2013年12月31日火曜日

2013年を振り返る~個人的に印象に残った二十冊

今年はあまり時間をかけてじっくりと本を読めなかったなあという思いが強いのですが、それでも何とか20冊挙げられることが出来たので、ひとまずよしとします。
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セックスの哀しみ (白水uブックス173 海外小説の誘惑)セックスの哀しみ (白水uブックス173 海外小説の誘惑)
(2008/10/17)
バリー・ユアグロー

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複雑な感情も滲み出た、男女の様々な恋愛模様を、奇想と官能にくるんで連ねて90編収録。恋をすると口から薔薇の花びらや香水壜を吐き出す男、女性に金を払って彼女たちの気を悪くさせる事をやらせてもらう男、食人種の女、キスのたびに花が一輪生える女…などが出てくる珍妙な短編集として読んでも十二分に楽しめるし、曖昧だけどどこか統一感のある書き口のせいか、<語り手(私)の奇妙な恋愛遍歴>という連作短編集としても読めてしまうのがまた面白い。たまに顔を出す静かで豊かなイメージを湛えた描写もよくて、とてもツボをくすぐられた。街に逃げ出した女性器を「私」がエロティックになだめる『楡』。恋する度に対象の女性(男性)に似た姿で女装(男装)をしてしまう男女のやりとり『人相』。<好きな女の子の前でいいところを見せようとして痛い目に遭う>という一連の流れはある意味エクストリーム・スポーツといっていいかもしれないな…と思わされる『アクロバットたち』。こういう手合いの話が肌に合うなら、是非。

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発明超人ニコラ・テスラ (ちくま文庫)発明超人ニコラ・テスラ (ちくま文庫)
(1997/03)
新戸 雅章

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不世出の天才にして不遇の科学者、伝説と狂気と謎をもって今なお語られるニコラ・テスラの生涯を、膨大な資料を基に1冊にまとめた伝記。早熟ぶりを示す幼少期、エジソンとの出会いと訣別、栄光と凋落など、そのエピソードは枚挙に暇がない。憂鬱な少年時代に読んだマーク・トウェインの著作に深く感銘を受けて、二十数年後にアメリカの地でトウェインと対面してからは両者の親交が終生に渡って続いていくというエピソードが特に良い(テスラのその少年期のエピソードをある日聞かされたトウェインは号泣したとか)。また、"アメリカSFの父"としても知られるヒューゴー・ガーンズバックはテスラの信奉者で、1910年代に創刊した雑誌『エレクトリカル・エクスペリメンター』にはテスラの論文や自伝的エッセイが載っている。あの商業SF誌『アメージング・ストーリーズ』が創刊される少し前の話である。1943年にテスラが86歳で亡くなったとき、真っ先にデスマスクを取る手配をしたのもガーンズバックで、そのデスマスクは彫像となってオフィスに飾られたとか。また、"日本SFの父"海野十三は電気工学者でもあったので、ニコラ・テスラの研究・業績は理解しており、蜆貝介のペンネームで1925年ごろに『無線と実験』誌に執筆した「無線恩人行脚」という記事の中にテスラを紹介していたそうな。このような黎明期SFとの関わりも含めて、のめりこみました。同じく新戸氏の著である『バベッジのコンピュータ』と共に、スチームパンカー必読の書。刊行されてから15年以上経っており、既に絶版ではありますが、一気読み不可避の評伝本であります。

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アラビアン・ナイトと日本人アラビアン・ナイトと日本人
(2012/09/28)
杉田 英明

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『千夜一夜物語』の日本への影響・受容を多層的に解き明かす、弩級の文化比較研究本。物語が初めて日本国内に紹介された明治から、戦前・戦後、近代へと時代の流れを辿りつつ、数々の翻訳・異本への言及や、欧米・日本文学における影響、文芸批評、映画・演劇などへの影響など、各時代の大小様々な情報も併せて網羅。興味のある章から拾い読みで攻めるもよし、情報の大海に身を任せるもよし、楽しみ方はいくつもあります。ちなみに、明治初期に日本で翻訳されたときの邦題は『開巻驚奇・暴夜物語』。アラビヤに<暴夜>の二文字を当てたセンスは今なお色褪せないものがあるなあと思いました。 また、明治の終わりごろ、女性に向けた訓話として『烈女之名誉』なる「アリババと四十人の盗賊」の翻訳本が刊行されたというのも興味深い。「烈女 孟慈那の機知と聡明さを、婦女子の方々は是非とも規範としてほしい」的なコンセプトの元、本編に登場する侍女モルジアナの言行をフィーチャーした1冊であったそうなのだが、これって今で言ったらハウツー本そのものだよなあと。

