2006年11月29日水曜日

「PORCUPINE TREE Japan Tour」 2006.11.28 @ZEPP OSAKA ライブレポートのようなもの

Deadwing
Deadwing
posted with amazlet at 15.12.09
Porcupine Tree
Lava (2005-04-26)
売り上げランキング: 111,014

 行ってきましたよポーキュパイン・ツリー(以下PT)ライヴ。どうせライヴの興奮と余韻で眠れないだろうから、忘れないうちにガガッと仕上げます。まず会場のZEPP大阪ですが、オールスタンディングでなくなって、会場には200席ほどイスが設けてありました。ZEPPのキャパ(2000人)を考えるとこれはめちゃくちゃ少ないんですが、かといってスタンディングのままだと後ろのガラガラっぷりが目立って何とも寂しいことになってしまうので、これはやむを得なかったなと。まあオープニングがロバート・フリップ翁だから座って見たほうが正解かもしれんなあ、と身も蓋もないことを考えてたりもしましたが…。最終的に開演時には用意された席は殆ど埋まっていましたし、イスの後ろで立ち見していた人も何人かいたので、平日のライヴとしては上々ではないかと。ひとまず、ウドーフェスの悪夢再来とならなくて良かった…ホント良かった。客層はフリップ目当てのおじさま方と、PT目当ての若者方で半々といったところ、親子で来てるといった人たちもチラホラ見受けられました。確かにこのカップリングは二世代にアピールできるわな、と妙な感慨を持ってみたり。

 そしてライヴ開演時間である19:00ぴったりに前座を務めるロバート・フリップ御大が登場。まずはステージ左、ステージ正面、ステージ右に立って、丁寧にお辞儀。うーむ、ジェントルマン。御大かわいいよ御大。そしてエレクトロニクスをちょこちょこいじくってギターを手に取り、イスに腰掛け、さあ演奏が始まりました。深紅のライトに照らされる中、なでくりまわすようなアンビエント・サウンド。「まさに涅槃…」なんて色々グダグダ考えを巡らせながらなんとか寝ないでひたすらステージ上の爺さまを凝視。途中あたりを見回すと、案の定カクンカクン舟こいでる人がそこかしこに…。予想していたとしても、やっぱ仕事帰りの人にとっては眠りに誘うに十分でしたね。そんな客席の状況を知ってか知らずか、御大のヘヴンリーなギターサウンドはますます拍車をかけてゆきます。そして30分に渡る演奏が終了、御大は再び客席に向かって4回ほどお辞儀をして、ステージを去ります。

20分ほどPTのための機材セッティングを経た後、19:50ごろにサポート・メンバーを含むPTの面々が登場、スクリーンに映像が映し出され、しばらく流れた後。名古屋と同じセットリストで演奏を繰り広げます。回転し続ける車輪、家族の肖像、炎、高速で行き交う車、苦悩する男、口耳から出てくる液体、花弁の万華鏡、エイリアンなどを映し出すスクリーンは時にライトやサウンドと同調したり、時にインスピレーションを刺激したりと手を変え品を変えながら様々な相乗効果を発揮していく。実際見てみると確かに巧い。スティーヴン・ウィルソン先生は時たま手を前にかざしながら歌うのですが、メガネ美男子というルックスも相まって遠目で見てても艶っぽく感じました。いつも思うのですが、外見だけじゃさっぱり歳がわからないです。動き回ってのパフォーマンスなんてなくとも、楽曲展開がや静と動が交互に入れ替わるセットリストもあいまって、どんどん引き込まれていきました。以下、各楽曲の寸感。

1:「Revenant(SE)~Blackest Eyes」

 アルバム「In Absentia」の冒頭曲。肝心のギターの音が潰れてぼやけ気味だったかも。叩きつけてくるヘヴィなリフがインパクトのある曲だけに、切れ味が鈍ってどうにもイマイチな感触になっていたのが残念。

2:「The Sound Of Muzak」

 前曲のぎこちなさを引きずるようところは感じたものの、きっちり持ち直したあたりは流石です。サポートメンバーであるジョン・ウェズリーのヴォーカルとの絡みも良かったです。

3:「Hatesong」
 日本盤発売されていない「Lightbulb Sun」(2001)より。開幕時のぎこちなさは、ここにきて完全に払拭されました。噴射するギターサウンド、ボコボコにうねるリズム隊、歪むキーボード各パートの熱の入ったインタープレイが実に手に汗握る。特にリチャード・バルビエリによる歪んだキーボードサウンドがアルバム以上に派手に放出されていたのが印象的でした。

