2010年12月29日水曜日

2010年マイベストアルバム10選

気の利いたコメントのひとつやふたつも付け加えたいところですが、取り急ぎ。各レビュー記事へのリンクも張っておきます。ホント駆け込みで申し訳ない。

1:MOON SAFARI「Lover's End」
Lover's End
Lover's End
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Moon Safari
Progrock Records (2012-06-05)
売り上げランキング: 88,338



2:LIGHT BRINGER「Midnight Circus」
Midnight Circus(ミッドナイト・サーカス)
LIGHT BRINGER(ライトブリンガー)
Lovely Rock Records / Vithmicstar (2010-05-29)
売り上げランキング: 185,071



3:kamomekamome「Happy Rebirthday To You」
Happy Rebirthday To You
Happy Rebirthday To You
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KAMOMEKAMOME
SPACE SHOWER MUSIC (2010-06-02)
売り上げランキング: 85,098



4:Lino Cannavacciuolo「Pausilypon」
Pausilypon
Pausilypon
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Lucky Planets (2012-04-27)



5:高梨康治「FAIRY TAIL オリジナルサウンドトラック Vol.1」
「FAIRY TAIL」ORIGINAL SOUNDTRACK VOL.1
高梨康治 TVサントラ
ポニーキャニオン (2010-01-06)
売り上げランキング: 19,119



6:Sadesper Record(WATCHMAN/NARASAKI)他「はなまる幼稚園 ベストアルバム Childhood Memories」
はなまるなベストアルバム  childhood memories
TVサントラ 土田先生(日野聡) 草野先生(水原薫) 杏(真堂圭) 山本先生(葉月絵理乃) 小梅(MAKO) 柊(高垣彩陽) さつき(廣田詩夢) 雛菊(伊瀬茉莉也) 川代先生(若林直美) 桜(本名陽子)
キングレコード (2010-03-31)
売り上げランキング: 68,415



7:Peridot Foresta(Sei-Peridot[SeikoP])「Trees Of Origin」












8:ジギタリス「Ars Magna ~大いなる作業~」
Ars Magna(アルス・マグナ)~大いなる作業~
ジギタリス
SMD (2010-05-12)
売り上げランキング: 219,328



9:天地雅楽「天壌無窮 - Heaven and Earth Forever -」
天壌無窮(Heaven and Earth Forever)
天地雅楽 ハイブリッド (2011-09-21)
売り上げランキング: 714



10:elephant 9「Walk The Nile」
Atlantis
Atlantis
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Elephant9 With Reine Fiske
Rune Grammofon (UK) (2012-11-06)
売り上げランキング: 119,609

2010年12月25日土曜日

Keith Emerson『The Christmas Album』(1988)

Christmas AlbumChristmas Album
(2012/12/18)
Keith Emerson

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 毎年クリスマスになると聴きたくなる愛着のある1枚、というものは誰にでもあると思いますが、自分にとってはコレがそう。キース・エマーソンがファンに送るクリスマス・プレゼントとして、'88年に自主レーベルよりひっそりとリリースした(当初はメジャー・レーベルよりリリースされる予定だったそうですが、タイミングを逸してしまったため自主ルートになったとのこと)クリスマス・アルバム。トラディショナル・キャロルやバッハのクリスマス・オラトリオのカヴァーを中心に、エマーソンのオリジナル曲も交えた構成で、EL&Pでのアグレッシヴなスタイルとはまた違ったエマーソンの魅力が味わえる、落ち着いた趣と手作り感たっぷりの小粒な内容です。煌びやかな音で満たされた「Variaton On"O Little Town Of Bethlehem"(おお、ベツレヘムよ)」「Snowman's Land」、子供達の可愛らしいコーラスが聴ける「Chaptain Starship Christmas」(実はイアン・ペイス(dr)、ゲイリー・ムーア(Gr)がゲスト参加しています。録音自体は'82年にされていたそうな)。幻想的な風情を感じさせる、ガブリエル・グロヴレーズ(フランスの作曲家)のカヴァー「Petites Litanies De Jesus(イエスのための小さな賛美歌)」。ゴスペルをフィーチュアし、ジャジーなアレンジを施した「Silent Night」も、実にエマーソンらしいナンバー。ちなみに、'95年にリリースされた本作の再編集盤には、プロコフィエフの「組曲:キージェ中尉」の第4曲「Troika」のアレンジが追加収録されています。


2010年12月23日木曜日

5/4TAKEPOD『Tir-na-n-Og』(2005)

現在はデッドボールPとして活躍する槙タケポン氏のサークル「5/4TAKEPOD」が2005年の末に発表(コミックマーケット69にて頒布)した、オリジナル・プログレ組曲を収録したアルバム。ケルト神話に登場する常若の国"ティル・ナ・ノーグ"をコンセプトにした、20分に渡る全七部構成の一大長編タイトル曲に加え、いくつかの小曲を収めた1枚。キース・エマーソンとリック・ウェイクマンとジョーダン・ルーデスと桜庭統を足して4で割ってさらにモダンな味付けを加えたようなパワフルなキーボード・プログレ・サウンドをブッ放す、変拍子あり、ポリリズムあり、シンフォニック・ロックあり、ダイナミズムありの、プログレのオイシイ所が全て味わえるストロングな一枚です。

 風鈴の音にピアノが絡む静的なインスト「Land's dawn(地の誕生)」から、ハイテンションなキーボードサウンドが堰を切ったように雪崩れ込む「Manannan mac Lir(海神マナナーン・マクリル)」の繋ぎは非常にカタルシスを感じる流れ。赤子の鳴き声に導かれ、不気味なメロディラインと変拍子が満載の「Black Annis(人喰い妖婆ブラック・アニス)」。一転して落ち着いた穏やかな雰囲気の「Avalon(林檎の島アヴァロン)」。ポリリズムも絡めてミステリアスなムードの「Morgan le fay(妖精モルガン・ル・フェ)」。最高潮にテンションの高まりを見せる、RPGボス戦的イメージのダイナミックなキラーチューン「Midir(地下の神ミディール)」。そして最後を飾る「Mag Mell(歓びの野マグ・メルド)」にてバシッと大団円。風鈴の音が再び登場し、オープニングへと再び回帰する趣向も。これだけでもかなりの満足感が得られますが、組曲以外の楽曲もキャラの立った曲ばかりで、秀逸な内容。ツクツクボーシの鳴き声をサンプリングしてギターリフとガチンコの拮抗をさせる、疾走感と暑苦しさに溢れたプログレ・メタル・インスト「セミロック」。トロピカルな南国風インスト「暫く忘れないこの罪悪感」。タイトルとは裏腹に非常にシリアス&クラシカルなピアノ・インスト「ポケットの中でチョコレートが融けた」。シンセベースがバックでうねうねトグロを巻く洒落たインストゥルメンタル「こんなにも頼りない僕らの神」。半ば悪ノリ気味な妖しい先住民族儀式風インスト「急性胃炎」。フュージョン・テイストな「Neet1993」など、ユニークな曲が並んでおります。リリースから5年近く経ってもまだなお色褪せない同人プログレの傑作。



かなり昔からプログレ(特にイタリアン・プログレ)好きを公言しているタケポン氏ですが、氏のハイテンションなプログレ・アレンジは、『Tir-na-n-Og』と同時期、またはそれ以前に発表されていたスクウェア作品やアリスソフトなどのゲームミュージックのアレンジ・アルバムなどでも炸裂しております。クロノトリガーアレンジアルバム『Chrono Corridor』や、スクウェア作品アレンジ・アルバム『S II』は個人的にオススメの作品。特に後者の作品のハイライトとなっている、イタリアン・プログレ的解釈も交えて?大仰な一大組曲と化した「妖星乱舞」の高密度アレンジは必聴モノであります。



『Tir-n-na-Og』:試聴
5/4 TAKEPOD:公式

ASCII.jp:「生まれたときからロックンロール」デッドボールPかく語りき

2010年12月19日日曜日

MOON SAFARI『Lover's End』(2010)

Lover's EndLover's End
(2012/06/05)
Moon Safari

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 スウェーデンの若手プログレッシヴ・ロック・バンド:ムーン・サファリの3rdアルバム。THE FLOWER KINGSのキーボーディストであるトマス・ボディーンの肝煎りで発表された2005年の1stアルバム『A Doorway To Summer』、30分の大曲も含め、トータル100分を越える意欲的な内容で若手バンドらしいエネルギーに溢れたシンフォニック・ロックを2枚組に渡ってガッツリと展開した2008年の2ndアルバム『blomljud』と、充実したリリースを続けている彼らの魅力は、美麗なコーラス・ハーモニーを軸に、テクニカルなパートやアコースティックなパートを効果的に織り込んだ楽曲作りにあります。今回のアルバムはそれらのセンスが前二作以上に満開の開花を見せ、まさに「化けた」といっても過言ではない内容です。

 楽曲が幾分かコンパクトな志向(といっても10分を越える楽曲はありますが)になったのと、シンフォニックな要素を抑えてとことんまでポップでキャッチーに振り切ったのが大きな要因と言えましょうが、それにしてもここまでの目覚ましい変化は正直ビックリ。同じスウェーデンのプログレ・ハード・ポップ・バンドであるA.C.T(最近活動がご無沙汰気味でちょっと残念)の3rdアルバム『Last Epic』に匹敵する、もしくはそれ以上にネアカなプログレの極致がここにあります。

 ハートウォーミングなコーラスとフレッシュなアコースティック・ギターの音色で彩られたオープニング「Lover's End,Pt.I」でいきなり至福の音世界にどっぷりと浸れること間違いなしですが、そこから切れ目なく繋がる14分近い大曲「A Kid Called Panic」がまた凄い。まだアルバム2曲目だというのに既にクライマックス級の盛り上がりを見せるのがこの曲。キーボード/メロトロンの厚みのあるフレーズに、これでもかと積み重ねられるコーラスワーク、テクニカルでダイナミックな展開の間を縫って、ここぞというところで気持ち良く炸裂する盛り上がり十分のギターソロ、そしてそれらが総動員して押し寄せる感動的な大団円と、大曲でありながらキラーチューンと呼んでも差し支えないほどにオイシイところが盛り沢山で、長い尺をよどみなく聴かせるバンドの力量が十二分に伺えるのはもちろん、持てる全てを惜しげなく投入するその姿勢に天晴れです。