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中東欧音楽の回路―ロマ・クレズマー・20世紀の前衛中東欧音楽の回路―ロマ・クレズマー・20世紀の前衛
(2009/03/26)
伊東 信宏

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ジプシーのロマやユダヤのクレズマーをはじめ、ロシア、ルーマニア、ハンガリーといった東欧の民族音楽/民俗音楽を雑多に読み込んでいく1冊(CD付き)。ストラヴィンスキー、コダーイやリゲティ、バルトークといった作曲家たちが民俗音楽からどのように影響を受け、またはどう関わりを持っていたかということや、シャガールの絵画に見るユダヤ性、レハールのオペレッタ『ジプシーの恋』に見る心性、ミラン・クンデラの処女作『冗談』が、その翻弄の物語の中に書き出した民俗音楽の相対化など、各章は主に周縁からの視点でもって展開されている。ブルガリアでは民俗音楽をポップにアレンジして女性歌手に歌わせた「チャルガ(Chalga)」というジャンルの歌謡曲が人気であるというくだりは個人的に興味深い章であり、また収穫でもありました。付属CDには収録されていないのだけども、YouTubeで検索するとすぐに聴くことが出来る。色気たっぷりのグラマラスな女性が扇情的な詞を歌っていて、パッケージも殆どエロ写真に近い過激さという、非常にいかがわしくて刺激的な魅力のある音楽。土着の文化がその様相を大いに変えながらも大衆文化として息づいていくというのは面白い流れだなと感じました。

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傍迷惑な人々: サーバー短編集 (光文社古典新訳文庫)傍迷惑な人々: サーバー短編集 (光文社古典新訳文庫)
(2012/08/08)
ジェイムズ サーバー

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「どこかズレてるヘンな人」を軽妙なタッチで書いたユーモア短篇&エッセイ集。損得勘定の出来ない伯母さん、流言で一目散に東へ逃げ出す人々、悪気はないが人の話の腰を折ってしまう娘、いい加減な己の妄想で語り合う二人…近くに居たら頭を抱えることウケアイだが、そんな人々の振る舞いをキツく咎め立てているわけではなく、「こういう人もいましてねぇ」とあくまで語り口はソフトである。若干の苦味を伴った、しがらみのあるユーモアという印象。ゆえにブラックユーモアとは一線を画する。読んでるうちにその魅力に病み付きになってしまった。 巻末解説でもあったけど、今だとこれらの「傍迷惑な人々」はたやすく病人のレッテルを貼られてしまいそうである。ちょいと時勢の世知辛さを感じてしまった。ところで、サーバー氏の人間観察力は自分自身に対しても発揮されており、絶望的な機械オンチぶりや、ラジオ番組出演に際してのテンパりぶりなどを書いたエッセイ的小品もまた絶品の面白さ。でも、右往左往している様を読むにつけ、何だか身につまされてしまう。運転免許更新制度の融通の利かなさに対して、どう仕返してやろうかとイケナイ想像を膨らませて愉しむ話も凄く親近感が沸く。

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魔婦の足跡―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)魔婦の足跡―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)
(2001/06)
香山 滋

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未知の生物や怪獣だけでなく、ファナティックな女性像というものにも眼差しを注いでいた香山氏が中期~後期に発表した<魔性の女>テーマの二作品を収録。両作品とも、ドロドロの愛憎と駆け引きの果てに破局を迎えるというプロットで、女性達の危うい魅力がグイグイとストーリーを引っ張っていく。表題作の後半は氏の得意とする冒険小説的エッセンスもたっぷり。「ペット・ショップ・R」は背徳的なエロティシズム濃厚な百合サスペンスもので、こちらもズシリとヘヴィな内容。『ゴジラ』の原作者としてしか香山氏を知らない人にも是非読んで欲しい。

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フランク・ザッパ自伝フランク・ザッパ自伝
(2004/02/07)
フランク・ザッパ、ピ-ター・オチオグロッソ 他