4:「Lazarus」

瑞々しくもハートウォーミングな小曲バラード。ウィルソン先生のヴォーカルはアルバム以上に突き抜けて良く通っていたので「Follow Me~」のフレーズがさらに絶品な味わいに。この曲の後、ウィルソン先生がMCで「アナタタチニ、アエテ、シアワセデス」と噛み気味に言ってたのが何とも微笑ましい。この瞬間 女性ファンが増えたと思ったのは自分だけではないと思います。

5:「The Beast(新曲)」

 2つ曲があったように思えたのですが、どうも繋がって1曲を形成してたようです。サンプラーのメロトロンサウンドがガンガン煽る中、ヘヴィなフレーズによる執拗な反復、そして弾け飛び静寂へと移るという、押しも引きもある展開が詰まった15~6分ほどのロングレンジの曲でした。コレ、物凄くキマってたなあ…早くも次回作への期待が出てきました。

6:「Open Car」

 ガリガリとフックを持ったリフとささやき掛けるヴォーカル、サビで聴ける醒めたアグレッション、全てが5割増しで迫ってくる。

7:「Buying New Soul」

 レアトラック集「Recordings」(2001)からの曲。この曲の記憶だけ何故か飛びました…。

8:「Mother and Child Divided」

 DVDにボーナストラックとして収められた曲のようですね。終始息を呑む展開のハードなインスト。タイトル通りスクリーンには母と子の肖像、そしてそこにかぶせられる炎…回転する車輪(ギア?)も映し出され、視覚効果でスリリングな演奏に文字通り拍車をかけていきます。

9:「Arriving Somewhere But Not Here」

 まどろむような展開から徐々に、ザクザクとしたリフによるアグレッションが増してゆく、ハード・ロック・バンドもかくやといった12分の長曲。やっぱりこの中間部の駆け上る展開は腹の底からじわじわ来て堪らない。楽曲が落ち着いたエンディングを迎えた後も、客席のボルテージは冷めやらぬといったところ。

10:「The Start of Something Beautiful」

映像には二体のエイリアンが登場し、ストーリー性のあるドラマを演出。終盤、花びらの万華鏡のような映像を伴って、締め付けるような劇的なギターソロが展開されるのですが相乗効果が狂おしいほどにドラマティックで、かなりグっとくるものがありました。

11:「Halo」

「God gives meaning, God give pain!!」 演奏にぴったり合わさってスクリーンに次々と映し出される歌詞。視覚・聴覚共に生生しくインパクト絶大。アルバム内でも覚えやすい曲だけど、これでしっかりと焼き付けられてしまった。「Halo」終了時点でメンバーは退場するものの、静と動が交互に押し寄せる楽曲群で皆のテンションは上がりに上がっていたようで、かなり熱の入ったアンコールの手拍子が起こると同時に客席はスタンディング状態に。そしてメンバーが再登場、スティーヴンの「楽しんだかい?」のMCに続いて演奏された曲は。

Encore:「Trains」

 爽やかなアコースティックサウンドと手拍子による彼らのライヴ定番のバラード曲。客席全員による手拍子を取り込んでメロディ共々実に心地よく盛り上がりながら大阪でのライヴは暖かく幕を閉じます。いい雰囲気でした。

2006年11月27日月曜日

PORCUPINE TREE『Deadwing』(2005)

DeadwingDeadwing
(2005/04/26)
Porcupine Tree

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 イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド ポーキュパイン・ツリーの8thアルバム。PINK FLOYDやRADIOHEADからの影響を受けているということでもよく語られる、心地の良さと抜けの良さの中にやや翳りを落とし込んだサウンドが特徴のバンドです。スティーヴン・ウィルソンによるヴォーカル(ややエフェクト入り)は薄暗い浮遊感を醸し出し、メロトロン、エレクトロニクス、コーラスワークは良質のアクセントとして程よくサウンドに溶け込む。かと思えばヘヴィなリフをガツンと(しかし決してやり過ぎない程度に)聴かせることもあったりとサウンド構築の仕方が実に絶妙。どの要素もサウンドにどっぷりと依存はしていない。グワっとしたリフの滲み具合が堪らないヘヴィ・ロック・ナンバー「Shallow」「Open Car」。瑞々しいメロディがなんとも甘く訴えかけてくる小品「Lazarus」。エイドリアン・ブリューが軋ませたギターソロで客演した「Halo」。ロングレンジながら、表情豊かなアンサンブルがキレよく進行する「Deadwing」「Arriving Somewhere」。聴き手を意識下に溶け込ませるように、暖かみのあるリズムの中メロトロンやアコースティック・ギター、ヴォーカルがけぶるように演出してゆく「Mellotron Scratch」。気だるく這いずる中で何かを見出していくかのようなドラマのある展開が切ない「Start Somoething Beautiful」。夢の中でさらに夢を見るような、まどろみにまどろみを重ねた感覚を覚える「Glass Arm Shattering」。これらの楽曲を糸口にして己の思索の路に踏み入れるもよし、またサウンドの波に身を委ねるもよし。何度聴いても押し寄せる波でまた印象が塗り替えられていく、広がりのある雰囲気と刺激に満ち満ちた、そんな作品だと言いたいです。そして、明日のポーキュパインツリーの大阪ライヴに行ってきます。これは行かないと後々絶対後悔するような気がする。

