2012年12月31日月曜日

2012年 個人的ベストアルバム10選

…と、いっても今年は色々と聴き漏らしたアルバムがいっぱいあったのが心残りで心残りでしょーがないのですが、悔やんでも仕方がないので10枚のアルバムを選びました。選出はとてもスムーズに決まりましたが、それだけ聴いたものが少なかったということでもあるので、少々寂しいものがあります…。来年は選出に頭を抱えて悩むくらい、もっとアレコレ聴きたいなと。


【1位】
Pandora's PinataPandora's Pinata
(2012/05/22)
Diablo Swing Orchestra

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スウェーデンの猥雑混沌狂騒スウィング楽団。今回のアルバムでこの人たちの音楽的ケイオスは底が知れないと本気で思った。来日してほしい。してくれ。してください。



【2位】
パナギアの恩恵パナギアの恩恵
(2012/12/12)
特撮

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待ちに待った7年ぶりの完全オリジナルアルバム。予想をはるかに超える充実度。勢いも戻ってるし、間違いなく完全復活と言っていい内容。楽曲のスルメ具合もなかなかのもの。




【3位】
ラヴァーズ・エンド・パート3ラヴァーズ・エンド・パート3
(2012/12/19)
ムーン・サファリ

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これまでのアルバムの魅力を総決算した、ラヴァーズエンド三部作完結編。大名盤である前作の存在感が大きいのも多分にあるのだけれども、甘ーいサウンドの魅力にはやっぱり抗えない。



【4位】
マップ・オヴ・ザ・パストマップ・オヴ・ザ・パスト
(2012/07/25)
イット・バイツ

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再編後2作目、そしてバンド初のコンセプト作品。ジョン・ミッチェルがバンドに大分馴染んだのもあって、ブレが全くなくなった。曲単位じゃなくてアルバム全体を通してしっかり聴かせる構成もお見事。今がバンド第二の黄金期だと思う。



【5位】
ぱっちりひつじ『ゆめにっき1』

今年のダークホース、ならぬダークシープなニューカマー。シュールでダークな夢のイマジネーションへ誘う非現実系テクニカルポップバンド。凝った仕掛けとごった煮感。こいつはすごいぞ。



【6位】
シメサバツイスターズ『Progrematica』


ボカロ/UTAU meetsプログレ・メタルのトータル・アルバム。分割された、トータル30分を超える大作組曲の存在感。ラストまで続く攻めの姿勢と、非の打ち所がない楽曲構成に圧倒されました。



【7位】
EcholynEcholyn
(2012/06/26)
Echolyn

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7年分のこだわりのこもった、余裕と貫禄のスタイルを存分に堪能できる大作。テクニカル・ロックとしてもシンフォニック・ロックとしても白眉。



【8位】
AtlantisAtlantis
(2012/11/06)
Elephant9 With Reine Fiske

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ノルウェーのオルガン・トリオ。今回はDUNGENのギタリストをゲストで入れたりしているけど、結局はトリオの一体感、これに尽きる。相変わらずスキあらばぶっ殺されそうな一触即発サウンドでたまんねえ。



【9位】
NINJA MAGIC『Lethal Ninjaction』


※フリーダウンロード作品
http://dl.dropbox.com/u/58440147/Ninja_Magic-Lethal_Ninjaction-mp3.zip

まさかの復活。賛否両論ありますが私は好きです。彼らの公式Facebookで新作含む全アルバムを無料公開しているから皆ダウンロードして聴きまくるべし。いいね?→ http://is.gd/tO20wt


【10位】
CHRIS『City Of Light』


才能を持て余し気味なオランダのマルチミュージシャン。この人は特定のバンドに所属するよりもソロで伸び伸びやった方がいいんじゃないかと思う。彼がドラマーとして所属しているプログレ・バンド SKY ARCHITECTの今年の新作は地味過ぎて泣けた。

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これ以外だと、LIGHT BRINGERのメジャーレーベル第一弾アルバム『Genesis』トレヴァー・ラビンの久々のソロアルバム『Jacaranda』J.A.シーザーが2012年5月に30年ぶりに行ったライヴの模様を収録した『山に上りて告げよ』、ダミアン・ウィルソン(THRESHOLD)とリック・ウェイクマンの次男のアダムが組んだプログレ・メタル・バンドHEADSPACE『I Am Anonymous』ノイジークロークの坂本英城おじさん率いるTEKARU『Machanical』菊田裕樹氏の手による忠実な再現リメイクで蘇った聖剣伝説2の楽曲を収めた『シークレット・オブ・マナ・ジェネシス』、そしてEXPOによる遊び心が満載の、キルミーベイベーのサウンドトラック『Music From "Kill Me Baby"』あたりが印象に残りましたね。