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自伝としてもエッセイとしても、娯楽作品としても極上の面白さ。前半は生い立ちと音楽活動の狂騒と苦労の日々がユーモアと皮肉たっぷりに綴られ、後半は悪名高きPMRCなどの団体との戦いの記録と政治的な話が中心となる。合間には抱腹絶倒の四方山話が挟まれ、盛り沢山の内容を一気通貫で読ませる。氏の音楽観の一端が饒舌に語られる第8章「音楽について」は必読。共同編集者の巧みな手腕と、ザッパ本人の編集で生まれた構成の妙も素晴らしい。異才・奇才・鬼才・偉才と様々に称される稀有な音楽家が遺した貴重な一冊であり、一つの作品であります。

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ソラミちゃんの唄 (1) (まんがタイムKRコミックス)ソラミちゃんの唄 (1) (まんがタイムKRコミックス)
(2013/08/27)
ノッツ

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ノッツさん(23歳Dカップ女子大生)の存在を知ったキッカケは、今年リリースされた三回転とひとひねりのアルバム曲「稲荷~三回転とひとひねり」のイラストレーションPVでありました。本書は商業誌デビュー作。勉強そっちのけで日々自室で音楽活動に勤しむ宅録ひきこもり浪人ガールと、彼女を取り囲む愉快な女の子達(面倒見の良い幼なじみ さっこ、 マンガ描きが趣味のフミリン、スタイル抜群の歩く寝袋ガール ネモちゃん)が織り成すゆるゆるな日常を音楽と共に綴った4コマ連作。いいんですわこれが。ゆるやかでさりげない形で表現とは何かということを見せつつ、最後ではホロリとも来てしまうのです。ノッツさんのHPに掲載されている、ジョン・ケージ「4分33秒」をモチーフにした漫画もしみじみとした味わいで、また良いのですよ。

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聖夜 (文春文庫)聖夜 (文春文庫)
(2013/12/04)
佐藤 多佳子

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オリヴィエ・メシアンのオルガン曲とキース・エマーソンのプログレ曲を二本柱に、家族関係によって翳りと屈折を孕んだ18歳の主人公が、音楽への姿勢を自問し葛藤していく音楽小説。メシアンのオルガン曲と共に葛藤する話。一方で彼がとり憑かれているのがキース・エマーソンで、EL&Pの曲を聴いたり弾いたりする描写が出てきたり、キース・エマーソンは解放者か破壊者かと問いかけるシーンも出てきます。音楽的な小ネタも目を引くのだけど、聖職者の父と、出て行った母への複雑な思いと共に鬱屈した一哉が、どのように葛藤を乗り越えてメシアンの楽曲を理解し、そして成長してゆくのか、穏やかな筆致で書かれたストーリーが何より素晴らしくて、読後感も柔らかい。いい音楽小説です。

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おまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツおまえはケダモノだ、ヴィスコヴィッツ
(2001/06)
アレッサンドロ ボッファ

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「ヴィスコヴィッツ」の名前を持つ、ヤマネの、カマキリの、蛇の、犬の、魚の、蟻の、海綿の、微生物の個体たち。彼らが喜怒哀楽豊かに織り成す、動物の生態とユーモアとペーソスをふんだんに交えたコミカルな生態系短篇集。その人間模様ならぬ「動物模様」の数々は人間以上に人間臭く、味のある可笑味に富んでいる。それぞれのヴィスコヴィッツは別の個体だが、各話を読み終える頃には深遠で有機的繋がりがあるようにも思えてくるから不思議だ。書き口の人懐っこい雰囲気などからイタロ・カルヴィーノの『レ・コスミコミケ』に通じるものを感じた。

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オノマトペは面白い ---官能小説の擬声語・擬態語辞典 (河出i文庫)オノマトペは面白い ---官能小説の擬声語・擬態語辞典 (河出i文庫)
(2012/12/05)
永田 守弘

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『用語表現辞典』『「絶頂」表現用語用例辞典』に続く、官能表現辞典三部作の完結編。多用し過ぎは興を削ぐが、読み手の海綿体を疼かせ、イメージを効果的に喚起させるためになくてはならない官能小説における擬音・擬声語のユニークなヴァリエーションが、細かく分類分けされている(また、収録作品も明記されている)。50年に渡り官能小説を読み込んできた永田氏だからこそ編める1冊であり、その労力に今回も頭が下がりました。随所のコラムとコメントも性の含蓄に富んでいて流石の面白さ。まずは適当にアタリをつけてパラパラとめくってみるべし。 個人的には「ギクン」が好きである。「ビクン」よりも奥ゆかしさを感じさせつつも、鋭く快感が突き抜けるようなニュアンスを孕んでいるからたまらない。その読み手へのエレクチオン喚起力たるや計り知れないものがある。あるんだってば!

