2014年7月31日木曜日

アドベンチャー・ゲーム版「ニューロマンサー」の世界 ― 『Neuromancer』(Interplay Productions/1988)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
(1986/07)
不明

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先日のニュース。

「William Gibson: the man who saw tomorrow」 - the guradian
http://www.theguardian.com/books/2014/jul/28/william-gibson-neuromancer-cyberpunk-books

ウィリアム・ギブスンの代表作であり、「サイバーパンク」というジャンルを生み出した記念碑的作品『ニューロマンサー』。1984年の7月1日に刊行されてから、今月でちょうど30年を迎えました。乱雑で猥雑でギラギラしたヴィジョンを喚起させる世界観と、眩暈を覚えるヤバいスピード感は、テクノロジーが発達した今なお、理屈抜きで読み手をハイにさせてくれます。チバ・シティは今もなお、おっかない街です。ギブスンも今年で66歳、もう一方のサイバーパンクの雄 ブルース・スターリングも今年で還暦を迎えました。サイパーパンク・ブームが発展的解消を迎えて久しいですが、同ジャンルが見せた眩いヴィジョン、そして「電脳」という概念は、テクノロジーの発達とともにすっかり人口に膾炙したといっても過言ではありません。改めて、時代の流れを感じさせます。



さて、そんな『ニューロマンサー』ですが、メディアミックスは早々にされており、1988年から90年代初頭にかけて、AMIGAやCommodoe 64などのハードでアドベンチャー・ゲームがリリースされております。販売はMediagenic(現:Activision)、開発は、後に「バルダーズ・ゲート」「DESCENT」、「Fallout」シリーズの第一/第二作目を手がけるInterplay Entertainment。同社の創設者であるBrian Fargoがプロデュースを手がけておりました。オープニング画面で流れるBGMは、DEVOの"Some Things Never Change"のカヴァー。原曲は、ゲームと同年にリリースされたアルバム『Total Devo』の1曲。







ちなみに、心理学者にしてサイケデリック・カルチャーの伝道師であり、サイバーパンク・ムーヴメントとの関わりも深いティモシー・リアリーも、80年代に『ニューロマンサー』のゲーム化を画策していたんだそうです。これは昨年の記事なのですが、実に興味深い内容です。「キース・ヘリングのグラフィック、DEVOの楽曲、ヘルムート・ニュートン撮影の写真、ウィリアム・バロウズの脚本」という布陣で製作を行う予定でありながら、お蔵入りとなった"Keith Haring's Neuromancer"について触れられています。

「ニューヨーク公共図書館がティモシー・リアリーの未完成ビデオゲームと驚きの資料を発見、一部デモの展示も」
http://doope.jp/2013/0929984.html ( from doope.jp)


Neuromancer for Amiga - MobyGames
Neuromancer: Box and Manual Scans - Commodore 64 box sets
Neuromancer(video game) - Wikipedia
Interplay Entertainment - Wikipedia

2014年7月24日木曜日

「デューン」の名を冠したカルトなフレンチ・チェンバー・ロック・バンドの唯一作 ― DÜN『Eros』(1981)

