2014年11月29日土曜日

90年代テイストに溢れた痛快なインストゥルメンタル・プログレッシヴ・フュージョン ― IVORYBOAT『Big Bounce』(2014)



作編曲やセッション・ミュージシャンなどでも活動するコンポーザー/ギタリストの荒牧賢治氏によるインストゥルメンタル・プロジェクト IVORYBOATの通産七作目となるアルバム。'99年より作編曲者/演奏家として活動しており、OVA版「piaキャロット」のエンディングテーマの作編曲や、PS2ソフト「G-SAVIOR」でのギター演奏、水谷優子さんや浅川悠さんら声優の企画アルバムの楽曲、近年では「動画戦隊アニメンジャー」などの主題歌を担当されていたようです。ソロアーティストとしては、2004年発表の1stアルバム『Don't leave the music alone』以降、約二~三年のペースで現在までコンスタントなリリースを継続。音楽的影響元にはパット・メセニーやスティーヴ・ヴァイ、ショーン・レーン、ジェフ・ベック、松本孝弘といったプレイヤーの名前が並んでおります。ギター/プログラミングは全て荒牧氏という完全ソロ体制で制作された本作は、全編に渡って爽快なテクニカル・インストゥルメンタルを聴かせる充実の内容です。オープニングを強烈にシャープな印象で飾る"Cold FusionReactor"や、"Everywhere Comes The Sun"で聴かせる、シンセサイザーの効果的なアクセントも加えたサイバーなタッチのテクニカル・フュージョン/プログレッシヴ・メタル路線のサウンドは、90年代の色合いを強く感じさせます。個人的には、かつてZOOMから発表された対戦格闘ゲーム「ゼロ・ディバイド」の楽曲を思い起こしました(同ゲームの楽曲もまた傑作の誉れ高い仕上がりです)。パット・メセニーやチック・コリアの影響を感じさせるスパニッシュな要素も加味した"Revelation" "Still Hoping"や、ヘヴィなリフとフックのある展開を盛り込んだ"Fudo" "Kid's Own Army"。また、全三楽章からなる大曲"Electric Guitar Concerto No.2"は、オーケストレーションを押し出した情景的なシンフォニック・ロックを展開しており、技巧もさることながら楽曲志向である荒牧氏のスタンスが存分に発揮されたものになっています。フュージョン、プログレ、メタル、いずれのリスナーにも相応にアピールしうる技巧派作品として、オススメしたい次第です。また、本作より一ヶ月先駆けて、過去のアルバムからの楽曲のアコースティック・アレンジでリメイクしたベストアルバムも配信リリースされています。



IVORYBOAT website

2014年11月28日金曜日

ZABADAK『桜』(1993)


桜
(1993/01/25)
ZABADAK

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〈のれん分け〉という、ZABADAKにとって大きなターニングポイントを迎えることになる'93年作品。上野洋子さんが参加した最後のザバダックのアルバムであり、彼女は同年9月のライヴをもってバンドを脱退。レコーディングも緊張と衝突の連続のなか行われ、繊細な美しさと力強いエネルギーが全編を覆った、総決算的な内容になっています。参加したミュージシャン全員がこの曲を盛り上げようと鬼気迫っていたという吉良知彦氏のコメントの通り、熱のこもった祝祭的ムードに満ちたトラッド・ポップス「五つの橋」。上野さんの透き通ったヴォーカルに絡むヴァイオリンの甘美な旋律も出色な「アジアの花」。コーラス/ヴォーカルの暖かさが際立った「マーブル・スカイ」。新居昭乃さんの幻想的な詞に導かれるように、美しさが柔らかに包み込む「Psi-Trailing」。ジュヴナイル作品のような確固たる意思を感じさせる詞が強く胸を打つ「休まない翼」(自分はこの曲が一番好きです)。宮崎民謡にザバダック流の味付けを施し、シングルカットもされた「椎葉の季節」。静かな雰囲気を湛えながら徐々に盛り上がりを見せていく長編インストゥルメンタル曲「桜」。チュッチュルルルチュッチュルルルと滑らかに歌われるコーラス、鋭く切り込むカッティングギター、菊地成孔氏の入魂のサックスソロも耳を惹く「百年の満月」。水辺にぽつりとたたずむような音の数々に思わず胸を締め付けられる「歩きたくなる径」。そしてアルバムは、黄昏時に家路につく少年の情景がフラッシュバックする「Tin Waltz」で静かに幕を閉じます。どこか望郷の念も感じさせる一枚であり、末永く聴き続けていきたい名作であります。





http://www.zabadak.net/

2014年11月27日木曜日

ZABADAK『After The Matter』(1984/2001)



