2010年7月30日金曜日

FROST*『The Philadelphia Experiment』(2010)



 プロデューサー/コンポーザーのジェム・ゴドフリー率いるイギリスのモダン・プログレッシヴ・ロック・バンド フロスト*の、09年5月にアメリカで行われたプログレ・フェスティバル"Rites Of Spring Festival(ROS FEST)出演時のライヴ音源を収録し、さらに新曲「The Dividing Line」を収録した2枚組CD + ボーナスDVD付きアルバム。ライヴ音源の一部は09年に『FROST*FEST』のタイトルで8曲入りライヴアルバムとしてバンド側から1000枚限定で自主リリースされており、本作はその拡張版/完全版ともいえます。

 ドラムスのアンディ・エドワーズが08年にバンドを脱退したため、このアメリカ公演ではSPOCK'S BEARDのニック・ディヴァージリオが代役として参加しております。ROS FESTのために用意してきたと思われる壮大な出囃子「Intro」は、多重コーラスで歌われる"John、John、Jem、Dec&Nick~♪"というメンバー紹介も楽しい秀逸な1曲。続いて「Hypeventilate」で勢い良くライヴがスタート(元々のイントロは省略)。パワフルなニュアンスたっぷりの楽曲の数々はライヴでどう再現されるのかと思っておりましたが、勢い/ダイナミズム共に申し分のない仕上がり。「Experiments In Mass Appeal」の静から動へ移ろうダイナミックな泣きの美しさは健在ですし、「Dear Dead Days」はアルバム版顔負けの疾走感でシンセの奔流が押し寄せ、カタルシス十分。「Wonderland」「Saline」なども、ライヴ版の方がパワフルな手応えを感じます。「Snowman」は多重アカペラコーラスをバックにジェム氏が歌い上げるという、元々シンプルなアレンジの原曲を更にシンプルにした、もはや別ヴァージョンと呼べる思い切ったアレンジで聴かせてくれるのが印象深い。「The Forget You Song」は『FROST*FEST』にも収録されていたストレートでキャッチーなUKロック路線のコンパクトな1曲。『FROST*FEST』収録版はスタジオ録音ヴァージョンでしたが、こちらはライヴテイクで収録されております。




 また、「Story Time」は曲ではなく、動物の鳴き声や寸劇(?)込みのMCを収録した幕間。DISC-2には新録曲に加え、本編ラストに演奏された「Milliontown」、アンコール曲「The Other Me」を収録。「Milliontown」は完全演奏で収録されており、27分半に及ぶ長丁場を演り切っております。そして、本作の1番の目玉といえるのが、2010年録音の「The Dividing Line」。この曲はプログレ・インターネット・ラジオ"The Dividing Line Broadcast Network"の10周年を記念してレコーディングされたもの。フロスト*メンバーに加え、脱退したアンディ・エドワーズや、フェス後にバンドを脱退したベーシストのジョン・ジョウィットの(一応の?)後任としてアナウンスされたIT BITESのネイザン・キング、『Milliontown』時に参加していたギタリストで、ジェム氏の古くからのバンドメイトであるジョン・ボイス、さらにヴァイオリニストや女性ヴォーカル/コーラスなども迎えた17分に及ぶ大曲。『Milliontown』『Experiment Mass Appeal』の2枚の路線をちょうど折衷したような作風で、"The Now" "The Press" "The Star"といった多数のキャストたちが繰り広げるスペクタクルなショウ。厚いバンドアンサンブルでポップに躍動する明快な曲調をベースに、シンセが加速度的に疾走する目まぐるしい展開が度々登場し、エキサイティングなヴァイオリン・ソロやスピーキング・ヴォイス、逆回転といった趣向も盛り込み、収拾がつかなくなるかと思えば最後はしっかり元に戻ってくる、流石の楽曲展開が光る力作。この曲を聴くために本作を入手する価値は十分あります。

 余談ですが、ボーナスDVDにはツアーのバックステージやレコーディング/リハーサルの一部がドキュメンタリー形式で約50分程度収録されております。"Maximum Rock"をスローガンにライヴに赴くメンバーの姿や、「The Forget You Song」のヴォーカル録音風景、「Intro」に使ったと思われる行進のSEの収録風景(シリアルの箱を振るジェム氏)をはじめ、ジェム氏がジョーダン・ルーデス氏とiPhoneの楽器系アプリで遊んでいたりという一幕も。「The Dividing Line」の5.1chサラウンド・ミックス・ヴァージョンも収録されております。

