2008年5月19日月曜日

泉昌之『かっこいいスキヤキ』(1983)

かっこいいスキヤキ (扶桑社文庫)

扶桑社
売り上げランキング: 7,930


  ウルトラマン同士でセックスしたり、プロレス馬鹿親父が大暴れしたり、いかに他者に悟られずにスキヤキの肉を沢山食うかあれこれ策を講じたりと、どれもこれも語りどころのある短編が詰まったいろんな意味で濃い一冊。中でもトレンチコートのハードボイルドなオッサンが夜行列車で駅弁を 異常なこだわりを持って食らう処女作「夜行」は飛びぬけて秀逸。弁当を食べる時、おかずとご飯の配分を間違えてどちらかを先に食べ切ってしまったり、肉だと思ったらタマネギのフライだったりといったことで苦い敗北感を味わってしまったということは誰しもあるかと思いますが、そういった何ともいえないむずが ゆさを、この「夜行」はそれこそ重箱の隅ならぬ弁当箱の隅をつつくようなみみっちいまでの細かい描写でもってジワジワと思い起こさせてくれます。普通の弁 当一つ食うことですらここまでドラマティックに出来るのだということを知ってしまったら、明日から弁当の食い方が多少ながら変わっちゃいます。実際コレ読 んでからどの順番で食ってやろうかニヤニヤ思案しながら弁当食ってますもん、自分(笑)。「孤独のグルメ」に繋がる久住氏のこだわりの原点がここにあるの で、井之頭五郎に惚れた方はこちらも是非。ちなみに「夜行」は2度映像化されており、1度目は原作に近い形での映像化で、玄田哲章氏が主役のオッサンにアテレコ、2度目は02年度の『世にも奇妙な物語』で「夜汽車の男」というタイトルで、アレンジが大きく入ってのドラマ化、主演は大杉漣。


2008年5月13日火曜日

泉昌之『ジジメタルジャケット』(1990)

ジジメタルジャケット (単行本コミックス)
泉 昌之
角川書店
売り上げランキング: 155,743


 もうなんべん読み返してんだかわかりません。4人のジジイどもがエネルギッシュに繰り広げる痛快ロックマンガ。各ジジイのキャラが立ってる上に挙動言動がいや~にリアルなのもスルメ的魅力のひとつ(このみみっちいところの細やかさが泉昌之作品の特徴でもあります)。「ゼフベックと大橋巨泉は何年経っても顔が変わらん」「草加煎餅手焼き特製フライングV」「ドタマチック魔羅バンド」「世田谷の土地を売却して購入したシンセサイザー、機材しめて3億2千万也」だのといったセリフ回しに始まり、アルバム・ディスコグラフィ型 目次、町田康氏による帯の文句(――寿命を燃やして暴走する爺どもの魂の地獄巡り 笑いの骨壷)に至るまで、妙味の連続。ストーリー的にはジジメタルのプロトタイプとも言える「素敵な好々爺」や、長次郎!秀次郎!直次郎!安次郎!四人合わせてCSNY、またの名をジローズ!!といういきなりのネタで出オチな「CSN&Y」もジジメタル同様「ガハハ、このクソジジイどもめ!」と思わず快哉を叫びたくなる作品とストレートに評するにはちとトゲのある内容。ガスの元栓を閉め忘れたかもしれないという小さなことをやたら気に病む若いパンクスを描いたラストの「LET'S GO NERVOUS」はストレートながら琴線にむずがゆーく触れる。終始ニヤニヤできることでしょう。ちなみにジジメタルジャケット、ブルースに焦点を当てた続編も出ているらしいですが、調べてみるとどうやらそっちは再版していないようですね……。


ジジメタル・ジャケット (2) (ジジメタルジャケット)
泉 昌之
ブルースインターアクションズ
売り上げランキング: 175,492