 ZABADAKのフロントマンである吉良知彦氏のインディーズ時代の自主制作音源(LP)を盤起こしてCD化したもの。全8曲。この頃の作風はニューウェーヴとかギターポップの類が多かったようで、後のトラッド・ロック/ポップスなザバダックとは全く別の音世界を展開しております。ひんやりとしたシーケンスを淡々と続けるニューウェイヴ・ポップ「Barbarian」や、プログレがかった捻りを加えたギターポップナンバー「After The Matter」があるかと思えば、ギターの爪弾きにひとさじの清涼感と枯れた味わいが同居する老成したAOR/バラード「In The Twilight」「Sunday Morning」や、〈冷蔵庫を開けて男の人は生卵を飲んだ〉 〈ちくわ かまぼこ ハムの類 あればチーズも口に入れる〉 〈ポテトチップスや揚げ煎餅は ひとりの時は少しも食べたいと思わないけど 誰かが食べ始めると食べたくなる〉など、食べ物にまつわる詞が、高橋久美子さんという方のヴォーカルで眠たげというかけだるげに歌われる、生活感とユーモアに満ちた「Yoru」なんてのもあったりして、最初聴いた時は思いっきり面食らいました(笑)。また、後にZABADAKでセルフカヴァーされる「オハイオ殺人事件」「Poland」の原型も本作で聴くことができます。後のヴァージョンよりシンプルなアレンジながら、楽曲の持つしみじみとした情緒はたっぷり。人に歴史ありということを感じさせる一枚でした。ところで、ジャケットの構図はマイク・オールドフィールドの『Crises』のオマージュでしょうかね?

CrisesCrises
(2013/09/10)
Mike Oldfield

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http://www.zabadak.net/

2014年11月25日火曜日

フレンチ・ポップス界の重鎮の手腕が冴え渉る、アヴァンギャルドなガールズ・ポップス ― Jean Claude Vannier『Salades de filles』(2014)

Salade De FillesSalade De Filles
(2014/08/19)
Jean Claude Vannier ジャンクロウドバニエ

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 セルジュ・ゲンズブールやエリス・レジーナ、シルヴィ・バルタンやブリジット・フォンテーヌなど、名だたるシンガーとの作編曲仕事や数々の映画音楽を手がけ、ソロアーティストとしての活動も活発に行っているフレンチ・ポップス/シャンソン界の重鎮的コンポーザー/アレンジャーであるジャン=クロード・ヴァニエの最新アルバム。「Salades de filles(女の子のサラダ)」というタイトルからもうかがえるように、三人の女性ヴォーカルをフィーチャーした作品なのですが、長年に渡って実験的な作品を世に送り出し続けているヴァニエだけに、このアルバムも単なるガールズ・フレンチ・ポップスで終わらせるようなものではありませんでした。三人の女性のうち、Ilya BronchteinAlice Vannier(実娘)はシンガーとしての経験の浅いほとんど素人で、Laetitia N'diayeはファンク・バンドのシンガーも務めるパワフルな人材。そんな変則的な人選もまた、アルバムのカラーを少なからずユニークなものにしています。

 ヴォーカル・パフォーマンスはかなり奔放で笑い声やシャウトのみならず、"School girl's day""Ma petite philosophie"などではモノローグやエロティックな吐息、つたない口笛も頻繁に挿入されるといった具合。また、バックのサウンドはファズも効かせたいなたいエレクトリック・ギターがアクセントを与えているほか、軽快ながらもどこか気ぜわしさのあるバンジョーやマンドリン、パーカッションがあちこちで猥雑に鳴り響いております。ルーズなアンサンブルに飄々としたヴォーカルが乗る"Le cafe de la discorde"や、三人のコケティッシュなヴォーカルの個性がそれぞれはっきりとわかる"La vie en light" "Heureusement qu'on etait jolies"は、アヴァンギャルド/チェンバー・ポップとしての側面も十分です。バックバンドの面々には、ラリー・カールトンとロベン・フォードの2006年のフランス公演に参加していたギタリスト Denys Lable。デヴィッド・ボウイやルー・リードをはじめ膨大なレコーディングに参加する名セッション・ベーシストにしてプログレッシヴ・ロック・バンド SKYのメンバーでもあるHerbie Flowers。フランク・ザッパとピエール・ブーレーズの共演盤『Perfect Stranger』(1984)にも参加していたパーカッショニストのDaniel Ciampoliniといった、相応のキャリアの持ち主揃い。また、ヴァニエ自身がアコーディオン、フルート、クラヴィネットを担当しております。「老いてなお壮健」、そんな印象を十二分に感じさせるストレンジなポップスアルバムでありました。