エロス(紙ジャケット仕様)エロス(紙ジャケット仕様)
(2012/07/25)
デューン

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'70年代末から'80年代初頭にかけて活動したフランスのチェンバー・ロック・バンド DÜN (デューン)。アルバムは'81年に発表された『Eros』1枚のみですが、同作はRock In Opposition(R.I.O)の流れも汲んだ緊密な楽曲と演奏を繰り広げるZEUHL/チェンバー・ロックの傑作であり、オリジナル・リリースから約20年後の'00年にリイシューされたことでカルト的に注目が集まりました。バンドの母体となったのは、音楽学校の生徒を中心として'76年に結成されたVEGETALINE BOUFIOLなる五人組バンドであり、後に中核メンバーとなるLaurent Bertaud(ds)とPascal Vandenbulke(fl)の二人の名前があります。その後、しばらく活動を経てKAN-DAARと改名。このバンドはMAHAVISHNU ORCHESTRAやMAGMA、フランク・ザッパ影響下のジャズ・ロックを演奏していたそうですが、Laurentが大いに影響を受けていたHENRY COWのエッセンスが徐々にバンドにもたらされていくことになります。その過程で劇的なメンバーチェンジがあり、Jean Geeraerts(g)、Bruno Sabathe(kbd)、Alain Termol(perc)、Thierry Tranchant(b)、Philippe Portejoie(sax)の五名を加えた総勢七人の編成となります。それに伴い、バンド名も再度改名。フランク・ハーバートのSF小説「デューン/砂の惑星」を由来とするDÜNが晴れて誕生します。'78年から'81年頃にかけて、国内の様々な場所で40回ほどライヴを行ったそうで、その頃に、影響元のひとつであるMAGMAの前座を務めたこともあったとか。ちなみに、Pascal氏はライヴでは"gruyèrophone"という、スイスチーズのような形状をした? オリジナル管楽器を使用していたそうです。



Philippe Portejoieはほどなくして脱退してしまうものの、自主レーベルより1000枚のプレスで'81年の夏頃にリリースされたこの『Eros』は、7~10分ほどの楽曲を4曲収録した作品。そのうちの2曲は"Arrakis"(惑星アラキス)"L'epice"(香料メランジ)と、「デューン」に登場する事物にちなんだタイトルになっています。楽曲自体はKAN-DAAR時代に書かれたものであり、後の再発盤では'78年に録音されたプロトタイプ・ヴァージョンも聴くことができます(この音源ではPhilippeのサックス・プレイも聴けます)。フルートやマリンバも前面に押し出し、カンタベリー・シーンからの影響も伺わせる端整なジャズ・ロックから、おっかなびっくりで強迫的なチェンバー・ロックを行き来するDÜNのサウンドは、軽快ながらピリっとした緊張感が全体を覆っており、一瞬たりとも気の抜けないもの。とりわけ"L'Epice"の終盤や、"Arrakis"の中盤で聴くことができる、執拗な反復も交えての、堰が切れたかのような凶暴な豹変ぶりにはゾクゾクさせられます。ピアノやベースが反復フレーズを繰り出しながら加速度を増してゆくというのはまさにMAGMAのそれです。"Bitonio"は、全体を引っ張るヘヴィなベースと、ユーモラスな表情を見せるマリンバのプレイを中心とした1曲。ラストの"Eros"は10分を超えるアルバム最長の1曲。"L'epice"のリプライズも交えながら、ダイナミックなバンドアンサンブルで大団円を迎えます。決して大作志向ではありませんが、神がかった瞬間が何度も訪れる、そんな印象がいたします。



アルバムのエンジニアは、UNIVERS ZEROやART ZOYD、フレッド・フリス等も手がけたEtienne Conod。レコーディングはスイスにある彼のSunrise Studioで行われています(ちなみに、このスタジオはUNIVERS ZEROの名盤『Heresie』『Ceux Du Dehors』が生まれた場所でもあります)。2010年に、PRESENTのUdi KoomranがEtienne Conodへインタビューを行った記事がこちら。興味深い内容です。

「Etienne Conod Interview」
http://udi-koomran.blogspot.jp/2010/01/etenne-conod-interview.html