あと、曲単位で印象に残ったもの。

●水中、それは苦しい『芸人の墓』

ベースになった谷川俊太郎氏の詩「詩人の墓」がまず素晴らしいのだけど、創造の喜びと虚しさを孕んだテーマに沿ったバンドのサウンドも、底の底から琴線に触れてくる仕上りでグッときました。

●ヒャダイン「Million of Bravery (Excalibur Strut/ENG)」

拡散性ミリオンアーサーの主題歌の、ヒャダインおにいさんが英詞でセルフカヴァーしたヴァージョンの方。メタルとメロコアとアニソンのいいとこどりキメラ。超キャッチーで超ジャンクなアレンジ、だがそれがいい。

●アンドレ・マトス「氷雨(Cover)」

毎回カヴァー曲のチョイスがナナメ上なマトスおじさんですが、遂に演歌をカヴァー。ナナメ上なのは本人もわかった上でやってんだろうなあもう。次も密かに期待しております。

2012年12月30日日曜日

2012年 個人的おすすめ本20冊[裏]

やっぱりどうしても悩ましい事態になったので、以下、「裏のおすすめ」も20冊選出。こっちの方が地が出ているような気もする。

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カリブ諸島の手がかり (河出文庫)カリブ諸島の手がかり (河出文庫)
(2008/08/04)
T S ストリブリング

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西インド諸島を舞台に、心理学者のポジオリ教授が数々の事件に巻き込まれるミステリ。推理はすれど、色々と一筋縄ではいかない。回を重ねるにつれて教授の名声は広く知られる所となるものの、多様なクレオール文化の息づく環境やそこに生きる人々の思考や行動に毎回翻弄され、彼の活躍はユーモラスながら一抹の苦さを残し、不本意ながら「華々しき名探偵」とはズレた位置に否応無く立たされてしまう。教授が異教に相対する「カパイシアンの長官」と「ベナレスへの道」の2つのエピソードは本作を象徴すると言ってもいい。後者の結末には呆然の一言。

謎の物語 (ちくま文庫)謎の物語 (ちくま文庫)
(2012/02/08)
紀田 順一郎

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物語の結末を読者へ投げ、想像を膨らませるリドルストーリー・アンソロジーの新版。「女か虎か」「謎のカード」「穴のあいた記憶」など旧版からの五編+新規収録十編。『後をひく話』の収録作がどれもツボ(幻想と戦慄のショートショート「野原」(ダンセイニ)、したたかなオチに思わず苦笑いな「宵やみ」(サキ)、オチの感慨を一層深く演出する終盤の趣向が素晴らしい「園丁」(キプリング)、悪い方向に物事が進む様をエクストリームに書いたブラック・ユーモア作「七階」(ブッツァーティ)の四編)。質・量共に申し分なく、スルメな1冊。

世界文学「食」紀行 (講談社文芸文庫)世界文学「食」紀行 (講談社文芸文庫)
(2009/03/10)
篠田 一士

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古今東西の文学作品に登場した食べ物や食事シーンに焦点を当てて文学世界を巡る、楽しくも美味しい切り口が冴え渡る1冊。前菜やスープ、魚・肉、デザートや酒、果ては架空料理に至るまで、章立てで分類され、かつ簡潔にまとめられている。良質なグルメガイドとしても、また興味をそそる文学案内としても読めてしまう篠田氏の語り口は流石。長編、短編はもちろん、劇作、エッセイ、漢詩、俳句まで、俎上に載っている作品の豊かなラインナップにも圧倒されてしまう。旨そうな描写に読書中思わず唾を飲んだ経験がある人には、本書は至福のご馳走かも。

悪戯の愉しみ (大人の本棚)悪戯の愉しみ (大人の本棚)
(2005/03)
アルフォンス アレー

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軽妙ながらも黒~い毒を散りばめたショートコント集。アンドレ・ブルトンが「エスプリのテロリズム作用」と評したのは実に的確。オチもさることながら、不適な微笑みが垣間見えるかのような読み心地がたまらない。≪いつも一緒にいたい≫というカップルの望みを博士が文字通り叶えてあげる「コラージュ」、とある発明家が【空葬】のプランを持ちかける「輝かしいアイデア」(乱歩の「パノラマ島綺譚」の人間花火を思い出す)、オイシイ話の新聞広告が実は…な「宣伝狂時代」などなど、枚挙に暇がないほど魅力的な作品群。定期的に摂取したくなる毒。友人の細君の葬式で見かけた女性に一目ぼれしてしまい、もう一度お目にかけたいと望むあまりに友人を殺害してしまう「見つけた!」は、『八百屋お七』や『殺人者を判別する心理テスト』(「夫の葬儀の参列者に一目惚れした未亡人が、数日後自分の息子を殺害した。それはなぜか?」)と共通の心理を描いた一編。

