2010年11月21日日曜日

DISTRICT 97『Hybrid Child』(2010)

Hybrid ChildHybrid Child
(2010/09/14)
District 97

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 今年、アメリカのLASER'S EDGEレーベルからアルバムデビューを果たした、新鋭プログレッシヴ・メタル・バンド ディストリクト97の1stアルバム。バンドの母体は2006年から存在しており、元々はLiquid Tension Experimentなどから影響を受けたテクニカルなインストを演る4人組のバンドだったそうな。そこに、アメリカのオーディション番組「American Idol」の2007年上半期に行われたシーズン6に出場し、セミファイナルまで勝ち残ったという経歴をもつ女性ヴォーカリストのレスリー・ハントと、シカゴ交響楽団などのチェリストを務めているという女性奏者のカティンカ・クレイジンを迎えてほぼ現在のラインナップが完成。この経歴の異なる2人の女性メンバーを迎えたいきさつも気になるところですが、何にしても面白い組み合わせです。また、バンド名のDISTRICT 97は2009年に全米で(日本だと今年)公開された例の映画「DISTRICT 9(第9地区)」を意識したのでしょうかね。

 バンドのメインコンポーザーがドラムスのジョナサン・スキャングということもあって、クセのある変拍子を織り込んだ、引っかかりどころ多めのプログレ・メタル/プログレ・ハードといった趣。ソフトなタッチのMESHUGGAH、という印象を感じたりも。複雑でありながらキャッチーさもしっかりあり、「I Don't Want To Wait Another Day」「I Can't Take You With Me」の冒頭2曲は好例。フックのある展開の中、前者はギコギコしたチェロに併せて疾走するアンサンブルが痛快、後者は明快ながらも耳にこびりつきやすい歌メロが組み込まれております。続く「The Man Who Knows Your Name」「Termites」の2曲は共にヘヴィなギターリフと疾走感溢れるチェロ、そして絡みつく滑らかなシンセフレーズを主体として組み上げられた、ストイックな印象を感じさせる楽曲。そして本作のハイライトが、全27分半に及ぶ十部構成の組曲「Mindscan」。各2~3分の小曲/モチーフを寄せ集めただけのような気もしますが、シンフォニックなインストパートから、モダン・ヘヴィネスを感じさせるねじくれた変拍子パート、妙に実験的テイストを感じさせるパート、静謐なバラード・パート、と、静と動を交互に、そして起伏たっぷりに繰り返すミクスチャー・プログレ一大力作。なかなかの手堅さです。

 ちなみに本作にはオリヴィエ・メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」の一部をカヴァーとして収録する予定だったそうですが、権利関係の事情でアルバムに収録することがが出来なかったため、あえなく外されたとのこと、そのカヴァー/アレンジは現在バンドがフリーDL音源として配布中。また、レスリー嬢は09年には自身のレーベルからソロアルバムを発表しており、そこではヴィニー・カリウタ(dr)、ヴェイル・ジョンソン(b)という著名的なセッション・ミュージシャンを迎えて、ロック/ポップス路線の楽曲を展開しております。こちらもなかなか水準の高い内容。



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アメリカン・アイドル(シーズン6):Wikipedia