'82年にパーカッション担当のAlainとベース担当のThierryが脱退し、より即興ジャズ色を強めた音楽性にシフトしたそうですが、数回のライヴを行ったのみで、'83年に解散してしまいます。メンバーのほとんどはその後も何らかの音楽活動を続けており、Bruno Sabathe氏は、40年以上に渡って活動するブルターニュの重鎮フォーク・ロック・バンドであるTRI YANNの80年代中ごろのライヴ・アルバム『Anniverscène』でクレジットが確認できました。Jean Geeraerts氏は、現在は自身のジャズ・トリオや、ラテン・ミュージックのグループなどで活動されているようです。Pascal Vandenbulke氏は、80年代のMAGMAにギタリストで参加していたJean-Luc Chevalierが'85年にリリースしたソロアルバムにクレジットされております。現在はジャズ方面で活動中だそうで、幾度となく来日もしているピアニスト Didier Squiban率いるトリオのメンバーとしてフルートをプレイされています。Laurent Bertaud氏の動向ははっきりとわかりませんが、フランスで製作されたCGアニメ版「ガーフィールド」の劇伴を手がけたコンポーザーが彼と同姓同名であり、同一人物なのかが気にかかるところです(現在、50代半ばだそうなので、本人という可能性も否定できません)。また、DÜNのアルバム・エンジニアであったGilles Moinard氏は、この後ETRON FOU LELOUBRANのエンジニアとして、バンドが解散するまで携わることとなります。

Pascal Vandenbulke氏が参加しているDidier Squiban Trioのライヴ映像。


DÜN Biography (Soleil Zeuhl)
DÜN - Prog Archives
DÜN - discogs
デューン(小説) - Wikipedia

さて、「デューン」といえば、ディノ・デ・ラウレンティス/デヴィッド・リンチによる映像化のさらに前に、製作が頓挫してしまったアレハンドロ・ホドロフスキー版「デューン」がありますが、これがもし完成していたとしたら、劇伴をPINK FLOYDやMAGMAが手がける予定だったそうなので、そういう意味でも惜しまれますね。ドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』は、先月から日本でも公開されていますが、公開が終了する前に一度は観に行きたいものです。

映画『ホドロフスキーのDUNE』公式サイト
http://www.uplink.co.jp/dune/

2014年7月21日月曜日

素性不明、方向性不明、中毒性高し。謎が謎と謎を呼ぶプログレ・アーティスト Terrible Thing

bandcampを漁っているとヘンな作品もチラホラと見つかるのですが、その中でも最近特に引っかかったのがこのTerrible Thing(アメリカのオルタナティヴ・ロック・バンド Terrible Thingsとは全く別モノ)。恐らくはソロ・ユニットだと思われるのですが、bandcampには公式サイトやfacebookなどのリンクもなく、プロフィールの記載を見ても素性がほとんどわかりません。楽曲のタグに「Vancouver」と付いているところから、カナダ出身ではないかというのがかろうじて推測できるくらいです。bandcampで作品を発表し始めたのはどうも最近らしく、2007年から現在に至るまでのアルバム/楽曲が、いずれもname your priceで立て続けにアップロードされております。その音楽的方向性は毎回異なっており、フォーク、スペース・ロック、プログレッシヴ・ロック、ミクスチャー・ロック、テクノ、エレクトロと節操がないところもますますミステリアスさに拍車を掛けております。というわけで、そんなTerrible Thingの全作品を軽く紹介してみたいと思います。




2007年1月にリリースされたという、bandcampに上がっている彼のディスコグラフィの中では最古の作品。その名も「イカLP」。DTMソフトのgaragebandで作曲された、スットボけたカントリー・フォーク路線のシンプルで小気味の良い歌ものが中心。一応コンセプトアルバムだそうで、深海を冒険した一人の男について歌っているようです。



2014年6月18日リリース。抽象的な歌詞に彩られた、60~70年代のクラシックなロック/ポップス テイスト溢れる1曲。



2014年6月18日リリース。現在制作中だというアルバム『Journey to the Centre of Zorn』の最後の曲だそうで、ファンキーかつユーモラスなプログレッシヴ・インストゥルメンタル。なかなか秀逸。



