2014年3月30日日曜日

tricot『爆裂トリコさん』(2011/2014)

以前視聴した"おちゃんせんすぅす"のMVにヤラれたので。

爆裂トリコさん爆裂トリコさん
(2014/03/19)
tricot

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2010年に関西で結成された4ピース(♀×3、♂×1)のほぼガールズオルタナティヴ・ロック・バンド トリコが2011年に発表した1stミニアルバムの新装版。元々はライヴ会場限定で販売されていたアルバムで、今回の再発&一般流通化に際して収録曲は全てニューミックス&リマスターが施され、さらにデビュー間もない頃の楽曲"Laststep"のアコースティック・ヴァージョンを追加収録したのが本作。基本スタイルはポスト・ロック/マスロックな楽曲構成にJ-POP的なキャッチーな歌メロが乗るというもので、90年代後半以降の国内インディー・ロックからの影響もそこかしこから伺えます。メンバーがNUMBER GIRLやtoe、椎名林檎やミドリなどからの影響を公言しているのも、なるほどさもありなんといったところ。個人的にはthe band apartと、ガールズオルタナバンド繋がりでつしまみれやMASS OF THE FERMENTING DREGSが浮かびました。冒頭を飾る"爆裂パニエさん"はバンドのキャラクターを象徴する、まさにエモーショナルも爆裂した楽曲で、モノローグめいて綴られる刹那的でヒリついた詞と、スリリングに可変しまくる変拍子サウンドとの相乗的ドライヴ感も抜群の名曲です。言葉遊びめいた詞と共に駆け抜ける"Bitter"、ヴォーカル&コーラスのどこかストレンジな浮遊感が軽やかなバンドサウンドと絶妙に拮抗する"アナメイン"も耳を惹く1曲。一連の楽曲の作詞はヴォーカル&ギターの中嶋イッキュウ、作曲はギター&コーラスのキダ モティフォ。展開の激しさに反して曲調のヴァリエーションには乏しいので、アルバム1枚を通して聴くと一本調子という印象も少なからず感じるのですが、それは一発録りのフィーリングを重視しているがゆえなのでしょう。そう考えるとライヴでより真価を発揮するサウンドとも言えます。同じく2010年結成の赤い公園といい、今後の成長が気になるバンドだなと。そして今月始めに、バンドの黒一点ドラマーであったkomaki♂氏が3月27日のライヴを以ってバンドを脱退するということがアナウンスされました。komaki♂氏の貢献は少なくないものでしたし、再び結成時の3人に戻ったことで今後の方向性にどのように影響を与えるのか、大きな転換点なのは間違いないと思われます。これからが正念場ですね。



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【インタビュー】tricot - HMV ONLINE

2014年3月22日土曜日

Mike Oldfield『Man On The Rocks』(2014)

Man on the RocksMan on the Rocks
(2014/02/27)
Mike Oldfield

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実に6年ぶりとなるマイク・オールドフィールドの新作アルバム。還暦を迎えてからの最初のアルバムでもあります。前作『Music of the Spheres(天空の音楽)』(2008)では元SOFT MACHINE~ADIEMUSのカール・ジェンキンスとの共同プロデュースにてニューエイジ/ヒーリング路線のサウンドを展開していましたが、本作はうってかわってバンドスタイルでの歌ものロック・ポップス路線を全面的に展開しています。また、今回はマイク自身のセルフ・プロデュースではなく、ステファン・リプソンにプロデュースを任せているのもポイントです(彼はトレヴァー・ホーン主宰のZTT Recordsとも縁の深い売れっ子プロデューサーであり、近年ではホーンと共にバンド「The Producers」を結成し、こちらでも活動中です)。主要演奏メンバーは、フィル・コリンズや松任谷由実、TOTOなどの仕事でも知られる髭仙人ベーシストのリーランド・スカラーをはじめ、ジョン・ロビンソン(ds)、マット・ローリングス(kbd)、マイケル・トンプソン(g)と、いずれも米国の一流どころのセッション・ミュージシャンを揃えた形になっています。



