2013年2月28日木曜日

YES『TALK』(1994)

TALK(紙ジャケット仕様)TALK(紙ジャケット仕様)
(2002/09/21)
イエス

商品詳細を見る


 プログレッシヴ・ロック・バンド YESの14枚目となるオリジナル・アルバム。『BIG GENERATOR』リリース後、88年にジョン・アンダーソンがバンドを脱退し、元メンバーのビル・ブルーフォード、リック・ウェイクマン、スティーヴ・ハウとAnderson Bruford Wakeman Howe(ABWH)を結成。一方クリス・スクワイアは残ったメンバーとYESの活動を継続…と、分裂状態になります。両グループ間でYES名義の使用権をめぐって揉めたりもするのですが、結局和解し、そのまま両者が合体して"メンバー8人のYES"が誕生。91年に『Union』を発表します。しかし流石にバンドとして機能せず、内外共にミュージシャンの出入りも激しかったため、そこそこのクオリティの楽曲は揃っているものの、今ひとつまとまりを欠くアルバムを残しただけですぐにこの8人YESは瓦解。数年間に渡ったメンバー脱退・合流のゴタゴタは、結局『90125』時のメンバーに戻ったことでひとまず終結を迎えます。

 そして94年にリリースされたのが本作『Talk』。『BIG GENERATOR』の方向性をさらにパワフルに、さらにメロディアスに推し進めた作品であり、ハードでひねりも効いたトレヴァー・ラビンのアレンジ/プレイは前作以上に伸び伸びとダイナミックな冴えを見せています。厚みのあるコーラスが快活なエネルギーに溢れたオープニング曲「The Calling」。ミドルテンポでどっしりとした貫禄のもと展開される「I Am Waiting」「Real Love」。SUPERTRAMPのロジャー・ホジソンとの共作曲であり、サビの甘いコーラスが絶品なポップ・チューン「Walls」。と、楽曲は依然としてメリハリと瑞々しさをたっぷりと感じさせてくれます。そして極めつけは、アルバムのトリを飾る「Endless Dream」。技巧性と疾走感に溢れた痛快なプログレ・ハード・サウンドで幕開けする"(a) Silent Spring"、ジョン・アンダーソンのヘヴンリーなヴォーカルも一層際立つドラマティックな構成の"(b) Talk"、サーっと波のように押しては返す余韻にしみじみと浸らせてくれる"(c) Endless Dream"の三つのパートで構成された15分を越える組曲。この大曲に本作の魅力の全てがここに詰まってると言っても過言ではありません。アルバムとしてのまとまりも見事。

 プレイヤーとしてもアレンジャーとしても非凡な才を遺憾なく発揮したラビンですが、アンダーソンとの確執が深刻化したことにより、結局彼は本作をもって脱退してしまいます。次作『Open Your Eyes』ではスティーヴ・ハウとリック・ウェイクマンが再加入し、全盛期YESメンバーの再集結を果たしたのですが、アルバムは精細を欠く内容でお世辞にも良いとは言い難く、ラビンの抜けた穴がいかに大きかったかを痛感させる結果になってしまったように思います(それでも、次々作『The Ladder』では調子を取り戻し、見事な返り咲きを見せるあたりがYESらしいのでありますが)。YES脱退後、ラビンは映画劇伴作曲者としての活動にシフト。「アルマゲドン」や「ディープ・ブルー」「ナショナル・トレジャー」といった数々の有名映画の劇伴にも携わる売れっ子コンポーザーとして、現在も活躍中であります。




CD版の後に出たCD-ROM版『Talk』に収録されているスタジオライヴ映像と各メンバーのコメント。

○Yes - Talk Radio Promo
Part.1 http://youtu.be/aNVXxbZBKMo
Part.2 http://youtu.be/x71RMCkMSlc
『Talk』をリリースした頃、ラジオでオンエアされたプロモーション番組?らしい。各メンバーが喋っている。

「TALK」- Wikipedia
トレヴァー・ラビン サントラワークス

2013年2月27日水曜日

YES『BIG GENERATOR』(1987)