2014年6月23日リリース。マイルドさと厚みのあるコーラスワークもたっぷりと活かしたピアノ・ロック・チューン。



2014年6月23日リリース。少女シモーネについて歌った1曲? ちょっと気持ち悪いコーラスワークと、サビのフレーズがこびりついて離れない、絶妙な味のある1曲。



2014年6月23日リリース。8bit風サウンドのパート1、カントリー・テイストのパート2から構成される、宇宙飛行士を歌ったヘンな曲。もしかしたらデヴィッド・ボウイの名曲"Space Oddity"へのリスペクトなのでしょうか。


2014年6月24日リリース。フランク・ザッパ影響下のポップ・センスも如実に出ているミクスチャー・ポップ&ロック。



2014年6月26日リリース。MJリスペクトな感もある、エレクトロ・ファンク。アーバンなムード…とは微妙に言いづらい。



2014年6月26日リリース。ツヨイ・カタナを煌かせ、武士道を貫く神秘的なサムライ・ウォリアー ユーコ=サンを称えたジャポニズム溢るる1曲。厳かなアカペラのイントロから一転してのチャカチャカと軽快な曲調もさることながら、若干日本語っぽく歌っているように聴こえるのが妙にツボです。Terrible Thingの楽曲の中でもとびっきりの珍曲であるのは間違いないと思います。Why did she have to swallow my berries whole?…ってラストの一説が意味深。



2014年6月26日リリース。GENTLE GIANTやKESTRELなどの70年代ブリティッシュ・プログレに接近したかと思ったらフランク・ザッパみたいになる宇宙的1曲。やたらタイトルが長いのですが、直訳すると「極微の生体力学的生物の破壊に関連する変容」。プログレっぽいですね。



2014年6月27日リリース。チューバッカについて歌ったトリッキーなヘヴィ・プログレ・チューン。ヴォーカル/コーラスのメロディラインがフランク・ザッパっぽさもあります。この曲には2つの音楽的テーマを内包しているそうで、2つ目は少し探すのが難しいのだとか。ヒントはケヴィン・スミス(映画監督/脚本家)だそうですが、自分にはよくわかりません。



現時点(2014年7月)現在最新の曲。何から何までチープなインスト・チューン。これまでの曲とは趣向を変えたそうで、言うなれば"Shanghai Bicycle Chase"みたいなもの、だそうな。ますます意味がわかりません。


Terrible Thing - bandcamp

2014年7月17日木曜日

いろいろあって、結成45周年 ― YES『Heaven&Earth』(2014)

ヘヴン&アース(初回限定盤)ヘヴン&アース(初回限定盤)
(2014/07/16)
イエス

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言わずと知れたプログレッシヴ・ロック界の重鎮バンド イエスの、結成45周年記念となる、通産21thスタジオ・アルバム。健康上の問題で2012年に脱退したベノワ・ディヴィッドの後任として加入したGLASS HAMMERのジョン・ディヴィソンを擁する編成での初のアルバム。プロデューサーは、全盛期のQUEENのアルバムを手がけたことでも知られる ロイ・トーマス・ベイカー。ライナーノーツには「YESとロイ・トーマス・ベイカーというこれまで接点がない組み合わせ」とありますが、実ははるか以前に一度接点があります。ジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハウ、クリス・スクワイア、リック・ウェイクマン、アラン・ホワイトの5人がアルバム『Tormato』リリース後の'79年にパリで行ったセッションの際に、プロデュースを請け負ったのがロイ・トーマスなのです(ちなみにこのセッションは失敗し、ジョンとリックはほどなくしてバンドを脱退。そしてこの時の音源の一部は、翌年のアルバム『Drama』の楽曲の原型となります)。ということは、今回のアルバムで実に35年ぶりの邂逅となったわけですね。また、YES本隊から離れた話になりますが、ロイ・トーマスは、YESフォロワーとして70年代に精力的に活動したアメリカのプログレッシヴ・ロック・バンド STARCASTLEの2nd、3rdアルバムのプロデュースを手がけてもいます。