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)
(2011/06/26)
米澤 穂信

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息の詰まる仄暗い雰囲気、見え隠れする殺意、背筋の寒くなるような展開・結末、とにかく読んでいてイヤ~な感触が抜け切らないのだが、盛り込まれた悪意のキレがいいのである種のカタルシスも覚えてしまう。収録されている五編にハズレはないのだけれど、特に「北の館の罪人」「玉野五十鈴の誉れ」が素晴らしい。ミステリ好きをニヤリとさせるネタ、お嬢様達の読書会「バベルの会」の全貌が徐々に見えてくる構成など、黒い悪意の間隙を縫って凝らされた趣向も美味。こういうタイプの作品も書ける人なのだなあと、認識を改めさせられた。

ライダー定食 (光文社文庫)ライダー定食 (光文社文庫)
(2008/02/07)
東 直己

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ススキノ探偵などのシリーズとはかなり趣を異にする初期短編集。奇妙な味とナンセンスとヨタ話しかなく、なおかつオチの斜め上(斜め下)ぶりが顕著で、非常に好みの分かれる内容。個人的には見事など真ん中ストライクで楽しめた。ありふれた内容ながら最後まで読むと思わず嫌な笑いが漏れ出る表題作、納豆かき混ぜ用の箸や、ある一家を飛び回る蝿の葛藤や悲哀が書かれる「納豆箸牧山鉄斎」「間柴慎悟伝」、とめどもないヨタ話四方山話の連続、煙にまかれたような構成に呆然とさせられる「一九九三年八月十六日」「炭素の記憶」など全六編。

左巻キ式ラストリゾート―ぷにふごEX (パンプキンノベルズ)左巻キ式ラストリゾート―ぷにふごEX (パンプキンノベルズ)
(2004/04)
海猫沢 めろん、ぴぃちぐみ 他

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メタ官能シミュレーション小説、メフィスト味のミステリを添えて。表紙をめくって3秒で「ひぎいいいっ」で埋め尽くされたページの洗礼を浴びる。原作は未プレイだが、元のゲームとは別物だというのはよーくわかった。危うさ全開の一冊である。テンプレだらけなキャラとエロ、そして崩壊する作品世界、全てが意識的な所業のもとに展開されている。メタメタな趣向は、今読むといささか古さを感じてしまうのだけれども、めろん先生のブチ切れっぷりは存分に堪能可能。鬼ノ仁先生のエロエロ極まりないイラストもSO GOOD!NO FUTURE!

グアテマラ伝説集 (岩波文庫)グアテマラ伝説集 (岩波文庫)
(2009/12/16)
M.A.アストゥリアス

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濃厚な色合いと眩暈のもと出力された、自然の匂いと躍動に満ちた神話・伝説的世界。刺激的なマジック・リアリズムの虜になってしまった。魂を巡って「博士」と商人、奴隷女が織り成す『「刺青女」の伝説』、ひとりの男の鞠に対する奇妙な愛憎を描く『「大帽子の男」の伝説』、むせ返るようなイメージの氾濫に酔わされる『春嵐の妖術師たち』の三編が特にお気に入り。マヤの創造神ククルカンと、彼を取り巻くグワカマーヨやチンチビリンたちによる騒々しくユーモラスなやり取りが展開される戯曲『ククルカン』は、何というか読んでて至極翻弄される。

田紳有楽・空気頭 (講談社文芸文庫)田紳有楽・空気頭 (講談社文芸文庫)
(1990/06/05)
藤枝 静男

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『田紳有楽』の方に意識の全てを持っていかれた。本物へ生まれ変われという主人の期待のもとに池の底に沈められた偽者の焼き物たちが饒舌に語るという妙にヒネクレた設定のもと、自由奔放な語りの世界が愉快に展開されている。静かだが果てしなく奥深く、ともすれば森羅万象を呑まんとするイマジネーションの戯れを見た。このえもいわれぬ感じは一読しただけじゃ味わい切れない。改めて読み直していきたい。

せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)
(2000/06)
梶山 季之

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��せどり男爵>笠井菊哉氏と、「本の虫」な人々の悲喜こもごもを書く連作短編集。話のプロットだけ見ればミステリ要素は薄いように思えるが、本の魔力に魅入られ、とり憑かれた人々の行動心理は十分ミステリだと思う。超稀覯本の売買を巡るしたたかなやりとりが書かれる「桜満開十三不塔」、人の生皮を使った本の装丁に執着する装丁師を書く、猟奇的エロスと執念に満ちた生々しいエピソード「水無月十三公九」の二編は個人的にフェイバリット。各所で登場する、男爵愛飲のジンと焼酎の水割り<セドリー・カクテル>の存在がまたいい味を出している。

猿蟹合戦とは何か―清水義範パスティーシュ100〈1の巻〉 (ちくま文庫)猿蟹合戦とは何か―清水義範パスティーシュ100〈1の巻〉 (ちくま文庫)
(2008/12/10)
清水 義範