Jean-Claude Vannier
Jean-Claude Vannier - discogs

2014年11月18日火曜日

DIMENSION、T-SQUARE、SOLID BRASSの面々の強力な演奏で仕上げられた、「マリオカート8」BGM

マリオカート8マリオカート8
(2014/05/29)
Nintendo Wii U

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任天堂の「マリオカート」シリーズも、一作目から既に二十年以上が経っており、実に息の長いタイトルになっております。シリーズ最新作である「マリオカート8」は、今年五月にリリースされたばかりでまだまだ記憶に新しい。しばらくシリーズは追っておりませんでしたが、最近ふと「8」のBGMを耳にして驚いた次第。というのも、生演奏なんですよね。しかも演奏メンバーがまたセッション/フュージョン畑からの錚々たるラインナップ。DIMENSIONとT-SQUAREとSOLID BRASSの面々が名を連ねていてさらにびっくりしました。レースゲームにフュージョン・ミュージックという組み合わせは定番ですし、グランツーリスモシリーズでのT-SQUAREメンバーの起用や、アウトランやセガラリーのアレンジCDにおけるS.S.T.BANDなど、ゲーム音楽での前例もいくつもありますが、マリオカートシリーズもパフォーマンス的なところに力を入れてくるようになったかあと、妙な感慨をおぼえました。


演奏メンバーのクレジットは以下の通り。

増崎孝司 (guitar / DIMENSION)
川崎哲平 (bass / DIMENSION)
坂東慧 (drums / T-SQUARE)
遠山哲朗 (acoustic guitar)
エリック・ミヤシロ (trumpet)
西村浩二 (trumpet / SOLID BRASS)
奥村晶 (trumpet / 渡辺貞夫ビッグバンド、熱帯JAZZ楽団etc)
村田陽一 (trombone / SOLID BRASS、渡辺貞夫オーケストラetc)
鹿討奏 (trombone)
勝田一樹 (alt sax / DIMENSION)
本間将人 (alt sax / JAM company)
竹野昌邦 (tenor sax / SOLID BRASS、山下洋輔ビッグバンドetc)
山本拓夫 (baritone sax / SOLID BRASS、渡辺貞夫オーケストラetc)
今野均 (violin)

「The Music of Mario Kart 8」(Kotaku.com)
http://kotaku.com/the-music-of-mario-kart-8-1592469987

コンポーザーの永田権太氏(マリオカートシリーズでは「64」「ダブルダッシュ」「7」も担当、ほか「どうぶつの森」シリーズ、「ゼルダの伝説 風のタクト」など)、藤井志帆さん(「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」「New スーパーマリオブラザーズ Wii」など)、朝日温子さん(「スティールダイバー」「とびだせ どうぶつの森」など)、永松亮氏(「New スーパーマリオブラザーズ Wii」など)、岩田恭明氏(「スーパーマリオ 3Dワールド」など)へのインタビュー(英文)。BGMを生演奏で収録するというのは実は今回が初の試みだそうで、サウンドディレクターも務める永田氏は「ハイクオリティのグラフィックと連動させて、よりスケール感のあるものにした」と、また、藤井さんは「ゲームミュージックの音楽スタイルとライヴ感のある音楽、双方の良さを効果的に使ってつくり上げることは挑戦だった」と語られているのをはじめ、各コンポーザーの本作のBGMに対するこだわりがうかがえます。

マリオカート64 ― オリジナル・サウンドトラックマリオカート64 ― オリジナル・サウンドトラック
(1997/09/19)
ゲーム・ミュージック

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よくよく考えると、マリオカートシリーズって、サウンドトラックがCDとして一般発売されたのは「マリオカート64」(1996)のみなんですよね。しかし市場に出回った数はそこまで多くないのもあって、現在はプレミアアイテムのひとつになってしまっています。「ヨッシーアイランド」しかり、「ドンキーコング」シリーズしかり、任天堂のゲーム作品のサントラはけっこうそういうケースが多いですが…。ちなみに「マリオカート Wii」(2008)にサウンドトラックCDが存在しますが、これはゲームが発売されてから三年後、2011年度のクラブニンテンドーのプラチナ会員の特典アイテムとして該当者に届けられたというシロモノなので、やはりプレミアアイテムであります。「8」はこれだけのメンツを揃えて録音されているのですから、できることならばサウンドトラックとしてパッケージ化して欲しいなと思うのですが、やはり難しいのでしょうかね。