ひょっとして、今作はSTARCASTLEのようなものになるのかしら…? と、ちょっと思ったりもしましたが、当然ながらそんなことはなく、クリスのゴリゴリなベース、ハウのとろけるギター、ヘヴンリーなメロディと、オリジネイターはオリジネイターでありました。名前もオックリなら声質もジョン・アンダーソンにソックリというジョン・ディヴィソンのヴォーカルは再現性という意味でもパフォーマンスという意味でもよくやっていると思いますし、一部の楽曲でアコースティック・ギターもプレイ。さらには作詞や、共同作曲者の一員として全面的に関わっており、クリスも彼の才覚と仕事ぶりとにはいたくご満悦のようです。"『Drama』の続きを!"だった前作『Fly From Here』で見られた気負いはすっかりないですし、シンプルでメロディの良い歌ものを揃えたという内容で、肩肘張らずに聴けるアルバムだなという印象を感じました。ヘヴンリーなヴォーカルとハウのギターに彩られた"Believe Again"は、アルバム冒頭にふさわしいフワフワとハートウォーミングな仕上がり。クリスとディヴィソン、かつてクリスが在籍していたThe Synの元メンバー ジェラルド・ジョンソンの三名による共作曲"The Game"は、90年代期のポップなYESを思わせる1曲。"To Ascend""Light Of The Ages"など、今回はゆったりとしたバラードナンバーが多いのも特徴的です。加えて、往年のブリティッシュ・ロックなテイストを感じさせる、スクワイア作曲によるウェットな歌もの"In A World Of Our Own"や、「大きな古時計」のメロディもさらっと織り込まれたハウ作曲の"It Was All We Knew"といった、親しみやすいメロディを軸にした楽曲も耳を惹きます。アルバムを通して、スロウな時間の経過を追体験しているような、そんな気分になります。ラストの"Subway Walls"は、90年代の『Aria』の頃のASIAみたいな曲だなと思いました。ジェフ・ダウンズはシンセのストリングスでのこういう盛り上げ方がホント好きだなと改めて感じた次第です。

当初はロイ・トーマスがアルバムのミックスの方も担当していたのですが、こちらは最終的にビリー・シャーウッドが担当しています。ロイ・トーマス版ミックスは破棄されたとのことで、交代の経緯は少々気にかかるところではありますが、シャーウッドのYESのオリジナルアルバムへの関与は いちメンバーとして参加した'99年の『The Ladder』以来となります(マルチプレイヤーゆえ、ちゃっかりバッキング・ヴォーカルでもクレジットされていました)。正直言ってシャーウッドの仕事はどうも没個性的という印象が否めないのですが、今回のこういうソフトに徹した方向性なら彼はなるほど適任ではないかなと。ライナーではしきりに『究極』や『トーマト』の名前が挙がっておりましたが、なるほど方向性としてはこの絶妙な時期の2枚の作風が今回の方向性に近いと思います。

全体的にソツはなく、決して悪い内容ではないのですが、もうちょっと手に汗握るものは欲しかったです。「ヴェテランらしい円熟味を見せたアルバム」という感じでお茶を濁すこともできるのですが、80年代の路線の踏襲とはいえ、手応えのある内容を聴かせてくれた前作の次ということもあり、「こんなもんだったっけ?」という気持ちの方が勝ってしまいました。バンド内の関係は良好のようですし、本作を通過点として、次の作品に期待したいと思います。11月には『こわれもの』『危機』の完全再現+『Haeven&Earth』というセットリストでの来日公演も決定しているということで、まだまだ元気な姿を見せていただきたいですね。



「An Interview with Chris Squire of YES - March 19, 2014」- Lithium Magazine

yesworld.com
YES - Wikipedia
Roy Thomas Baker - Wikipedia

2014年7月14日月曜日

確かな技巧と音楽性が織り成す、グルーヴィーな技巧派フュージョン・トリオ ― Gravitational Force Field『ZERO』(2014)