アルバムの制作はマイクが2009年から移り住んでいるバハマで殆どを進めたということもあってか、爽やかなアコースティック・ギターがいっぱいに広がる冒頭曲"Sailing"をはじめ、前半の曲はリゾート感もたっぷり。のびのびと、リラックスしたムードで作られたのだなということが伝わってきます。若手のUKロックバンド「The Struts」のヴォーカリストであるルーク・スピラー(どことなく若かりし頃のフレディ・マーキュリーを思わせるルックス)の、繊細な面から力強い面までカヴァーする艶のある歌声も、今回の開放感のあるアルバムの方向性に大きく寄与しています。タイトルチューンの"Man On The Rocks"や、"Castaway"では、特有の泣きのトーンを奏でるマイクのギターとの抜群の相性も聴かせてくれます。アルバム終盤はどっしりと腰を据えた曲調が多く、パワフルなサビが耳を惹くロック・チューン"Chariots"や、ブルージーな"Irene"、そして女性ヴォーカル/コーラスを伴ってじわじわと盛り上がる「Following The Angels Down」のフレーズのリフレインが、静かに多幸感を味わわせてくれる"Following The Angels"(ちなみに、この曲はマイクが演奏で出演した2012年のロンドン五輪の開会式について歌った1曲でもあります)。また、"Nuclear"は、ちょっとKING CRIMSONの"Epitaph"を思わせるド演歌調の1曲。「Confusion will be my epitaph…」と歌ってしまいそうなサビだなあと一瞬思ったりもしましたが、マイクのギターもほど良い泣きで魅せる、哀愁漂う秀逸なミドル・バラードに仕上がっています。ラストはゴスペル・ナンバーのカヴァー"I Give Myself Away"で〆。



プログレ的なものを求める向きには物足りなさを感じるという声も少なからず出てくるとは思いますが、それはまあ随分前から言われているので別に本作に限ったことではないですし、少なくとも、80年代のマイクの歌もの作品が好きなら今回の『Man On The Rocks』は十分琴線に触れるものがあると思います。個人的には、ここ数作のマイクのアルバムの中でも久々に手応えのあるものを聴いたなあと感じました。往年の作風に近いとはいえ、単なる焼き直しに終わっていないのがやはり良かった。月並みな言い方ですが、まだこれだけのものを作れるのだということに、嬉しくなった次第です。

Mike Oldfield - Official
Mike Oldfield - Wikipedia




【追記】
メタルギアソリッドVのトレイラー映像に、"Nuclear"が使われててビックリ。どうやら小島さんがひと目惚れならぬひと聴惚れしたことから採用されたのだとか。


2014年3月14日金曜日

『源平討魔伝』『暴れん坊天狗』の中潟憲雄氏が80年代に率いたプログレッシヴ・ロック・バンド「AQUAPOLIS」の軌跡

ナムコの『サンダーセプター』『源平討魔伝』『超絶倫人ベラボーマン』『未来忍者』などの楽曲に携わり、メルダックが遺した稀代のエキサイテングなバカゲー『暴れん坊天狗』ではサウンドのみならずディレクターも手がけ、現在はゲームソフトの企画・開発を行っている有限会社デジフロイドの代表取締役として活躍されている中潟憲雄氏。氏は'83年にナムコに入社されるのですが、それ以前から「AQUAPOLIS(アクアポリス)」というプログレッシヴ・ロック・バンドで活動をしておりました。今回はそのアクアポリスについて書いていきたいと思います。