Rites Of Spring Festival:Wikipedia
Prog Archives:『The Philadelphia Experiment』
FROST*:myspace
FROST*:公式

2010年7月29日木曜日

FROST*『Experiments in Mass Appeal』(2008)

Experiments in Mass Appeal (Bonus Dvd) (Dig)
Frost
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 06年の1stアルバム『Milliontown』でプログレファンに強烈かつ鮮烈な印象を残したフロスト*。各メンバー(特にジェム・ゴドフリー氏)の活動が忙しく、1st発表後まもなくして活動を休止してしまいましたが、IQの現キーボーディスト:マーク・ウェストワースが在籍するプログレッシヴ・ロック・バンド Darwin's Radioのヴォーカリストでもあるデック・バークを新たにメンバーに迎え再始動。半年間のレコーディングを経て、2008年の暮れに2ndアルバムである本作がリリースされました。

 アルバムタイトル通りの実験的な匂いを感じさせるつくりになっている本作は、前作のゲームミュージック的とも言える底抜けた爽快感を引っ込ませ、内省的なUKロック色を強めてきているほか、楽曲に静謐な空間が多くなり、ぼんやりとした余韻を味わわせるような方向性にシフト。サウンドのニュアンス的にもヴォリューム的にも気持ちあっさり目に仕上げられているといった印象を持ちました。しかしながら、巧みに練り込まれた楽曲と、ここぞといったところでのサウンドの爆発力は依然として眩し過ぎるほどの輝きを放っていますし、エモーショナルな情感をタメ込んでは吐き出し、タメ込んでは吐き出す様を聴いていると、彼らのサウンドはますます狂おしく扇情的にパワーアップしていると言ってもいいです。

 前面にも後方にも押し出された分厚いコーラス、じわりじわりと琴線に触れてくる音作りが、雪の降る真夜中の情景を聴き手にこれでもかと鮮明に見せ付けてくれる「Experiments in Mass Appeal」は非常に身に染みこんできますし、吸い込まれるようなソリッドな流線型サウンドを展開する「Pocket Sun」「Dear Dead Days」は、螺旋を描いて突っ込んでくるコシの太いシンセの奔流がこのバンドの強力な武器の一つなんだよなあと改めて実感させられます。コンパクトながらも爆発力を十分に備えた「Toys」は、ダイナミックで伸びやかサビの開放感が強烈な爽快感を与えてくれる。「Saline」やラストの「Wonderland」のようなバラードも、線や色のほどよく滲んだ絵画のような素朴な美しさ。プログレという枠抜きで楽しませてくれるのはもはや言わずもがなだし、ベクトルは変わってもやはり彼らのサウンドは否応無く世界観に入り込ませてくれます。全力でオススメしたい。


 ファン有志が"LITTLE BIG PLANET"を使って制作/編集したPV。FROST*メンバーをあしらったガジェットの配置やサウンドとの同期も素晴らしい、とてつもない愛に溢れた作品。必見です。

『Experiments in Mass Appeal』:Wikipedia
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FROST*:公式

2010年7月28日水曜日

FROST*『Milliontown』(2006)



 2006年、彗星のごとく登場したモダン・プログレッシヴ・ロック・バンド フロスト*の記念すべき1stアルバム。メンバーはキーボード/ヴォーカル担当のジェム・ゴドフリー(彼は本国でアイドルグループのAtomic Kittenなどのプロデュースなども手がけている売れっ子プロデューサー)を中心に、ARENA/KINOのジョン・ミッチェル(Gr/Vo)、IQのジョン・ジョウィット(Ba)&アンディ・エドワーズ(Dr)、ジェム氏の古くからのバンドメイト(共にFREEFALLというプログレ・バンドに在籍)であるジョン・ボイス(Gr)の5人。リリースから4年経った今、改めて聴いても、本作は素晴らしいの一言。こんなにも胸がときめき、ワクワクさせられるプログレサウンドに出会ったのは、06年で一番の衝撃でした。