ZEROZERO
(2014/07/12)
Gravitational Force Field

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熱帯JAZZ楽団や、向谷実氏率いるチャージ&バックス、中路英明氏率いるオバタラ・セグンドなどへ参加する平川象士(ds)、「アイドルマスター」や「アイカツ!」、「エースコンバット」「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」などの数多くのアニメやゲーム作品の楽曲にレコーディングメンバーとして参加している後藤貴徳(g)、VOCALOID楽曲をジャズアレンジで演奏するビッグバンドLowland Jazzの一員でもある小林修己(b)。それぞれ活動フィールドの微妙に異なる三者のセッション・ミュージシャンによって2012年に結成されたインストゥルメンタル・ジャズ・ロック・トリオ Gravitational Force Fieldの6曲入りデビュー・ミニアルバム。楽曲はジャズ/フュージョンをルーツとしつつ、ラテン、ファンク、メタル、プログレといった要素が混ぜ込まれたフレキシブルな方向性を感じさせる内容です。作曲の要は後藤氏であり、ほとんどの楽曲にクレジットされています。

冒頭を飾る"Zero"はメンバー三人による共作曲で、ファンキーなギターカッティングとコンパクトなリズム隊を主軸にした爽やかな1曲。続く"Evolutional Theory" "Massive Spear"は、シブめのグルーヴと、それをつんざくかのようなクキっとしたギタープレイが聴きもの。小気味良く歌い上げるベースラインと共にスウィングする"Second Swing"、スムーズな聴き心地の中にさりげなく織り込まれた軽やかなまでのテクニックがまたたまらない、小林氏作曲の"Chase"を経て、ラストの"Heavirogre"は、「Heavy」+「Progressive」を組み合わせたものであろうタイトルが象徴するように、ハードエッジなリフと変拍子で押しに押しまくるプログレッシヴ・フュージョンでダイナミックに締め。それまでの5曲と明らかに趣向が異なるので、完全に意表を突かれました。そういえば、女児向けアニメの楽曲でガッツリとプログレッシヴ・メタルをやったということで一部で話題になったアイカツ!の"硝子ドール"や、アイドルマスター シンデレラガールズの星輝子のヘヴィ・メタリックなキャラクターソング"毒茸伝説"で存在感バツグンのギターを弾いているのは後藤氏なんですよね。この曲を聴いてふと、そのことを思い出しました。三者の確かなテクニックと多様な音楽性を堪能できる秀逸なデビューアルバム。今後はフルアルバムもリリース予定だとのことなので、そちらにも期待したいです。





Gravitational Force Field

2014年7月9日水曜日

アメリカ、イタリア、ヴェネズエラを繋ぐ? 謎多き雑食プログレッシヴ・メタル・ユニット Jolly Doomsday『Battle For Rome』(2014)



bandcampを漁っていて、「これは!」という面白いバンドに出くわすことが少なからずあるのですが、先ごろデビューアルバムをname your priceで配信リリースした、このJolly Doomsdayもそんなバンドの一つ。いろいろと謎が多く、各メンバーのプロフィールやユニットのバイオグラフィもよくわかっておりませんが、彼らのbandcampやfacebookに掲載されている情報から察するに、ヴェネズエラ出身のCanapial、イタリア出身のCazzo Vecchioという二人のメンバーを中心としてアメリカはルイジアナを拠点に活動するプログレッシヴ・メタル・ユニットといったところでしょうか。メンバーはこれ以前にDuchamp Jazz Unitという名義で4曲入りのEPを1枚リリースしており、そこではスーパーマリオワールドのアスレチック・ステージのBGMをジャズ・スタイルでカヴァーもしていたようです。



