou Me At Six、Funeral for a Friend、TouchstoneなどのUKロックバンドのアルバムに携わるなど、英国プログレッシヴ・ロック・シーンにとどまらないワーカホリックな活動を続けているマルチ・ミュージシャン ジョン・ミッチェル。彼が各活動の合間を縫って(FROST*は現在ほぼ活動停止中のようですが)新たに立ち上げたロック・プロジェクトが、このロンリー・ロボットです。もちろん、ジョンは全曲の作編曲やベーシックトラックの演奏にはじまり、ミックス、マスタリング、プロデュースに至るまで全てを担当。リズム隊にはLIFESIGNSのニック・ベッグス(b)、FROST*のクレイグ・ブランデル(ds)を据え、さらにゲストでFROST*のジェム・ゴドフリー(kbd/g/chapman stick)、Marillionのスティーヴ・ホガース(piano/backing vo)、Go Westのピーター・コックス(vo)、ニック・カーショウ(g)、元Mostly Autumnのへザー・フィンドレイ(vo)、Touchstoneのキム・セヴィア(vo)ら、多数のミュージシャンを迎えて制作。また、「マスター・アンド・コマンダー」「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」などで知られる俳優のリー・イングルビーがナレーションで参加しています。



 サウンドの方向性としては、The UrbaneやKINO、IT BITESに通底する歌ものメロディック・ロック路線であり、盟友 ジェム・ゴドフリーを迎えての壮大なイントロダクション"Airlock"にはじまり、スイートなヴォーカルとダイナミックなリフでガツンと決める"God Vs Man"、ピーター・コックスが存在感バツグンのパワフルなヴォーカルを聴かせる"The Boy In The Radio"の流れですでに「これこれ、これだよ!」という手応えを感じさせてくれます。スティーヴ・ホガースのピアノをフィーチャーした"Why Do We Stay?"は、ヘザー・フィンドレイの澄み渡るヴォーカルとのデュエット曲であり、さらにホガースのバッキング・ヴォーカルとの絡みも聴きものな珠玉のバラードナンバー。ホガースは当初はピアノのみでの参加だったのですが、レコーディング当日にヴォーカルも入れることを決意したんだそうな。曲がいいだけに、彼が思わず歌を入れたくなったというのもなるほどよくわかります。"Lonely Robot"は、疾走感とキャッチーさを併せ持った本作のハイライト曲で、同曲に参加しているレベッカ・ニード・ミネア(vo)、ジェイミー・フィンチ(g)のふたりは、近年デビューしたエモーショナルなオルタナティヴ・ロック・デュオ Anavaeのメンバー。彼らもまた、ジョンがプロデュースに関わっているユニットなのです。"A Godless Sea"は、さながら沈殿していくかのような、アンビエントなギター・インストゥルメンタル。60年代末期に行われた世界一周ヨットレースで謎の失踪を遂げたドナルド・クロウハーストに捧げられた楽曲でもあります。キム・セヴィアとのデュエットによる"Oubliette"、完全にIT BITESナンバーといえる爽快ポップチューン"Construct/Obstruct"、モダンなヘヴィ・プログレ"Are We Copies?"を経て、"Humans Being"ではブリティッシュ・ポップの大御所 ニック・カーショウがリードギターで参加。ホガースのピアノとバッキング・ヴォーカルも再び登場し、滋味あふれる絡みを聴かせてくれます。ラストはピアノとヴォーカルのみのシンプルなトラック"The Red Balloon"で切々としたムードを残して幕を閉じます。なお、スペシャル・エディションのデジパック盤には、ミックス違いの三曲のボーナス・トラックを収録。いわゆるオマケですが、エレクトロテイストを強めてさらに神秘性が増した感のある"A Godless Sea (Ocean Mix)"はなかなかユニークな仕上がり。ミュージシャンとしての面以上に、ソングライターとしてのミッチェルの魅力が遺憾なく発揮された一枚。ゲストの顔ぶれの豪華さに引っ張られることなく、歌ものアルバムとしてしっかりとした芯を通しており、ミッチェルの舵取りの見事さにも感服いたしました。



https://www.facebook.com/johnchristianmitchell

Lonely Robot『Please Come Home』 - Progstreaming
アルバムの全曲をフルサイズでストリーミング試聴可能(※期間限定)

INTERVIEW “PLEASE COME HOME” 【LONELY ROBOT】- Marunouchi Muzik Magazine
ジョン・ミッチェルへのインタビュー(日本語訳つき)

IT BITES『Map of the Past』(2012)
IT BITES「The Tall Ships」(2008)