 とにかく一曲目の「Hyperventilate」からダイナミズム溢れるサウンドで魅せてくれる。吹き抜けるシンセと静謐なピアノのイントロから一気にテクニカルなアンサンブルへ豪快に突入するという展開は、ベタだけれども物凄く掴みバッチリ。演奏に負けないヴォーカル/コーラスの厚み、動から静、静から動へのメリハリの効いた展開も光るプログレ・ハード「No Me No You」。打って変わって静謐なスロウ・ナンバー「Snowman」。モダンでヘヴィなUKロック的ダイナミズムも内包した「The Other Me」「Black Light Machine」と、どの曲も強靭なたくましさを感じさせますし、何よりバンドアンサンブルやソロでのここぞ! というところでのパワフルな爆発力がバツグンの求心力で聴き手にインパクトを与えます。

 80~90年代のファルコムサウンドチームのドラマティックな楽曲や、コナミ矩形波倶楽部のプログレ・フュージョン的アプローチ、そして植松伸夫氏のロッキン・プログレな作風……などなど、往年のゲーム・ミュージック、ひいてはゲームミュージックにあるプログレ的折衷精神も彼らのサウンドからは感じます。ラストに収められたタイトル曲「Milliontown」は、26分半というかなりの長尺曲ですが、練りこまれた展開で魅せてくれるドラマティックな力作。希望に溢れたエンディングへと加速度的に向かっていく終盤の展開、そして残る静かな余韻……メンバーのキャリアとセンス、そして揺るぎの無い自信が最高の形で結実しているのがこの1曲でしょう。小曲、大曲に関わらずキチンと一本の筋が通った本作は、間違いなく傑作であります。プログレとしても素晴らしいですが、この魅力的なサウンドはプログレというジャンルで括ってしまうのはもったいない。ジャンルの枠に囚われず、改めて、多くの人に聴いて欲しい一枚です。

 余談ですが、ジェム・ゴドフリー氏とジョン・ボイス氏が在籍していたFREEFALLは、86年から91年にかけて活動していたポンプ・ロック・バンド。3枚のEPと1枚のアルバムを残しております。その唯一のアルバムに収録されている曲はこちら。シンセのうねりや爆発力、ゲー音ばりのキャッチーな曲調など、後のFROST*へと繋がる部分も多く、興味深いです。


『Milliontown』:Wikipedia
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2010年7月24日土曜日

kamomekamome『Happy Rebirthday To You』(2010)

Happy Rebirthday To You
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KAMOMEKAMOME
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 元ヌンチャク~ダッフルズの向達郎氏率いる千葉県柏シティのプログレッシヴ・ハードコアバンド kamomekamomeの2年半ぶりとなる3rdアルバム。ベーシストの上沼靖彦氏が脱退、オリジナル・メンバーでもあった中瀬賢三氏が復帰した本作は、前作『LUGER SEAGULL』同様40分未満のコンパクトなヴォリュームですが、煮詰められたような濃さは依然健在。根っこの部分はハードコアでありながら、Meshuggahばりの変拍子プログレ・メタルの強靭さや、the band apartやregaといったプログレッシヴなジャム系バンドの軽やかさにも通じる楽曲/バンドアンサンブルはますます研ぎ澄まされた姿を提示しており、削ぎ落とせるだけ削ぎ落としたというストイックな凄みと無頼な肉体派的イメージを感じさせます。