ジャケットのイメージよろしくワイルドなハード・ロックを主体としたものなのかと思っていましたが、さにあらず。冒頭こそ、ドライヴ感溢れるストレートなハード・ロック・ナンバーで幕開けするものの、スタイルとしてはミクスチャー・ロックに近いです。軽やかにアクセントも効いたピアノ・エモな"Engineered Emotion" "Things I Found While Looking Down"や、カントリー・ロック テイストもある"Lonely Roads"でウェットに展開したかと思えば、"A Minute A Day A Year"では、Emily Mannという女性ヴォーカリストをフィーチャーしたジャズ・コンボ・スタイルでの歌ものを聴かせ、アルバム中盤の"Loose Wheel"では、Alberto Troconisなるギタリストを迎えてMachinae Supremacyばりのチップチューン・メタルで爆走し、果ては"Walmart Etude"と題されたラストの2曲では、何かのアニメから抜き出したセリフを挿入したプログレッシヴ・メタルなインストをおっぱじめるといった具合。突発的にスイッチが入ったかのようにナードな趣向も見せています。ちなみに、彼らが影響を受けたものとして挙げているバンド/アーティストにはフランク・ザッパ、マティアス・エクルンド(FREAK KITCHEN)、上原ひろみ、ミクスチャー/エクスペリメンタル系のMr.BungleやEstradasphereなどの名前があり、なるほど彼らの雑多な音楽性の裏づけとして納得できるものを感じた次第です。アルバムはname your priceで聴けますし、キワモノ好きは聴いてみて損はないですよ。



Jolly Doomsday - facebook
Jolly Doomsday - bandcamp
Jolly Doomsday - Twitter

痴女!


2014年7月7日月曜日

ビリー・シャーウッド プロデュースによる、カーク艦長のプログレアルバム ― William Shatner『Ponder the Mystery』(2013)

Ponder the MysteryPonder the Mystery
(2013/10/08)
William Shatner

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スター・トレックの「カーク艦長」ことウィリアム・シャトナーの、ソロ名義では6枚目となる2013年作品。2004年の『Has Been to present day』ではベン・フォールズをプロデューサーに迎えてロック/ポップスを、2007年の『Exodus: An Oratorio in Three Parts』では、アーカンソーの交響楽団と共に録音したオラトリオ曲を、2011年の『Seeking Major Tom』(こちらはHYDRANT MUSICから国内盤も出ていました)は、ブライアン・メイ、リッチー・ブラックモア、ピーター・フランプトン、スティーヴ・ハウ、ザック・ワイルド、ジョン・ウェットン、ブーツィー・コリンズといった豪華なゲストプレイヤーを迎え、宇宙に関する楽曲をカヴァーしたハードロック寄りの内容を展開しておりましたが、今回はプロデューサーに元YES~CIRCAのビリー・シャーウッドを迎え、豪華なゲスト・ミュージシャンのサポートの元に制作されたプログレッシヴ・ロック・アルバムとなっています。リリース元は、『Seeking Major Tom』と同じCleopatra Records。ハードロック/プログレッシヴ・ロック系カタログを再発含め多数リリースしている米国のレーベルです。中はこんな感じ。三面見開きデジパックであります。



とはいえ、シャトナー氏は歌っていません。ヴォーカル/コーラスパートは殆どビリー・シャーウッドで、バッキングトラックもほぼ全て彼によるもの。80~90年代のYES(またはAnderson Bruford Wakeman Howe)を彷彿とさせるヘヴンリーなコーラスハーモニーや明快なギターワークはこの人の十八番です。そこに、シャトナー氏のゆったりとした渋いモノローグが間あいだに挟まれ、豪華なゲストの面々が「らしい」ソロを弾いていくというのが基本形式です。ゲストを楽曲順に紹介すると、ミック・ジョーンズ(FOREIGNER)、サイモン・ハウス(HIGHTIDE、HAWKWIND)、スティーヴ・ヴァイアル・ディ・メオラリック・ウェイクマンジョエル・ヴァンドルーゲンブローク(BRAINTICKET)、エドガー・ウィンター、ニック・ターナー(HAWKWIND)、ヴィンス・ギルエドガー・フローゼ(TANGERINE DREAM)、デイヴ・コーズジョージ・デュークズート・ホーン・ロロ(MAGIC BAND)といった具合。様々なバンドの再発を手がけているレーベルのコネと、「プログレッシヴ・ロック界の企画屋」ことシャーウッドの人脈の成せる業だなあと思います。でも、せっかくなら「スポック」繋がりでSPOCK'S BEARDのメンバーも呼べばよかったんじゃないかなあ、とも。