◆本日配信の「マリオカート8」の「追加コンテンツ第1弾」を先行体験。懐かしいけど新しい,あのコースも走れるように! - 4Gamers.Net(2014.11.13)
http://www.4gamer.net/games/220/G022038/20141112054/

なお、先日11月13日付けでゲームの追加ダウンロードコンテンツがリリースされ、八つの新コースのために八曲のBGMが用意されました。同日、任天堂の公式YouTubeチャンネルでそのうち三曲 "ドラゴンロード" "ミュートシティ" "ハイラルサーキット"の演奏映像がアップロードされております。"ドラゴンロード"はオリエンタルなフュージョン・チューン。後者ふたつはそれぞれF-ZEROの"Mute City"、ゼルダの伝説シリーズのメインテーマのアレンジです。なお、こちらの演奏メンバーは増崎孝司(g) 川崎哲平(b) 則竹裕之(ds) 本間将人山本拓夫(sax) ルイス・バジェ(tp) 篠崎正嗣(vln)といったラインナップ。








2014年11月15日土曜日

内田雄一郎、三柴理、長谷川浩二によるテクニカル・トリオ ― Thunder You Poison Viper『You!』(2014)

you!you!
(2014/10/15)
ThunderYouPoisonViper、内田雄一郎 他

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 内田雄一郎(b)、三柴理(kbd)、長谷川浩二(ds)、筋肉少女帯のメンバーとして、もしくはレコーディングメンバーとして活躍する三名によるテクニカル・トリオ Thunder You Poison Viperの初のフルアルバム。結成は数年ほど前までさかのぼり、スタジオでのセッションが高じてこのアルバムのレコーディングにまで至ったのとのこと(その少し前の2008年には、Rolandのイベントで長谷川氏と三柴理氏のデュオ編成による実験ユニットのライヴがあったりもしましたが)。ライヴもこれまで複数回行っており、そこではTHE金鶴(三柴理/佐々木貴/Clara)や新東京正義乃士(三柴氏の初期のバンド)のレパートリーのほか、YMO、山口百恵、THE DOORS、山口隆夫とセルスターズのカヴァーなども演奏しております。息抜き的なバンドということでおおらかな空気は感じますが、プレイヤーはいずれも実力者揃いなので、多分にストロングなパフォーマンスが炸裂しております(特に長谷川氏はスキさえあれば手数を増やしたりドコドコとツーバスを踏んでるような気も)。

 アルバムの楽曲はメンバーがそれぞれ持ち寄ったオリジナル曲と、空手バカボン/筋肉少女帯時代から幾度となくリメイクが繰り返されてきた"孤島の鬼"ザ蟹(三柴理/塩野道玄)が手がけたOVA版「戦闘妖精雪風」のサウンドトラックより"Engage" "零のテーマ"、そしてプログレッシヴ・フュージョン・バンド ExhiVision(難波弘之/和田アキラ/永井敏己/長谷川浩二)の胸に迫るインストゥルメンタル・バラード"Life"といった、メンバーが在籍している(していた)バンドのレパートリーのカヴァーも含む全8曲。ヴォーカルはありませんが、部分部分でコーラスが入り、妙なユルさを醸し出しています。内田氏の作曲による、アコースティック・ピアノとヘヴィなリズムが交錯する"ユー!"での威勢のよい「サンダー!ユー!」の掛け声(どうやら長谷川氏のお弟子さんによるものだそうで)や、"孤島の鬼"での「よいしょ よいしょ」という謎の挿入は頭にこびりつきます。長谷川氏の作曲による"Politician"は、トリッキーなリズムの上を三柴氏のピアノが縦横に走り回る複雑にして軽快な一曲。三柴氏の作曲による"戦え!サンダーユー"は、タイトルよろしくトリオのテーマソングといった出色の鍵盤プログレッシヴ・ロックで、筋肉少女帯の"夜歩く"や特撮の"ヤンガリー"を彷彿とさせる一面も。三柴氏の無駄に大仰なマッチョ・コーラス(?)も飛び出します。ラストを飾る"ホワイトチョコレート"は、'84年の楽曲。当時、内田氏が自主制作映画のために書き下ろしたものを三柴氏が編曲したものの、映画自体がポシャってしまったのでお蔵入りになってしまったというシロモノで、ザ蟹の'01年発表のアルバム『サウンドギャラリー』で一度リメイクされております。シンセサイザーによるレトロなイメージの小品曲という印象だったザ蟹版とはまた趣を変え、トリオ版はセンチメンタルな情感をたっぷりと感じさせる静かなインストゥルメンタルに仕上がっています。