 アカペラコーラスで魅せるアコースティックな小品「Southern Belle」や、サビで伸び伸びと歌い上げる「The World's Best Dreamers」はこのバンドのスイートな魅力が凝縮された歌物曲。とことんポジティヴなキーボード/シンセソロがまたいい味わい。「New York City Summer Girl」は、KESTRELやSTACKRIDGEといった往年のブリティッシュ・ポップ・バンドに通じるヒネリのある趣も感じる1曲。そしてキーボードを存分にフィーチャーした躍動感たっぷりのプログレ・ポップス「Heartland」は、加速度的なテンションの高さと抜けの良い展開が耳を惹きつけてやまない1曲。コーラスをふんだんに盛り込み、バンドの素材の持ち味を活かした贅沢な長尺曲「Crossed The Rubicon」と合わせて、本作第二のハイライトたる内容です。最後は「Lover's End,Pt.II」でさっぱりとシメ。ここまで聴き終えた頃には、骨の髄まで満足感に浸っていることでしょう。

 敢えて難点を挙げるとするならば、このアルバムジャケット。過去作もB級感溢れる地味なものでしたが、今回は一段と地味。楽曲は煌びやかな作風なだけに、凄くもったいない気がします。とはいえ、アルバムの内容は神懸かり的と言っても過言ではない素晴らしさであることは念を押して言いたいです。本年度のプログレ作品でもトップクラスの1枚。個人的には本年度のマイベスト1位に挙げたいウルトラ大傑作アルバム。この冬一番のヘヴィ・ローテーション作品。眩し過ぎるほどに突き抜けた爽やかさと多幸感に溢れた内容に、ただただ脱帽です。



MOON SAFARI:myspace
MOON SAFARI:公式
MOON SAFARI:Prog Archives

2010年12月1日水曜日

川井憲次『i-wish you were here~あなたがここにいてほしい~ OST 1&2』(2002)

i~wish you were here~ ― オリジナル・サウンドトラック
TVサントラ en avant
日本コロムビア (2002-02-21)
売り上げランキング: 526,673


 2001年に発表されたGONZO制作によるアニメ作品「i-wish you were here あなたがここにいてほしい」(監督:水島精二)。アニメ本編は未視聴なのですが、初のインターネットストリーミング放送を試みた作品だったそうです。かのPINK FLOYDの名盤『I WISH YOU WERE HERE(炎~あなたがここにいてほしい)』を真っ向から意識したタイトルとあってか、楽曲もプログレッシヴ・ロックな方向性を押し出しており、ハモンド・オルガンを主体にしたプログレ・ハード/シンフォニック・ロックがたっぷりと展開されております…このアニメの企画者はよっぽどプログレに対して思い入れがあったんでしょうね。

 本作の劇判を担当された川井憲次氏は、押井守監督作品の劇判を初め、数多くのアニメ、ゲーム、映画、CMの作曲で八面六臂の活躍を見せている、言うまでもなく超大御所コンポーザー。「吸血姫美夕」「AVALON」「イノセンス」などで、重厚壮大な空間系/雰囲気重視の楽曲作りをする方なのかというイメージが自分の中であったのですが、ミュージシャンとしての一面(元々川井氏はフュージョン・バンドのギタリストだったそうですね)を垣間見せる本作のゴリゴリなプログレ・ハード・サウンドを聴いてその印象がガラっと変わりました。熱を帯びて疾走するハモンド・オルガンサウンドと、キレのあるリフ&唸りと泣きのギターソロが織り成す白熱のインスト。劇判として成立させなければいけないということもあってか、派手な展開は幾分か抑え目になっているとは感じるものの、溢れ出さんばかりのパッションを炸裂させています。それが存分に堪能できるのが、Part.0からPart.5までの6つのパートで構成された組曲。トータルで聴くと40分近いというまさに一大組曲で、力の入り具合も伺えようというもの。静謐な雰囲気から一転して鋭く畳み掛ける序破急のカタルシスに満ちた序盤~中盤、これまで抑えていたものを一気に放出するかのようにドラマティックな情念の迸りを見せる終盤、最初から最後まで印象深くまとめあげられています。難を挙げるとすれば、Vol.1にはPart0~4、Vol.2にはPart5と、アルバム2枚をまたいで組曲が収録されているところ。そもそも組曲と他の曲合わせてもアルバム1枚で十分に収まる楽曲ヴォリュームなのに、何故2枚に分ける必要があったのだろうか…と思うのですが、そこは大人の事情というヤツが絡んでいるのでしょう。「Part.5」が非常にドラマティックな盛り上がりを見せる楽曲だけに、少々残念に思います。

i~wish you were here~あなたがここにいてほしい ― オリジナル・サウンドトラック 2
TVサントラ en avant
日本コロムビア (2002-04-20)
売り上げランキング: 632,489


 また、『Vol.2』は短めな楽曲をいくつか繋げた「Short Pieces」というタイトルのトラックが3つあり、ピアノやアコースティック・ギターを中心とした小品から、広がりのあるアンビエント・シンフォニックまで、「静」の側面を見せるものになっております。また、川井氏は関わっていないのですが、エンディング曲の「Lunatic Trance ~静かなる絶叫~」(作詞/作曲:円谷一美(又紀仁美)、編曲/歌:an evant)の内容も見逃せません。このan evantというユニットについては詳しいことはあまりよくわかっていないのですが、楽曲はキレのあるギターとオルガンをフィーチャーした、テクニカルなインスト・パートも聴き応えのあるメランコリックな歌ものプログレ。OCEANSIZEやPINEAPPLE THIEFといった昨今のオルタナ・プログレ・バンドにも通じるものがあると思うのですが、いかがでしょうか。

 川井氏の作品の中でも、ここまでストレートにプログレ路線が貫かれた作品は本作をおいて他にはないと思います。川井氏のファンのみならず、プログレッシャーにも是非一度は聴いて欲しい逸品。オススメです。




GONZO公式:i-wish you were here
i-wish you were here- あなたがここにいてほしい:Wikipedia
川井憲次:Wikipedia
川井憲次:公式
試聴

2010年11月26日金曜日

須藤賢一/菊谷知樹 他『宇宙をかける少女 オリジナルサウンドトラック』(2009)

TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol.1TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol.1
(2009/03/25)
TVサントラ、ALI PROJECT 他

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 サンライズによるSFアニメ「宇宙をかける少女」のサウンドトラック。楽曲にプログレネタを仕込むことに定評のある須藤賢一氏が劇伴を担当し、全編プログレッシヴな内容に仕上がっているというという前情報からもう非常に気になっていたんですが、実に期待を裏切らない、堂々たる「アニメサントラ兼プログレ(パロディ)アルバム」たる内容でした。ライナーノーツにおける井上俊次氏のコメントで、そらかけの劇伴をプログレにしようとしたキッカケに、キース・エマーソンが手がけた83年の劇場アニメーション「幻魔大戦」のサントラがあったというくだりも非常に興味深く、それを踏まえて須藤氏を起用したというのも実に納得がいく話でした。Vol.1「LEOPARD」では須藤賢一氏が19曲、菊谷知樹氏が5曲、七瀬光嬢が1曲をそれぞれ担当。JAM Projectによるクワイア・コーラスをフィーチュアして壮大さに拍車をかけた1曲目「MAJESTIC OVERTURE with JAM Project」から遺憾ないプログレぶりを披露してくれます。以降も、「NELVAL」「KIRKWOOD」ではキース・エマーソン/EL&Pの「Piano Concerto No.1:Third Movement」「Bitches Crystal」みたいなフレーズが出てくるわ、「DUEL IN MYTHOLOGY」ではホルスト「火星」のフレーズからEmerson,Lake&Powell 「The Score」のフレーズへと繋げるわ、「EX-QT」はイントロがモロにNIACINの「Barbarian@The Gate」だわ、「BROADWAY」は後期CAMELのようだわ、「SORAKAKE GIRL」はTOTO「Child's Anthem」みたいなイントロから、YES「Machine Messiah」のような曲調に繋がるわ、ハモンドオルガンは所狭しと大活躍しているわ、なんだかもう全曲に元ネタがあるんじゃないかと勘繰りたくなるほどに、プログレッシャーなら感涙モノというかニヤニヤできるネタのオンパレード。

 一方、「DIVISION FIVE」では謎の円盤 UFOのオープニング・テーマのパロディをやっていたりする(謎の円盤UFOのパロディと言えば佐橋俊彦氏もTHE ビッグオーの「Respect」でモロにやっていましたね)。須藤氏だけでなく菊谷氏の劇伴曲もかなり聴き所のあるものになっているのも見逃せません。須藤氏の楽曲がブリティッシュ・プログレ、プログレ・ハードのイディオムを感じさせるとすれば、菊谷氏の楽曲はシンフォニック・ロックのイディオムを感じさせるといったところ。特に軽快なストリングスにロックンロールなバッキングが絡む「CARNICAL CARNICAL!」「EXCITING LIONET」、ジャジーなリズムの上をフルートが駆ける「NOISY CHASE」ではNew Trollsを髣髴とさせるイタリアン・プログレ臭さを撒き散らしており、思わず吹き出しそうになってしまった。いやはや当初の予想以上に濃い内容で、ランティスの本気をしかと堪能しました。本当にプログレの教則本的な側面もあるサウンドに仕上がっている1枚。


「EX-QT」                        「SORAKAKE GIRL」



TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol,2TVアニメ「宇宙をかける少女」オリジナルサウンドトラック Vol,2
(2009/06/24)
TVサントラ、栗林みな実 他

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 EL&Pを筆頭にYESやPFM、U.K、TOTOなどを下敷きにしたプログレ曲が目白押しだった Vol.1に続き、本作も非常に楽しみにしていた1枚。こちらのライナーノーツには須藤・菊谷両氏のコメントと、音響監督の鶴岡陽太氏とプロデューサーの古里尚丈氏の対談が掲載されており、プログレに至った経緯を知る上でこちらもなかなか興味深い内容です(「うろつき童子」の劇伴の話題も出てくるとは思わなかった)。その対談によると、劇伴は当初ジャズ路線で行こうと考えていたところ、さらにもう一つ耳に残るサウンドを何か入れたいということで相談した結果、それなら自分たちが好きなプログレを入れよう!という経緯で決まったとのこと。というわけで、このVol.2ではもう一方のメインであるジャズ&ジャズ・ロックな楽曲が多く収録されているのが特徴。一方で場面の雰囲気に合わせた劇伴曲も多いため、Vo.1と比べるとプログレ度が散漫になってるなあという印象もあるのですが、劇伴としては非常によくまとまってると思います。

