2014年5月11日日曜日

FLAMING LIPS、MAGMA、LOU REED、DOORSのアルバムが織り成す学園音楽ミステリ ― 高木敦史『演奏しない軽音部と4枚のCD』(2014)

演奏しない軽音部と4枚のCD (ハヤカワ文庫 JA タ 13-1)演奏しない軽音部と4枚のCD (ハヤカワ文庫 JA タ 13-1)
(2014/03/20)
高木 敦史

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 音楽アルバムを主軸にして展開される学園ミステリ連作短篇集。主人公は、高校一年生の少女 楡未來。中古CDレコードショップ「ライト・マイ・ファイア」を経営していた彼女の叔母が遺した4枚一組のCDに秘められたメッセージを解くため、軽音部 の部室に赴き、楽器は演奏しないがディープな「聴き専」部員で知られる塔山雪文と出会うところから物語は始まります。タイトルの『演奏しない軽音部と4枚 のCD』の「4枚のCD」とは、THE FLAMING LIPS『Zaireeka』、MAGMA『Köhntarkösz』、LOU REED『Metal Machine Music(無限大の幻覚)』、THE DOORS『Light My Fire(ハートに火をつけて)』の4枚。各アルバムのタイトルはそのまま各章のタイトルにもなっています。


ZaireekaZaireeka
(1997/10/28)
Flaming Lips

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 ちなみに、自分が本書を手に取ったキッカケは、MAGMAが出てくると小耳に挟んだからでありました。MAGMAを取り上げた第二話「コンタルコス」は、あ る日、未來が文芸部の友人から「読んで欲しい」と『コンタルコスの供物』という小説を差し出されたことが発端となる話。それは部の先輩が書いた小説『コン タルコスの墓』と酷似していることに気づき、てんやわんやのひと騒動が起こる…というもの。軽い小ネタ程度のものなのかなと思っていたわけですが、これが もうガッツリとした大ネタ。プログレッシヴ・ロックとは何ぞやというところから始まって、MAGMAというバンドとは一体何ぞやと、塔山くんがバンドの音 楽性やバイオグラフィまでアレコレと丁寧に解説しております(ちなみに途中で、ストーリーやコンセプトに基づいた音楽アルバムの例としてFLAMING LIPSの『Yoshimi Battles The Pink Robots』【※1】や、JETHRO TULLの『ジェラルドの汚れなき世界』【※2】を引き合いに出していたりもします)。


コンタルコス (紙ジャケット仕様)コンタルコス (紙ジャケット仕様)
(2009/04/10)
マグマ

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 キッカケは全くの興味本位からでしたが、塔山くんのキャラも相まってストーリーそのものにすっかりハマってしまった次第。そのほか、会話の中でチラリと出てく るアーティストやバンドの小ネタにもニヤリとするものが多々あります。塔山くんが「サイモン・フィンはシンガーソングライターのとこにあるけど、向こうに アシッド・フォークのジャンル棚があるからそこに置くべきだ【※3】」と言うシーンや、「ロック界でいちばん演奏が下手と言われている三人姉妹バンドのセカンドアルバム【※4】」について語るシーン。倉庫のCDをいくつか貸してくれると嬉しいということで「アメイジング・ブロンデルの初期のアルバム【※5】」「キャプテンレコードのCD【※6】」「メタルバンドによるABBAのトリビュート盤【※7】」「吐痙唾舐汰伽藍沙箱【※8】」「小沢健二のアルバム未収録シングル【※9】」といったものを挙げるくだりなど、塔山くんは相当ディープに音楽趣味をこじらせているなあとひしひしと感じてしまいました。


無限大の幻覚~メタル・マシーン・ミュージック(紙ジャケット仕様)無限大の幻覚~
メタル・マシーン・ミュージック
(紙ジャケット仕様)

