2014年8月14日木曜日

全霊を込めた大傑作 ― ASTURIAS『In Search of the Soul Trees (樹霊)』(2008)

樹霊 デラックス・エディション (IN SEARCH OF THE SOUL TREES)樹霊 デラックス・エディション (IN SEARCH OF THE SOUL TREES)
(2014/04/23)
アストゥーリアス、ASTURIAS 他

商品詳細を見る


ニトロプラスのサウンドチーム ZIZZのコンポーザーでもある大山曜氏が80年代から活動を続けているプログレッシヴ・ロック・バンド アストゥーリアス。近年はアコースティック/エレクトリック編成でも活動を展開しておりますが、本丸は大山氏自身の多重録音を軸としたこのオリジナル・アストゥーリアス(通称マルチ・アストゥーリアス)。'93年発表の三作目『Cryptogam Illusion』をもって活動を休止していたのですが、2003年にアコースティック・アストゥーリアスとして活動を再開してから数年の歳月を経て、2008年に満を持してリリースされたのが本作です。「『Tubular Bells』に端を発するマイク・オールドフィールドの初期三部作の雰囲気にこだわりつつも、アストゥーリアスとしての世界観をどこまで表現できるか」ということに挑戦し、制作に実に五年以上の歳月を費やしたという、リーダーの大山氏の並々ならぬ熱意と意欲には本当に頭が下がる思いです。レコーディングには長年の盟友である新月の津田治彦氏(g)、花本彰氏(mellotron)をはじめ、アコースティック・アストゥーリアス / ZIZZのメンバー、さらにFLAT122から平田聡氏(g)、Lu7栗原務氏(g)も参加。そしてマスタリング・エンジニアにはKBBDani氏と、まさに磐石の編成もって制作されております。

大山氏がコンポーザーとして参加されたキャラメルBOXの「シャマナシャマナ~月とこころと太陽の魔法~」、ニトロプラスの「Lamento」 「The Cyber Slayer 鬼哭街」のBGMのリ・アレンジも織り込まれた、全10曲50分という一大組曲を二部構成で展開される本作。アコースティック・アストゥーリアスを経てより味わい深くなった音の旨味もさることながら、各パートが途切れることなく塗り重なっていくことで生まれる重厚な展開や、次から次へと押し寄せてくる静かな昂ぶりに揺さぶられ、芯から伝わってくる誠実さはやはりアストゥーリアスだなと改めて実感させられました。随所に見られる愛に溢れたオマージュや、ソフトでファンタジックな雰囲気の中、つづれおりのように迸る情念が生み出す心地良い流れが、至福のひとときを味わわせてくれます。

13/8拍子でミニマリスティックに展開される"spirits(精霊の踊り)"でアルバムは幕開け。多重ギターの重厚な絡みに圧倒される"revelation(啓示)"。パーカッシヴなリズムの上をギターソロが浮遊し清浄なコーラスが響いてゆく"reincarnation(輪廻転生)"。ピアノがグッとフィーチャーされ、メロディの躍動がより際立ってくる"fountain(源流)"は最初の山場ともいえる楽曲です。ヴァイオリンやパーカッション、コーラスが重厚な層をなし、うっそうとしたイメージを喚起させる"woods(迷いの森)"は、「Lamento」の同名曲のアレンジ。この曲はまた、本作のコンセプト・イメージの源流にもなったそうです。前半五曲は、まさに神秘の森の奥深くへ誘われるかのような流れになっております。

そして、後半部からクライマックスの一連の流れには終始圧倒されっぱなしでした。「シャマナシャマナ」の"エレメンツ"のアレンジである"pilgrimage(巡礼)"は、マイク・オールドフィールド『Hergest Ridge』からのイメージにも繋がる、抜けるように広大な高原を思わせる爽やかなギター・インスト。"paradise(雲上の楽園)"は箱庭のような情緒も感じさせる愛らしいメロディに彩られた1曲。この曲は結構な難産だったようですが、それだけに大山氏の根幹部分がより垣間見えるものになってるように思います。続く"woods storm(嵐)"はバキバキのベースとヘヴィなメロトロンも重なるハード・プログレッシヴなパート(なるほどYESの"Heart of Sunrise"へのオマージュ)と、アストル・ピアソラ オマージュの情熱的なタンゴ・パートを備えた展開で一気にテンションを最高潮にまで昂ぶらせてゆきます。アルバムのクライマックス部分である"soul trees(木霊)"は、ここに至るまでに抑え込んできたエネルギーを、熱を帯びたソロパートを交えて吐き出し続ける10分の長曲。哀しみと狂おしさを孕みながら、怒涛のフィナーレへと突き進んでゆきます。最後は、滲み出してくるギタートーンとつつましやかなピアノの旋律が長きに渡る余韻を残して静かに去っていく"dawn(夜明け)"(「鬼哭街」の"Vow of Sword"のアレンジ)で、アルバムは幕を閉じます。個々の楽曲としてももちろん、アルバムとしての統一性も飛びぬけて出色であり、ひとたび聴けば心揺さぶられる。静かなる怒涛の展開美に貫かれた大傑作アルバムです。大山氏がこれまでに培ってきたものを遺憾なく吐き出した揺るぎのない集大成的作品に、心から賞賛を送りたいです。

本作は2014年に紙ジャケット仕様のリマスター版でリリースされ、ボーナストラックとして『Cryptogam Illusion』(1993)収録の"dança das borboletas"の2014年ヴァージョンが新たに追加されております。もともと"soul trees(木霊)"は同曲のイメージを意識して制作に着手されたということもあって、本編楽曲と何ら遜色なく収まっており、1993年と2014年の間にある二十年近い歳月を融和させたような、そんな趣を感じさせる仕上がりにもなっています。



ASTURIAS:公式
樹霊-イン・サーチ・オブ・ザ・ソウル・トゥリーズ- 完成にあたって ~前編~
樹霊-イン・サーチ・オブ・ザ・ソウル・トゥリーズ- 完成にあたって ~後編~

大山曜:Wikipedia

0 件のコメント:

コメントを投稿