YUKIKAZE OP -Thunder You Poison Viper-
http://youtu.be/KbekVaEs9U8
ライヴ映像です。


THUNDER YOU POISON VIPER INFORMATION

2014年11月14日金曜日

ルーマニア、ブラジル、韓国、インドネシアなどのサイケ/フォーク/プログレ系カタログを再発するドイツの謎のレーベル Granadilla Music

bandcampを巡っていると、いろいろと珍盤/レア盤の再発案件に出くわしたりすることもあるのですが、最近(今年?)設立されたGranadilla Musicというドイツの再発専門レーベルのbandcampアカウントが、興味深いカタログ群のリリースを行っております。そのラインナップをご紹介。ほとんどのカタログが来たる11/25にCDとLPで再発される予定(ダウンロードでは既に配信販売されています)。


フルート奏者も擁するルーマニアのプログレッシヴ・ロック・バンド PROGRESIV TMの'73年発表の1stアルバム『Dreptul De A Visa』。BLACK SABBATHやJETHRO TULLからの影響を感じさせるドグサレ系ヘヴィ・ロック サウンドです。




3月にCD/LPともに500枚の限定盤でリリースされている、'72年結成のブリティッシュ・フォーク・バンド SILVER BIRCHが'73年に発表した同名のアルバム。MELLOW CANDLEやGRYPHONに通じる穏やかな作品です。




ブラジルのプログレッシヴ・フォーク・ユニット Quintal De Clorofila が'83年にリリースした恐らく唯一のアルバム『O Mistério Dos Quintais』。南米音楽とケルト音楽の要素をミックスしたようなハイブリッドなフォーク・サウンドを聴かせるユニークなユニットです。




ポルトガルに同名のペイガンメタルバンド(解散済)がおりますが、それとは別物。こちらはペイガンフォーク/アメリカーナのシンガー グウィディオン・ペンダーウェンの'81年のアルバム『The Faerie Shaman』




'77年に結成され、'08年まで活動していた韓国のガレージ・ロックバンド San Ul Lim (산울림) の’77年発表の1stアルバム『The First (제1집) 』。ファズギターや憂いを帯びたヴォーカルも効いたガレージ・ロック/サイケデリック・ポップスを聴かせます。




60年代末期から70年代中期にかけて活動したインドネシアのサイケデリック/ガレージ・ロック・バンド AKA(Apotik Kali Asin)。'70年発表の1stアルバム『Do What You Like』が3月にリリースされているほか、'74年発表の5thアルバム『Reflection』が11月にリリースされる。欧州のロックからの影響をダイレクトに反映させたサウンド。





2014年11月11日火曜日

チップチューン×プログレッシヴ・デスメタル 驚愕の悪魔合体アルバム ― Norrin Radd『Anomaly』(2010)

Norrin RaddことMatt Creamerはアメリカのインディーズレーベル「II MUSIC (PAUSE)」を拠点として、コンピレーションの楽曲提供やアルバムのリリースを行っているカナダ・バンクーバーのコンポーザーです。ちなみにNorrin Raddという名前はマーベルコミックスの「ファンタスティック・フォー」に登場するシルバーサーファー(後に単独シリーズ化)の本名に由来するもの。Matt氏の作曲活動はおそらく十代のころから始まっており、2002年から2007年にかけて氏が制作した8bit曲をまとめたアルバム『Melodia di Infinita』(2007)でソロデビュー。同作は18分に及ぶ大作メドレーも収録したアルバムであり、若き才気のほとばしりも感じさせる内容です。

『Melodia di Infinita』(フリーダウンロード作品)

http://www.iimusic.net/catalog/2007/08/melodia-di-infinita


2010年には魂斗羅4の海外勢によるアレンジアルバム『Rocked 'n' Loaded』にも参加。オリジナル作曲者のひとりであるvirtことJake Kaufmanを筆頭に、SnappleMan、ARMCANNONのDanimal Cannon、Prince of DarknessことTony Dickinson、norgといった面々と共演しています。