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江戸滑稽化物尽くし (講談社学術文庫)江戸滑稽化物尽くし (講談社学術文庫)
(2011/08/11)
アダム・カバット

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江戸時代の黄表紙本に描かれた妖怪にスポットを当て、江戸時代の人々や文化を読み解いてゆく1冊。有名な逸話や当時の流行のパロディ、器物や文房具の擬人化、豆腐小僧などの創作妖怪や、ろくろ首や幽霊・累といった恐ろしい姿の妖怪たちの描写の滑稽化などを見ると、現代に繋がる豊かなキャラクター文化の源流を垣間見ることを出来るし、妖怪という「異類」を通して人間社会を逆照射していく黄表紙作品からは、江戸時代の創作者たちのユーモアとアイロニーも伝わってきます。どこか憎めない妖怪達の姿を眺めているだけでも楽しい読み物。 源頼光の酒呑童子討伐の登場人物を、うどんやそば、薬味に置き換えた(!)恋川春町の『うどんそば 化物大江山』や、信長や秀吉といった武将が異類の姿で描かれる『化物太平記』は、思わず現本で読んでみたくなる興味をそそる内容。現代のパロディ同人誌に通じるユーモア精神を感じてとても感慨深い。個人的には安永8年(1779年)の黄表紙本『怪談豆人形』に載っている、松茸の化け物が妖怪に親切に講釈している図絵にいたく心惹かれるものがありました。

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完全な真空 (文学の冒険シリーズ)完全な真空 (文学の冒険シリーズ)
(1989/12)
スタニスワフ・レム

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架空の書物の評論集であり、芳醇なネタ帳。博覧強記の天才作家に想像力の限りにホラを吹かせた結果がこれである。存在しないものをさも実在するかのように語り、なおかつそれを評論という形で解体してみせるという難業を、レムおじさんはサラリとやってのけてしまうからかなわない。『魁!男塾』に登場する民明書房も大概だと思ったが、この人はその遥か上を突き抜けている。時に饒舌に、時にユーモラスに、惜しげもなくネタを放出しているかと思えば、『あなたにも本が作れます』というタイトルの書をレビューしていたりで、何ともお茶目。

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運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)
(2010/03/26)
リチャード・マシスン

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追悼、リチャード・マシスン。「四角い墓場」は別の短篇集で何度も読み返しましたが、何度読んでも素晴らしい。落ちぶれた元ボクサーが、整備不良で壊れたロボットの代わりに生身でロボットボクシングに打って出るという、破天荒で無骨な再生の物語(オッサン二人のやり取りがまた良いのです)。「戸口に立つ少女」は妖しくも恐ろしいイメージを喚起させてやまないし、機内から外を眺めると得体の知れぬ何かが機体をぶっ壊そうとしている、という突拍子のない導入から、あれよという間に焦燥感溢れる展開に持って行く「二万フィートの悪夢」も好き。生涯に渡って様々なジャンルを書かれたマシスン氏だけど、60年前に既に戦闘美少女モノで短編を書いていたのか、と、1951年発表の「魔女戦線(Witch War)」を読んで驚いきました。七人の美少女が圧倒的な超能力を以って軍隊を壊滅させるという、いたって単純明快(この邦題もGOOD!)な10ページほどの短編ながら、そのインパクトは抜群。わかる人にはシュピーゲル・シリーズやストライクウィッチーズあたりをイメージしていただきたい。戦う美少女というのは今ではすっかりお馴染みとなった題材だけど、その源流を見る思いがしました。

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ダイナミックフィギュア(上) (ハヤカワ文庫JA)ダイナミックフィギュア(上) (ハヤカワ文庫JA)
(2013/05/10)
三島 浩司

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ダイナミックフィギュア(下) (ハヤカワ文庫JA)ダイナミックフィギュア(下) (ハヤカワ文庫JA)
(2013/05/10)
三島 浩司

