2012年9月1日土曜日

2012年8月 読書記録

8月の読書メーター
読んだ本の数:1103冊
読んだページ数:417135ページ
ナイス数:91ナイス


 猟奇文学館〈1〉監禁淫楽 (ちくま文庫)猟奇文学館〈1〉監禁淫楽 (ちくま文庫)
「ズ ロース挽歌(宇能鴻一郎)」「おれの人形(式貴士)」の二編が激烈な印象で迫る。前者は、ズロースへの異様な執着を抱く男が女学生を監禁、その後短い同棲 生活を送るまでを告白した話。匂いたつ濃厚な情念に、どこか哀愁も入り混じっている。後者は、触れたものを石化させる能力を持った男が女学生を監禁し、両 手足を石化&破壊しトルソーにしてしまう話。あまりに稚拙過ぎるプロットが、男が一方的にぶつける変態的欲望と容赦ない狂気に拍車をかけており、嫌悪を越 えて恐怖をおぼえる。共に実際の事件をモチーフにしていながら、対照的な二編。とはいえ、この二編にばかり気を取られてもいられない。<動けない男を完全に掌握する女><看病と言う名の監禁>を書き、真綿で首を絞められるような戦慄 をおぼえる「柔らかい手(篠田節子)」、最初と最後で状況もタイトルの印象もガラリと変わってくるサイコ・ホラー「囚われて(小池真理子)」、大谷崎は伊 達ではないと改めて痛感させられる、夢現のはざまをたゆたうような幻想耽美な文体に思わず生唾をのみ、ため息がこぼれる「天鵞絨の夢(谷崎潤一郎)」な ど、後を引く余韻の強い作品揃いで充実した内容になっている。
読了日:08月27日


 猟奇文学館〈2〉人獣怪婚 (ちくま文庫)猟奇文学館〈2〉人獣怪婚 (ちくま文庫)
妖 しくエロティックな香り漂う、異類婚姻譚ものアンソロジー。お相手は、魚、鯨、宇宙人、蛇、蟻、狸、獏、幻獣、鶴、インコ、豚と、変り種もなかにはチラホ ラ。赤江瀑「幻鯨」、宇能鴻一郎「心中狸」、椿實「鶴」、皆川博子「獣舎のスキャット」の四編が好み、特に皆川女史の作は至極ゾクゾクさせられた。 PINK FLOYDの「デブでよろよろの太陽」を巧みに伏線に織り込みつつ、風通しの悪い雰囲気の中、XXをXXXしてしまうというデロデロな背徳感たっぷりの内 容に仕上がっていて、これがデビュー直後の作とは…改めて恐れ入ってしまう。
読了日:08月02日


 深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))
過 去の己の姿を引きずる主人公ケインと、凄腕ガンマンだがアル中の相棒ハーヴェイのコンビが、警察や殺し屋の妨害をくぐり抜け、依頼人を目的地へ送り届ける ため夜の闇をシトロエンで駆け抜けるスタイリッシュ・ハードボイルド不朽の名作。単純明快なストーリーだが、ウィットに富んだやり取りや見所シーン満載の 極上のエンタメ。何よりも主人公コンビのプロとしての矜持溢れる言動にシビれることこの上ない。タイトルの意味が明らかになると共に深いカタルシスをもた らすラストの一節がまたベラボウにカッコイイのなんの。再読するほどに味が出る。
読了日:08月09日 著者:ギャビン・ライアル


捜査 (ハヤカワ文庫 SF 306)
死 体消失事件の謎を探るミステリ的作品。でも捉え方次第ではSFにもサイコ・ホラーのようにも感じることができてしまうので、一粒で何度もオイシイ(?)か もしれない。捜査員達があれこれと諸説挙げながらも、結局謎が謎のまま終わる。イケそうでイケないどころか、イク見込みがハナからないという手合いなんだ けれども、全編に渡ってミステリアスな緊張感があり、最後まで読んじゃう。本作のキモを「何もかも合理的に解決できると思ったら大間違い、わからんもんは わからんのよ」と捉えた場合、ある種のアンチ・ミステリ的作品としても見られる?
読了日:08月09日 著者:スタニスワフ・レム


 世界文学「食」紀行 (講談社文芸文庫)世界文学「食」紀行 (講談社文芸文庫)
古 今東西の文学作品に登場した食べ物や食事シーンに焦点を当てて文学世界を巡る、楽しくも美味しい切り口が冴え渡る1冊。前菜やスープ、魚・肉、デザートや 酒、果ては架空料理に至るまで、章立てで分類され、かつ簡潔にまとめられている。良質なグルメガイドとしても、また興味をそそる文学案内としても読めてし まう篠田氏の語り口は流石。長編、短編はもちろん、劇作、エッセイ、漢詩、俳句まで、俎上に載っている作品の豊かなラインナップにも圧倒されてしまう。旨 そうな描写に読書中思わず唾を飲んだ経験がある人には、本書は至福のご馳走かも。
読了日:08月12日 著者:篠田 一士


 ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本
ハー ン氏、ニューオリンズ在籍時代の書。抄訳なので全てのレシピが掲載されているわけではないが、スープ、魚、獣肉、鶏、野菜、卵、デザートから病人食に至る までのレシピが豊富に網羅されており、これらを聞き集めたハーン氏の力の入りようが伺える。ザリガニや亀、蛙料理なんてのもあったり、用意する材料の分量 がかなりのものだったり、作り方が大雑把で回りくどかったりと、レシピ本として実際に使うにはやや難度が高いのだけれども、パラパラめくって読む分には楽 しい内容である。クレオール文化の一端をちょっと垣間見れた気にもなる。ハーン氏が記者を務めていた「アイテム」誌に掲載されていた氏のコラムの一部がおまけとして収録されているのだが、タルタルソースのレシピを紹介した記事 が面白かった。まずタタール人を隠密かつ慎重に殺害してバラバラにするところから始まるというもので、そのあとちゃんとしたソースの作り方も書いているの だが、なんともスパイシーなユーモアが効いている。
読了日:08月16日 著者:ラフカディオ ハーン


 ヴァギナ 女性器の文化史ヴァギナ 女性器の文化史
名 器、もとい名著だと強く感じた一冊。決してこの表紙のインパクトにアテられたのがキッカケで手に取ったわけではない…というと嘘になるが、読み終えた頃に は何とも襟を正される思いがした次第。表紙のインパクトに惑わされてはいけない。古今東西の数多の資料をもとに、多角的かつアカデミックに「世界の起源」 たるヴァギナを掘り下げる。言語学的、生物学的、解剖学的、文化的視点での展開や、愛液やフェロモン、オーガズムについてのトピックまで、神秘的、官能的 側面にとどまらないアプローチは読みごたえ抜群、目からウロコがこぼれる。内容の一例 ●女性の下腹部と生殖器のクローズアップを描いたギュスターヴ・クールベの油彩画「世界の起源」(1866年)の存在●悪魔祓いの一種としてスカートを捲 り上げ陰部をさらす行為●一見して殆ど見分けがつかないハイエナのオスのペニスとメスのクリトリス●現在では「性的に」使われることが多いバイブレーター は、19世紀末から20世紀初頭の頃はヒステリー治療など「医学的な」役割として使われていた(当時の家庭用電化製品の通販カタログに載るくらい一般的な シロモノだった)…などなど、興味深いトピックが次々と出てくる。
読了日:08月21日 著者:キャサリン・ブラックリッジ


 室温室温
一 人のサラリーマンの昼休みの一時間の出来事と思考の流れを書いたのが前作『中二階』ならば、こちらは、一人の父親が赤ん坊をあやす二十分間の出来事と思考 の流れを書いた作品。ミクロ過ぎるほどにミクロな着眼点と、脱線に次ぐ脱線を繰り広げていくたわいない思考、それが、ともすればマクロな真理に通じている んじゃないかと思えてくる。さりげないのだが、やはりたまらなく極上である。見過ごしがちな日常のアレコレに改めて目を向けるキッカケとして、こちらも愛 すべき1冊。「図書館に行くと無性にトイレに行きたくなる」…お前は俺か。
読了日:08月25日 著者:ニコルソン ベイカー


 電脳娼婦電脳娼婦
SF 官能小説集。海綿体に程よくツーンと効くエロい内容揃い。<たったひとつの冴えたやり方>の探求のために、あんなものやこんなものをお花や蕾に突っ込まれ たりするSMプレイの数々が展開される「たったひとつの冴えたやりかた」。見事なひっくり返しが冴える「電脳娼婦」。感覚共有、記憶改変といったネタを織 り交ぜつつ、男女の因果が濃厚な情交と共に繰り広げられる中編「黒猫という名の女」の三編が特に印象に残る。SF性器が否応なくムズムズしてくるかどうか はさておき、クオリティの高い官能小説なのは確か。いやあ、えがったえがった。
読了日:08月30日 著者:森 奈津子


拡張幻想 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)拡張幻想 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)
全 体的に「震災」「小松左京氏」「伊藤計劃氏」がキーワードの作品が多く、ネタ元を読んでないと…というものが多いのが難なのだけれども、今回もどっぷりの めり込んだ。インプラントによる感情の操作、それを巡る男女のしがらみ愛憎こもごもを切れ味鋭く描く、イーガン的であり、また伊藤計劃氏の『ハーモニー』 へのこの上ないオマージュである「美亜羽へ贈る拳銃(伴名練)」、一見さんお断りの重量級量子SFながら結構エンタメしていて喰い応え十分な「すべての夢 │果てる地で(理山貞二)」の二編が、今後への期待値込みで超フェイバリット。
読了日:08月30日



ほか千数十冊、略。

2012年8月の読書メーターまとめ詳細
読書メーター