そしてその一ヶ月後にリリースされたのが、今回のメインタイトルに上がっているこの『Anomary』。死と再生をトータルコンセプトにしたアルバムです。NES由来のチップチューンサウンドにグロウル/スクリーム ヴォーカルを載せる悪魔合体的アイデアをやってしまったのが本作であり、その着想はいたってシンプルながら激烈なインパクトを持って聴き手に一撃をかましてくれます。なお、"Proton Decay"はドイツのプログレッシヴ・メタル・バンドであるDisillusionの"And The Mirror Cracked"のちょっとしたカヴァーも含む1曲。また"Spinning"はノルウェー屈指のプログレッシヴ・メタル・バンド SPIRAL ARCHITECTの同名曲の丸ごとチップチューンカヴァーとなっています。




その後、2012年にはVblank Entertainmentの2Dアクションゲーム「Retro City Rampage」のサウンドトラックをvirt、Freaky DNAとの競作で制作。2013年4月にはロシアのチップチューンレーベル Ubiktuneからリリースされた、チップチューン特化のインターネットラジオ「Noise Channel Radio」の企画コンピレーションアルバム『Noisechan & Nugget: Adventures in Chiptunes』(name your price)に参加。同月にはMatt氏が初めて全楽曲を担当することになった、FDG Entertainment開発のiOS用2Dドットアクションゲーム「Slayin」のサウンドトラックもリリース(name your price)されています。NESサウンドによるメロディアスなチップチューン揃いの一枚。







そして先月10月21日には、Savory Games開発のiOS用ターン制ストラテジーゲーム「Swap Heroes」のサウンドトラック(name your price)がリリース。氏の二作目の単独サントラ作品であるこちらはスーパーファミコンサウンドを基調にした壮大かつファンタジックな雰囲気の楽曲をメインに仕上げられております。



http://mattcreameraudio.com/

2014年11月6日木曜日

百石元『ねこひきのオルオラネ オリジナルサウンドトラック』(1992)

 現在は音楽マネージメント/プロダクション会社 F.M.Fに所属するコンポーザー/アレンジャーである百石元氏。80年代は杏里や松田聖子、少年隊などでサポートギタリストとして活動し、90年代以降は自身のユニットであるEUCLID PRYMEでの活動やJ-POPの編曲なども手がけられ、近年では「けいおん!」や「GJ部」、現在放送中の「繰繰れ!コックリさん」、来年頭に放送を控えている「冴えない彼女の育てかた」といったアニメ作品の劇伴やキャラクターソングでより広くその名が知られるようになりました。氏の引き出しは実に幅広く、「けいおん!」での劇伴仕事は特にそれが顕著にうかがえるものでしたが、氏がこれまでに培ってきたキャリアをみればそれもなるほどとうなづけるものであります。

ねこひきのオルオラネねこひきのオルオラネ
(1992/10/25)
アニメ・サントラ、ラバート・サミュエルズ 他

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 百石氏は、80年代末期と90年代の初頭に二枚のサウンドトラック作品を残しております。前回では'88年にリリースされた「小山荘のきらわれ者」のイメージアルバムをご紹介しましたが、今回は'92年にリリースされた「ねこひきのオルオラネ」のOVA版のサウンドトラックをご紹介いたします。原作は夢枕獏氏がデビューして間もない'79年に集英社コバルト文庫より刊行された現代ファンタジー小説('96年にハヤカワ文庫で『猫弾きのオルオラネ 完全版』として連作短篇集として再刊。現在はクリーク・アンド・リバー社より「猫弾きのオルオラネ」「そして夢雪蝶は光のなか」の二短篇がkindleで入手可能)。「猫を弾く」という老楽師のオルオラネ爺さんと彼の猫たちと出逢った人たちとの交流を描いた短篇で、この後に夢枕氏が発表されていく「キマイラ」「サイコダイバー」「餓狼伝」などのシリーズでのヴァイオレンス/伝奇路線とはまったく趣を異にしたロマンティックな傑作であります。ちなみに、OVAは監督:西久保瑞穂氏/脚本:関島眞頼氏、キャストには関俊彦氏、銀河万丈氏、林原めぐみさん、中博史さん、折笠愛さんを迎えて制作されておりました。