ビッグ・ジェネレイタービッグ・ジェネレイター
(2010/05/26)
イエス

商品詳細を見る


 自分が一番最初に聴いたYESのアルバムは『こわれもの』や『危機』でもなく本作でした。もはや何度聴き返したかわかりません。今まで食ったパンの枚数くらい覚えておりません。そういうわけで非常に思い入れのある1枚であります。プログレッシヴ・ロック・バンドYESが87年に発表した12枚目のスタジオ・アルバム。メンバーは前作『90125』に引き続き、ジョン・アンダーソン(Vo)、クリス・スクワイア(b)、トレヴァー・ラビン(g.kbd)、トニー・ケイ(kbd)、アラン・ホワイト(dr)の5名。しかし、大ヒットを記録した前作に比べてセールスはガタ落ちし、ファンからは駄作というレッテルを貼られ、さらには本作以降またしばらくバンドが迷走を始めてしまうという、どうもツキに恵まれなかった不遇なアルバムです。しかし、だからといって本作をスルーしてしまうのはあまりにも勿体無い。

 トレヴァー・ラビンのカラーが色濃く反映されたモダンな色合いと少々ヒネりの入ったプログレ・ハード曲の数々は、どの曲もドライヴ感が十分なこともあってとっつきやすく、粒揃い。サウンドこそハードながら、YESというバンドの持つキャッチーな側面を味わえる魅力的な仕上がりです。そう考えると、やはりタイトル曲「BIG GENERATOR」は象徴的であります。高らかに歌い上げられる機械賛歌な詞に、躍動的でありながら醒めたところもある曲展開、ここぞとばかりにギャンギャンと唸りを上げるハードなリフに、マシナリーなビート、と、従来のYESのイメージを覆す要素ばかりが揃っていながら、全てが堪らなくシビれる。ダイナミックな佳曲と言えましょう。

 ラビンのしなやかなギタープレイが、ヴォーカルとコーラスの暖かみと絶妙に調和している「Shoot High,Aim Low」。テンポの良いヴォーカルに歯切れ良く攻めていくアンサンブルが耳に心地の良いポップス・ナンバー「Almost Like Love」。ダイナミックなメロディラインを持ったラヴソング「Love Will Find A Way」は、ストリングスによるイントロからギターへのバトンタッチする流れがあまりにも秀逸。ラテン調の「I'm Running」は、ゆったりムードに見せかけて、バリバリにテクニカルなプレイとめまぐるしい展開がこれでもかと詰まっているのが面白い。楽曲のメリハリをハッキリさせるラビンのアレンジはやっぱり諸手を挙げて支持したいです。個性派揃いのYESにあって、メンバー間のエゴに悩まされながらも何とかまとめ上げようと奮闘した彼の苦労は大いに労われてしかるべきでしょう。ラストはジョン・アンダーソン作曲による、ヘヴンリーなムードたっぷりの「Holy Lamb (Song for Harmonic Convergence)」で〆。こういった、聴き手に心の底から湧き上がってくるような多幸感を与えてくれる楽曲は、まさにジョンならでは。面目躍如であります。


…ここからは余談ですが、自分がこのアルバムを知ったキッカケは、当時愛読していた木城ゆきと氏の『銃夢』と、吉富昭仁氏の『EAT-MAN』の両作品からでありました。前者では主人公ガリィが酒場でこの曲を歌うシーンがあり(残念ながら現在入手できる単行本ではオリジナルの詞に差し替えられております。ゆきと氏のサイトの日記の2004年末の記述によると、YESの権利関係が複雑になり過ぎたがゆえに代理人がわからず、新装版刊行の際に歌詞の使用許諾がとれなかったとのこと。差し替え前のヴァージョンを見たければ、ヤングジャンプコミックス版の5巻(↓)を古本屋で探しましょう)、後者では単行本9巻の描き下ろしエピソードのタイトルに冠されておりました(吉富氏は作品のあとがきなどでYESファンであることを公言しております。氏の初期作品『ローンナイト』ではジョン・アンダーソンのソロアルバム『サンヒローのオリアス』と同名タイトルのエピソードがあったりも)。