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パスティーシュ&マッシュアップ。「柳瀬尚紀対訳版フィネガンズ・ウェイク」風の超絶猿蟹合戦『船が洲を上へ行く』、立川文庫風J.P.サルトル評伝『猿取佐助』、笠地蔵+大菩薩峠=『笠地蔵峠』、著作・落語・広告・説明書・歌謡曲・漫画などでパロった日本国憲法前文『二十一の異なるヴァージョンによる前文』、永井荷風『四畳半襖の下張』風官能料理テキスト『四畳半調理の拘泥』等等。清水氏による「自著解説」での元ネタ種明かしも楽しい。パロディ元の作品が解っているとより楽しめる内容なので、一通り元ネタに触れてから再読したくなる。

(成)ディープ淫パクト (SANWA COMICS No.)(成)ディープ淫パクト (SANWA COMICS No.)
(2012/08/31)
ディープバレー

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淫語彙力の限りを尽くす情報量過多なエロマンガ。埋め尽くされたセリフを見ればいいのか肉厚豊満なボディを見ればいいのかわかりゃしねえ!と、ちょっとした視覚的淫乱もとい混乱状態に陥る。例えるなら、バトル漫画とかによくいる解説役のキャラクターをエロマンガにブチ込んだような感じ。若干まどろっこしさも感じてしまうけど、終始異様なテンションが充満していてインパクト絶大。女の子のキャラクターのヴァリエーションも一通り揃っている(軒並み淫乱である)。聡明な眼鏡っ娘が分析セックスを繰り広げる「素COOLガール」がマイベスト。

カーマ・スートラ―完訳 (東洋文庫 (628))カーマ・スートラ―完訳 (東洋文庫 (628))
(1998/01)
ヴァーツヤーヤナ

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性交指南書であり、恋愛指南書でもあり、まさに「性典」たる内容。現代社会に適用するのは難しい部分も多いが、性愛への眼差しに深い感銘をおぼえる。当時のインドは密通が横行していたらしく、人妻を誘惑する方策と人妻を他人に寝取られないための方策の両方について言及されていて面白い。『もし男がある人妻を見て強い愛著を感じ、層一層愛欲の心の昂進するときには、自身の破滅を防ぐために、その人妻に近づくべきである。』 また、「爪を立てる」「歯で噛む」「スパンキング」も性技のひとつとして指南されており、奥深さをひしと感じる。

和訳 聊斎志異 (ちくま学芸文庫)和訳 聊斎志異 (ちくま学芸文庫)
(2012/05/09)
蒲 松齢

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独特のルビ遣いのインパクト。「異哉此女!(へんなこだね!)」「能令我真箇銷魂否(ぼくにひとりくれないか)」など、原文の形を残しながらも親しみやすい語り口で読ませるスタイルは実にユニーク(ただ、毎話の終わりに付いている蒲松齢先生のコメントまでは訳されていない)。入門の書としてのとっつきやすさや話の精選ぶりを考えると岩波文庫から出ている上下巻の方に軍配が上がるのだけれども、魅力に溢れる柴田天馬氏の対訳版は触れてみて損はない。活き活きとした語り口の面白さがより一層際立ってくるので、比較しながら読むのもまた一興。

リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)リヴァイアサン クジラと蒸気機関 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
(2011/12/07)
スコット・ウエスターフェルド

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ヘタにスチームパンクを謳ったアダルト向け作品よりはるかに魅力を感じるヤングアダルト冒険SF。人造巨獣はロマン。ストーリーの方は三部作全部読んでからじゃないと評価しづらい感じだが、面白い。引き続き『ベヒモス』も読まざるをえない。

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1
(2012/09/29)
ブラッドレー・ボンド、フィリップ・N・モーゼズ 他

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カオスの紡ぐ夢の中で (〈数理を愉しむ〉シリーズ) (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)カオスの紡ぐ夢の中で (〈数理を愉しむ〉シリーズ) (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
(2010/05/30)
金子 邦彦

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海馬亭通信2 (ポプラ文庫ピュアフル)海馬亭通信2 (ポプラ文庫ピュアフル)
(2012/03/06)
村山 早紀

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憑霊信仰論 妖怪研究への試み (講談社学術文庫)憑霊信仰論 妖怪研究への試み (講談社学術文庫)
(1994/03/04)
小松 和彦

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暇と退屈の倫理学暇と退屈の倫理学
(2011/10/18)
國分 功一郎

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2012年 個人的おすすめ本20冊

2012年の個人的おすすめ本20冊を選びました。だいたいSFとエロと奇想とホラと冒険と肉で構成されています。あと今年は「本を読む」というよりは「本を浴びる」といった方がいいんじゃないかというくらいにあれやこれやと乱読いたしました。もうちょっと落ち着いて本を読めよと自分を戒めたくなったことも何度もありましたが、まあ、若気の至りということで。

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1位:
本にだって雄と雌があります本にだって雄と雌があります
(2012/10/22)
小田 雅久仁