アクアポリスが結成されたのは'80年の7月。現在も存続している早稲田大学のプログレッシヴ・ロック・サークル「イオロス」の中で結成されたブリティッシュ・プログレ系のコピーバンドが母体となり、翌'81年から吉祥寺のシルバーエレファントを拠点にライヴ活動を行うようになります。初期のラインナップは、中潟憲雄(kbd)、桑原聡(b)、渡辺幸一(g)、竹迫一郎(ds)の4名。当初はYESやKING CRIMSON、BRUFORDのレパートリーを演奏していたそうですが、次第にオリジナル曲の演奏も行うようになり、同年8月にはバンドの代表曲である"アクアポリス組曲"がスタジオ録音されます。この楽曲は'94年にマーキー/ベル・アンティークからリリースされた、80年代国内プログレッシヴ・ロック・バンドの秘蔵音源オムニバス・アルバム『伝説の彼方~東京シンフォニック・シンドローム』に収録されることになります(ちなみに、アクアポリスの音源でCD化されているのはこの曲のみであります)。16分を越える大曲で、中潟氏によるシンフォニックな広がりを持ったシンセサイザー・アレンジの上を、ジャズ・ロック的な軽やかさのあるバンドアンサンブルがテクニカルに押していく、組曲の名もふさわしい力作です。



また、この頃にKENSOと対バンも行っており、親交を深めていたそうです。フロントマンの清水氏と中潟氏はすぐに意気投合し、互いの音楽観について夜通し熱く語り合うほどだったとか。そういった縁もあって、KENSOが'83年に発表したアルバム『KENSO II』が後に再発された際のライナーノーツには、中潟氏がコメントを寄稿されておりました。ちなみに、清水氏のブログの過去のエントリには、80年代初頭にバンドの活動を初めて間もない頃、清水氏が中潟氏から"メロトロンを持ってる人"を紹介してもらう話が載っていたりします。気になる人は過去ログを辿ってみてください。'82年以降のアクアポリスはメンバーが流動的になり。新月の高橋直哉氏(ds)や、HALの桜井良行氏(b)、カレイドスコープの判田宏氏(b)などがバンドを出入りするようになります。この頃に録音された楽曲"El Dorado"は、国内外のアンダーグラウンドなバンドやプログレッシヴ・ロック/ユーロ・ロック作品を紹介していた音楽雑誌「マーキー・ムーン」(後の「MARQUEE」「EURO-ROCK PRESS」の前身的存在)の付録ソノシートに収録されたもの。シンセサイザーによるスペイシーなバッキングとアラン・ホールズワース風のギタープレイがフィーチャーされた1曲で、初期のKENSOにも通じるプログレッシヴ・フュージョンといった仕上がりになっています。前述の『KENSO II』の中潟氏の寄稿コメントによると、アクアポリスはフュージョンのスタイルや技法をプログレと融合させることを目指していたとのこと。

ソノシート3枚組というフォーマットで、モノリスコミュニケーションから'85年にリリースされた関東・関西の6バンドの楽曲を収録したオムニバスアルバム『Progressives' Battle From East/West』に、ページェントやアウターリミッツの音源と共に収録された"ノルウェイの印象"は、先に述べた2曲とはまた趣が変わり、よりシンセサイザーを前面に押し出した情緒的なシンフォニック曲となっています。氏のゲーム・ミュージック作品に繋がるものも見て取れるのがまた興味深いところです(ちなみにこのオムニバスがリリースされた'85年は、中潟氏がナムコで『モトス』『バラデューク』の楽曲を手がけられた年でもあります。そして翌年にはあの『源平討魔伝』が控えています)。'87年7月にギタリストが三苫裕文氏にチェンジするものの、中潟氏の仕事が忙しくなったため、その後しばらくしてバンドは活動を休止することになります。メンバーの竹迫氏と三苫氏はこの後「NOA」というジャズ・ロック・バンドを結成して活動を続けていきます。



『源平討魔伝』関係で、興味深い音源をご紹介したいと思います。'88年の7月27日に聖蹟桜ヶ丘のショッピングセンターで行われた、ラジアメ(TBSのラジオ番組「ラジオはアメリカン」)のイベントでのナムコ・ゲーム・ミュージックのミニコンサートで演奏されたという、源平討魔伝の楽曲のアレンジ・ヴァージョン2曲であります。シンセサイザー中心のアレンジということもあって、後期アクアポリスからの繋がり的な意味でも実に興味深いものではないかと私は思っています。この音源はカセットテープに収録され、ラジアメの応募者プレゼントとなったそうです。