 また、中瀬氏のヒリつくような絶叫ヴォーカルが本作の方向性を決定付けるひとつの要素となっており、各所で向氏と激しい絶叫の応酬を繰り返し、聴き手は強烈な一撃を見舞われます。アルバムを通してキレのある勢いは全く殺されることなく、スラッシーなリフとツインヴォーカルのシャウトで容赦なく全てを押し流すかと思いきや、手を差し伸べるような甘いメロディがさらりと覗く「エクスキューズミー」。ザクザク捻り上げられるリフを押し出し小気味良くドライヴしホップする鮮烈な曲調の「ハンズフリーからのお知らせ」「局地的に物語れ」。ツインヴォーカルがここ一番の昂ぶりでブッ刺さる「この時期のヴァンパイア」。キレキレな歯切れの良さで畳み掛けたかと思えば一気にメロウなミドルテンポの曲調にまで引く可変性が面白い「旧感覚置き場」などなど、次から次へと飛び出すフック、緩急自在の変則性、そして疾走感を備えた楽曲が、聴き手をラストまで一気に持っていく、ノンストップガチンコ一本勝負。時に醒めたように語りかけ、時に生々しく畳み掛ける向氏のヴォーカル/感情とコミュニケーションのエアポケットに誘うかのような詞世界もやはり外せない。曲名もさることながら、"文字通り沿いとさ、国道こだま号が交差する手前を" "髪を解いた部屋は 満たせるか?と問いかけた" "濡れ衣?ああ、あれな...今家で乾かしているんだ"といった耳にこびりついて離れないフレーズの数々、ポジティヴではないがネガティヴでもない独特の言葉選びで世界観を紡ぎ出してゆく向氏は"言霊使い"と形容したくなります。押しては引き、引いては返す、強力無比にして凄まじくライヴ向きでもある研ぎ澄まされた1枚。




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kamomekamome 『Happy Rebirthday To You』インタビュー

2010年7月23日金曜日

kamomekamome『LUGER SEAGULL』(2007)

ルガーシーガル
ルガーシーガル
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kamomekamome
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 上から読んでもルガーシーガル、下から読んでもルガーシーガル。プログレッシヴ・ハードコアバンド kamomekamomeの2ndアルバム。前作はトータル70分近いヴォリュームで、カオティックに紡がれるジャム的なアンサンブルを10分以上に渡って展開する長尺曲はじめ、バッキングにストリングスやブレイクビーツを取り入れた楽曲など、ハードコアのフォーマットに留まらない、方向性の模索も兼ねた非常に意欲的、野心的な構成でしたが、本作はそこからギュッとシェイプアップ。40分に満たないランニングタイム&平均3~4分の楽曲によるスッキリコンパクトな仕上がりになっています。醒めた空気を孕み込んだ肉々しい向達郎氏のヴォーカル(&詞)と、ザックリメタリックにささくれ、複雑に絡みついては離れていくリフ、アタマのテッペンに向かって重々しく捻れ込むかのような重心の低さ、全てが非常に自分好みの要素で、しっかりと叩き出されるビートと、さりげなく隙間に絡まってゆく変拍子リフが合わさってのつっかかったサウンドが目の前に淡く色褪せてゆくかのような荒涼とした情景を見せてくれ、凄く胸の内に残る。表面上はキャッチーかつストレートなのに裏地は緻密&複雑。安定的なのに刺激的という印象がラストまで付いて離れない。研ぎ澄まされた歌ものとしてもただならぬ魅力を感じさせる「事切れ手鞠唄」。フックのあるアグレッシヴな展開と共に獰猛な邪気を吐き出す「メデューサ」「化け直し」。スパっと研ぎ澄まされた突進力が抜群な「スキンシップ編」、ヴォーカルと詞の生々しさが異様に際立つ「ゲルバトル」など、奇襲戦法のように突発的に表れる趣向も面白く、バンドの並々ならぬタフネスと共に聴き応えのあるアルバム。


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2010年7月20日火曜日

板倉真一『Intuition』(2010)



 元NOVELAの五十嵐久勝氏と元HELLENの清水保光氏率いるハード・ロック・バンド CYCLONEのキーボーディストにして、森川智之氏と西岡和哉氏率いるBLACK VELVETのキーボーディスト。また、コンポーザー/アレンジャーとしても活動(難波弘之氏と共に「街」「DTエイトロン」「トランスフォーマー・カーロボット」といったサントラ仕事歴あり)している板倉真一氏の1stソロアルバム。