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ある人がエッセイで「積本が増えるのは知らないうちに本同士が交わって子を生んでいるからだ」と冗談を言っていたが、本作の掴みもまずそこにある。生まれ出る「幻書」もろとも蔵書を肥やし続ける祖父、深井與次郎の逸話を話題の中心に、夢も現もない交ぜでユーモラスな語りが続いてゆく。家族との関係、妻ミキとのなれそめエピソードを内包しながら、奔放な語りはファンタジックに跳躍していき、ついには本読みにとっての桃源郷にまで届く。単なる大法螺の枠を越え、読者にまで多幸感をもたらしてくれる、正に読者冥利に尽きるファンタジーノベル。メガテンの悪魔合体よろしく生み出される「幻書」(エンデ『はてしない物語』とサルトル『壁・嘔吐』から生み出される『はてしなく壁に嘔吐し続ける物語』という脱力もののアホらしさ!)のエピソードしかり、書に憑かれた祖父のセリフしかり、細かい部分のネタがもの凄く心をくすぐる。久々に最後までページをめくる手とニヤニヤが止まらなかった。饒舌な語りと大小さまざまな情報量の渦巻いた作品に自分が弱いというのもあるけど、ホロリとくるエッセンスもあってホント良い。今年ピカ一の印象。


2位:
いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)
(2012/03/09)
神林 長平

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短編集といっても、濃密な読み応え。総合ネットワークの発達により、パーソナルコンピュータが純粋に<パーソナル>ではなくなりつつあるということをほのめかす「ぼくの、マシン」は、『戦闘妖精雪風』のテーマである「機械と人間の関係」も織り込みつつ、深井零のキャラクターも掘り下げた見事な『雪風』シリーズのスピンオフ。現実と仮想の自己意識の乖離が引き起こす戦慄を描いたサスペンスSF「切り落とし」、人類の存亡を賭けたゲームの駆け引きの果てに多世界解釈世界を突き破るスペースオペラ「かくも無数の悲鳴」も目を引く。そして圧巻の表題作である。某<さえずり>に触れてみての印象を綴ったエッセイかと思いきや、突如ネットワーク上に出現した亡き伊藤計劃氏との仮想対話を繰り広げるという<フィクション>を展開し、『ハーモニー』の考察から意識とフィクションの関係、そしてこれからのあり方を問う表題作は、その心憎い趣向もさることながら、意識、機械、コミュニケーション等の数多のテーマと共にSFを書き続け、戦い続けてきた神林氏の矜持も垣間見えてくる。より先鋭化を辿るコミュニケーションの時代の中で何となく感じていた違和感を、本書は浮かび上がらせてくれた。


3位:
マインド・イーター[完全版] (創元SF文庫)マインド・イーター[完全版] (創元SF文庫)
(2011/11/19)
水見 稜

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時間を忘れて最後まで一気読み。精神・肉体を蝕むM.Eの脅威との関わりを通して、人間や生命そのものに対する内面的な問いへと最終的に繋がっていく連作短編集。八編にストーリー上での繋がりはないが、読み進めていくことで、それぞれの内奥にあるテーマの有機的な繋がりを感じられる。人類に対する謎の脅威「ジャム」を描く神林長平氏の『戦闘妖精雪風』シリーズとはまた違ったベクトルでの思弁と実験、そして容易に答えの見つからない問いへの追求が展開されている。『雪風』と本作とを様々な面で比較しながら読んでいる人も多いのではないだろうか。


4位:
中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)中二階 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
(1997/10)
ニコルソン ベイカー

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図書館で何とはなしに手にとってみたが、これが大当たりであった。滅法面白い。重箱の隅を突くがごとき細か~い視点で、ひたすら日常生活のたわいもないアレコレをつらつらゆるゆると考察し続ける、ただそれだけなのに、ことごとくがツボをくすぐる。本文と長ーい注釈が併走(?)している構成も面白いし、何より滲み出る「あるある感」のオンパレードに、思わず頬が緩む。どうでもいいことばかり考えることで見えてくる真実もある。どうでもいいことばかり考えながら死にたいと思っている自分にとっては本書はバイブルになりそう。


5位:
ポジティヴシンキングの末裔 (想像力の文学)ポジティヴシンキングの末裔 (想像力の文学)
(2009/11)
木下 古栗

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ウンコしたりペニスしごいたりAV見たりする描写にどれだけ想像力を働かせ、過剰に語彙を尽くしているのかと半ば呆れつつも、この過剰さが病み付きになってしまった。淫猥でおバカでナンセンスで不条理な下ネタがスキあらばちらつき、文体はドライヴ感よりもクドさの方が強めだが、それもひっくるめてツボにハマる人ならとことんハマる。オナニー覚えたての中学生を文学的オブラートで包み込んで機関銃で蜂の巣にしてうっちゃったような印象。変な脳内汁ダダ漏れ読書体験。もう最低なのに最高。今後の括約、もとい活躍を応援したい作家さんである。