「ラジアメ 1988年7月24日放送分」
http://www.d1.dion.ne.jp/~hi_chan/Golden_arch8807.htm#ra880724

「ラジアメスーパーライブ 組曲 源平討魔伝(VGMdb)」
http://vgmdb.net/album/18335

)

近年は会社社長としてのお仕事が忙しいためか、コンポーザーとしては殆ど活動されておりませんが、4月に頒布されるゲーム・ミュージック・コンポーザーの人達によるチャリティ・アルバム企画『Game Music Prayer』の第二弾に、中潟氏も参加されるというアナウンスが先ごろされました。中潟氏のオリジナル曲がコンピレーションアルバムに収録されるのは、'93年の8月にトルバドールレコードからリリースされた『Great Wall』"Star Falsion"以来、約20年ぶりとなります。



中潟憲雄 - Wikipedia

2014年3月12日水曜日

K.K.Right Project&Japan NEW Symphonic Orchestra(美野春樹・川井憲次 編曲)「超音速攻撃ヘリ エアーウルフ」「ナイトライダー」 (1987)


超音速攻撃ヘリ エアーウルフ・ナイトライダー サウンドトラック超音速攻撃ヘリ エアーウルフ・ナイトライダー サウンドトラック
(1987)
オムニバス

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キングレコードのスターチャイルドレーベルからリリースされた、「超音速攻撃ヘリ エアーウルフ」「ナイトライダー」のカヴァー・アレンジサントラ。今となってはプレミアがついている1枚なのですが、手ごろな値段(といってもほぼ定価ですが)で見かけたので思わず買ってしまいました。シルヴェスター・リーヴァイが手がけた「超音速攻撃ヘリ エアーウルフ」のテーマ、グレン・A・ラーソンステュー・フィリップスが手がけた「ナイトライダー」のテーマを、美野春樹氏によるオーケストラアレンジと、川井憲次氏によるシンセサイザーアレンジでカヴァーしたもので、そういう意味でも貴重な1枚であります。ナイトライダーは後年、コンポーザーの選曲・プロデュースによるサントラが出ましたが、エアーウルフは未だにTV版オリジナルBGMが収録されたサントラがリリースされておらず、出回っているものはどれもカヴァー演奏によるものです。そして、日本録音でリリースされたものは'87年に出た本作のみとなります。ライナーノーツには両作品の設定やエピソードについての紹介があるのみで、楽曲のアレンジについての解説といったものはありません。テーマ曲のみのアレンジなので全6曲、20分ちょっとと、ヴォリューム的にはかなり物足りないのも難点ですが、流石に美野、川井の両氏のアレンジの質は高いです。ちなみにこのCDの翌年、川井氏は「機動警察パトレイバー」のOVA(旧)の劇伴を担当されます。

冒頭のアレンジが美野春樹氏、残りの2曲が川井憲次氏のアレンジ。


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01.Airwolf Theme 1 (作曲:Silvester Levay - 編曲:美野春樹)
02.Knight Rider Theme 2 (作曲:Stu Phillips、Glen Larson - 編曲:川井憲次)
03.Knight Rider Theme 1 (作曲:Stu Phillips、Glen Larson - 編曲:川井憲次)
04.Knight Rider Theme 3 (作曲:Stu Phillips、Glen Larson - 編曲:川井憲次)
05.Airwolf Theme 3 (作曲:Silvester Levay - 編曲:川井憲次)
06.Airwolf Theme 2 (作曲:Silvester Levay - 編曲:川井憲次)

[K30X-7096](1987.10.21)


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超音速攻撃ヘリ エアーウルフ - Wikipedia
ナイトライダー - Wikipedia
美野春樹 - 音楽派遣 秋山音楽事務所
川井憲次 - Wikipedia




YouTubeで検索してもアレンジ曲が大量に引っかかるのだけど、このアレンジはどこかTANGERINE DREAMぽくて好き。TANGERINE DREAMといえば、ナイトライダーとエアーウルフの後に製作された「驚異のスーパー・バイク ストリートホーク」の劇伴はTANGERINE DREAMが担当しているのだよね。テーマ曲はアルバム『Le Parc』にも収録されております。