2006年11月10日金曜日

黒田亜樹『タルカス&展覧会の絵』(2004)

タルカス&展覧会の絵タルカス&展覧会の絵
(2004/04/21)
黒田亜樹

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 クロアキの愛称でも知られるピアニスト 黒田亜樹さんの3枚目のアルバム。過去の二作ではアルベルト・ヒナステラやアストル・ピアソラのレパートリーを弾きこなしてきた彼女ですが、今作では題材をEmerson,Lake&Palmerにとり、プログレに急接近。EL&Pの長編プログレ組曲「TARKUS」を、作曲家のマウリツィオ・ピサーティが編曲した「ZONE-TARKUS」、そして、EL&Pもカヴァーしたムソルグスキー「展覧会の絵」を収録したのがこの作品。ジャケットもいい感じです。ちなみに録音はイタリアにあるマウロ・パガーニ(PFM)のスタジオだったそうな。たまたまだったそうですが、因果を感じます。かつてEL&Pは荒々しく暴力的なフレージングで「タルカス」をド派手にバキバキ鳴らしていましたが、こちらは繊細かつ冷ややかに迫りくるアンサンブルの展開でカヴァーしているので、正直、プログレ的なものを期待すると肩透かしかもしれません。EL&Pファンの賛否も分かれそう。しかし、ピアノ、パーカッション、ヴァイオリン、ギター編成による現代音楽的アプローチでどう見せるかというのが主題なので、その点を踏まえるとかなり楽しめます。オープニングの「噴火」、中盤の「アイコノクラスト」、終盤の「マンティコア」「噴火II(アクアタルカス込み)」のパートは、EL&Pのそれとは別種のスリルを味わえる良アレンジ。そして「展覧会の絵」、これはもう再結成EL&Pが94年に発表した意味不明のスタジオリメイク版よりはるかに良いし、丁寧かつ鳴らすところはしっかり鳴らしているので好感触。ちなみにライナーノーツには、EL&Pのキース・エマーソン、ピアニストのブルーノ・メッツェーナ、そして植松伸夫のお三方が推薦コメントを寄せています。植松氏は彼女のファンで、過去にFFXのピアノ・アレンジアルバムの奏者に彼女を指名しております。




黒田亜樹:公式サイト クロアキネット

Astor Piazzolla『Tango: Zero Hour』(1986)

Tango: Zero HourTango: Zero Hour
(1998/09/08)
Astor Piazzolla

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 バンドネオン奏者にしてアルゼンチン前衛タンゴの巨匠 アストル・ピアソラ。タンゴにジャズやクラシックからの影響を取り込むなどの革新的スタイルをとり、タンゴ保守派から命を狙われながらも、一心にアルゼンチン・タンゴを追求していった彼が生み出した集大成的作品が本作。幽鬼のように空間をうねり続けるバンドネオン、シュルシュルと甲高くすすり泣くヴァイオリン、ドス黒いグルーヴと共に躍るピアノやベース、これらが一体となって紡ぎ出される、漆黒の闇と甘美な泣きが表裏一体となったアンサンブルは鳥肌モノであります。緊張感の中にも力強さを孕んだ「Tanguedia III」、切れ味鋭く小気味良い展開の中にハッとさせられる流麗なフレーズを織り込んだ「Milonga Loca」、一転してドスの効いたグルーヴの中でキリキリと締め付けてゆく「Michelangelo 70」、喜怒哀楽の場面展開に放り込まれる「contrabajisumo」など、妖しさも、激しさも、官能的な艶も、胸を締め付ける郷愁も、とめどもない悲しみも、全てこの中に詰めこまれており、この上なく深い余韻を聴き手にもたらしてくれます。あまりにも美しく、そして揺るぎのない大傑作。音楽的に類似点が多いチェンバー・ロック好きにとっても避けては通れないマスト・アイテムでありましょう。


「タンゴの革命児・アストル・ピアソラ」
アストル・ピアソラ:Wikipedia