銃夢(GUNNM) 5 (ヤングジャンプコミックス)eatman9.jpg

「Big Generator」- Wikipedia

2013年2月22日金曜日

YS『Madame la Frontiére』(1975)



フレンチトラッドの大御所アラン・スティーヴェルのバックバンド出身のメンバーが結成したフォーク・ロック・バンドの75年作品(未CD化)。ビーズによるドット絵ジャケも味わい深い。トラッド・フォークなアンサンブルだけどギターが結構ハードなテイスト。アルバム発表直後にヴァイオリン奏者が脱退したため、YS名義ではこの1枚しか残してないそうなのですが、残ったメンバーは後任にデヴィッド・ローズを迎えて、KERISとバンド名も変えてもう1枚アルバムを出したそうな。一方、YSを脱退したヴァイオリン奏者René Werneerはソロアルバムをリリースしており、こちらはより古楽志向が強め。GRYPHONのブライアン・ガランドも参加しているのだけども、これも未CD化という…。



2013年2月21日木曜日

あさき『天庭』(2013)

天庭天庭
(2013/01/30)
あさき

商品詳細を見る


 BEMANIシリーズのコンポーザー、あさきの、7年半ぶりとなる2ndフルアルバム。当初は2011年の末に発売がアナウンスされていたものの、あさき氏の病気療養などもあり、結局1年ちょっと発売が延びた形に。延期に継ぐ延期で本当にリリースされるのか不安でした、いやホントに。しかし、待ちに待った甲斐はありました。全15曲75分というヴォリュームもさることながら、あらゆる声色を使い分けるあさきのヴォーカル、ヴィジュアル系ロックのフォーマット(やはりSIAM SHADEやLa'cryma Christiといったバンドからは相当に影響を受けたんだろうなあと思います)に落とし込まれた各種ニッチなサウンドの数々が、冥いトーンを湛えた幻想怪奇譚なコンセプト共々 底の知れない深い闇の中で蠢いており、前作をはるかに凌ぐアグレッションとヴァリエーションで迫る一大傑作に仕上がっています。音圧も増しており、よりダイレクトにあさきサウンドの衝撃度が伝わってくるようにもなりました。

 くぐもった声によるモノローグで、いきなりただならぬ雰囲気を感じさせる「散るを踏み 残るを仰ぐ」で幕を開け、すぐさま本作を象徴する10分越えの大曲「天庭」へ。ヴァイオリンを存分にフィーチャーした、展開に継ぐ展開と有象無象の情念が込められた息をつかせぬプログレッシヴ・メタル。「このアルバムは、「天庭」がすべてです。」というあさき氏のコメント(インタビューより)も納得の、大作にして力作です。続く「魚氷に上り 耀よひて」もヴィジュアル系ヘヴィ・プログレ。他の楽曲でもそうですが、Aメロ、Bメロの複雑かつ閉塞的な展開をこじ開けるようなキャッチーでねっとりとしたサビが絶妙な高揚感を生んでおります。前作の「赤い鈴」を髣髴とさせる、シャッフル・ビートの軽快な「行き過ぎて後に」や、メロウな「愛のかたち 幸せのかたち」といったストレートな(といってもアレンジは凝ってますが)ロック・チューンも高水準な出来。ほのかに漂う往年の昭和歌謡テイストがまたいい味を出しています。共に30秒に満たない幕間的な楽曲ながら、チェンバー・ロック的趣向で禍々しさを放つ「このひと しりませんか」「嘘仮嘘仮として けしからず」は、瞬間的なインパクトと邪気たっぷりで、異様な存在感があります。