また、'87年に公開されたアメリカ映画「Three O'Clock High(タイム・リミットは午後3時)」は、シルヴェスター・リーヴァイとTANGERINE DREAMが劇伴を競作している作品です。



2014年3月9日日曜日

坂本壱平『ファースト・サークル』(ハヤカワ文庫JA - 2013)

ファースト・サークル (ハヤカワ文庫JA)ファースト・サークル (ハヤカワ文庫JA)
(2013/12/19)
坂本 壱平

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第一回ハヤカワSFコンテストの最終候補となった、青野六郷改め坂本壱平氏の作品。ある日突然「頭」と「胴体」に分かれてしまった"私"。精神科医の佐々木満ちる、奇妙な言動を繰り返す主治医の松下、そして手のひらに謎の穴が空いている小川少年。二つの世界の物語とシュール光景が、謎の奇妙な手拍子に導かれて交互に展開される幻想小説であります。「胴体」はスコットとアレックスという二人の男と、饒舌にしゃべる黒猫のバルビエリと共に「ある場所」を目指し、一方の満ちるは松下の奇妙な行動に戸惑いを覚えながら、小川少年の手のひらの穴を通して見える不思議な光景を目の当たりにします。謎の手拍子とは?「ファースト・サークル」の創世とは?「頭」の行方は?という謎を孕みつつ、二つの物語が交わってゆくのですが、ストーリー自体が曖昧で起伏が少なく、また淡々と展開されることもあって入り込むのにとにかく苦労しました。「奇数章と偶数章で別々のストーリーが展開されている」ことを事前に掴んでおけば大分読みやすくなるのですが、それでもなおつかみどころのない部分がそこかしこにあります。SF書評家の牧眞司氏は「山野浩一の作品を髣髴とさせる。」と指摘されておりましたが、なるほど確かに往年のニューウェイヴSFのテイストを今風にアレンジした印象を感じます。好みは非常に分かれますが、個人的には、夢とも現実ともつかないこの不思議に乾いた味に惹かれるものがありました。今後の作品に期待したいです。ところで、本作のキーとも言える謎の変拍子は、登場するたびに「それは八分の十一拍子の変拍子。八分音符を六と五に分け、一拍目は裏の十六分音符から入り、二拍目は表、三拍目は裏、四拍目に十六分音符を二回打ち、五拍目は裏、六拍目も裏、これで前半の六つの八分音符が終わり、続けて裏の十六分音符、表の十六分音符とはじまる後半の五つは、三拍目に十六分音符を二回、四拍目、五拍目と裏の十六分音符を二回繰り返しまた頭に戻り、これを何度も繰り返している」と、非常に詳しく描写されているのですが、これはタイトルの「ファースト・サークル」の元ネタにも因んでいます。というのも、これはパット・メセニー・グループ"First Circle"の冒頭のフレーズの展開でもあるのです。同曲は八分の十一拍子の手拍子のイントロに導かれて、幻想的な味わいが静かに、そして力強く展開される名インストゥルメンタルです。



そういうわけで、PMGを聴きながら『ファースト・サークル』を読んでおりました。ちなみに個人的にオススメしたいのはこのパフォーマンス。夢心地なピカソギターの独奏から一気にバンドのグルーヴへと切り替わる瞬間のカタルシスもたまりません。



2014年3月8日土曜日

星野康太、瀬川圭一郎、齋藤司、神田有士『スプリガン ルナ ヴァース オリジナルサウンドトラック』(1999)

スプリガン ルナ ヴァース ― オリジナル・サウンドトラックスプリガン ルナ ヴァース ― オリジナル・サウンドトラック
(1999/11/26)
ゲーム・ミュージック