猫弾きのオルオラネ猫弾きのオルオラネ
(2013/12/24)
夢枕 獏

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 サウンドトラックのほとんどの作編曲は百石氏によるもの。クリスマスの前後の時期を舞台にしているため、サウンドも冬の澄んだ空気を感じさせるかのような仕上がり。アコースティック・ギター、ストリングス、サックス、アコーディオンなどの暖色系の音色を交えたインストゥルメンタルと、LAVERT SAMUELSNADINE COLLINSの両氏が歌い上げる、アダルティーな魅力を満載した主題歌/挿入歌"Hearts in Harmony" "River of Time"(作詞でクレジットされているRALPH McCARTHY氏は「うる星やつら」の後期主題歌の作詞を手がけた人でもあります)を収録しています。「小山荘のきらわれ者」のイメージアルバムではロック・ギタリストとしての側面も幾分強かった百石氏でしたが、本作の前年にプライベート・スタジオを自宅に構え、セッション・ミュージシャンからスタジオ・レコーディングに活動の比重を高めていったということもあってか、コンポーザーとしての力量をより一層発揮したものになっているのも興味深いポイントになっています。ファンタジックなシンセサイザー・インストゥルメンタル"幻想"や、まさにクリスマスソングな趣の"クリスマス"、スティールパンの響きがユーモラスな興趣を添えた"猫のテーマ"といった落ち着きのある楽曲のなかでも白眉なのは"街外れの出逢い"。ワルツのリズムを奏でるアコーディオンにのせて、シンセとヴァイオリンの旋律の絡みが胸を締め付ける珠玉の1曲です。



 全体的に非常にクオリティが高く、後の百石氏のブレイクをも予感させるに十分な内容となっております。また、演奏メンバーにはLOOKの山本はるきち氏、AIKE BANDの池頼広氏(今ではドラマ「相棒」シリーズのスコアなどで超売れっ子コンポーザーですね)、80年代末期のSENSE OF WONDERにもドラムスで参加していた小森啓資氏の名前も見られます(今になって考えてみると、KENSOの初代ドラマー(山本氏)と三代目ドラマー(小森氏)がクレジットされているということでもあるなあと)。余談ですが、山本氏は自身が関わった作品のなかで本サントラをオススメの一枚として挙げております。

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1. 幻想 (作編曲:百石元)
2. クリスマス(作編曲:百石元)
3. 街外れの出逢い(作編曲:百石元)
4. オルオラネのテーマ(作編曲:百石元)
5. 猫のテーマ(作編曲:百石元)
6. Hearts in Harmony(作詞:RALPH McCARTHY/作編曲:百石元/歌:LAVERT SAMUELS)
7. River of Time(作詞:RALPH McCARTHY/作曲:石川Kanji/編曲:百石元/歌:NADINE COLLINS)
8. River of Time [Instrumental Version](作曲:石川Kanji/編曲:百石元)
9. 感動(作曲:石川Kanji・澤謙/編曲:百石元)


[POCH-2035/1992.10.25]

Sound Produced by 澤謙
Arranged / Computer Manipulated by 百石元
Words and Written by RALPH McCARTHY
Translate by MARIE COCHRANE
Producer 石田登

NADINE COLLINS(vocal/backing vocal)
LAVERT SAMUELS(vocal)
WANDA CATON/BRUCE BUTLER/KAREEM SHABZZ/MICHAEL CAMPHOX(backing vocal)

小森啓資(drums)
池頼広(bass)
百石元(guitar)
吉川忠英(accoustic guitar)
勝又隆一/山本はるきち(keyboards)
松田幸一(harmonica)
風間文彦(accordion)
元井信(violin)
久保田明宏(cello)
松岡陽平(viola)
Keizo Kamekawa(sax)




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AYA‐時間を紡いで‐AYA‐時間を紡いで‐
(1993/12/21)
久川綾

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 さらに余談になりますが、サウンドトラックの翌年の'93年にリリースされた久川綾さんの1stソロアルバム『AYA‐時間を紡いで‐』には、山本はるきち氏と百石元氏の両氏がほとんどの楽曲の作編曲に参加されています。"Voice in the Paradise" "月の夜に"の二曲は、作曲:百石元/編曲:山本はるきちのタッグで制作されたもので、往年のLOOKもかくやといった感のあるAORナンバーであります。



百石元『小山荘のきらわれ者 オリジナルアルバム』(1988)

サウンドクリエイター 百石 元 インタビュー
オリジナルビデオ アニメ ねこひきのオルオラネ - allcinema

百石元 - F.M.F CREATORS
F.M.F - Wikipedia
夢枕獏 - Wikipedia

2014年11月3日月曜日

百石元『小山荘のきらわれ者 オリジナルアルバム』(1988)