 「まほろば教」「生きてこそ」は、共に9分越えのシアトリカルな長尺曲。前者はチェンバー・ロックmeetsアヴァン・メタルな混沌。後者は数多の声色が喧しく入り乱れ、叫びが飛び交うグラン・ギニョール。音数と言霊がみつしりと詰め込まれており、一度二度聴いた程度ではその全容を把握することは不可能に近いです。ファニーな声色でやたらねっちょりと歌い上げるヴォーカルと、リコーダーの間の抜けた音色が強迫的な「舌切り念念」、ワルツ調でメルヘンチックな「白きを廻り 黒きの巡り」は、前作にはなかった趣向の楽曲。スロウなテンポと相まって、いいようもない不安感をおぼえるのですが、一抹の希望や哀愁、翳りのようなものも孕んでおり、一言で片付け難いものがあります。どういう顔して聴いたらいいのかマジでわからなくなりました。しかしそれもまたあさきワールド也。改めて言いますが、大傑作アルバムです。有無を言わせぬ高濃度・高密度の悪意と狂気の渦巻くハイブリッド・サウンドは、カナダのuneXpectやアメリカのSleepytime Gorilla Museum、スウェーデンのDiablo Swing Orchetraといったソッチ系のバンドとも十分タメを張れるといっても過言ではないと思います。いやはや2013年の初頭から凄い作品が出たもんです。



あさき「天庭」 - コナミスタイル
あさき:公式
あさき:Wikipedia
人気BEMANIコンポーザー・あさき氏インタビュー。7年半ぶりの2ndアルバム「天庭」に込めた想い,そして音楽のルーツについて聞いてみた - 4Gamer.net

あさき『神曲』(2005)

2013年2月13日水曜日

ストロベリーソングオーケストラ『血の濫觴』(2009)

血の濫觴血の濫觴
(2013/02/13)
ストロベリーソングオーケストラ

商品詳細を見る


 祝・アルバム再犯(再販)! サポートメンバーやゲストを合わせると十名以上の奏者・役者・団員で構成される大阪のアンダーグラウンド見世物パンク一座 ストロベリーソングオーケストラの、『鏡町にて』から6年の歳月を経て2009年に発表された2ndフルアルバム。寺山修司、江戸川乱歩、夢野久作からの影響を土台に、J・A・シーザー、人間椅子、犬神サーカス団、グルグル映畫館、初期筋肉少女帯などのアンダーグラウンドなロックバンドが持ち合わせている猟奇暗黒アヴァンギャルド要素を全て兼ね備えた恐るべきサウンド。ハードコア、ジャズ、プログレメタル、フォークなどの多彩な曲調に寸劇・語り・アジテーションを交えてのめくるめく楽曲構成は、一座がテーマとしている架空の町「鏡町」コンセプトと共にさらにグレードアップし、バツグンの殺傷力で迫ります。

 少年探偵団モノドラマ仕立ての「電波大放送~怪人 赤マントの犯罪~」や、語り&合唱をふんだんに交えて重々しくシアトリカルに展開してゆく「最後の審判」「胞衣の劇場」は楽団+劇団の大所帯編成を存分に生かしたこの一座ならではの楽曲ですし、サックスも交えビッグバンド的に洒落たスウィングをキメ駆け抜ける「木偶の縫子」では確かなテクニックとアレンジ・センスも感じさせます。筋肉少女帯における三柴理氏の如く奔放に躍動する高橋ヒデヲ氏のピアノ、ドスの効いた宮悪戦車氏のラフなアジりがヘヴィなリフを伴って押しに押してゆく「狂れた埋葬虫、電波、赤マント!」のつんのめったテンションや、ゴリゴリと硬質なイントロ、バッキングの高速ヴァイオリンと共に印象的な疾走曲「ジクムント」で爆発する扇情的なまでの強烈なインパクトも依然健在。もちろん薄暗く退廃的な趣のあるバラードナンバーの充実度も高く、「大空を失った男」「新月に君想う」での切なげなピアノやヴァイオリンの旋律、ノスタルジーを喚起させる月影美歌嬢の透き通った伸びやかな歌唱はただただしっとりと響く。また、先行シングルカットされたキラーチューン「血の軌跡が故の慟哭」で全てを吐き出すようにしてドラマティックに幕を閉じるというのも心憎い。全曲見所があり、6年の歳月を要したのも納得の、ガッツリ詰まったコンセプトミュージカルアルバムと言えましょう。