 オープニングは前回同様JAM PROJECTによるクワイア・コーラスをフィーチャーした、「RISE OF THE CURTAIN」で荘厳に幕開け。「MAJESTIC Overture」では男性陣のクワイアがメインでしたが、こちらは対照的に女性陣のクワイアがメイン。そこからさらに混声クワイアへと続いていく展開は、キース・エマーソン的な威風堂々たるキーボードプログレな曲調と相まって非常にアツいものです。ジャズ系統の楽曲はおとなしめなのですが、ジャズロック系統の楽曲はそこはかとなくカンタベリー系の流れを感じさせ、「HIGH SPEED BATTLE!」「BLACK PRINCESS」「FACELESS」「GLORIOUS MAJESTIC」など、せわしないアンサンブルからじわりとした熱が伝わってくるかのよう。プログレ曲は少々少なくなったとは言え、要所でしっかりプログレ曲が配されており、プログレサントラとしての体裁は整っています。キレたヴァイオリン(デヴィッド・クロス的?)がうねる「MACHINGUN IMO」や、往年のMAGNA CARTAレーベルのEL&Pフォロワー系列バンドがやりそうなフレーズが仕込まれた「FACE TO FACE」、壮大なフィナーレを感じさせるシンフォニック曲「BEGINNING THE WORLD OF TOMORROW」など、やはり聴き所は多いです。


「HIGH SPEED BATTLE!」             「FACE TO FACE」



宇宙をかける少女 ベストアルバム宇宙をかける少女 ベストアルバム
(2009/12/23)
TVサントラ、栗林みな実 他

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 アニメ本編終了後から約半年後の2009年暮れにリリースされていた、主題歌、挿入歌、劇伴をベスト的に収録したアルバム。サントラVol.1/Vol.2に収録されなかった劇伴曲は、全てこちらに収録されています。内訳は須藤氏の楽曲が7曲、菊谷氏の楽曲が4曲、七瀬さんの楽曲が1曲。ある意味サントラVol.2.5。また、Vol.2に収録されていた「RISE OF THE CURTAIN with JAM PROJECT」は、「GREAT DETERMINATION with JAM PROJECT」とタイトルが変更されて再収録されております。残り物ということもあってか、先の2枚と比べるとそこまで印象の強い曲はないのですが、須藤氏の楽曲では、クラシカルなオルガン・プログレ・ハード・ロック「Existence」(ややキース・エマーソンが入った感も)、そしてモロにPFMの「The Mountain」をパロった楽曲として(ごくごく一部で)話題になった「Scramble!!」。後者はギターのフレーズといいクワイアといい、もはや短縮版「The Mountain」という趣の1曲です。菊谷氏の楽曲では、"らしい"雰囲気のフルートをフィーチャーなした小品「Mystic」、ヴァイオリンも切れ込む、ややデジタリーなチェンバー・ロックといった趣の「Stand Up!」あたりに注目。

「Scramble!!」


須藤賢一:Wikipedia
菊谷知樹:Wikipedia
宇宙をかける少女:Wikipedia

2010年11月25日木曜日

須藤賢一 WORKS プログレ・パロディ曲聴き比べ

 影山ヒロノブ作品や、JAM PROJECTのサポートバンド:TRY FORCE、茅原実里、野川さくらなどのツアーバンドのバンマス等を務めているキーボーディスト/アレンジャーの須藤賢一氏。この人の作る楽曲はあまりにモロ過ぎるプログレのパロディが大胆に突っ込まれていて、聴いてて非常にニヤニヤさせられることがしばしばあります。2009年の『宇宙をかける少女』でもやりたい放題のパロディっぷりを展開していてニヤリとさせられたのですが(サウンドトラックは必聴モノの内容です)、それ以前に氏が楽曲を提供した作品の楽曲もかなりのパロディぶりが伺えるものだったりします。というわけで、いくつかご紹介。ちなみに、超者ライディーンは96年から97年にTV放映されたアニメ作品。そしてメビウスクラインは麻宮騎亜「サイレントメビウス」シリーズの前史にあたる作品で、そのイメージサウンドトラックが93年と95年にリリース(後、98年に再リリース)されておりました。前者は現在ちょっと入手が困難ですが、後者は割と簡単に中古で手に入ります。さらにLAZYのメンバーが全面参加しているので、その点でも見逃せないのではないかと。

●超者ライディーン「Era」 / ■YES「Lift Me Up」


「Shoot High Aim Low」も若干入ってる気がする。

●超者ライディーン「Freefall」 / ■UK「Only Thing She Needs」


●メビウスクライン イメージアルバム「光への咆哮」 / ■Emerson,Lake & Palmer「Changing States」



●メビウスクライン イメージアルバム「The Ark」 / ■Emerson,Lake & Powell「The Score」



●リターン・オブ・サイレントメビウス イメージアルバム「Stranger from Paradise」 / ■Emerson,Lake & Palmer「Pirates」


※Emerson,Lake & Powellもカヴァーしたホルスト「火星(Mars, the Bringer of War)」のフレーズも入っている。

●宇宙をかける少女「EX-QT」/■NIACIN「Barbarian&The Gate」


●宇宙をかける少女「Scramble!!」/■PFM「The Mountain」


須藤賢一:Wikipedia
超者ライディーン:Wikipedia
サイレントメビウス:Wikipedia
宇宙をかける少女:Wikipedia

2010年11月21日日曜日

DISTRICT 97『Hybrid Child』(2010)

Hybrid ChildHybrid Child
(2010/09/14)
District 97

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 今年、アメリカのLASER'S EDGEレーベルからアルバムデビューを果たした、新鋭プログレッシヴ・メタル・バンド ディストリクト97の1stアルバム。バンドの母体は2006年から存在しており、元々はLiquid Tension Experimentなどから影響を受けたテクニカルなインストを演る4人組のバンドだったそうな。そこに、アメリカのオーディション番組「American Idol」の2007年上半期に行われたシーズン6に出場し、セミファイナルまで勝ち残ったという経歴をもつ女性ヴォーカリストのレスリー・ハントと、シカゴ交響楽団などのチェリストを務めているという女性奏者のカティンカ・クレイジンを迎えてほぼ現在のラインナップが完成。この経歴の異なる2人の女性メンバーを迎えたいきさつも気になるところですが、何にしても面白い組み合わせです。また、バンド名のDISTRICT 97は2009年に全米で(日本だと今年)公開された例の映画「DISTRICT 9(第9地区)」を意識したのでしょうかね。

 バンドのメインコンポーザーがドラムスのジョナサン・スキャングということもあって、クセのある変拍子を織り込んだ、引っかかりどころ多めのプログレ・メタル/プログレ・ハードといった趣。ソフトなタッチのMESHUGGAH、という印象を感じたりも。複雑でありながらキャッチーさもしっかりあり、「I Don't Want To Wait Another Day」「I Can't Take You With Me」の冒頭2曲は好例。フックのある展開の中、前者はギコギコしたチェロに併せて疾走するアンサンブルが痛快、後者は明快ながらも耳にこびりつきやすい歌メロが組み込まれております。続く「The Man Who Knows Your Name」「Termites」の2曲は共にヘヴィなギターリフと疾走感溢れるチェロ、そして絡みつく滑らかなシンセフレーズを主体として組み上げられた、ストイックな印象を感じさせる楽曲。そして本作のハイライトが、全27分半に及ぶ十部構成の組曲「Mindscan」。各2~3分の小曲/モチーフを寄せ集めただけのような気もしますが、シンフォニックなインストパートから、モダン・ヘヴィネスを感じさせるねじくれた変拍子パート、妙に実験的テイストを感じさせるパート、静謐なバラード・パート、と、静と動を交互に、そして起伏たっぷりに繰り返すミクスチャー・プログレ一大力作。なかなかの手堅さです。

 ちなみに本作にはオリヴィエ・メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」の一部をカヴァーとして収録する予定だったそうですが、権利関係の事情でアルバムに収録することがが出来なかったため、あえなく外されたとのこと、そのカヴァー/アレンジは現在バンドがフリーDL音源として配布中。また、レスリー嬢は09年には自身のレーベルからソロアルバムを発表しており、そこではヴィニー・カリウタ(dr)、ヴェイル・ジョンソン(b)という著名的なセッション・ミュージシャンを迎えて、ロック/ポップス路線の楽曲を展開しております。こちらもなかなか水準の高い内容。



DISTRICT 97:公式
DISTRICT 97:Myspace
アメリカン・アイドル(シーズン6):Wikipedia

2010年11月17日水曜日

DEC BURKE『Destroy All Monsters』(2010)

Destroy All Monsters

 DARWIN'S RADIO、FROST*といったUKモダン・プログレ・バンドでギタリスト/ヴォーカルを務めている、デック・バークの1stソロアルバム。ヴォーカル、ギター、キーボードは殆どがデック氏自らによるプレイで、ゲストでリズムセクション(IT BITESのネイザン・キング(Ba)や、DARWIN'S RADIOのティム・チャーチマン(dr)が参加)迎えてレコーディングされたというもので、いかにもソロアルバムらしい制作体制。音楽性はFROST*のモダンでシャープな側面を思わせる部分もあれば、DARWIN'S RADIOのハードでありながら軽やかな技巧性を思わせる部分もありということで、デック氏がそれぞれのバンドへもたらしているものが伺えるという意味でも興味深い内容と言えます。

 3~4分、長くても7分というコンパクトな楽曲は、いずれもキャッチーな落としどころもキチっと設けてあります。また、本職がギタリストということもあって、やはりギターをメインに押し出したつくり。オープニングの「The Last Time」や、「Signs Of Life」は、「もしFROST*がキーボードではなくギターを押し出したバンドだったらこうなるんじゃないか?」 という印象を抱かせますし、「Secret Lives」はギターワークが堪能できるプログレ・ハード・チューン。また、近年のIT BITESやKINOにも通じるキャッチーなUKロック然とした「Sometimes」など、UKプログレ/ポンプ・ロックに通底するメランコリック/ウェットな面もしっかり継承しております。アルバム後半はコーラスワークを生かしたポップス寄りの楽曲が続くのですが、ポジティヴなメロディと中盤からの盛り上がりが胸に迫る「Small Hours」や、哀愁たっぷりの展開と余韻を残すラストの7分のタイトル曲は秀逸な仕上がり。氏が在籍している2バンドと比べると楽曲の主張が弱いと感じる部分もありますが、総じてバランスの良い内容。何より持ち味をしっかり生かしたソロアルバムです。

DEC BURKE:myspace
Prog Archives:DEC BURKE

2010年11月10日水曜日

巨乳まんだら王国『王国民洗脳教育セット』(2004)