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『スプリガン』たかしげ宙皆川亮二のコンビによるバトルアクション漫画の名作ですが、同作品はゲーム版もあり、『スプリガン ルナ ヴァース』というタイトルで'99年にプレイステーション用ソフトとして発表もされました。制作はフロム・ソフトウェアで、同社の「キングスフィールド」や「アーマードコア」よろしく 主観視点での3Dアクションゲームでした。フロム作品といえば高い難易度と硬派なつくりがウリですが、本作もまた非常に高い難易度を誇ります。いわゆる「初見殺し」的な要素は各所に存在するほか、ステータスを上げるためのボーナスポイントを多く得るためには短時間でステージをクリアしないといけないこともあって、ヘタをするとステージ序盤でクリア不可能な状態になるというシビアなものでした(自分は攻略本を以ってしてもクリア出来ませんでした)。とはいえ 原作完結後の世界で展開されるゲーム・オリジナル・ストーリーは良質なもので、たかしげ氏、皆川氏の両人も監修者としてしっかり関わっているため(エンディングでは新規描き下ろしのカットも拝めます)、歯応えのあるキャラゲーとして評価する向きもあります(ちなみに、本作のノウハウを生かしてフロムが次に制作したのが、プレイステーション2の「エヴァーグレイス」です)。ゲームアーカイブスでの配信は現在もされておらず、今後される可能性も低そうです。

また、サウンドトラックはゲームの半年後にリリースされておりますが、出回った数は少なく、現在はプレミア化しており入手が困難なものとなっています。楽曲はフロム・ソフトウェアのサウンドチーム「FreQuency」によるもので、サウンド・プロデュースは星野康太氏、コンポーザーは瀬川圭一郎氏、齋藤司氏、神田有士氏と、いずれもアーマードコアシリーズのサウンドスタッフ陣。ライナーノーツの星野氏のコメントによると、本作のサウンドは特定のスタイルにこだわらず、「激しさ」と「神秘性」の二つのイメージに重点を置いて制作したとのこと。バンドスタイルによる硬質でヒリついたロック/テクノと、シンセサイザーをメインにしたニューエイジ/アンビエントという、対照的なタイプの楽曲が統一感を伴って収められており、いずれも冷ややかに醒めたものを感じさせます。鋭角的なギターサウンドで押す"ZERO_BURST" "Escape From A Lab" "Blowning"の乾いた疾走感は、初期ACシリーズの作風にも通じるのではないでしょうか。エスニックなテイストも絡めた"LUNAR VERSE"や、荘厳なムード漂う変拍子チューン"P and L"、どこか病的な神秘性を孕んだ"PRANOIAC REVOLUTION"も秀逸な楽曲です。また、26曲目から98曲目までは全て4秒間の無音トラックで、99曲目には隠しトラックが収録されています。

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01. ZERO_BURST
02. Excavation
03. LUNAR VERSE
04. Escape From A Lab
05. Blue Baby
06. Take Back The Artifact
07. Palace Revolution
08. Psychological Moment
09. Here Comes NINJA!
10. Boobytrap
11. Suggestion of Ruins
12. Stillness Tension
13. Blowning
14. The 3rd
15. Blind alley
16. P and L
17. Selenite
18. Solemn Music
19. Onset
20. Moonliter
21. Program Of Love
22. PRANOIAC REVOLUTION
23. Things Will Get Better
24. Gain Control
25. Lunacy
26~98. << Blank Track >>
99. Hidden Track


Executive Producer: 神直利
Producer: 西田新一郎
Sound Producer: 星野康太
Composer:瀬川圭一郎、齋藤司、神田有士
Additional Musician: Ei Satoh

[ABCA-39](1999.11.26)

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SPRIGGAN LUNAR VERSE - FROM SOFTWARE
スプリガン ルナヴァース - Wikipedia
星野康太 - Wikipedia
Spriggan Lunar Verse Original Sound Track - VGMdb

2014年3月6日木曜日

上坂すみれ『パララックス・ビュー』(2014)