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環境的ハンデを負わさせた状況で、謎の地球外生命体キッカイを相手に巨大二足歩行兵器ダイナミックフィギュアで戦う…のだが、デカいロボットがハデに大暴れするケレン味を期待すると肩透かしを喰らう。本作はロボットよりも各キャラクターにスポットが当たるSF群像劇なのであります。説明的文章が少ないので諸々を把握するのに少々時間を要すし、戦闘シーンも結構地味なのだけれど、こういう無骨さは嫌いじゃない。個人的には「ガンパレードマーチ」+「THE 地球防衛軍」という印象を持った。帯の推薦文が芝村裕吏氏と長谷敏司氏で、思わず納得。 下巻は上巻とは打って変わって、スーパーロボット的なテイストが強まり、キャラクターもストーリーも派手な動きを見せる。亡き全権司令官の遺志を継いだ安並風歌が、自身の初陣において盛大な啖呵を切って出撃に臨むシーンはベタながら下巻屈指の熱いシーン。彼女が放った「ダイナミックにフィギュアせよ!」のセリフは、下巻の印象そのものである。細かいところを挙げてしまえば色々気になる部分はあるのだけれど、「やはりオトコノコならスーパーロボット好きだよな!うんうん」的な共感の方が強かったなあと。主人公はどこまでも真っ直ぐでありました。

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グリンプス (創元SF文庫)グリンプス (創元SF文庫)
(1997/12)
ルイス・シャイナー

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あのグループやミュージシャンの幻のアルバムは、世に出ていたらどんなものになっていたのか…という、ロック好きなら誰しも抱く夢想を形にした1冊。主人公が過去へトリップし、ビートルズやビーチボーイズ、ドアーズ、ジミ・ヘンドリックスの幻のアルバムを完成させようとする本書は、作者の60年代ロックへの溢れる思いが込められた、ロック好きのロック好きによるロック好きのためのSFファンタジー。また、家族小説/私小説的なところもあり、主人公があの世でのやりとりを経て現世に戻る終章では、再生の物語としての姿も現れる。作中に登場するアルバムは本書の発表当時は幻の存在だったが、今では殆どが正式リリースされ、ファンの耳に届くようになっている。そのあたりに昔日の感慨も抱きつつ。
【追記】二十選の中に入れた後で気づいたのですが、何と、来年初めにちくま文庫から復刊されるみたいです。
グリンプス (ちくま文庫)グリンプス (ちくま文庫)
(2014/01/08)
ルイス・シャイナー

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垂直世界の戦士 (ハヤカワ文庫SF)垂直世界の戦士 (ハヤカワ文庫SF)
(1998/10)
K.W. ジーター

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上下に延々と続く巨大階層都市<シリンダー>、その外壁の<垂直世界>を生きる主人公が、戦闘部族や情報代理店を相手にしたたかに立ち回る、サイバーパンクの流れを汲む冒険小説(1989年作)。ハイテク世紀末な世界観(しかし一方で天使が空を飛んでいたりする)や各種用語が十分な説明なしに矢継ぎ早に提示されるので、そこを大味ととるか痛快ととるかで好みが別れるものの、ヴィジュアルのインパクトやストーリーのエンタメ的吸引力は抜群なので、ハマってしまえばしめたもの。弐瓶勉氏の『BLAME!』のイメージをダブらせながら読んだ。

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夢幻会社 (創元SF文庫)夢幻会社 (創元SF文庫)
(1993/07)
J.G. バラード

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ドギツい。全編に横溢する妄執じみた想像力は読み手を選ぶが圧巻の一言。憑かれた危うい幻視者である主人公ブレイクが目の当たりにする光景はめまぐるしく、熱気とイカ臭さも立ち込めている。イメージに次ぐイメージは夢と現実を一緒くたに押し流す。その奔流にすぐさま呑まれるものの、ついていくので精一杯になることも多々ある。『クラッシュ』を読んだときも思ったが、性的にイカれ気味なところがある変態的主人公ってのはストーリーに異様なドライヴ感を与える上でやっぱりいいもんですなあ。

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江戸奇談怪談集 (ちくま学芸文庫)江戸奇談怪談集 (ちくま学芸文庫)
(2012/11/07)
須永 朝彦

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『西鶴諸国はなし』『新著聞集』『耳嚢』『伽婢子』『稲生物怪録』ほか多数の江戸の書物からチョイスされた怪談奇談を集めた1冊。流石に値は張るけど、アレコレと興味の尽きない内容で質・量ともにとても充実している。かの滝沢馬琴が主催していた奇談の寄合「兎園会」で語られた話をまとめた『兎園小説』には、男装女子と女装男子とふたなりの話もあるのか。江戸時代のUFOと言われている「虚舟(うつろぶね)」の話が出たのも兎園会からだというし、一度全編読んでみたいものだなあ。