ストロベリーソングオーケストラ:公式

ストロベリーソングオーケストラ『鏡町にて』(2003)

2013年2月8日金曜日

KINGSTON WALL『II』(1993) / 『III - Tri-Logy』(1994)

IIII
()
Kingston Wall

商品詳細を見る

 北欧様式美系メタル・バンドが多かったゼロ・コーポレーションのカタログの中でも、とりわけ異彩を放っていたのがこのバンド。本作は、ヴォーカル&ギター、ベース、ドラムスのトリオからなる、フィンランドはヘルシンキ出身のサイケデリック・ロック・バンド キングストン・ウォールの2ndアルバム。ジミ・ヘンドリックスやLED ZEPPELIN、PINK FLOYDから多大なる影響を受けたペトリ・ワリ(Vo.Gr)をフロントマンに、87年に結成され、エスニックなムード漂う神秘主義的なサウンドを深く深く追求していったバンドであります。ヴォーカルはヘロヘロ、ギターは霞がかったトーンを響かせる一方で、リズム隊は手数の多さもさることながら確かなビートをキッチリとキープしており、トータルで見るとしっかりとした骨子のあるサウンド。よくある「雰囲気だけ」のなんちゃってバンドではありません。キーボード不在でも十分な雰囲気を醸しだすこの確固たるアンサンブルは素晴らしいケミストリーを生み出しており、今なおサイケデリック・プログレ・ハードの傑作と言われるのも納得の内容です。リフとコーラスがゆらゆらと螺旋を描いてゆく様が堪らないカタルシスを与えている「We Cannot Move」。程よい浮遊感が心地よいハード・ロック・チューン「Could It Be So」。デヴィッド・ギルモアやアンディ・ラティマーを思わせるブルージーな泣きの旋律に浸れる「And Its All Happening」。原曲のシーケンシャルなフレーズをギターが演奏し、トランシーなノリの良さはそのままにロック的な躍動感も加わった、ドナ・サマーの代表曲の好カヴァー「I Feel Love」。アツいインプロヴィゼーションがたっぷりと展開されるスリリングな長曲「You」。どこを切っても濃密な雰囲気がこのアルバムに詰め込まれています。また、ヴァイオリンをフィーチャーした「Istwan」ではアコースティック・ギターとの絡みで軽快なフォーク調のサウンドを展開し、サックスをフィーチュアした「Shine On Me」では、ブルージーで枯れた味わいを滲ませるなど、ゲスト・ミュージシャンの起用も実に効果的です。



III Tri-LogyIII Tri-Logy
(2010/04/01)
Kingston Wall

商品詳細を見る


 キングストン・ウォールの3rdアルバムにして、最終作。彼らのサイケデリック志向が頂点に達すると共に、大作主義、プログレッシヴ・ロック/ジャズ・ロック色も強め、エルドラドの遥か彼方を目指さんとするかのようなディープ極まりない作風に変貌したのが本作。今回はゲスト・ミュージシャンも多く、前作にも参加したサックス奏者のサカリ・クッコをはじめ、新たにディジュリドゥ奏者、口琴奏者、シンセサイザー奏者が名を連ねております。特にシンセのフィーチャー度は非常に高く(奏者/アレンジャーのキンモ・カジャストは、フィンランドのエレクトロ・ジャズのパイオニア的グループRinneRadioに在籍する人物でもあります)、従来以上に強めにエフェクトのかかったバンド・アンサンブルと相まって、純度の高いスペース・ロック・サウンドが徹頭徹尾貫かれております。イギリスのOZRIC TENTACLESに通じる面も多いと感じました。アルバム中盤からはレゲエ/ダブ要素も顔を出し、口琴の響きとペトリのささやくようなヴォーカルが一層どっぷりと酩酊を誘います。そして18分に渡って熱気の渦巻くラストの大曲「The Real Thing」は、まさに渾然一体となった音宇宙。バンドの集大成というべき内容になっております。アンビエントなムード、サックスの熱演も光ります。切れ目なく繋がっていく楽曲構成もあって、とっつきにくさはかなり増したものの、その密度の高いサウンドとイくところまでイってしまっている鬼気迫る勢いには息を呑むばかり。まごうことなき傑作アルバムを彼らは作り上げたわけですが、本作発表後、95年にペトリが飛び降り自殺により命を絶ってしまい、バンドの存在そのものにも終止符が打たれてしまいます。ペトリはこの三枚のアルバムの制作を経て、何を見出したのでしょうか? 本作を聴くたびに、酩酊感と共に一抹の寂寥感をおぼえてしまいます。