王国民洗脳教育セット


 イコマノリユキ教祖と愉快な仲間達による変態ロックバンド 巨乳まんだら王国の1stフルアルバム。変態は変態でもテクニックが変態という意味ではなく、スタイルと精神性がド変態という意味で。もはやコミックバンドというより下ネタバンドと言った方がいいほど歌詞は下ネタオンパレード。蟻の門渡りなんて単語も飛び出す「タマキン体操」はいろんな意味で衝撃だったというか、これには本気でホンマもんのアホ(誉め言葉)と言いたくなりました。伊達に教祖は嘉門達夫やおかげ様ブラザーズ、爆風スランプ、米米CLUBをフェイバリットに挙げてねーなというか、これらの方々の持っていたしょーもない(誉め言葉)部分をよくもまあここまで受け継いだもんだなーと思うことしきり。改めて聴き返してみると、マイク・パットンのMr.Bungleにも相通ずるところがあるなあ、とも。

 ワザとやってんだか天然なんだか曖昧なラインでぶっ放すしょーもなさとアホらしさの徹底ぶりが琴線にハードヒット。また、楽曲アレンジが多彩かつ秀逸なのもこのバンドのもうひとつの魅力、アルバムの殆どの楽曲の作曲を手がけるゴリ国王(現在は隠居中)の懐はメタルからパンク、ファンク、テクノまで広い。ややジェイムズ・ヘットフィールド似の教祖の声を生かしたMETALLICA節炸裂のメタルナンバー「ちん毛」を皮切りに、勢いに任せて己のチンコを嘆くヘヴィ・ロック・チューン「割礼カレー」、小粋かつ軽快なファンク・ナンバー「69」(ちなみに、この2曲にベースで参加しているのはマキシマムザホルモンの上ちゃん)、メンスの悩みをキャッチーなイントロやサビのメロディに載せてエモーショナルに歌い上げる「メンス24」、その他「彼女はCm」「恋列車2004」「ホルスタイン」など、イヤでも耳を引く聴き応えのあるナンバーがズラリ。一方で前述の「タマキン体操」のようなグダグダも辞さないネタ/コント曲も多数盛り込まれており(例:渋滞情報、コンドームの使用法読み上げ、四十八手連呼)、アルバムの楽曲配置は地雷源そのもの、その混沌ぶりがまたよろし。ラストは大合唱の「国歌斉唱」でキレイにシメられますが、ここにはマキシマムザホルモン、花団、セックスマシーン、サンボマスターなど、巨まんと交流の深いバンドの面々が参加しております。改めて聴いても喰えねえアルバム、迷盤であり珍盤。






「王国民洗脳教育セット」:試聴
巨乳まんだら王国:Wikipedia
巨乳まんだら王国:公式

2010年10月25日月曜日

山瀬まみ『親指姫』(1989) / 『親指姫ふたたび・・・』(1990)

親指姫
親指姫
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山瀬まみ
キングレコード
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 山瀬まみ嬢の1989年発表の3rdソロアルバム。アイドル歌手としての活動はうまくいかなかったようですが、そんな彼女のカタログの中でも本作と次作『親指姫ふたたび』は聴き所が盛り沢山の内容と言えます。「山瀬まみロック化計画」という企画の元制作された本作は、聖飢魔IIのデーモン小暮、パール兄弟のサエキけんぞう、奥田民生、矢野顕子、泉麻人、そして筋肉少女帯の大槻ケンヂ、内田雄一郎が作詞や作曲に、三柴江戸蔵(三柴理)横関敦がプロデューサー/編曲/演奏に関わっているという豪華布陣。筋肉少女帯のメンバーの殆どがバックアップしているわけですが、中でも鬼気迫るピアノソロからダイナミックなシンセアレンジまでこなす三柴氏と、"ジェットフィンガー"の異名通りのハイテクソロを惜しげもなく披露する横関氏の貢献度は高く、もはや「筋肉少女帯 meets 山瀬まみ」または「山瀬まみ with 筋肉少女帯」と言ってしまっても十分な出来。

 主役である山瀬嬢のヴォーカルも彼らのアレンジに負けない存在感を発揮して見事互角に渡り合っており、ドスを効かせてしゃっちょこばった歌い方がハイテンションなオープニングナンバー「ゴォ!」や、『仏陀L』『Sister Strawberry』の筋少の作風に近いスピード・チューン「I WANT YOU」は強力。一方でシリアスに歌い上げる「YAMASEの気持ち」(作曲:デーモン小暮)は、彼女の歌唱力の確かさを伺わせるハードなミドル・チューン。ちなみに「I WANT YOU」「YAMASEの気持ち」の2曲には、今は亡き諸田コウ氏(DOOM)が参加。フレットレスベースで紡ぎ出される印象的なフレーズがたまりません。「ヒント」(作曲:矢野顕子)は、山瀬嬢が若干矢野さんっぽく歌っているのが微笑ましいですが、三柴氏が矢野さんの曲を編曲するとこうなるのか!というのが伺えるのが興味深いポイントでありましょう。

 山瀬嬢の作詞曲は3曲あるのですが、「かわいいルーシー」「本日はSEITEN成り」がアイドルらしい可愛らしい内容なのに対し、「芸能人様のお悩み」はアイドルとしての彼女の鬱憤をぶちまける内容になっていて明らかに浮いてます。次作ではこれがさらに大爆発することになるのですが・・・。アルバムを締め括る「恋人よ逃げよう 世界はこわれたおもちゃだから!」は、タイトルから察しがつくかと思いますがオーケンの作詞。作曲は内田氏。後にオーケンがセルフ・カヴァーしたヴァージョンはバンドアレンジでしたが、こちらはシンセ/ピアノのクラシカルなアレンジを押し出したシンプルなもの、山瀬嬢の大人びた歌唱も聴ける、素晴らしいラストナンバー。ジャケットのセンスは今見ても正気の沙汰とは思えませんが。 






親指姫ふたたび…
親指姫ふたたび…
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山瀬まみ
キングレコード (1990-12-31)
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 1990年に発表された4thソロアルバム。前作に引き続き横関敦&三柴理の筋少コンビが全面サポートしている他、戸城憲夫(ZIGGY)、奥田民生、サエキけんぞう、岡野ハジメ、田村直美、吉田美奈子、東京スカパラダイスオーケストラ、と、これまた豪華なゲストを迎えております。流石に前作のインパクトを越えるものは出せないだろうなと思いきや、さらに強烈なものをぶつけて来たのが本作。

 のっけからギターがオーヴァーダビングでむせび泣き、大きなスケールを予感させるアンセム調のイントロダクション「親指姫の讃歌」から続くドラマティックなハード・ロックナンバー「花売り娘」にはド肝を抜かれ、突拍子もない展開といい、"ブサイクな新人なんてまばたきする間にみんな消えていく" "年とりゃドライフラワー"など、営業アイドルの心情をなりふりかまわずブチ撒けた山瀬嬢の詞といい、あまりに突き抜けてしまった感がもはや笑うしかないですが、本作を象徴するナンバーと言えます。山瀬嬢のヴォーカルもますます戸川純みたいなドスの効いた多重人格ぶりを披露するわと、前作以上にフリーダム。フェードアウトしていくアウトロでの三柴氏のピアノがまたことのほか美しいのがまた何とも言えません(笑)。「地球よ私のために廻れ!」「You are happy」といったビート・パンク系チューンが多いですが、横関氏と三柴氏がイントロ/アウトロやソロで奔放なプレイを展開しており、半分ハード・ロックに片足突っ込んでます。「198」はイントロだけ聴けばスピードメタルチューンかと勘違いすることうけあい。しかしアルバムのラストはちゃっかり正統派バラードへと収束してまっとうに締められるというしたたかさ。相変わらずトンでおり、バラエティという点でも前作以上に豊んでるアルバムです。

 前作と本作の二作に渡って続いた「山瀬まみロック化計画」ですが、その後の活動を決定付けるものになったかというと、残念ながらそうはならず、1993年の『マイト・ベビー』ではこれまでのポップス路線へと戻ってしまい、さらにこれが現時点での彼女の最後のアルバムとなってしまいます。以降は歌手活動からバラエティアイドルに転向ということで、まさに時代の徒花といえましょう。音楽活動で彼女のタガが外れていたのはわずかな期間でしたが、それだけに忘れられない作品であります。 



2010年10月7日木曜日

ザ蟹(三柴理/塩野道玄)『サウンドギャラリー』(2001)

サウンドギャラリー

 映画、CM、アニメと、様々な方面に楽曲を提供している、ピアニストの三柴理とベーシスト/コンポーザーの塩野道玄の二人からなるユニット ザ蟹の、結成15年目にしてリリースされた初のアルバム。扶桑社刊行の「月刊ビジネスSPA!e+B」の付属CD-ROMにおける音楽連載企画「サウンドギャラリー」で作曲された7曲の楽曲を収録。この企画、毎月お題(サラリーマンの日常にちなんだものが多し)が出され、それを元にザ蟹が楽曲を作るというもので、ひと月1曲ペースで7ヶ月間連載されていたそうです。瑞々しさを放つピアノ&シンセフレーズ、小洒落たドラムンベースサウンドが、春の訪れやアンニュイな午後の昼下がり、フレッシュなおろしたてのYシャツといった数々のイメージを、落ち着いた一枚の絵画のような印象で見せてくれる良質のイージーリスニング系インストゥルメンタル。ほっとさせられます。

 かと思えば、シンセと蠢くベースが絡みつき不穏なグルーヴを捻り出し、強烈な印象を残すアヴァン風味のジャズ・ナンバー「Pulsar」や、筋肉少女帯の楽曲「モーレツア太郎」(アルバム『仏陀L』収録)のイントロ部分「黎明」のエクステンデッドヴァージョンとも言える「黎明 第二稿」、同じく筋少曲「夜歩く」(アルバム『Sister Strawberry』収録、ちなみに同アルバムに収録されている「ララミー」の編曲者は塩野氏)のセルフカヴァーの存在に身を引き締められます。特に「夜歩く」は軽やかな打ち込みシーケンスの上をピアノがスタイリッシュに躍るという、筋少版よりさらに輪をかけてクールで、そしてちょっぴりヘヴィなアレンジになっており、非常に新鮮な印象を与えてくれます。そして「ホワイトチョコレート」は、筋肉少女帯の内田雄一郎氏の未発表曲。シンセのみで構成された小品で、どこか懐かしさを誘う音色でレトロな雰囲気を醸す曲調が何とも内田氏らしい。「戦闘妖精雪風」のサウンドトラックがユニットの"動"の側面を展開した作品とするなら、こちらは"静"の側面を追求した作品であると言えます。三柴氏、塩野氏のリリカルな魅力が満載です。



三柴理:Wikipedia
三柴理 ピアノのなせる業と神髄

2010年10月2日土曜日

ザ蟹(三柴理/塩野道玄) 他『戦闘妖精雪風 オリジナルサウンドトラック Vol.1&2』(2002/2005)