パララックス・ビューパララックス・ビュー
(2014/03/05)
上坂すみれ

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声優、アジテーター 上坂すみれの3rdシングル。先の2枚のシングル、そして今年の頭にリリースされた1stアルバム『革命的ブロードウェイ主義者同盟』でも数々の豪華なコラボレーション曲を聴かせてくれましたが、今回のタイトルチューンは彼女が敬愛する人物の一人である大槻ケンヂ氏が作詞を提供し、彼のバンド「特撮」での盟友でもあるCOALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKI氏が作曲を、そしてSadesper Record(NARASAKI&WATCHMAN)が編曲をそれぞれ手がけた、鉄壁の布陣による1曲。NARASAKI氏のヒリついたギターが刻みまくり、WATCHMAN氏のファストなドラムがガスガス決まる、COALTAR OF THE DEEPERSよろしく激烈なインパクトのキラーチューン(各種ゲームのパロディをゴッタ煮にしてぶち込んだドット絵PVの凝った内容も必見)。すみれ嬢のヴォーカルがこの凄まじい演奏と編曲にマッチしているかと言われると正直微妙ですが、よくよく考えるとCOALTAR OF THE DEEPERSもそこまでヴォーカルをウリにしているバンドというわけではないので、ある意味これで合っているのかもしれません。いずれにろ、コラボレーションとしては文句なしのアツい1曲。また注目すべき点はその詞で、タイアップ元のアニメ「鬼灯の冷徹」にちなんで天国と地獄をテーマにしつつも、筋肉少女帯が'97年に発表した"小さな恋のメロディ"の続編的な内容ともとれる、何とも感慨深いものになっています(そういえばこの曲もアニメのタイアップ曲でしたね。「EAT-MAN」の一度目のアニメ版の主題歌)。同曲ではトロッコに乗った二人の行き先はきっと地獄なんだわと歌われておりましたが、まさかホントに地獄に落ちていたとは。また、"小さな恋のメロディ"は同名映画をテーマにした楽曲でしたが、映画をモチーフにするという手法はこちらでも踏襲されています。アラン・J・パクラ監督が'74年に発表した社会派サスペンス映画「パララックス・ビュー」は、いわゆるB級映画的な評価を与えられているようですが、「視差」をテーマに織り込んだ作品としてカルト的な人気があるとかないとか(※)。2曲目の"すみれコード"は、すみれ嬢がファンだと公言している松永天馬氏率いるアーバンギャルドの提供による歌謡チューン。こちらも念願のコラボであり、楽曲自体は昨年のアーバンギャルドとのライヴイベントで既に披露されております。アーバンギャルドはそのコンセプトも音楽性もかなりサブカル寄りなので、彼女との親和性はやはり非常に高いなあと実感した次第。楽曲タイトルは、「清く、正しく、美しく」をモットーとする宝塚歌劇団員がしてはいけない行動や使ってはいけない言葉の総称である「すみれコード」とも引っ掛けており、成就しそうにない恋を回転数の異なるレコード盤に例えた詞の内容と併せて考えると、楽曲のコンセプトはより見えてくるものがあると思います。通常盤に収録されている3曲目の"無窮なり趣味者集団"は、元アカツキ、現GEEKSのエンドウ氏の作編曲による行進曲調の1曲。"我旗の元へと集いたまえ" "我らと我らの道を"のようなアジテーションソングですが、作詞は上坂嬢が担当しているのがミソ。本人の作詞曲は今回が初だったかと思います。周囲を巻き込んで盛り上げていくアジテーターたる上坂さんのキャラクター性のもと、今後も様々なコラボレーションが展開されていくと思われますが、彼女自身の持ち味が埋もれない程度に舵を取っていって欲しいですね。



StarChild - 上坂すみれ
上坂すみれ - Wikipedia
上坂すみれ - ニコニコ大百科


(※)ちなみに、映画の「パララックス・ビュー」はこの頃のオーケンの琴線に何かしら触れるものがあったようで、WOWOWとツタヤのコラボ番組「100人の映画通が選んだ"発掘良品"」にゲスト出演した際に話題にしていたほか、今年1月にアップされたWEB連載エッセイの第59回で「昨年最も僕の心に引っかかった映画」として取り上げたり、2月末にオンエアされた伊集院光氏のラジオ番組にゲスト出演した際にも同作についてトークを繰り広げておりました。