Freakout RemixesFreakout Remixes
()
Kingston Wall

商品詳細を見る


 キングストン・ウォールの知名度は日本ではそこまで高くないのですが、本国ではかなり名の知られた存在で、同国のバンドに与えた影響も少なくなく、RASMUSやAMORPHISはキングストン・ウォールの楽曲(「Used to Feel Before」「And I Hear You Call」)をそれぞれカヴァーしております。また、2000年には本国のアーティスト達によるテクノ・リミックス・アレンジを収録した企画アルバム『Freakout Remixes』がリリースされており、アーティストサイドからの支持の厚さも伺えます。

再発・発掘リリースの動きも活発で、98年に3枚のオリジナル・アルバムのリマスター盤、2005年にライヴ音源をまとめた3枚組CD、2011年には2枚組のベスト・アルバムがリリースされております。バンド・メンバーのその後の活動ですが、ベースのユッカ・ジリ氏とドラムスのサミ・クォパマキ氏は、HANOI ROCKSのマイケル・モンローのソロ・バンド等でプレイしていた人物であるロッカ・マリアーティと共に2006年にZookというブルース・ロック・バンドを結成し、シングル1枚とアルバム1枚をリリースしております。現在も活動中とのこと。



KINGSTON WALL:Wikipedia

RIVERSIDE『Shrine of New Generation Slaves』(2013)

Shrine of New Generation SlavesShrine of New Generation Slaves
(2013/02/05)
Riverside

商品詳細を見る

RIVERSIDE『Shrine of New Generation Slaves』を聴く。今回は70's風オルガン・ハード・ロック寄りの渋枯味ヘヴィ・プログレ。重心低めで骨太な聴き応え。マリウス兄さんのヴォーカルは相変わらず味わい深い。



2013年2月2日土曜日

taika『Pulsate』(2012)

pulsate (パルセイト) (帯ライナー付国内仕様)pulsate (パルセイト) (帯ライナー付国内仕様)
(2012/11/21)
taika、タイカ 他

商品詳細を見る


 ZABADAKや新居昭乃からの影響を色濃く反映したファンタジック・ポップス・ユニット ASHADAのメンバーであった妙(vo.accordion)嬢が中心となって08年に結成されたシンフォニック・ロック・バンド タイカの2ndアルバム。メンバーは妙嬢(ちなみに彼女は、昨年発売されたガストのゲーム作品「アーシャのアトリエ」で、挿入歌のヴォーカリストの一人として参加されております)に、ASHADAにもサポートで参加していたKBBのDani氏(b.engineer)、STELLA LEE JONESの谷本朋翼氏(dr)、高橋在也氏(p)の4人。前身のASHADAはユニットという形態であること、またZABADAK/新居昭乃フォロワーとしての色合いがユニットのオリジナリティより強かったこともあって、サウンドにやや心許なさを感じるところもあったのですが、バンド編成になったことでグッとシンフォニック・ロックとしてのまとまりや力強さが増しております。