(2006/08/23)
ルー・リード

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 本書はライトなミステリ短編として読めるのはもちろん、ディスクガイドといった趣にもなっているのがまた何とも心ニクいのであります。著者である高木氏の音 楽嗜好がかなり反映されているのは間違いないでしょう。こう言ってしまうのも何ですけど、ミステリパート以上に音楽ネタの方に力が入っているように思える ところもチラホラあって、そこがまた微笑ましくも楽しい。というわけで、アレやコレやの小ネタについては下の方に色々書きましたが、本書で登場する4枚の アルバムについてはここでは詳しく書きません。一番最後にはボーナス・ディスク的な章もありますので、実際に本を手にとって確かめてみてください。アナタ が塔山くんのようなコアな音楽趣味の持ち主であれば、是非とも一読をオススメいたします。あっ、国内一億数千万のコバイア星人の方々も、是非。


ハートに火をつけてハートに火をつけて
(2013/07/24)
ザ・ドアーズ

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【※1】"Yoshimi Battles The Pink Robots"。2002年に発表したアルバム。タイトルにもある通り、ヨシミという空手少女がピンク色のロボットと闘うというストーリーアルバム。全編 に渡って暖かみと浮遊感に包まれており、夢見心地に浸れる1枚です。
http://www.amazon.co.jp/dp/B0072KWQ3K

【※2】"Thick As A Brick"。バンドが1972年に発表した、40分を越えるタイトル曲から成るアルバム。"ジェラルド・ボストックという8歳の少年が書いた風刺的な詩 を元にして制作された"という「架空の」コンセプトで作り上げられた作品。架空の新聞記事をあしらったジャケットと共に、人を喰ったアルバムです。バンド は同作で初の全米チャート1位を獲得。なお、2012年にはアルバムの続編が発表されています。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00GZ3RPGI

【※3】Simon Finn。1970年にアルバム『Path The Distance』を発表して姿を消し、アルバムは英国アンダーグラウンド/アシッド・フォークの名盤として語り継がれ、伝説となったイギリスのフォー ク・シンガー。長らく音楽活動から離れていたものの、2005年に35年間の沈黙を破り2ndアルバム『Magic Moments』を発表して復活。その後はコンスタントにアルバムを発表しているだけでなく、2011年には奇跡の来日公演が行われ、局地的に話題にもな りました。
http://www.simonfinn.co.uk/

【※4】本 編では名前を出していませんが、THE SHAGGSのことです。ヘタウマともまた違う境地を見せたバンドであり、かのフランク・ザッパが「ビートルズよりも重要なバンド」と言ったとか言わな かったとか。塔山くんが触れている2ndアルバム『Shagg's Own Thing』は、1975年に発表された作品。ちなみに三姉妹の次女 Dorothy Wiggin Sempriniは、今ではすっかりおばあちゃんですが、近年自分のバンドDOT WIGGIN BANDを結成し、2013年に何とアルバムデビューしてたりします。
http://www.dotwigginband.com/

【※5】AMAZING BRONDEL。ハープシコードやリュート、クラムホルン、リコーダーなど様々な楽器をフィーチャーしたクラシカルな響きのフォーク・ロックを奏でるグループで、1977年に活動を停止したものの、1997年にバンドを再編。現在も活動中。

【※6】宝島社がかつて運営していたレーベル。町田町蔵や有頂天、ウィラード、メトロファルス、ZIN-SAYといった80年代ニューウェイヴ/パンク系のバンドのカタログを多数リリースしておりました。カタログ一覧はこちらのサイトを参照のこと。
http://www.geocities.co.jp/radiodaze76/captop.html

【※7】『A Tribute to ABBA』。2001年に大手ヘヴィメタルレーベルのNuclear Blastからリリースされた企画盤。THERION、AT VANCE、SINERGYをはじめ、渋いところではROUGH SILKやSARGANT FURY、MORGANA LEFAY、TAD MOROSEらも参加。『ABBA METAL』としてキングレコードから国内盤も出ていました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005L8KE

【※8】斎 藤哲夫、五つの赤い風船の西岡たかし、ジャックスの木田高介によって編成されたアシッド・フォーク・プロジェクト「溶け出したガラス箱」が1971年に URCレコードからリリースした唯一のアルバム『吐痙唾舐汰伽藍沙箱』。ゲストで細野晴臣、加藤和彦、竹田和夫といった面々も参加した1枚です。

【※9】こういうまとめがあります。
http://www.nicovideo.jp/mylist/9972199

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