 ギターに清水氏、ベースにCichla temensisの国分巧氏を迎え、EL&P/キース・エマーソンやDEEP PURPLE/ジョン・ロードからの影響を伺わせる板倉氏のキーボードプレイが唸る、プログレッシヴなテイストも感じさせる様式系ハード・ロック/フュージョン寄りサウンドやシンフォニックなインストゥルメンタルサウンドを展開しております。オープニングとエンディングに壮大な盛り上がりを見せるインスト曲「Prologue」「Epilogue」を配するあたりは実にキーボーディストのソロアルバムという趣を感じさせます。清水氏と板倉氏のソロバトルもアツい王道チューン「To The Core」「Intuition」。清水氏の泣きのギターをフィーチャーした黄昏時をイメージさせるロック・フュージョン系インスト「Timeless Land」。声楽家の小林紗英子嬢による荘重なコーラスを交えた、「Prologue」のシンフォニック版アレンジ「Eternity」などなど、基本的にはキーボードを前面に立てた滑りの良いインスト曲が中心となっている本作ですが、ゲストを迎えてのヴォーカル曲が2曲あり、1曲は元プロヴィデンスやサーベルタイガーの久保田陽子嬢を迎えた「Breaking The Past」。久保田嬢のパワフルなヴォーカル炸裂の1曲で、彼女のいぶし銀なシャウトにひたすらシビれる本作随一の疾走キラーチューン。もう1曲は練馬マッチョマンの永野啓司氏を迎えた「A Day Of The Judgment」で、ミドルテンポの曲調に永野氏のねっとりしたヴォーカルが絡む、徹頭徹尾ドッシリ構えた1曲。自主制作アルバムということで基本的には公式からの通販で入手することになる1枚ですが、キーボードを軸とした爽快感溢れるストレートなハード・ロック系インストが目白押しなので、後腐れなくスカッと聴けるオススメの作品です。

Shinichi Itakura『INTUITION』
板倉真一:myspace

2010年7月17日土曜日

Peridot Foresta (Sei-Peridot【SeikoP】)『Trees Of Origin』(2010)

ニコニコ動画においては"SeikoP"の名でも知られているSei-Peridotさんによる、VOCALOID(巡音ルカ)を使ったオリジナル楽曲を収録した8曲入りアルバム。彼女の音楽性に惹きこまれる人は多く、CD-R版は委託販売店において販売開始直後に即在庫切れとなったということからもその人気ぶりが伺えます(現在はオンラインによるダウンロード配信で販売中)。作風は主にトラッド/ニューエイジでまとめられておりますが、彼女自身がスティーヴ・ライヒ、マイク・オールドフィールド、RENAISSANCE、ASTURIAS(大山曜)、菊田裕樹といったバンド/コンポーザーからの影響を強く受けているということで、ミニマル・ミュージックやプログレッシヴ・ロック、そしてゲーム・ミュージックといった要素もハッキリと伺える魅力的なハイブリッド・ミュージック。個人的には光田康典氏の作風やアルトネリコシリーズのアレンジアルバム(ヒュムノスコンサート)の雰囲気にも近いものを感じました。

 そしてその音楽性もさることながら、VOCALOIDの調声技術も目を見張るものがあり、さながら肉声顔負けのニュアンスで歌い上げられる巡音ルカの声が楽曲に自然に溶け込んでいます。他にも、SeikoP自身のコーラスも交えて作り上げられる透き通るようなコーラスワークや、架空言語も取り混ぜた詞世界、そして彼女自身によるファンタジックなイラストレーションも、楽曲を彩る欠かせない要素でありましょう。さて、本作は8曲入りの作品で、うち4曲はニコニコ動画で公開済みの楽曲、残り4曲は初収録曲。煌びやかな展開、透明感、異国的情緒と幻想性といった彼女の楽曲の美味しいところが4分間にギッシリ詰まった「Blue Amber」。凛としたヴォーカルと躍動感溢れるフレーバー、後半へ進むにしたがってどこまでも広大なフィールドを駆け抜けるかのような盛り上がりを見せていく「Ancient Ring」。ハープとストリングスが優しく、そして静かな盛り上がりを見せる小品「Cristal Clear」。聖剣伝説シリーズにおける菊田裕樹氏の作風からの影響を伺わせる音使いと、スティーヴ・ライヒ的なミニマリズムが箱庭的イメージも想起させるインスト曲「Lime Pothos」。まさにシンフォニック・ニューエイジと言えそうな「Caoin」は、叙情性たっぷりのメロディとコーラスが非常に美しく、また、彼女の代表曲のひとつ「Queen Nereid」のフレーズが登場するあたりは感慨深いものがありますし、渾然一体となって奏でられる瑞々しくも壮大な世界観には素直な感動を覚えます。そして本作のハイライトといえるのが、Part.I Part.IIと銘打たれた「Dyras」二部作。Part.Iでは思わず飲み込まれてしまいそうな奥行きを感じさせる多重コーラス、そしてPart.IIではメロトロンの音色を交えて、それぞれファンタジックなムードと構築美で見せる力作。ラストは、さざ波の音を取り入れたさっぱりと、そして静かに余韻を残す小品「Hotarubi」で幕を閉じます。つらつらと書き連ねて参りましたが、魅力はまだまだ語り尽くせません。是非ともアルバムを聴いていただきたいですし、ニコニコ動画やYouTubeで実際に動画を見て、聴いて欲しいです。かくいう自分も、「Queen Nereid」を初めて聴いたときの鮮烈な衝撃が未だに忘れられません。オリジナル曲以外にも、「アメイジング・グレース」「フニクリ・フニクラ」といった海外のポピュラー・ミュージックのカヴァーや、世界樹の迷宮の楽曲アレンジなども発表されており、そちらでも素晴らしい調声/アレンジを披露されているので一聴をオススメいたします。