6位:
都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)
(2011/12/20)
チャイナ・ミエヴィル

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都市国家レベルでの「見て見ぬ振り」が厳格に行われている地域を舞台にしたスリップストリーム作品。文化様式の異なる二都市《ウル・コーマ》と《ベジェル》、まさに都市伝説的存在の第三の都市オルツィニー、違反行為を犯した者を連行する謎の組織<ブリーチ>、これらが複雑に絡む。一見して滑稽極まりない設定だけれども、作品構築の巧さに定評のある氏だけあって、存分に趣向を凝らして世界観を絶妙に描き出している。ミステリアスな書き口、不条理でファンタジックな味、全体を通して見えてくるSF的たたずまい、贅沢で読み応えのある仕上がり。


7位:
スターメイカースターメイカー
(2004/02)
オラフ ステープルドン

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主人公の精神が太陽系のみならず時空をも越え、様々な惑星や生命体の興亡を目の当たりにしながら、最終的に星々の精神との共棲体として、創造主<スターメイカー>へと迫る。徹底的かつ壮大な俯瞰視点の元、銀河の始源、そして終焉を描く破格のSF的・神話的・哲学的長編。驚異的なまでに豊かな想像力が飛翔して描かれる宇宙の神秘の数々は圧巻で、畏敬と驚嘆の念すら覚える。登場する幾多の生命体の中でも、「船人類」の設定と描写が特に印象深い。人間の想像力の果てしなき可能性を強く感じると共に、計り知れない感動と余韻に呑み込まれる。


8位:
蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)
(1993/04/28)
室生 犀星

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爺さんと金魚の化身である少女のやりとりを中心に描いた「蜜のあわれ」はたまらない一編。会話文のみの構成でこんなにも官能的に魅せられるのかと思わずため息が出てしまう。エロティックなのだけれども、いやらしくなく、微笑ましさすら感じさせるエロさ。ぬるりと水に濡れた艶やかなイメージと裏表のない可愛らしさを併せ持った金魚少女のキャラクターが物語を引っ張っている。「尻の上で首を縊りたい」「美人はうんこまで美人」など、印象に残るセリフも多数。二人のやりとりに関わってくるキャラクターが「女性の幽霊」というのもまた面白い。


9位:
残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ)残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ)
(2007/12/14)
チャールズ・ストロス

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数学的魔術、宇宙的異生物、秘密組織、ナチスの陰謀入りオカルトSF。思わず「HELLSING」を想起したが、絵になるような派手なドンパチをやらかすわけでもなく、またシリアスさも薄め。だがスリルは十分ある。何より欲張りな設定とガジェット、数学・科学用語と皮肉まみれのやり取りには無闇にテンションが高まる。うだつの上がらない主人公の姿も相まってユーモラスな場面も多く、英国らしい味わい。続編エピソードはよりエンタメとして小慣れた感があり、これまた良い塩梅。上司アングルトンは実にいいキャラしている。もっとこのシリーズを読みたい。


10位:
風来忍法帖  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)風来忍法帖 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)
(2011/12/22)
山田 風太郎

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「忍城水攻め」の史実の間隙を縫って丁々発止と繰り広げられる香具師忍法と風摩忍術の攻防が痛快にして凄惨な大傑作。美貌にして気丈な麻也姫、いつしか命を賭して闘いに身を投ずる漂泊の七人の香具師、それぞれのキャラクターが素晴らしく、最後まで物語を明るく彩る。そしてそれだけに、後半の風摩三人衆VS七人の香具師&くのいち七人衆の壮絶な死闘、その果てにあるラストの印象も一層際立つ。奇想忍法も盛り沢山で、忍法「風閂」のネーミングのカッコ良さも好きだが、個人的には無駄に合理的な「糞剣」も捨て難し。でも、「子宮針」は勘弁な。


11位:
蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)
(2008/02/19)
ジョン・スラデック

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SF、ミステリ、ホラー、パロディ、風刺、再話、記入用紙(!)…と多岐に渡り、一発でドツボにハマるものもあれば、全くピンとこないものまで玉石混交。超個性派ホラ吹き作家スラデックの作風のクセの強さに面喰らいつつも、暴走した一台の車が次々と車両をファックする「ピストン式」、ループに陥り終わらない休暇を過ごし続ける「高速道路」、ハインラインのタイムパラドックスSFの名作「輪廻の蛇」の複雑骨折版パロディといった表題作(すごい力技!)はとても魅力を感じる。ねじれたユーモアという珍味。「奇才」の二文字がとても似合う。


12位:
シャンブロウ (ダーク・ファンタジー・コレクション)シャンブロウ (ダーク・ファンタジー・コレクション)
(2008/07)
キャサリン・ルーシル ムーア