オリジナルビデオアニメーション「戦闘妖精雪風」オリジナルサウンドトラック1オリジナルビデオアニメーション「戦闘妖精雪風」オリジナルサウンドトラック1
(2002/09/21)
ビデオ・サントラ

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オリジナルビデオアニメーション「戦闘妖精雪風」オリジナルサウンドトラック2オリジナルビデオアニメーション「戦闘妖精雪風」オリジナルサウンドトラック2
(2005/08/26)
ビデオ・サントラ



 機械と人間、そして異星体との関係を、思弁と葛藤を交えて重厚に描く、神林長平の傑作SF小説「戦闘妖精・雪風」シリーズ。GONZO制作による、そのOVA版のサウンドトラック。筋肉少女帯や特撮のメンバーであり、現在はソロピアニストとしても活躍する三柴理氏と、元コザーノのベーシストで、現在はコンポーザーとして活躍中の塩野道玄氏によるユニット「ザ蟹」と、その兄弟ユニットである「THE金鶴」Clara氏が劇伴を担当。

 アニメ本編は、さながらプロモーションビデオのような断片化された内容(それでもラストは収まるところに収まっていましたが)で賛否両論の分かれる内容でしたが、緻密なヴィジュアルデザインやドッグファイトの臨場感、そしてそれらを彩るサウンドは文句無く素晴らしいものでした。ブレイクビーツ/エレクトロニカをベースとした、緊張感を与える無機的なバッキングと、豊かな情感を含めて奏でられる三柴氏のピアノ、両者の対比が絶妙に調和した、プログレッシヴなテイストも含んだ楽曲はスパイシーな魅力を放っており、ヘヴィな音色と繊細なメロディが交錯する「Lynn Jackson」、シャープなイメージをダイレクトに投影した「零のテーマ」、空間を緩やかにたゆたうベースラインが有機的な息遣いを感じさせる「Light Trap」、モーグの音色とジリジリとしたノイズが渾然一体となった、刺激的な耳触りの「糸」(ちなみに、ザ蟹の初期からあるレパートリーの1曲)などが印象深い。また、メランコリックなメロディを奏でる切なげなピアノ・インスト・バラードの数々は、説明不足な感が否めなかったOVAの場面や登場人物の心情を補う役割を大きく担っていたように思います。

 一方、サントラVol.2は、DVD第5巻特別限定盤の同梱品。全8曲/30分に満たないヴォリュームもあってか、Vol.1と比べるとやや淡白な印象ですが、ラストに収録された7分半の「Apotheosis~終曲」は力作。重々しくも、シンフォニックな美しさに満ちた1曲です。また、オープニングテーマ「Engage」が収録されているのも見逃せない。颯爽と流れるピアノの滑らかなシークエンスが、流線を描くシンセとコシの太いベースサウンドと共に高みへと昇る名インスト。雪風のイメージとこれほどシンクロした曲もないと思います。なお、"Engage" "RTB"(ムッシュかまやつ)の2曲は、06年にリリースされたGONZO制作作品の主題歌を集めたコンピレーションアルバムにも収録されております。



Reunion-GONZO Compilation 1998~2005-Reunion-GONZO Compilation 1998~2005-
(2006/07/05)
アニメ主題歌、木村郁絵 他

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「戦闘妖精雪風 オリジナルサウンドトラック Vol.1」楽曲解説
三柴理 ピアノのなせる業と神髄
戦闘妖精雪風:公式
戦闘妖精・雪風:Wikipedia

2010年9月14日火曜日

Chachamaru(藤村幸宏)『AIR』(2002)

Air


 VIENNA関連作品その2。VIENNAのフロントマンその人である藤村幸宏こと茶々丸の現時点での唯一のソロアルバム。かつてGERARD、VIENNAといったジャパニーズ・プログレ・バンドに在籍した彼は、現在はGacktのバックバンドであるGackt Jobのギタリスト兼プロデューサーを務めており、名実共にGacktの右腕的存在として活躍しているのですが、本作はGacktの三枚目のソロアルバム『MOON』がリリースされてから約半年後に発表されたもの。

 集まったゲストミュージシャンも氏の人脈から総動員されており、Gackt(vo)は勿論のこと、西田竜一(ds)&永井敏巳(b)&塚本周成(kbd)といったVIENNA時代の盟友(ちなみに永井氏と塚本氏はGacktのアルバムのレコーディングメンバーでもあり、また、西田氏は一時期Gacktのツアーサポートメンバーを務めていました)、そしてDED CHAPLIN時代の盟友である二井原実(vo / LOUDNESS)&菅沼孝三(ds)、GERARD時代の盟友である五十嵐公太(ds / ex JUDY AND MARY)さらにEARTHSHAKERの西田昌史(vo)&工藤義弘(ds)、寺沢功一(b / ex BLIZARD~SLY)、真矢(ds / LUNA SEA)、和佐田達彦(b / ex 爆風スランプ) という錚々たる面子で花を添えています。

 楽曲は打ち込みも交えてのシンフォニック・ロック/ハード・ロック路線で、モダンなヴィジュアル系ヘヴィ・ロック「Divine」や、打ち込みとストリングスがゴージャスなバラード「As」の序盤二曲はGacktのソロからの流れも感じさせます。そこでの茶々丸氏のヴォーカルはVIENNA時代以上にねっちょりした歌い回しになっており激しく好き嫌いが分かれそうですが、これはGacktからの影響なのか、それとも時代の流れに合わせたものなのか。また、ゲスト・ヴォーカル曲は三曲あり、二井原氏がエネルギッシュに吼えるラフなロック・ナンバー「Metamorphose」、西田氏のハスキーなヴォーカルが実にマッチするブルージーなミドルテンポのハード・ロック・ナンバー「Grieve」と、ゲストの持ち味を生かした仕上がりになっているのですが、中でもGacktがヴォーカルをとる「Kagero」は極めつけ。シンフォニックなバラードという曲調もさることながら、サビを始めこれでもかとドラマティックな見せ場が盛り込まれており、Gacktのヴォーカルが凄まじく映える感動的なまでの1曲に仕上がっております。茶々丸氏のGacktへの優遇ぶりがえるのも微笑ましい。

 楽器隊の実力が炸裂する楽曲ももちろんあり、「Luscious」は、ゴシック/クラシカルかつ派手なキーボードアレンジに、"手数王"菅沼氏の細やかなドラミングがスリリングな疾走感を与えているプログレ・ハード ナンバー。落合徹也氏のヴァイオリンと、茶々丸、永井、菅沼の三名による、元VIENNA/元DED CHAPLIN組の面目躍如と言わんばかりに暴れまわるインタープレイは聴きモノです。また、10分に及ぶ大曲「CANONE」は、VIENNAの1stアルバムのハイライトであった楽曲のリメイク。原曲よりもさらに塚本氏のシンセが全面に押し出ており、アレンジも時代相応といった感じになっておりますが、やはり気合が入っております。本作もまた中古盤を結構安い値段で見かけるのですが、だからといって見過ごすのは勿体無い一枚。




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2010年9月12日日曜日

TOSHI『Mission』(1994)

MISSION
MISSION
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TOSHI
BMGビクター (1994-06-01)
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 VIENNA関連作品その1。X-JAPANのTOSHIの2ndソロアルバム。今じゃ中古で100円かそこらで簡単に手に入るシロモノなのですが、参加ミュージシャンや楽曲の充実ぶりが素晴らしく、スルーするのは勿体無い1枚。個人的には間違いなく彼の代表作は本作だという認識です。藤村"茶々丸"幸宏(g)、永井敏巳(b)、菅沼孝三(ds)、塚本周成(kbd)といったVIENNA/DED CHAPLINの楽器隊が全面的に参加しているほか、LOUDNESS/DED CHAPLINの二井原実も楽曲提供で参加、また、NIGHT HAWKSの青木秀一(g)&工藤哲也(ds)の両氏の名前も見られます。92年発表の前作『made in HEAVEN』はシンフォニックなAORポップス作品でしたが、本作は色濃いハード・ロック路線にこだわった一枚。参加ミュージシャンのラインナップもあってかDED CHAPLINに近いソリッドな雰囲気も感じさせ、タイトルから「Rusty Nail」を意識したであろうことが伺える冒頭曲「Rusty Eyes」や、「Chase Of Times」「Heart of the back」は、豪快なハード・ロックに仕上がっております。特に「Chase Of Times」は楽器隊の技巧面も全面に押し出したキラーチューン。弾きまくる茶々丸のエッジの効いたギターワーク、抜群の安定感でガッツリ支えるリズムセクション、盛り上がりに花を添える嫌味のないキーボードアレンジがカッチリとまとまり、TOSHIのヴォーカル共々、ラフな勢いのあるX-JAPANとは違った側面で魅せてくれます。




 「LADY」はDED CHAPLINのレパートリーをリメイクした楽曲で、ドラマティックなサビで落とすミドル・チューン。続く「Bless You」もストリングスや泣きのギターソロも盛り込んでの壮大なパワー・バラードで、非常に頼もしさを感じさせる1曲。ギターの泣きで言えば「Heart Of The Back」もまた素晴らしい。アコースティックな小品の「intermission」や、伸び伸びとリラックスして歌い上げる「Love Dynamics」など、後半は前半に比べると穏やかな流れにありますが、どこか物悲しさも感じさせるクラシカルなシンセやコーラスアレンジの中で歌い上げる秀逸なラストナンバー「Moon Stone」(ちなみにこの曲は後に再編VIENNAでもリメイクされています)で堂々たるエンディングを迎え、しっかりと筋を通します。改めて、茶々丸をパートナーに迎えたこのハードな路線はアルバム1枚こっきりで終わらせてしまうには惜しい。

2010年9月5日日曜日

VIENNA『Overture』(1988) / 『Step Into...』(1988) / 『Unknown』(1998)