 アコーディオンとピアノを上モノに、翳りのあるヴォーカルを聴かせるバンド・アンサンブルは、ひんやりとした感触の一方、ダークでファンタジックな雰囲気も存分に醸し出しております。ヘヴィで太いうねりから静謐な広がりのある演出までこなすDani氏のベース、時にパワフルに、時に細やかな手数のドラミングでムラなく支える谷本氏と、リズム隊のプレイも実に勘所を押さえたもので、非常に頼もしい。アルバム前半はバンドの熱量の高さと一体感を味わえる楽曲が多く、後半は静かに染み入ってくる歌ものの魅力を味わえる楽曲が多いという印象を感じます。疾走感のあるキャッチーな展開に高揚感のあるサビと、オープニングを飾るにふさわしい要素の揃った「誓いの彼方」。7拍子の展開に、徐々に力強さを増してゆくピアノとドラムが楽曲の密度をグンと高めている、プログレッシヴなテイストも強い「砂の蜃気楼」。ゆったりとしたヴォーカルとアコーディオン、キレのあるピアノとリズム隊、対照的なプレイが楽曲に強いアクセントをもたらしている「最果てへ」。アコーディオンの低音も効いた深みと厚みのあるサウンドにどっぷりと浸れる「深海」。妙嬢のヴォーカルの魅力を全面に押し出し、情緒あるムードとメロディがゆったりと優しく寄り添う「月だけが白い」「awake」。インプロヴィゼイションでの各パートのダイナミックな暴れっぷりが楽曲の暗いトーンに一層の濃さを与えている「meteor」など、おしなべて良曲揃い。楽曲の持つイメージの奥深くへと踏み込ませる良質なフィーメール・シンフォニック・ロックであり、みとせのりこ嬢のkircheや、山本美禰子嬢のジギタリスといったバンドと肩を並べる存在だと思います(そういえば、みとせさんも山本さんも「アトリエ」シリーズの楽曲へのヴォーカル参加歴のある方なんですよね)。また、日本盤には「星食」(1stミニアルバム収録曲)、「Immortal Fate」(未発表曲)の2曲のスタジオ・ライヴ映像を収録したボーナスDVDが付属しております。後者の楽曲はプログレ度の高い疾走曲で、アルバム曲のカラーとは大分趣が異なるものの、秀逸な仕上がりです。



taika:公式サイト
ASHADA『Circulation』(2006)

迷える者へのガイド

迷える者へのガイド (海外文学セレクション)迷える者へのガイド (海外文学セレクション)
(2004/11/30)
ギルアド・アツモン

商品詳細を見る


砂先生による挑発的なホットパンツ尻ガールが表紙のギルアド・アツモン『迷える者へのガイド』が気になるのである。でも絶版。ギルアド・アツモンの名前は以前どっかで聞いたようなと思ったら数年前に出たロバート・ワイアットとロス・スティーヴンとの連名アルバムだった。サックス奏者兼作家なのよね。



2013年2月1日金曜日

Rose is a Rose

最近ことあるごとにKATSUMI氏の昔の作品を聴き返している。フレッシュなハード・ポップ~AORな曲が多くて素晴らしい。QUEEN影響下の派手なアレンジと少々垢抜けない感じもツボをくすぐる。



この曲とかもイントロから実にハードポップしてて好きだな。


magic theatre

magic theatremagic theatre
(2010/01/01)
La’cryma Christi

商品詳細を見る

La'cryma Christi熱が静かに静かにぶり返している。3年前に紙ジャケットで1stから4thアルバムまで再発されてたことをつい最近まで知らずにいたという体たらくなのだが…。んで、最近になって3rdアルバムである『magic theatre』(2000)をようやっと聴いた。絶妙なさじ加減でプログレ・ハード路線を攻める初期の感じは凄く好きなんだけど、この後路線変更しちゃうし、うまく行かないもんだなあ。



ZEUSZEUS
(2005/06/29)
La’cryma Christi

商品詳細を見る

4人編成になった後の6th『Zeus』も聴いた。ストレートなドライヴ感溢れるハード・ロック路線で、やや物足りなさを感じるところはあるんだけど、筋がバシっと通ってて好きだなあこれも。