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熱線銃を携え宇宙を股にかける男ノースウエスト・スミスが、異星の美女たちと出会い、翻弄されながら繰り広げる冒険譚。官能的で幻想的で、コズミック・ホラー的要素も強い、ファンタジックなスペースオペラ。緋色の髪と皮膚、緑の眼を持つ妖美な女との邪悪で官能的な体験を描いた「シャンブロウ」、緋色のショールが作り出す幻に囚われる「緋色の夢」、<暗黒>を父に持つ娘に幻惑される「暗黒の妖精」、全ての男達の憧れの化身たる美女と邂逅する「イヴァラ―炎の美女」など、妖しくも濃密なイメージの虜になるエピソードが満載。素晴らしい。


13位:
アイ・アム・オジー オジー・オズボーン自伝アイ・アム・オジー オジー・オズボーン自伝
(2010/08/02)
オジー・オズボーン、クリス・エアーズ 他

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濃密な読み応え。エピソードに事欠かないのと、共同執筆者による構成の上手さも手伝って、生ける屍と生ける伝説が同居するオジーの壮絶な生き様が余すところなく収められている。ハトやコウモリを喰ったお馴染みの逸話は勿論、ブラック・サバスの結成からヒットそして脱退、敏腕マネージャー&妻シャロンとの運命的な出会い、右腕ランディ・ローズとの出会いと別れ、家族との問題、ドラッグや酒や事故で何度も彷徨った死線、等々、富と名声と挫折と苦悩の怒涛の連続である。そんなオジーももうすぐ還暦。末永く長生きしていただきたいと心から思う。…トニー・アイオミへのイタズラのエピソードがどれもこれもヒドくて笑える(トニーにしてみればたまったものではないが)。他にも、フランク・ザッパとまずいステーキを喰いにいったり、ドラッグ中毒のリハビリの際に奇しくも同じ病室にいたエリック・クラプトンと意気投合したり、リック・ウェイクマンと冗談を言い合ったり(「リックはスピード違反でポリスに捕まって名前を尋ねられた時のために法律上の名前をミハエル・シューマッハに変えている」だとかなんとか)、などの各種お茶目なエピソードも満載である。


14位:
シャクチシャクチ
(2011/12/15)
荒山 徹

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これは滾る。アジア大陸版コナン・ザ・グレートなヒロイック・ファンタジーにして、血沸き肉躍る重量級時代小説。古代中国の重要な転換期に現れ、その身をもって全力で抗う筋骨隆々の超人的蛮人シャクチ。彼の豪快な言動に呼応するが如きストーリーの破格さ強靭さに一挙に引き込まれる。荒山作品お約束の朝鮮妖術は勿論、次々にブチかまされる数々の展開が悉くエンタメとして昇華されていて、痛快、痛快また痛快。参考文献にハワード、ライバー、ラムレイの著作が入っているのも納得。コナン・シリーズや骨太伝奇小説好きなら問答無用で読むべし!


15位:
トマス・ピンチョン全小説 LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)トマス・ピンチョン全小説 LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
(2012/04/27)
トマス ピンチョン

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ポップで愉快なハードボイルド長編。たっぷりと散りばめられた、あの時代のポップ・カルチャーと小ネタによる情報量の多さと共にドライヴしてゆく感じはいつものピンチョンだが、過去のどの作品よりもとっつきやすく、読みやすいと感じた。LAコンフィデンシャルとマイアミバイスを足しました的な感じにも見える軽い響きの邦題も、ストーリーを最後まで読んだ後だと実にしっくりと馴染んでくるようになるからあーら不思議。さあ再読だ。


16位:
レ研-コングラッチュレイパー- (TENMA COMICS) (TENMAコミックス)レ研-コングラッチュレイパー- (TENMA COMICS) (TENMAコミックス)
(2011/09/26)
祭丘ヒデユキ

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「レ研」第三部。第一部からもう十年以上経っているというのに驚きを禁じえない。第一部、二部共に実用性度外視の規格外ギャグエロマンガだったが、この第三部でますます孤高の奇書めいてきている。例えるなら別位相のカーマ・スートラというか、もはや哲学の域に紙一重で到達せんとしているようにも思えてきた。複数本生えたふたなりペニスが蠢くエロシーンやら、ペニス型生命体(♀)をファックする展開やら、レ研シリーズと祭丘先生はこの先どこまで行ってしまわれるのか、見たいような見たくないような…KDK(くやしい、でも、期待しちゃう)。今年、完結編を収録した『高感度クリトリV』が出たが、そちらはまだ積んでいて読んでいない。楽しみ楽しみ。


17位:
シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
(2011/03/10)
トレヴェニアン

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シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
(2011/03)
トレヴェニアン