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バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)
(2013/04/19)
施川 ユウキ

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読書あるあるショートギャグ漫画。「一度も見たことないこの本…私の中ではすでに読破したっぽい雰囲気になっている!」「読まないほうがアレコレ想像できて楽しいじゃない?一度読んだらもう二度と読む前には戻れない―」「ディックが死んで30年だぞ!今さら初訳される話が面白いわけないだろ!」「グレッグ・イーガンは多少よくわからなくてもすっっっごく面白い」etcetc...ホントそうですね。ええ、まんまとツボりましたよ。読まずに読んだフリをしてカジュアルに読書を楽しむバーナード嬢こと町田さわ子の言動も、ディープかつハードコアなウンチクSF読みの神林しおりの言動も、見ていて人ごとに思えないのであります。

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今年も復刊ものは色々ありましたね。覚えている範囲でつらつら書き連ねてみますが、まず二階堂奥歯『八本脚の蝶』が復刊ドットコムから重版されたこと。そして、随分前からアナウンスされていたものの、延び延びとなっていた河出書房新社の奇想コレクションのロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』が遂に刊行されたこと。ロバート・E・ハワードのコナン全集の新訂版が、第5巻『真紅の城砦』から4年の間を経て、ようやく第6巻『龍の刻』で完結を迎えたことも感慨深いものがありました。戦後派五人男の一人である大坪砂男の全集が東京創元社から文庫版で刊行されたこと(全4巻)。氏の孫が虚淵玄であるという事実が判明したことも驚きでありましたが、その虚淵氏のサイバーパンクSF武侠片『鬼哭街』のノベライズ版が、角川スニーカー文庫で刊行されてから8年の時を経て、合本として星海社から文庫で刊行されたことも嬉しいトピックでありました。映画化決定でめでたく新訳&復刊した『エンダーのゲーム』シリーズ(まだ積んだままで読んでないです)。サンリオSF文庫の中でもベラボウに高い古書価がついていたことで知られるピーター・ディキンスン『生ける屍』の、ちくま文庫からの復刊(内容は、まあ、うん…って感じでした)。おっと、椎名誠『武装島田倉庫』鈴木マサカズ氏によってコミカライズされたこと、またそれに伴って新装版が刊行されたことも書いておかねば。日本SF作家クラブ創立50周年を記念したアンソロジー(ハヤカワの『日本SF短篇50』、東京創元社の『てのひらの宇宙(星雲賞短編SF傑作選)』)が刊行されたのも印象深かったです。『日本SF短篇50』第二巻に神林長平「戦闘妖精・雪風」シリーズ第一作目「妖精が舞う」が、SFマガジン掲載時の版で収録されていたので、おいしくいただきました。ところで、制作が進んでいるというハリウッド実写版「戦闘妖精・雪風」。ポシャらずに無事完成したとして、そのうち日本公開されるのなら、深井零の日本語吹き替えはOVA版同様、堺雅人氏で、と個人的には切望しております。ブッカーおじさんの吹き替えはもちろん中田譲治おじさんで。あと何か忘れているような気がするのですが…とりあえずこんなところでしょうか。

上の方でも書きましたが、まずは来年早々に出るルイス・シャイナーのロック・ファンタジー小説『グリンプス』の復刊はうれしいニュースだなあと。また、オースン・スコット・カードの『無伴奏ソナタ』も新訳版で1月末に刊行されるとのことで、これまた嬉しい。2月にはフランスのユーモア作家であるピエール・カミの『機械探偵クリク・ロボット』がハヤカワ・ミステリ文庫で出るのも忘れないようにしたいところです。あと、これはあくまで個人的な予想ですが、「キルラキル」に絡めてバリントン・J・ベイリーの衣服哲学ワイドスクリーンバロック『カエアンの聖衣』がハヤカワあたりから復刊されるんではないかと踏んでおります。「天元突破グレンラガン」のときに、ベイリーの『禅銃』、フレドリック・ブラウンの『天の光はすべて星』の復刊が成ったという前例があるので、期待しております。

"それとフレドリック・ブラウンの『天の光はすべて星』 コレ昔は『星に憑かれた男』だったんだって!この改題はスバラシイ!!今売ってるのは表紙もステキで ウフッ!ンフフフフ…"(神林しおり嬢曰く)