KarenT:『Trees of Origin / Sei-Peridot』
SeikoP:mylist
ニコニコ大百科:SeikoP
初音ミク Wiki:SeikoP
Peridot Foresta(作者ブログ)
Sei-Peridot:myspace

2010年7月13日火曜日

平沢進『突弦変異』(2010)

突弦変異
突弦変異
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平沢進
テスラカイト (2010-06-23)
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 平沢進ソロ・デビュー20周年、P-MODELデビュー30周年記念企画「凝集する過去 - 還弦主義8760時間」。その企画の一環として、P-MODELの過去作品からの楽曲をファンからの投票結果も参考にしつつ選曲し、"還弦"アレンジ(つまるところストリングスとコーラスを加えたアレンジ)を施したものをまとめたアルバム。やはり初期の平沢ソロ作品に近い雰囲気を感じるアレンジで、低音を利かせた派手なオーケストラ風アレンジということでは「デトネイター・オーガン」のサウンドトラック三部作の作風にもちょっと相通ずるという印象。しょっぱなから重厚なコーラスと壮大な曲調のアレンジの中、"未来はキレイに"のフレーズが印象的に繰り返される「アート・ブラインド」、胡散臭さとキャッチーさの増した「ミサイル」のアレンジが登場するのですが、したたかな毒気の強い初期P-MODELの曲はどうも派手なアレンジとは噛み合いが悪いように感じます。

 逆に『Perspective』『KARKADOR』『One Pattern』といった中期の楽曲は本作の方向性とかなり相性が良く、先行公開された「Solid Air」は、無機質で乾いた印象の強かった原曲とはまた違ったシリアスな魅力を伴って生まれ変わっているほか、「LEAK」はゴージャズなポップ感が増してさらにユートピアなイメージを喚起させるものになっており、まさに極上の聴き心地、個人的には本作髄一の名アレンジだと思います。また、「Another Days」の中盤で聴けるセリフの意味合いが原曲とは異なっている(「合言葉は、消えちゃいました」→「合言葉は、消去可能」)のは、なかなか意味深な気もします。

 完全に初期ソロの路線に則ったアジアンなシンフォニック・ポップスと化した「CHEVRON」「Goes On Ghost」、伸びやかなサビがさらに伸び伸びと展開するようになった(ついでに機械音声によるすっとぼけたつぶやき?も挿入された)「WIRE SELF」、疾走感2割増しでさらに爽やかになった「DUSToidよ歩行は快適か?」など、解凍後P-MODEL楽曲もストリングスアレンジとの相性が良いのですが、こちらは予定調和といった仕上がりのものが多いので物足りなさも感じます。しかし、「ASHURA CLOCK」は原曲のイントロの荘厳さをさらに大げさに拡張したようなアレンジになっており、テンポをさらに落としたのも相まってより貫禄ある曲調にグレードアップしていて、これは結構インパクトがありました。そういうわけで、全ての楽曲アレンジがうまくいっているというわけではないですし、良くも悪くも企画モノの域は出ていないアルバムなんですが、原曲の魅力を改めて再発見でき、過去作品に目を向けるキッカケになるんじゃないでしょうか。