オーヴァーチュア=序章(紙ジャケット仕様)オーヴァーチュア=序章(紙ジャケット仕様)
(2011/09/07)
ヴィエナ

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 GERARDの藤村"茶々丸"幸宏(vo. g)を筆頭に、AFFLATUSの永井敏巳(b)、OUTER LIMITSの塚本周成(kbd)、NOVELAの西田竜一(ds)という、当時の国内プログレシーンのツワモノ達によって結成されたプログレ・ハード・ロック・バンド:ヴィエナの88年発表の1stアルバム。ロッキンf誌の後押しもあり、低迷していた国内プログレ・シーン活性化のために結成されたものの、時流の流れには逆らえず、あまりにも短い活動期間で終わってしまったプロジェクト・バンドです。その編成や音楽性から、英国のスーパー・プログレ・バンドだったU.K.を意識していただろうことは明らかで、U.K.を思わせる楽曲のキャッチーさ、複雑な変拍子展開、各パートが存在感のある技巧的演奏を繰り広げております(特に永井氏のフレットレス・ベースのうねり具合はかなりの存在感)。ただ、ヴォーカルが弱いのがタマにキズで、茶々丸のお耽美なヴォーカルが入った瞬間に違和感を覚える部分も少なくないです。ノヴェラ、ジェラルドと同路線を狙っていたと言えないこともないんですが、テンションの高い演奏だけで十分に聴かせてくれるだけに、無理してヴォーカルをとらなくても良かったのでは? とも。しかしながら、やはりそこはバンドとしての個性をもうひとつ押し出したかったのかなあと。とはいえ、楽曲は質・量共に文句なく素晴らしい内容に仕上がっております。ラストに収められた10分近くに及ぶ「Canone」は、塚本氏のキーボードワークをフィーチャーしたシンフォニックな力作。


ステップ・イントゥ・ヴィエナ(紙ジャケット仕様)ステップ・イントゥ・ヴィエナ(紙ジャケット仕様)
(2011/09/07)
ヴィエナ

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 こちらは同年の12月に発表された2ndアルバム。茶々丸氏のヴォーカルはやはり好き嫌いが分かれるところですが、演奏のテンションは前作以上。複雑な楽曲展開の中で各人がその技巧を存分に発揮しています。曲調もアグレッシヴに寄ったりシンフォニックに寄ったりと、明確なメリハリがついたことでグッとパワフルに進化。何よりも思い切ったサウンドが全編に炸裂しているのがホントに気持ち良いです。耽美な雰囲気に溢れたシンフォニックなイントロダクション「Step Into The Vivid Garden」から、ウルトラハイテンションかつ濃密なバンドアンサンブルが一体となってが押し寄せる「Gathering Wave」の流れは超強力。ド派手にぶっ放される壮大かつ分厚いキーボードサウンド、フレットレスベースのゴリゴリとしたうねり、細かく隙間を縫って刻まれるドラミング、唸りを上げて切れ込み、さらなる厚みを加えていく鋭角的なギタープレイ、この2曲で既に満足を覚えてしまうほど印象深いものになっています。また、大仰にしてかなり力の入った歌モノプログレ・ハード曲「Magic Eyes」は、歌詞のこっ恥ずかしさも含めて、色んな意味で印象深い。GERARDやNOVELAライクなゴリ押し曲「Caution!」や、ラストの「Fall In Alone」も詰め込める要素は全部詰め込んだ濃厚な佳曲。間違いなく80年代国内プログレシーンに残る名盤であります。






プログレス-ラスト・ライヴ-(紙ジャケット仕様)プログレス-ラスト・ライヴ-(紙ジャケット仕様)
(2013/09/04)
ヴィエナ

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 89年にラスト・ライヴを行い、その時のパフォーマンスを収録したライヴアルバム『Progress』をリリースし、バンドは解散してしまうのですが、茶々丸氏と永井氏の二人はその後まもなく二井原実氏率いるDED CHAPLINに参加し、新たな活動を続けることになります。そしてそのDED CHAPLINの流れを組む形でVIENNAは再編(前三作でプレイしていた西田竜一氏に代わって"手数王"菅沼孝三氏が加入)することになり、96年に発表されたのが本作。DED CHAPLINの活動を経たためかサウンドはハード・ロック色がかなり強まり、DREAM THEATER以降のテクニカルなプログレ・メタルの流れも感じさせる方向性になっています。とはいえキャッチーな落としどころは健在で、演奏的にも楽曲的にも全体的にバランスの良い内容。茶々丸氏の声質も若干ハスキーになり、これまでのねっとり耽美な歌い回しはよりラフな印象を感じさせるものに。ガラリと様変わりしたVIENNAサウンドは、荒々しい疾走感溢れる1曲目「Entrance」から十分に炸裂。キーボードが引っ込み、エッジの効いたギターが全面に押し出されることでスマートさが増し、さらに菅沼氏の手数で押しまくるドラミングが楽曲にフックをもりもり生み出しているのが、80年代VIENNAとはまた違ったカタルシスを感じさせるポイント。インストナンバー「Anubis」におけるめまぐるしい暴れ回りぶりは一聴の価値アリですし、イントロに荘厳なコーラスをフィーチャーしたミドルテンポのプログレ・ハード「Legend」は、様式美すら感じさせる練りこまれた重厚な展開が光る約10分の大曲であります。また、「Open Sesame」「Moonshine」は、どちらもチャーチオルガンやチェンバロの響きが美しいバラードナンバー。ちなみに、「Moonstone」は94年にX-JAPANのTOSHIが発表した2ndソロアルバム『Mission』(実はVIENNAのメンバーが全面参加)に提供した楽曲のセルフリメイクで、TOSHIが歌ったヴァージョン以上にドラマティックなアレンジになっております。80年代VIENNAとはやはり別物という印象こそしますが、聴き応え十分の快作。ちなみに、80年代の2枚のアルバムは既に廃盤となっていますが、本作はiTunes Storeや公式サイトの通販で現在も購入することが可能です。前者では1350円で全曲購入可能。


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2010年8月31日火曜日

仙波清彦とはにわオールスターズ『イン・コンサート』(1991)

イン・コンサート

 邦楽囃子仙波流家元にしてパーカッション奏者である、仙波清彦率いる大編成邦楽オーケストラ「はにわオールスターズ」の91年のコンサートを収録したアルバム。ジャンル超越集団といえば、それはこの人たちでしょう。まずメンツが凄い、紹介するだけで字数を喰う。デーモン小暮閣下(聖飢魔II)、奥田民生/阿部義晴(ユニコーン)、戸川純(ヤプーズ)、小川美潮/板倉文(チャクラ)、渡辺香津美、村上"ポン太"秀一、松本治(Tipographica)、斉藤ネコ・清水一登・Ma*To・Whacho(Killing Time)、植村昌弘(Bondage Fruit、MUMU他)、坂田明(山下洋輔トリオ他)、金子飛鳥、渡辺等、バカボン鈴木、矢口博康(FAIRCHILD)、れいち、青山純(山下達郎バンド)、久米大作etcetc...ヴォーカル8名、べース/サックス各3名、アコーディオン/クラリネット/トランペット各1名、ギター/トロンボーン/ヴァイオリン/キーボード/笛/琴/タブラ各2名、三味線4名、邦打、パーカッション、コンガ、ドラム合わせて17名、そしてコンダクターの仙波氏を含め以上総勢53名でお送りする大宴会アンサンブル。

 和楽器をメインに押し出したリズム隊はバーバリズムとダイナミズムを擁してもはや地鳴りの領域に突入しており、まさに山脈大移動。「リボンの騎士(ヴォーカル:戸川純)」「大迷惑(ヴォーカル:奥田民生)」「シューベルトのセレナーデ」「ホーハイ節」「この胸のときめきを(ヴォーカル:デーモン小暮閣下)」「奇妙な果実」「ブンワガン・ソロ」といった具合に、クラシック、民謡、ポピュラーミュージックまで手広く網羅した選曲、いやあ実に節操ないなあと思わず微笑んでしまうことしきり(笑)。オリジナル曲は、チャクラのフロントマンである小川美潮嬢の独特のセンス溢れる歌詞と、仙波氏による崩し気味な和のフィーリングを掛け合わせたもの。テキトーなようでいて絶妙な印象を受ける溶け込み具合が大きな魅力。能天気にぶっ飛んだ「明るいテレンコ娘」、悠然とダイナミックな音が鳴り響く「体育祭」、そして10分に及ぶ「水」は、各パートのソロがはっちゃけつつもだんだんと絶頂へと導かれる、本ライヴのハイライトと言えるナンバー。いやはやドンチャンお祭り騒ぎという以外に何といえばいいのでしょう、スケールがデカ過ぎます。莫大なエネルギーがブチ込まれ発散するダイナミックなコンサートは、映像で見るとまた凄いのです。

仙波清彦:公式

2010年8月25日水曜日

VERMILLION SANDS『Water Blue』(1989)

Water Blue

 80年代に活動していた、故.蝋山陽子さん率いるフォーク・プログレ・バンド ヴァーミリオン・サンズが89年に発表した作品。RENAISSANCEやSANDROSEといった欧州のフォーク・プログレ系バンドのコピーバンドが母体であり、特にRENAISSANCEからの音楽的な影響は大きく、紅一点である蝋山さんによる母性溢れる包み込むような歌い回しはアニー・ハズラムを彷彿とさせられます。バンドアンサンブルはとりたててテクニカルというわけでもなく、シンフォニックなムードの演出でヴォーカルのサポートに回る場面が多いのですが、アコースティックの優しい響き、CAMELやGENESISを思わせる暖かみのあるキーボードサウンドが絡んで、どこまでも幻想的なトラッド・サウンドを形成していく様はしみじみとしたノスタルジーを感じさせてくれます。

 木漏れ日の散歩道を踏みしめていくかのような展開が味わい深い大曲「時の灰」、日本的情緒を含みこんだアコースティックな小曲「北本」、伸びやかなヴォーカルが夢心地へと誘う「THE POET」等、スロウテンポのバラードの魅力がたっぷりと味わえる曲が多いです。一方で、吹き込む風のSEに導かれ、ヴォーカルとバンドアンサンブルが軽やかに駆け抜ける「CORAL D -THE CLOUD SCULPTORS-」、中期 (特に『Breathless』期の) CAMELへの愛も感じさせる牧歌的な雰囲気を持った「LIVING IN THE SHINY DAYS」は、このバンドの"動"の魅力を感じさせる仕上がりで思わず笑みもこぼれてしまいます。素朴ながら、じわりと琴線に触れる魅力の詰まったアルバムではないでしょうか。バンドは90年に活動を休止するものの、自主制作のソロアルバムやカヴァーバンドでの活動を経て、96年に元Deja-Vuの工藤源太氏(dr)やKBBの壺井彰久氏(vln)をサポートに加えて一時的に活動を再開(この時のメンバー編成でのライヴテイクが99年のリイシュー盤に2曲ボーナス・トラックとして収録されております)。その後、蝋山さんの出産・育児のため再びバンドは活動休止、99年にθ(theta)のメンバーとして迎えられ、00年にアルバムを1枚発表するものの、04年の8月23日に若くしてこの世を去られてしまいます。今年で蝋山さんの6周忌、数少ない国内フォーク・プログレの優れた歌い手であった彼女の早すぎる死は、改めて惜しまれます。




90年の吉祥寺シルバーエレファントでのライヴ映像。YouTubeでは他にもルネッサンスの「Prologue」やトラディショナルのカヴァー、アルバム未収録曲「Rosemary」の演奏映像も見ることができます。