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<シブミ>の精神を秘めた最強の暗殺者ニコライ・ヘルの活躍を描く活劇小説。上巻では巨大組織の暗躍と、ニコライが岸川将軍や大竹七段との交流を通して、日本的精神の極地<シブミ>の思想を学んでゆく回想がメイン。著者の日本的精神への造詣の深さは確かなものを感じさせ、またエンタメ的スパイスを随所に散りばめつつも、文化に対する鋭い眼差しをニコライを通して注ぎ込んでもいる。その匙加減がとても心憎い。誤解曲解による「トンデモな日本観」が幅を利かす珍妙なB級小説群とは全く別の位相にある、真摯なエンターテインメント作品である。下巻では、巨大組織の強大なる支配力に相対するニコライ・ヘルの姿を描く。サバキ、ウッテガエ、ツルノスゴモリなど、各章のタイトルにもなっている囲碁の手筋に当てはめて対決の構図を見せる趣向がまた実に心憎い。手に汗握る洞窟探検、盟友ル・カゴの死、妾ハナとの官能的やりとり、そして巨大組織<マザー・カンパニイ>の幹部ダイヤモンドとの決戦など、スリルとサスペンス、官能と冒険がたっぷりと詰めこまれており、ニコライのキャラクターと絶妙に抑制された雰囲気も相まって、すっかりこの作品の虜になってしまった。奥深い味わいの傑作。


18位:
ラッキー・ワンダー・ボーイ (ハヤカワ文庫 NV)ラッキー・ワンダー・ボーイ (ハヤカワ文庫 NV)
(2005/09/09)
D・B・ワイス

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これはなんとも奇作。凌遅刑を描写した残酷小説にインスパイアされた伝説のゲームの幻のステージを求める主人公、各所で幅を利かせるレトロゲーの薀蓄じみた解説&考察の数々、現実と虚構の境が溶け合いグジャグジャになる展開、著者のゲームに対する情熱と狂気が主人公を通してオーバーフロー気味にドライヴする、最高にB級な味わいのゲームオタク小説であり、ある種のSFというか幻想小説としても読める(…かもしれない)。ゲームが現実を凌駕し、アダム青年は8bitの情景の最果てを幻視する。彼こそが究極のゲーム脳と言えるかもしれない。ルーディ・ラッカーの短編に、ゲーセンにいながら現実の地球を防衛してしまう『パックマン』という作品があったが、本作はそういう手合いの作品ではない。「懐かしゲーム満載のアメリカン・おたく・グラフィティ」というフレーズで読み手を釣るにはあまりにも業が深いのではないかと思えてくる。だがしかし、バカゲークソゲー好きの好事家は是非本作を読むと良い。個人的にはドンキーコングの解説のくだりが笑えた。「ポリーンは女のふりをした女の概念であり、多感なマリオの現実をドンキーとグルになって歪めている、ポリーンはドンキーの、ドンキーはポリーンの一部であり、ゆえに騙し方には同じ一面がある―つまり、堕落した世界。そこに私たちは生活しているというわけだ。」


19位:
後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)
(2012/03/09)
円城塔

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「後藤さん」の四文字にゲシュタルト崩壊をおぼえるほどに、有象無象の後藤さん(性別:後藤さん)がワラワラしている、見た目もカラフルな表題作。銀河帝国にまつわる九十九の断章、ネタ帳、興亡史である「The History of(略)」。書き足され、入れ替えられ、区切られることでどんどん変貌を遂げていく言葉遊びをつらつらと展開していく「考速」。時間の流れをダイスの展開図にはめ込み、幾度となく繰り広げられる少年と少女の出会いを描く「墓標天球」の四編が好き。特に「墓標天球」の雰囲気と余韻は何度読み返してもたまらない。芥川賞受賞作の『道化師の蝶』や、亡き伊藤計劃氏の意思を継いで書き上げた『屍者の帝国』など、印象的なニュースと共に今年は円城塔氏の作品集が(文庫化も含めて)色々と刊行され、どれもこれもオススメしたいのですが、悩んだ末 後藤さんの文庫版をチョイス。氏の作品の中では比較的楽しめやすい部類ではないかと思います。


20位:
五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスKC)五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスKC)
(2012/02/09)
西野 マルタ

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五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 下 (シリウスKC)五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 下 (シリウスKC)
(2012/02/09)
西野 マルタ

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相撲がアメリカの国技となった近未来、奇病に蝕まれ<技の横綱>の地位だけでなく全てを失おうとしていた五大湖は、謎の女科学者の手によりサイボーグの力を手に入れ恐るべき脅威と化してしまった。彼の大暴走を止めるべく、永き眠りにあった伝説の横綱が覚醒、伝統の技と科学の粋が大激突を繰り広げる…!という超大味なプロットだが、西野氏のケレン味と力強さを兼ね備えた画風がストロングな説得力で迫る!また、ストーリーの根底にあるのは親子愛であり、意地であり、「強さ」への渇望である。その愚直なまでの王道ぶりに俺ぁ惚れた!ふくしま政美先生の激賞も納得です。