「Solid Air」(還弦版)





平沢進:Wikipedia
P-MODEL:Wikipedia
NO ROOM

2010年7月11日日曜日

NERV『Ragam』(2005)



 インドネシアのフュージョン/プログレバンド ネルヴの1stアルバム。インドネシアのプログレを代表するバンドのひとつであるDISCUSと同じ Indonesian Progressive Societyレーベル所属の6人組。クンダン(ガムランに使用される民族楽器のひとつ)やパーカッションの紡ぎ出す躍動的ビートやエキゾチックなメロディなどのインドネシア土着の民族的要素と、ケルティック・トラッド風の旋律がない交ぜになった中をヴィオラとディストーションのかかったツインギターがそれぞれ拮抗・応酬するかのように前に出てくるという、フュージョン&プログレッシヴ/シンフォニックな要素が垣間見えるワールドミュージックサウンドが非常に魅力的であります。こう説明するとバンドのアンサンブルはなんだかゴチャゴチャしているのかしらと思われそうですけれども、ハードな面はギターが、エキゾシチズムはヴィオラがキッチリ住み分けして担っているため、わりかしスッキリしていて、結構敷居低めのたたずまいをしております。

 楽曲は6分~12分と長めなんですが、聴き心地の良さとじわじわとした楽曲展開で難なく聴き通させてくれますし、リズム隊もグネグネ動きつつも土台を固めているので安心感も十分。情熱的/祝祭的ムードに満ち満ちたタイトル曲「Ragam」や、12分を超える「Karuhum」の終盤におけるケチャを大々的にフィーチャーしてのダイナミックな盛り上がりは非常に聴きモノです。単なるあっさり系イージーリスニングに堕さない強度がある作風は非常に好感が持てますし、光田康典や葉加瀬太郎にも通じる趣も感じるので、その辺りが好きならなおのこと琴線に触れるものがあるのではないでしょうか。



Indonesian Progressive Society:NERV「Ragam」
REVIEWS OF INDONESIAN PROGRESSIVE MUSIC/PSYCHPOP/ROCK,CROSSOVERS/FUSIONS

2010年7月9日金曜日

NOVELA『Brain Of Balance』(1985) / 『WORDS』(1986)

NOVELAのアルバムの中でもこの後期二作品はあんまり語られてないような気がするのですが、個人的にはこの2枚はどちらもたまに無性に聴きたくなります。


ブレイン・オブ・バランス(均衡の脳)
ノヴェラ
キングレコード (2002-02-06)
売り上げランキング: 624,488


 五十嵐"Angie"久勝氏も永川敏郎氏も抜け、メンバーラインナップは宮本敦(Vo)、平山照継(Gr)、笹井りゅうじ(Ba)、西田竜一(Dr)、岡本優史(Key)となり、オリジナルメンバーは平山氏ひとりのみとなった第三期ノヴェラの85年作品。時代の波もあってか、サウンドの機軸も大幅転換されたのが本作。シンセとベース・サウンドを際立たせ、ニューロマンティック/ニューウェーヴに傾倒したポップなサウンドにプログレ要素も少し覗く、というコンパクトな作風で、全体的に洗練されております。ぼんやりとけぶるバッキングのシンセ/ピアノ&ロングトーンのギターに幻想的な宮本氏の中性的なファルセット・ヴォーカルが絡んでいく、耽美とドラマティックな雰囲気に満ちた「追想」や、ベースラインが印象的な「アルファ・シティ(白夜の都市)」「グラフィティ・ライト」、サウンドも詞もシニカルなテクノ・ポップ「ペーパー・ミュージック」など、耳を引く楽曲はあるのですが、演奏とヴォーカルが相乗的に盛り上がる部分が少ないので、あっさりし過ぎな感があります。本作ではまだ方向性を模索しているという印象。この方向性は次作で形になります。