VERMILLION SANDS:試聴
VERMILLION SANDS:公式

2010年8月20日金曜日

月読レコード『黄泉堂 - The HALL HADES -』(2010)


 コンポーザー/アレンジャーの翡翠氏が主宰する同人音楽レーベル:月読レコードの夏コミ新作。翡翠氏が完全ソロ体制で制作した、全4曲収録のミニアルバムで、翡翠氏の作風の特徴のひとつである和のムードは勿論のこと、今回はハモンドオルガン、メロトロン、モーグの音色をいつになく大々的にフィーチャーしており、和洋折衷的プログレッシヴ・ロック作品に仕上がっています。1曲目の「滅紫渡り(けしむらさきわたり)」は、ピアノの響きとファルセット・ヴォーカルの独唱をメインとしたイントロダクション。アクセント的にメトロトンの音色も被さり、より静謐なムード感に溢れた1曲。2曲目「迦樓羅(かるら)」は、ファズがかったうねりのあるバッキングシーケンスに、竜笛/フルートをフィーチャーしたインストナンバー。軽やかに変拍子を交え、シリアスでありながらどこか飄々としたイメージも感じさせます。3曲目「とかげのしっぽ切り」は、前曲の流れを継いだような形で、再びうねりのある1曲。EL&P/キース・エマーソンを思わせるキーボード・プログレで、ジャジーな展開も織り交ぜつつ、ピアノとモーグのうねりに導かれる形で展開。楽曲後半ではコーラスもフェードインし、焦燥感を煽る曲調にますます拍車がかかり、緊迫したムードが高まりを見せてゆきます。そして高められた緊迫感は4曲目「夢、幻、現が境」で一気に爆発。ハモンド、モーグ、メロトロンサウンドに加え、和楽器類、多重コーラスを総動員し、粛々としたムードとダイナミックな厚みを演出。人によっては(…自分のことですが)イメージとしては源平討魔伝が浮かぶやもしれません。起承転結の"結"を強烈に印象付ける、本作のハイライトたる1曲でありましょう。ミニアルバムですが、この路線でフルアルバムも聴きたいと思わせてくれるほどに聴き所の多い一枚。濃ゆいです。


黄泉堂:特設ページ
月読レコード:公式

2010年8月3日火曜日

天地雅楽『天壌無窮 - Heaven and Earth Forever -』(2010)

天壌無窮( Heaven and Earth Forever)天壌無窮( Heaven and Earth Forever)
(2010/07/17)
天地雅楽

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https://itunes.apple.com/jp/album/tian-rang-wu-qiong-heaven/id463703789

 ニューエイジやフュージョン、ワールド・ミュージック、ポップスなど多彩な音楽性を織り込み、現代的なセンスを感じさせる活動を行っている雅楽フュージョン・グループ 天地雅楽(てんちがらく)の、通産4作目。1作目がマキシシングル、2・3作目がミニアルバム(いずれもほぼ廃盤状態)であったため、これが初のフルアルバム。メインの4人(篳篥[キーボード兼任]、笙×2、竜笛/リンベ[ドラムス兼任])に、ベース&ドラムス/パーカッションのリズム隊、ヴォーカル、フルート奏者、揚琴奏者、二胡奏者などが加わった「天地雅楽 HYBRID PROJECT」と称する大編成にて、雅楽をベースとしたバラエティ豊かなハイブリッド・サウンドを展開しています。また、08年に天地雅楽メンバー3人が結成したスピンアウトユニット 明日香の活動からのフィードバックもあり、本作収録曲のうちいくつかは明日香が08年に発表した『天地夢想』の楽曲のリメイクも含まれています。

 今回はプログレッシヴ・ロック的エッセンスや趣向を盛り込んだ作風になっており、間あいだに挟み込まれたサウンドスケイプ的なインタールードもさることながら、ピアノとフルートをフィーチャーした鮮やかな変拍子インスト曲「Spiral Staircase」から印象付けられます。続く「天界への階段」は明日香でも演っていた楽曲のリメイク。明日香ではキーボード/シンセがメインでありましたが、こちらはフルート&二胡をフィーチャーしたことでより伸びやかさと躍動感が強まり、生っぽさもグッと増した印象。一体となったアンサンブルが雄大なイメージを抱かせる「Continent Of Spring」は初期のレパートリーのリメイク。「故郷の砂」「故郷の風」は、共にたおやかな女性ヴォーカル(恐らく中国語?)をフィーチャーした歌もので、オリエンタルでしっとりとしたムードながら、随所でしっかりとアクセントも効いており、2曲とも本作の目玉たる秀逸なポップスに仕上がっています。NHKの番組劇伴としても採用された「寺の小道」は、明日香では2分少々の小品だった楽曲ですが、ここでは5分近くまで拡大。穏やかな雰囲気の中展開される、ピアノと雅楽アンサンブルの静かな絡みが聴きもの。ピアノのフレーズがどことなくキース・エマーソンのピアノソロの作風を匂わせる場面も。暖かみのある二胡の音色で送る「とおりゃんせ」のアレンジを経て、「Yellow River」はそのタイトル通り中国をイメージした1曲で、躍動的でモダンなアレンジもさることながら、イメージに広がりを与える揚琴と二胡の響きも印象深い。ラストは毎アルバムに必ず収録されている(明日香でも勿論演っている)、豊かなニュアンスに溢れた彼らの代表曲「天地乃響」で〆。確かな自信に溢れているのが伺える、流石の演奏で幕を閉じます。彼らのこれまでの活動の集大成にして、新たな活動の一歩を踏み出す節目ともなる1枚。ワールドワイドな活動も行っている彼らですが、国内での認知度もより一層上がって欲しいものです。

天地雅楽:Myspace
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2010年8月2日月曜日

明日香『天地夢想』(2008)

天地夢想(てんちむそう)天地夢想(てんちむそう)
(2008/07/18)
天地雅楽(てんちがらく)

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https://itunes.apple.com/jp/album/far-east-fantasy/id285935591

 雅楽フュージョン・グループ 天地雅楽のメンバー3人(全員が音大出身、またそれぞれが本職の巫女、神職、雅楽師)による雅楽ユニット 明日香の1stアルバム。祭典雅楽(神社の奉納や祝祭事などで演奏される民間的・民間信仰的雅楽)のスタンスを基盤に、笙や篳篥・筝・竜笛の音色をふんだんにフィーチャーしつつも、ニューエイジ的ななごみの要素やフュージョン的なしなやかさを取り込み、また曲によってはヴォーカルやバンドサウンドも加わる意欲的なハイブリッド・サウンド。雅楽器の力強いサウンドを堪能できる「時空の風」、祝詞の詠唱がより一層粛々とした雰囲気を持たせる「D.N.A」、YMOの名曲をしっとり・ゆったりとしたアレンジでカヴァーした「東風」、軽い変拍子が入り、プログレを意識した清涼感溢れるインスト「天界への階段」、雅楽器アンサンブルにシンセが大胆に切り込むアレンジが瑞々しくもエネルギッシュな「天地乃響」、琉球民謡と融合させた「琉球乃風」、しっとりと壮大に盛り上がってゆくミドルテンポの歌モノ「太陽神」、そのほか、「組曲「惑星」より木星」「韃靼人の踊り」といったポピュラークラシックのカヴァー、本隊である天地雅楽のレパートリーのリメイクなどを、曲間に風景的な小品を挟みつつ展開。アルバムのまとまりとしては結構雑多な印象があるものの、新鮮味や面白味は十分。単なるイージーリスニングでは終わらない魅力が詰まった幅広く巧みなアレンジ・センスは、プログレ/フュージョン系リスナーにもオススメできると個人的に思います。パッケージ版は現在廃盤状態で(リリース元のアルデンテ・ミュージックが消滅?)、アルバム楽曲はiTunesでの楽曲配信にて入手することができます。ユニットは世界十数カ国でのアルバム配信や海外公演なども精力的に行っているようです。




明日香:Myspace
BARKS:明日香 バイオグラフィー
『天地夢想』:iTunes

2010年8月1日日曜日

Kokoo『Super Nova』(2000)

スーパー・ノヴァ


 尺八奏者一人、17絃&20絃筝奏者二人という編成による和楽トリオ コクーの2ndアルバム。99年に発表された1stアルバム『ZOOM』はオリジナル曲をメインに、確かな経歴と技量に裏打ちされた三者による和楽アンサンブルを存分に展開していたアルバムでしたが、こちらは全編がカヴァー曲によるカヴァーアルバム。選曲はジミ・ヘンドリックス、LED ZEPPELIN、THE BEATLESのロック・スタンダードから、EL&P「Tarkus」、PINK FLOYD「吹けよ風、呼べよ嵐」といったプログレ系、デヴィッド・ボウイ「ワルシャワの幻想」、ピーター・ハミル「Dropping The Torch」、フランク・ザッパ「Peaches En Regalia」といった意外なところ、伊福部昭御大の「ゴジラのテーマ」といった全10曲。やや奇妙なヴァラエティ性を感じさせる選曲ですが、それら楽曲のアレンジャー陣も、ゲルニカの上野耕路、JAGATARAの村田陽一、アルタードステイツの内橋和久、流浪のコンポーザー高橋鮎生、大御所アレンジャー 井上鑑といった錚々たる顔ぶれであることも見逃せないところ。

 いずれも和楽器演奏用に大胆なアレンジがなされており、さながら和製クロノス・カルテットというたたずまいも感じさせるのですが、和楽器アレンジ、しかもトリオ編成での演奏ということで、やはり多少無理が生じている部分もあります。とはいえ、原曲とはまた違った魅力や情緒を見せるカヴァーが多いのも確か。「ワルシャワの幻想」や「Eleanor Rigby」などでの和情緒醸しまくりの優美な調べも素晴らしいのですが、思いのほかヘヴィな筝の低音が効きまくったバッキングの上を身の引き締まるような尺八の音色が駆け抜け、倍音も相まって原曲以上にチェンバー色を強めた「ゴジラのテーマ」は本アルバムの白眉ともいえる非常に迫力のある仕上がりで、ライヴにおいて人気が高いのもうなづけます。純然たるカヴァーアルバムというよりは「カヴァー十番勝負」的な印象が強い内容ではありますが、そのアグレッシヴな姿勢は非常にプログレッシヴでありますし、前作で感じさせた敷居の高さを払拭するかのような内容になっているのは確かであります。1st、2nd共に既に廃盤となってから随分経ってしまっているのは残念に思います。思いがけず見かけたら、手にとって聴いてみてはいかがでしょうか。