シャトナー氏は存在感を示しておりますが、それでも「ビリー・シャーウッド featuring. ウィリアムシャトナー 他」という印象がどうしても否めません。自分はそこそこ楽しみましたが、シャトナー氏のファンには本作はどう受け入れられたのかなあと、少なからず感じるものがありました。ちなみに、Cleopatra Recordsの公式YouTubeアカウントでアルバムのほとんどの楽曲がアップロードされております。話の種に聴いてみてはいかがでしょうか。





また、本作リリース直後に、ビリー・シャーウッド率いるCIRCAをバックバンドに従えてシャトナー氏はライヴを行っております。映像も上がっているのですが、シャトナーの方がはるかに年上なのに、後ろでキーボードを弾いているトニー・ケイの方が老けて見えます。シャトナー氏は今年で83歳を迎えたそうですが、とてもそうは思えないなあと、改めて彼の若々しさに感服してしまった次第。また、あちらのプログレ系雑誌では特集を組まれたほか、表紙も飾っておりました。




William Shatner - Wikipedia
William Shatner's musical career - Wikipedia
スタートレック - Wikipedia
Cleopatra Records

2014年7月5日土曜日

チリ出身のコンポーザーによる、バキバキに硬派な16bitサウンド炸裂の痛快作 ― Francisco Cerda 『Angry Henry OST』(2014)



主人公をはじめキャラクターデザインはすごくユルユルながら、ゲーム内容はチェーンソーや重火器を縦横無尽に振り回してステージを突破していくというハチャメチャ極まる横スクロールアクションもののiOSアプリ用ゲーム「Angry Henry And The Escape From The Helicopter Lords: Part 17: The Re-Reckoning」(長い!)のサウンドトラック。購入は$2.50より。また、ゲーム本編は無料です。チリ出身のコンポーザー Francisco Cerda氏による楽曲は、「ロックマンX」や「魂斗羅スピリッツ」あたりの往年のスーパーファミコン作品や、硬派な作品を多数世に送り出した東亜プランの各種作品あたりをリスペクトしたような、バッキバキのベースラインやデン! デン! デン!なオーケストラヒットもたっぷりとフィーチャーされた男臭く豪快なサウンド。今のご時勢にこのようなド直球ストレートをブン投げるあたり、まったくイカれ…いや、イカしております。

そんな「Angry Henry」の公式サイトとプロモーション映像がこちら。妙にテンションが高くて思わず笑ってしまいました。
http://angryhenryandtheescapefromthehelicopterlordspart17.com/




コンポーザーのFrancisco氏は、14歳の頃からシューティングゲームのために作曲活動を始めたというツワモノ。奨学金を受け地元の大学でクラシックとピアノを学び、またキーボーディストとしていくつかのバンドやアーティストのライヴサポートを務めながら、ゲーム作品のための楽曲作りに励んでいるとのことです。「Angry Henry」の楽曲を手がける一年ほど前には、Paper Dino Softwareの「Save The Date」という作品にサウンドトラックを提供しており、こちらではオリエンタルなテイストも交えたイージーリスニング寄りの楽曲を聴くことができます。
https://franciscocerda.bandcamp.com/album/save-the-date-soundtrack

また、氏のsoundcloudアカウントでは、そのほかに携わったゲーム作品の楽曲を聴くことができます。
https://soundcloud.com/FranciscoFoco

Francisco Cerda Music | The Music of Francisco Cerda