ワーズ
ワーズ
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ノヴェラ
キングレコード (2002-02-06)
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 ノヴェラ最後のオリジナル・アルバムとなった86年作品。メンバーラインナップは前作から引き続き、宮本敦(Vo)、平山照継 (Gr)、笹井りゅうじ(Ba)、西田竜一(Dr)、岡本優史(Key)の5人。前作の方向性をさらに発展させ、よりシンフォニックなニューウェイヴ・サウンドに変化、もはや完全にプログレからは脱却した作品になっています。NOVELAのカタログの中では前作の『Brain Of Balance』以上に問題作扱いされている向きもあるようですが、プログレにもニューウェーヴにも煮え切らなかった前作に比べれば、本作の方がはるかに潔いと思います。ニューウェーヴ要素をバンドに持ち込んだのはキーボードの岡本氏らしいのですが、本作ではバンマスである平山氏とガッチリタッグを組んで重要な役割を果たしており、それを象徴するかのように1曲目「LOVE IN YOU」はシーケンサーを駆使した反復の多い楽曲であることもさることながら、宮本氏の伸びやかな歌唱が映える佳曲。作曲は平山氏ですが、サウンドの感触から見るに岡本氏からの影響が結構色濃く表れているのではないかと。また、「グルーミィ・ペイン」はゴリっとしたベースラインとシンフォなキーボードサウンドの派手さが実に小気味良いテンションをキープ。戯曲風のシンフォバラード「傾く日差しに」や、仄暗いアレンジが漂うタイトル曲「Words」では耳に残るバッキングやシンセソロで魅せてくれます。そして、笹井氏は本作でも2曲を提供しています。「Reverie」「Going To The Kingdom」は、どちらもポップに躍動する粒の立った小品として仕上がっていて、後に氏が在籍するマイクロキャビンやスクウェアで手がけるゲーム・ミュージック・サウンドへと持ち込む要素も少々伺えます。アルバム全体で評価すると「有終の美」とまでは行かないのですが、しっかりとケジメのついた作品だと自分は思います。



NOVELA:Wikipedia
笹井隆司:Wikipedia

2010年7月5日月曜日

月読レコード『FOUR SIDES SYMPHONIA~Symphonic Suite"LEGEND"~』(2010)



 コンポーザー/アレンジャーの翡翠氏が主宰する同人音楽レーベル「月読レコード」が5月にリリースした作品。翡翠氏が楽曲を担当した、サークルAtelier KANZAN制作のオンライン・ファンタジー・アニメ作品「LEGEND」シリーズのセルフ・アレンジアルバム。LEGENDシリーズの楽曲は2枚組サウンドトラックとしてレーベルから先にリリースされており、様々な場面に合わせたコンパクトな小曲が70曲以上に渡って収録されております。さて、本アレンジアルバムは単に個々の楽曲にアレンジを施したというものではなく、アレンジした上でさらにそれらを繋ぎ合わせて組曲形式にして再構築し直したという趣向になっており、5~8つに細かくパート分けされたロングレンジの大曲が全4曲、総時間53分という、さながらマイク・オールドフィールドばりの大作志向と、プログレッシヴな香りも漂うシンフォニックなオーケストラ的アレンジを全編に渡って聴かせてくれます。

 「Legend "創聖"」では冒険の始まりを予感させる伸びやかで明快な幕開け、時にASTURIASを髣髴とさせる中間部の展開を経て、終盤では情緒を感じさせるピアノパートへと移行するという流れ。続く「Leohault "飛翔"」はイントロ、アウトロにハモンドオルガンの音色をフィーチャーしつつ、メインテーマのモチーフをより勇壮かつ躍動的に展開。「Dream "残光"」は翡翠氏のカウンターテナーをフィーチャーしたバラードから、うっすらとメロトロンの音色もかぶさる、フルート、ピアノを軸とした細やかなインストパート、さらに再び中性的歌声のバラードパートに回帰するという劇的な流れがハイライト。実に18分半に及ぶ最終楽章「Questers "真実"」はしっとりと緩やかなパートと風雲急を告げるパートが交互に訪れ、ラストは【LEGEND=Questers=】のヴォーカル曲"天嶺の向こう"のアレンジ、同曲で歌っていたSakura嬢をゲストに迎え、堂々たる収束を迎えます。アレンジでありながら、これまた起承転結がハッキリと現れた、見事なトータル・コンセプト作品です。




FOUR SIDES SYMPHONIA:特設ページ
月読レコード:公式
月読レコード/翡翠『しろのはらり~はぴどりサウンドトラックスアレンジアルバム~』(2007)