Kokoo:公式

2010年7月30日金曜日

FROST*『The Philadelphia Experiment』(2010)



 プロデューサー/コンポーザーのジェム・ゴドフリー率いるイギリスのモダン・プログレッシヴ・ロック・バンド フロスト*の、09年5月にアメリカで行われたプログレ・フェスティバル"Rites Of Spring Festival(ROS FEST)出演時のライヴ音源を収録し、さらに新曲「The Dividing Line」を収録した2枚組CD + ボーナスDVD付きアルバム。ライヴ音源の一部は09年に『FROST*FEST』のタイトルで8曲入りライヴアルバムとしてバンド側から1000枚限定で自主リリースされており、本作はその拡張版/完全版ともいえます。

 ドラムスのアンディ・エドワーズが08年にバンドを脱退したため、このアメリカ公演ではSPOCK'S BEARDのニック・ディヴァージリオが代役として参加しております。ROS FESTのために用意してきたと思われる壮大な出囃子「Intro」は、多重コーラスで歌われる"John、John、Jem、Dec&Nick~♪"というメンバー紹介も楽しい秀逸な1曲。続いて「Hypeventilate」で勢い良くライヴがスタート(元々のイントロは省略)。パワフルなニュアンスたっぷりの楽曲の数々はライヴでどう再現されるのかと思っておりましたが、勢い/ダイナミズム共に申し分のない仕上がり。「Experiments In Mass Appeal」の静から動へ移ろうダイナミックな泣きの美しさは健在ですし、「Dear Dead Days」はアルバム版顔負けの疾走感でシンセの奔流が押し寄せ、カタルシス十分。「Wonderland」「Saline」なども、ライヴ版の方がパワフルな手応えを感じます。「Snowman」は多重アカペラコーラスをバックにジェム氏が歌い上げるという、元々シンプルなアレンジの原曲を更にシンプルにした、もはや別ヴァージョンと呼べる思い切ったアレンジで聴かせてくれるのが印象深い。「The Forget You Song」は『FROST*FEST』にも収録されていたストレートでキャッチーなUKロック路線のコンパクトな1曲。『FROST*FEST』収録版はスタジオ録音ヴァージョンでしたが、こちらはライヴテイクで収録されております。




 また、「Story Time」は曲ではなく、動物の鳴き声や寸劇(?)込みのMCを収録した幕間。DISC-2には新録曲に加え、本編ラストに演奏された「Milliontown」、アンコール曲「The Other Me」を収録。「Milliontown」は完全演奏で収録されており、27分半に及ぶ長丁場を演り切っております。そして、本作の1番の目玉といえるのが、2010年録音の「The Dividing Line」。この曲はプログレ・インターネット・ラジオ"The Dividing Line Broadcast Network"の10周年を記念してレコーディングされたもの。フロスト*メンバーに加え、脱退したアンディ・エドワーズや、フェス後にバンドを脱退したベーシストのジョン・ジョウィットの(一応の?)後任としてアナウンスされたIT BITESのネイザン・キング、『Milliontown』時に参加していたギタリストで、ジェム氏の古くからのバンドメイトであるジョン・ボイス、さらにヴァイオリニストや女性ヴォーカル/コーラスなども迎えた17分に及ぶ大曲。『Milliontown』『Experiment Mass Appeal』の2枚の路線をちょうど折衷したような作風で、"The Now" "The Press" "The Star"といった多数のキャストたちが繰り広げるスペクタクルなショウ。厚いバンドアンサンブルでポップに躍動する明快な曲調をベースに、シンセが加速度的に疾走する目まぐるしい展開が度々登場し、エキサイティングなヴァイオリン・ソロやスピーキング・ヴォイス、逆回転といった趣向も盛り込み、収拾がつかなくなるかと思えば最後はしっかり元に戻ってくる、流石の楽曲展開が光る力作。この曲を聴くために本作を入手する価値は十分あります。

 余談ですが、ボーナスDVDにはツアーのバックステージやレコーディング/リハーサルの一部がドキュメンタリー形式で約50分程度収録されております。"Maximum Rock"をスローガンにライヴに赴くメンバーの姿や、「The Forget You Song」のヴォーカル録音風景、「Intro」に使ったと思われる行進のSEの収録風景(シリアルの箱を振るジェム氏)をはじめ、ジェム氏がジョーダン・ルーデス氏とiPhoneの楽器系アプリで遊んでいたりという一幕も。「The Dividing Line」の5.1chサラウンド・ミックス・ヴァージョンも収録されております。

Rites Of Spring Festival:Wikipedia
Prog Archives:『The Philadelphia Experiment』
FROST*:myspace
FROST*:公式

2010年7月29日木曜日

FROST*『Experiments in Mass Appeal』(2008)

Experiments in Mass Appeal (Bonus Dvd) (Dig)
Frost
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 06年の1stアルバム『Milliontown』でプログレファンに強烈かつ鮮烈な印象を残したフロスト*。各メンバー(特にジェム・ゴドフリー氏)の活動が忙しく、1st発表後まもなくして活動を休止してしまいましたが、IQの現キーボーディスト:マーク・ウェストワースが在籍するプログレッシヴ・ロック・バンド Darwin's Radioのヴォーカリストでもあるデック・バークを新たにメンバーに迎え再始動。半年間のレコーディングを経て、2008年の暮れに2ndアルバムである本作がリリースされました。

 アルバムタイトル通りの実験的な匂いを感じさせるつくりになっている本作は、前作のゲームミュージック的とも言える底抜けた爽快感を引っ込ませ、内省的なUKロック色を強めてきているほか、楽曲に静謐な空間が多くなり、ぼんやりとした余韻を味わわせるような方向性にシフト。サウンドのニュアンス的にもヴォリューム的にも気持ちあっさり目に仕上げられているといった印象を持ちました。しかしながら、巧みに練り込まれた楽曲と、ここぞといったところでのサウンドの爆発力は依然として眩し過ぎるほどの輝きを放っていますし、エモーショナルな情感をタメ込んでは吐き出し、タメ込んでは吐き出す様を聴いていると、彼らのサウンドはますます狂おしく扇情的にパワーアップしていると言ってもいいです。

 前面にも後方にも押し出された分厚いコーラス、じわりじわりと琴線に触れてくる音作りが、雪の降る真夜中の情景を聴き手にこれでもかと鮮明に見せ付けてくれる「Experiments in Mass Appeal」は非常に身に染みこんできますし、吸い込まれるようなソリッドな流線型サウンドを展開する「Pocket Sun」「Dear Dead Days」は、螺旋を描いて突っ込んでくるコシの太いシンセの奔流がこのバンドの強力な武器の一つなんだよなあと改めて実感させられます。コンパクトながらも爆発力を十分に備えた「Toys」は、ダイナミックで伸びやかサビの開放感が強烈な爽快感を与えてくれる。「Saline」やラストの「Wonderland」のようなバラードも、線や色のほどよく滲んだ絵画のような素朴な美しさ。プログレという枠抜きで楽しませてくれるのはもはや言わずもがなだし、ベクトルは変わってもやはり彼らのサウンドは否応無く世界観に入り込ませてくれます。全力でオススメしたい。


 ファン有志が"LITTLE BIG PLANET"を使って制作/編集したPV。FROST*メンバーをあしらったガジェットの配置やサウンドとの同期も素晴らしい、とてつもない愛に溢れた作品。必見です。

『Experiments in Mass Appeal』:Wikipedia
FROST*:myspace
FROST*:公式

2010年7月28日水曜日

FROST*『Milliontown』(2006)



 2006年、彗星のごとく登場したモダン・プログレッシヴ・ロック・バンド フロスト*の記念すべき1stアルバム。メンバーはキーボード/ヴォーカル担当のジェム・ゴドフリー(彼は本国でアイドルグループのAtomic Kittenなどのプロデュースなども手がけている売れっ子プロデューサー)を中心に、ARENA/KINOのジョン・ミッチェル(Gr/Vo)、IQのジョン・ジョウィット(Ba)&アンディ・エドワーズ(Dr)、ジェム氏の古くからのバンドメイト(共にFREEFALLというプログレ・バンドに在籍)であるジョン・ボイス(Gr)の5人。リリースから4年経った今、改めて聴いても、本作は素晴らしいの一言。こんなにも胸がときめき、ワクワクさせられるプログレサウンドに出会ったのは、06年で一番の衝撃でした。

 とにかく一曲目の「Hyperventilate」からダイナミズム溢れるサウンドで魅せてくれる。吹き抜けるシンセと静謐なピアノのイントロから一気にテクニカルなアンサンブルへ豪快に突入するという展開は、ベタだけれども物凄く掴みバッチリ。演奏に負けないヴォーカル/コーラスの厚み、動から静、静から動へのメリハリの効いた展開も光るプログレ・ハード「No Me No You」。打って変わって静謐なスロウ・ナンバー「Snowman」。モダンでヘヴィなUKロック的ダイナミズムも内包した「The Other Me」「Black Light Machine」と、どの曲も強靭なたくましさを感じさせますし、何よりバンドアンサンブルやソロでのここぞ! というところでのパワフルな爆発力がバツグンの求心力で聴き手にインパクトを与えます。

 80~90年代のファルコムサウンドチームのドラマティックな楽曲や、コナミ矩形波倶楽部のプログレ・フュージョン的アプローチ、そして植松伸夫氏のロッキン・プログレな作風……などなど、往年のゲーム・ミュージック、ひいてはゲームミュージックにあるプログレ的折衷精神も彼らのサウンドからは感じます。ラストに収められたタイトル曲「Milliontown」は、26分半というかなりの長尺曲ですが、練りこまれた展開で魅せてくれるドラマティックな力作。希望に溢れたエンディングへと加速度的に向かっていく終盤の展開、そして残る静かな余韻……メンバーのキャリアとセンス、そして揺るぎの無い自信が最高の形で結実しているのがこの1曲でしょう。小曲、大曲に関わらずキチンと一本の筋が通った本作は、間違いなく傑作であります。プログレとしても素晴らしいですが、この魅力的なサウンドはプログレというジャンルで括ってしまうのはもったいない。ジャンルの枠に囚われず、改めて、多くの人に聴いて欲しい一枚です。

 余談ですが、ジェム・ゴドフリー氏とジョン・ボイス氏が在籍していたFREEFALLは、86年から91年にかけて活動していたポンプ・ロック・バンド。3枚のEPと1枚のアルバムを残しております。その唯一のアルバムに収録されている曲はこちら。シンセのうねりや爆発力、ゲー音ばりのキャッチーな曲調など、後のFROST*へと繋がる部分も多く、興味深いです。


『Milliontown』:Wikipedia
FROST*:myspace
FROST*:公式