小山荘のきらわれ者小山荘のきらわれ者
(1988/2/5)
なかじ有紀/百石元 他

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現在は音楽マネージメント/プロダクション会社 F.M.Fに所属するコンポーザー/アレンジャーである百石元(ひゃっこく・はじめ)氏。80年代には杏里や松田聖子、少年隊などのツアーでのサポートギタリストとして活動し、90年代以降は自身のユニットであるEUCLID PRYMEでの活動やJ-POPの編曲なども手がけられ、近年では「けいおん!」や「GJ部」、現在放映中の「繰繰れ!コックリさん」といったアニメ作品の劇伴でより広くその名が知られるようになりました。氏の引き出しは実に幅広く、「けいおん!」の劇伴仕事は特にそれが顕著にうかがえるものでしたが、培ってきたキャリアをみればそれもなるほどとうなづけるものであります。そんな百石氏ですが、80年代末期と90年代の初頭にメインコンポーザーとなって制作した二枚のサウンドトラック作品を残しております。今回紹介するのは'88年に発表されたこちら。なかじ有紀さんの代表作のひとつである漫画作品「小山荘のきらわれ者」(白泉社LaLa連載)のイメージサウンドトラックであります(原作はつい最近、続編の「リターンズ」の連載がスタートしておりますね)。ちょうど連載が半ばを迎えた頃にリリースされた作品です。

小山荘のきらわれ者 1 (白泉社文庫)小山荘のきらわれ者 1 (白泉社文庫)
(2014/08/29)
なかじ有紀

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全曲の作編曲を百石氏が担当しており、全11曲中6曲を歌ものが占めているあたりも、力の入りようがうかがえます。女性ヴォーカルで曲はアイドル歌謡的方向性も示しつつ、全体的にしっかりとしたシティ・ポップ/AORサウンドで仕上がっており、百石氏がサポートギタリストとして関わられていたL3C(LOOK LONESOME LANE CLUB)に通じるキャッチーでメロディアスなエッセンスが随所で滲み出ております。なかじさんのライナーノーツでも言及されていますが、甘いヴォーカル/コーラスワークの聴ける"Wink! Wink!"はとても少年隊ライクな1曲。ちなみにこの曲と"Slow Stepでキメてくれ"は、百石氏みずからヴォーカルをとっており、氏の肉声が聴けるという意味では貴重な(?)楽曲とも言えるのではないでしょうか。ブロマンス全開な詞が耳を惹く"Slow Stepでキメてくれ"は爽やかなポップチューン。インスト曲もしっかりとキャラが立っており、"Welcome To The Boarding House Koyama" "Bad Boys"で聴けるギターパートは流石の一言です。



ちなみに、四曲に作詞で参加されている真名杏樹さんは戸川純さんの"極東花嫁"や"ラジャ・マハラジャー"の作詞家(この後BEGINや岡本真夜さんなどへも作詞提供をされ、近年ではMay'nや野水いおりさんの楽曲でもお見かけします)。また、石岡美紀さんはこの後シンガーソングライターとして活発な活動を展開され、現在はフラメンコ舞踏家としての顔も持つお方。二曲で大人びた歌唱を聴かせた伊東じゅんさんは本作がデビューとなったそうですが、本作以外でクレジットが確認されているのは、同年にフューチャーランドからリリースされた西村しのぶ原作の「サード・ガール」のイメージアルバムのみです。


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『小山荘のきらわれ者 オリジナルアルバム』

1. Welcome To The Boarding House Koyama
2. Stand by your chance!
3. Feelin' Good
4. すみれ色のワンピース
5. Wink! Wink!
6. Bad Boys
7. 発熱ハレーション
8. 涙のCongratulation
9. Slow Stepでキメてくれ
10. たった一つのQuestion
11. Everything Alright!

[LD32-5064/1988.2.5]

作編曲:百石元(全曲)
作詩:真名杏樹(②④⑦⑩)/實川翔(⑤⑨)
歌:伊東じゅん(②⑦)/石岡美紀(④⑩)/百石元(⑤⑨)

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サウンドクリエイター 百石 元 インタビュー
音楽視点で見る「けいおん!」の世界1~「映画けいおん!」BGMの元ネタ集あれこれ - 忘れられた庭の静かな片隅-Forsaken Gardens-

百石元 - F.M.F CREATORS
F.M.F - Wikipedia