・「オーケンの、このエッセイは手書きです」バックナンバー 第五十九回 「亡国の死生~おへその国からこんにちは」
・100人の映画通が選んだ"発掘良品"『パララックス・ビュー』大槻ケンヂ×斎藤工 の未放送映像



2014年3月3日月曜日

NESS (三浦俊一/戸田宏武/内田雄一郎/河塚篤史) 『NESS 2』(2013)

NESS 2NESS 2
(2013/05/22)
NESS

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2011年に結成された、三浦俊一(g.prog / ex.有頂天、ケラ&ザ・シンセサイザーズ)、戸田宏武(syn.prog / FLOPPY、新宿ゲバルト)、内田雄一郎(b.prog / 筋肉少女帯)、河塚篤史(ds.prog / ex.陰陽座)という、いずれも確固たるキャリアの持ち主4人からなるロック・バンド「ネス」の2ndアルバム。略歴には「三浦氏と戸田氏のセッションがそのままバンドの母体となった」とあったので、有頂天やFLOPPYのようなニューウェイヴ寄りなサウンドを予想していたのですが、NESSが鳴らしているのはエレクトロ・サウンドを下敷きにしてニューウェイヴ、プログレ、シューゲイザー、ポスト・ロックの各要素も絡みつかせたミクスチャー・ロック。思った以上にハードなバンドサウンドです。基本インストゥルメンタルが中心ですが、楽曲によってはスパイス的にヴォーカルを挿入するものもあります。

アルバムはダンサブルなエレクトロ・ロック・チューン"SneS"で幕開け。バックでうねる電子音がどんどん空間を埋め尽くしてゆく享楽的な趣向も相まって、のっけからトベます。続く"Sonzai"は「忘れられた存在」「忘れられたい存在」のフレーズが電子音飛び交う11(6+5)拍子の展開に載せてひたすら繰り返されるマスロック・チューン。ちなみに、このフレーズを歌っているのは中野テルヲ氏です。うっすらとしたエレクトロなバッキングの上をヘヴィなギターリフが反復する"Nesso"は、どこかKING CRIMSONを思わせる乾いたヘヴィネスを聴かせる仕上がり(どうやら作曲は内田氏とのこと、なるほど納得です)。テクニカルなAメロBメロとキャッチーに広がるサビが痛快な"Tree Of Papers"は、三浦氏が20代の頃に作った曲だそうで、ケラ&ザ・シンセサイザーズにも通じるポップ・ロック・チューン。"VVV"は、ピアノの音色や瞬間的なミュートもアクセントにして流麗に疾走する轟音ブレイクビーツで、ちょっとCOALTAR OF THE DEEPERSっぽいかも。戸田氏によると、鳴っている各パートは全てモールス符号に基づいて打ち込まれており、それぞれが別々のトンツータイミングで切れているのだとか。何とも凝ったつくりです。ゴリゴリなギター&ベースとメロウなシンセフレーズでゴキゲンに展開する"Pavillion"は、NESS流サーフサウンドとでも言うようなノリの良い1曲。ラストは浮遊感のあるヴォコーダー・ヴォーカルを聴かせるストレートなロック・チューン"Nature"で〆。

楽曲のレコーディングは順不同にリレー形式でメンバーからメンバーへとタッチしていっているそうで、その過程でどういう方向に仕上がるのかはメンバーにもわからないのだとか。その「予測不可能」というところがそのままバンドのサウンドの魅力に繋がっていると思います。各々が培ってきたキャリアに裏打ちされた内容であるのは勿論、自由度の高いストレスフリーな制作環境だからこその面白味も感じさせる内容でした。

[Power Push]NESS - ナタリー
NESS-自由奔放な奇才4人のアイデアが交錯して生まれる音。その行く先は誰にも予測できない… - JUNGLE☆LIFE

バンドのSoundcloudで1stアルバム『NESS』の楽曲が試聴できます。


NESS - Official Site
NESS - Soundcloud